荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
ウルベルト=デミウルゴス型核融合炉は現在、合計3基が発電所内で稼働している。一基で都市のピーク電力の全てを賄って余りあるが「複数あったほうがかっこいいよな」というトールの提案でコピー生産された炉が設置された。一度完成してしまえば容易に量産可能なチート能力バンザイである。そして、強固な防護措置により誘爆対策もばっちり。緊急時にはワークショップの機能で格納、あるいは分解される。
これにコンクリートバッテリー式発電所の電力が加算されるので、総発電量からして既に過剰である。
『電気を大切にね!』
「はいカット。お疲れ様でした」
「これ、何のキャラクターがモデルなんです? 声は茶釜さんになってますが」
「21世紀前半、日本の東京方面の電力会社がかつて使っていた、節電啓蒙用のキャラクター、で○子ちゃんです。因みに人妻」
「人妻キャラの声を当てさせるとか鬼かな?」「仕事だと思えば大丈夫…大丈夫」「おい茶釜さんがまた沈んでおられるぞ」
「節電啓蒙…真逆だよな俺ら」「リアルですらこんな盛大に使った事ないわ」
「ウルベルトさんにもっと使えと言われてるんだけど」
「大切に余す所無く使いまくって。時流にそぐわないと、突然CMから降ろされた○ん子ちゃんも浮かばれる、多分」
「世知辛いな!?」
首都内で流れるCM映像の制作場面を見たギルメン達との会話である。
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家電製品については大量に拠点から運び込まれたが、どれ一つとしてこの世界の資源を消費していない。トールがMODで時間経過ランダム生産のボックスを用意した際、ノリでハウジングの家具を指定した箱があったのだが、これをすっかり忘れて十年、久し振りに確認したらあるわあるわ、大量の家具や家電が詰まっていた。
「なんか、魔法のクリスタルモニターの方が未来感あるのな」
「ウェイストランドはレトロフューチャーのポストアポカリプスだそうだから、まあ俺はこのデザイン好きだ」
「電波は少し専用帯域を整理するので、ケーブルオンリーで行きます。最初は何を流すか…」
「何か録画して、放送とか流せない?」「この間の計画まとめは?」「あ、既に決定なのか」「おうふ」
「なら最古図書館に映像の出る本とかありませんか? 以前作ったスキャナで取り込んでホロテープに記録すれば流せるかなと」
「あ、俺それやりたいな。ブループラネットさんと教授にも協力して貰って、娯楽番組、教育番組、ドキュメント番組とか」
「んじゃ俺もエンシェント・ワンさんと一緒にやる」
「ウィッシュⅢさんと二人か。番組の選定だけで大丈夫なよう、作業自体はロボットに任せられるようにしておきますね」
「深夜枠は俺が!」「エロゲ放送ばっかりになるじゃねーかw」「アウラとマーレが見たらどうすんだ!」
「茶釜さんも、何か流しておきたいものあります?」
「…古典だが名作のアニメ、データがある」「いつの間にw」
「ふむふむ、チャンネルと番組編成はこちらでやっときますから、時間がある人が本を持ってスキャナ担当のロボットに渡して下さい」
「「「おっけー」」」
こうして、首都ナザリックではテレビ放送が始まった。最初は既存の本から抽出した映像データ垂れ流しや素人丸出しの番組などから開始されたそれは、後に守護者やシモベも制作に乗り出し、賑やかになった。
「勝手放送とか海賊版より質悪いよなw」
「それ言っちゃぁおしめぇよ」
「視聴率は配下達が多いから偏るね」
制作クォリティの高い海賊版の放送よりも、至高の御方々の生放送や王国で行われた計画のまとめ番組、ナザリック1500人侵攻の攻防戦が高い視聴率を記録し続けたらしい。
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さて、家電類の動作に重要な電力はウルベルト発電所から送り込まれているのだが、無人と言うかメンテナンスフリーな訳ではない。
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核融合炉の前にはメンテナンスを請け負うMrハンディの他、第七層の悪魔の中から、人間大で手先が器用、尚且つ知性が高い悪魔が選出され、エインズワース制御下のMrハンディにより施設の研修を受けている。悪魔達はローテーションを組んでの六時間労働制だ。
「どうでしょうか?」
「はい、流石に飲み込みが早いですね。この施設では特殊な操作などは通常、ありません。手順通りに実行し、問題が無い事を確認するだけです。問題があれば、事前のマニュアル通り連絡と対処です」
ボタンを押す、確認をする。問題が無ければ次と、その繰り返しだ。職業レベルの影響を受けないよう慎重に操作手順が調査、整理され、マニュアルが作られた。
また、防衛要員としても悪魔達の戦力は十分である。発電所とその敷地は様々な防衛設備を整えてあるが、首都ナザリック外周と敷地を突破し、核融合炉へ近づける存在はそうは居ないだろう。
「バリアとか、うちの発電所の電力で張れたら面白いのにな」
「既にありますよ? フォトニック・レゾナンス・バリアーその他が」
「えっ」
「えっ?」
「…どの程度まで防御できるんだ?」
「以前調査をお願いした際、超位魔法はキャパシタを併用しても二度目は無理でしたが、この電力量なら即座に貼り直せます。流石に間を空けず連発されるか、六秒毎に叩き込まれたら…そうですね、連発で一時間、継続で八時間が限界かな」
「十分すぎる…」
以上が、発電所所長との会話である。
悪魔達は皆、主と守護者の名が冠された眼の前の炉が、首都ナザリックが必要とするエネルギーを賄っている事に高揚と誇りを抱いている。そしてその稼働に携われる事も。
尚、全員体型に合わせた作業着を着て、頭部にはこれまた特注のヘルメットを装備している。安全第一である。物凄くシュールだが、それを指摘する者は居ない。
「以上が、整理したマニュアルによる教育の進捗度になります副所長」
「ふむ、研修は順調ですね。問題があるようならすぐに連絡を。私は牧場に参ります」
「はっ、留守の間はお任せ下さい」
視察をしているデミウルゴスも、スーツ姿の上に、頭にヘルメットだ。様式美ということで用意されているので疑問無く被っている。
Fallout世界の超耐久性素材により、核融合炉はトールのメンテナンスが無くとも100年単位で平気で稼働するだろう。きちんと手入れされればほぼ永続だろうか。
今日も発電所は元気に稼働している。