荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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Wikipediaを参照しつつ執筆、です。
すべては最後のオチの為に。


閑話 ル・シファー商会とチーズ裁判

 王国において、チーズはかつて高級品だった。

 

 基本の伝統的工程として、授乳期間の仔牛の胃袋を取り出して袋とし、そこに牛乳を入れて撹拌し続けることでできるフレッシュチーズを型に入れ、塩分を塩等で追加し、更に冷暗所で保管して作るという長い工程を経る必要があるためだ。※Wikipedia「チーズの歴史」より

 

 腐敗貴族の跋扈により余裕がない以上、折角の仔牛を潰すというのは圧政下の農民にはかなり厳しい。大抵の貴族は自身で消費するか商人へ売却して利益を得ていたが、農民たちに一切恩恵は与えないのが殆どである。

 また地球におけるレンネットの秘密なども含め、製法に関しても門外不出とされてきた。製法の漏洩は死罪である。

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 だが、ナザリック出現前、始まりの九連星が懇意にしているカルネ村を発端に、王国内の酪農を営む農地、全てにチーズの製法が伝わった。

 これにより、門外不出ではあっても丁寧な作りのチーズを出荷する領地の物は高級品として珍重され、逆に領民に余り恩恵を与えず作らせていた領地の物はやはり質も低く低級品とされて、価値が暴落した。

 

 ブループラネットの依頼だったとはいえ、脳内データから製法を引っ張り出してきたトールは、最初に手に入れた仔牛の胃からレンネットと乳酸菌を取り出すと拠点で解析して合成と培養を行い、ル・シファー商会経由で「動物の乳に混ぜるとチーズの作れる錬金薬」として、フレッシュチーズ後の製法含めてばら撒かせた。

 

「という事で、合成レンネットです。フレッシュチーズ作成プラントもついでにご紹介」

「仔牛から殺さず胃を取り出して魔法で回復させてた私達の努力は?」

「そっち高級品、うちは普及品、おk?」

 

 当然、チーズを金の生む塊として扱ってきた貴族から猛反発である。幾度も裁判がどうのと言われたが、貴族達の言うチーズの製法は伝統的なものであるか本人が説明ができない物であり、また乳酸菌や酵素の概念を理解できない。

 

「ならば、そちらで使っている錬金薬とやらを用意して、私共の製法で同じ様に作り、同じチーズができるかをもって、決着としようではありませんか」

 

 商会の呼びかけで数多くの市民が見守る中、エ・ランテルで行われた公開裁判では、商会の錬金薬と貴族の偽錬金薬が用意され、仔牛の胃袋ではない「鍋」が準備された。

 

「そ、それはなんだ、仔牛の胃袋を使うのでは無いのか!?」

「ふむん、私共の製法は南方の一部地方での作り方、牛の乳に混ぜ、撹拌するだけでよいのですが?」

 

 撹拌棒は綺麗な白木から削り出されたものが用意された。工作も衆人環視では難しい。強引に邪魔をしようとした連中は、始まりの九連星からフラットことフラットフット、セカンドこと弐式炎雷、チャガことぶくぶく茶釜の鉄壁ガードで防がれた。ウルベルトの影の悪魔で監視網も万全である。

 

(暗殺者は未然に倒され、放り込もうとした毒や薬は叩き落され、近づこうとした男は転がされる…なんだ、なんなのだこの傭兵共は!?)

 

 尚、商会では裁判中も平気で錬金薬を売り捌いていた為、訴えた貴族の代表が手に入れてお抱えの薬師に見せたが正体不明であった。

 

 酵素だけなら辛うじて判明したかもしれないが、酵素投入と撹拌による凝固の前は、乳酸菌によるpH値の変化が事前に必要である。調査として蓋を開け、薄い皿などに載せた時点で雑菌が繁殖し始めるし、熱を加えたり毒性の高い試験薬を投入すれば、菌類である乳酸菌が死滅する。

 

「ここは、流石はトラップマスターと言うべきかな?」

「ふふん、罠は物理的なものだけじゃなく、心理的に張るのも好きなんだ♪」

 

 結果的に、裁判はル・シファー商会の勝訴。それに、王国からガゼフが見届け役として来ていたため、強硬手段も取れず、貴族は憤慨しながら去っていった。

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 その日の夜、ル・シファー商会。

 

「んでま、当然ながら暗殺者だよな。フラさん、他はどう?」

「撤退しようとしたから、全部捕まえた。セカさんは?」

「庭に入る前の奴らは捕獲。あとは全部、哀れにも…」

「あー」

 

 商会の裏手の庭、ロープでぐるぐる巻にされた暗殺者達の前に居るのがるし★ふぁーである。

 

「ただの商人だと思って暗殺しに来たら、商人本人にボコられて転がされた気分は、ねえどんな感じ、ねえどんな感じ?」

 

 リアルにおいてもNDKの煽りは受け継がれていたらしい。

 

「うぜぇwwww」「板につきすぎだろwww」

「貴様ら、我らの後ろには…」

「八本指だろ? そっかー、ようやく釣られたかー」

「き、貴様ら!?」

「バックで脅そうと思ったら、予定通りに餌になってた気分は、ねえどんな感じ、ねえどんな感じ?」

「うっざwww」「見てる分には面白いけどやっぱうざいwww」

 

 絶句した暗殺者たちをまた一通り煽ってから衛兵に突き出す。

 

「さて、ウルベルトさん、どないす?」

「まずは、実働部隊をボコって攫って傘下から、だな。ちょっと楽しいぞ」

 

 それから、八本指から追加の暗殺者オーダーが来たがひと通り虐めて、結果確認の為隠れていた一人を<時間停止>で止めて全身に様々な煽り文句のいたずら書き満載にして、逃げるのを見逃した。

 そして六碗の直下から来た連中もウルベルトが強襲。その情報を下に、六碗の内、五人を確保するに至ったのである。

 

「…俺達、チーズの裁判が発端で、のこのこ誘き寄せられたのか」

「これは…ああ、きついな」

「食い物の恨みは恐ろしい…うむ、違うなこれ」

「へこんじゃって情けない男共ね」

「腕を突いた後、いじけて床に転がってただろエド…」

 

 後に経緯と事実を知った、元六腕ことザ・ファイブズの面々は、デイバー・ノックを除いて全員が失意体前屈になったという。

 




尚、チーズよりバターはまだ容易な事と、地球の歴史と同じく「貧民の食い物」という感じで広まってませんでした。
が、カワサキの転移以降はバターの地位が爆上げ。

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