荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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ルートとしても組織としてもちょい不人気なレールロードの話です。


荒野の災厄の旅路・コモンウェルス その5

 来年は2287年、主人公夫妻が起きる年だ。ヌカ・ワールドから戻ったトールは86年も中盤を折り返した所で、コモンウェルスの勢力の内、レールロードの対処をどうするか悩んでいた。

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 レールロード。自我を持った人造人間を保護し、希望に従って新たな記憶と共に送り出す。最終目標は、インスティチュートによる人造人間の製造を止めさせ、自己に悩む人造人間がこれ以上増えないようにする事だと言われている。

 ただ、人造人間の人権保護秘密団体と聞こえはいいが、人造人間の自覚のない人造人間をウェイストランドに解き放つ訳で、事情が特殊なコモンウェルスの状況からして、悪手である。それに善意で行っているのが余計に質が悪い。

 Fallout4開始時には、複数拠点が壊滅しており、人員の大幅な減少で規模としては縮小傾向にある勢力だ。それでも各所で暗躍し、ルートによっては障害として排除される。

 

「地獄への道は善意で舗装されている、か」

 

 有名な言葉である。色々違う解釈がされるが、レールロードの行っているのは、善意によってコモンウェルスどころかウェイストランドに混乱を招く所業である。

 だがキャピタルにも人員が居た組織でもあり、発覚しなかった人造人間絡みの事件を探り、積極的にインスティチュートの脅威を訴えてきた影響でBOSはコモンウェルスへの介入を決める要因の一つとなった訳で、悩ましい所だ。

 

「(影響が)大きすぎる、(方針の)修正が必要だ」

 

 思わず、ネタにもよくなっている台詞を溜息混じりに言ってしまったのは仕方無い事かもしれない。

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>スイッチボード

 ゲーム開始前、レールロードの本部であった場所で、戦前はアメリカ国防情報局の秘密基地だ。本編中では既に壊滅しており、戦闘の跡と共にレールロードのエージェント達の死体が転がっている。

 

「とはいえ、営業中かよ」

 

 ゲーム中、地上部分はスローカムズジョーというドーナツチェーンの跡地で、地雷原になっていた。だが、トールが訪れると地雷は無く、ドーナツ屋が呑気に営業している。ただ、スローカムズジョーのハズバイトというレシピのドーナツは、戦前に行政指導を連続で食らった曰く付きであり、この店も流石に取り扱いを躊躇ったか客達が食しているのも、合成珈琲とウェイストランド風の軽食のみである。

 

「お、どうしたんだい旦那? 旅人さんかい?」

「そんな所だ。休ませて貰うよ」

 

 店員に挨拶して席に座ると、給仕のMrハンディが注文を聞きにきた。珈琲を頼んで、Pip-Boyを操作する。

 

「見慣れないモデルだね、どこの出身だい?」

「キャピタルの方さ。そこで会った友人がVault出身でね、予備を譲り受けた」

 

 暇をしていたのか、店員が珈琲を持ってきたので会話。恐らく、レールロードのエージェントなのだろう。情報収集に余念が無い。

 

「あっちはBOSのお陰で大分安全だって聞くけど」

「まあな。正確には、彼らに協力した男たちが居て、貢献から来る発言力から、市民の安全と綺麗な水の提供が維持されてる。下手な所に行かなければ、夜はぐっすり眠れる」

「ほー、そりゃいいな」

「ま、BOSは人造人間を脅威と判断してる所があるようだが、その男達の友人に人造人間が居るらしくてな。コモンウェルスから流れてくる人造人間も、集落作って暮らしてる。

 人造人間の回収にインスティチュートから来たらしい科学者は、そいつに嫌われて死んだようだが」

 

 指鉄砲で頭を撃ち抜く仕草。店員は笑った。

 

「いい所そうだな。あんたはそこにも行ったのかい?」

「ああ。リベットシティの近くで、半分沈んだ貨物船に集落ができてる。人造人間の自覚がある奴が揃ってて、人としちゃ余程マシな奴らばかりだよ。奴らもコモンウェルスの事情を心配してたが」

 

 リベットシティ近くの貨物船とは、トールがタグボートを使って設置した代物だ。人造人間達は器用に開発して、コンテナを住居や店舗にして暮らしている。

 

「心配?」

「結局、人の姿と意思を持ってるが、生物としての根幹が人と異なるからな。次世代へ命脈を繋げられない以上、全てを忘れて人に混ざるのは悪いことなんだと。辛い過去も乗り越えて、人を支えて生きる方がより、人間らしいとさ」

 

 コトリと音を立てて、人造人間のハンドスキャナをテーブルへ置く。

 

「俺はまあ要らないって言ったんだが、コモンウェルスはインスティチュートの命令で動いてる人造人間が居るそうじゃないか。こいつは人造人間かどうかを調べられるから、身を守れって言われたよ」

「…これで、人造人間と確認した奴は殺したのか?」

「いや? 騒ぎが起きるからとんずらしてる。どっちかもわからん以上、誰にも言ってない」

 

 少し冷めた珈琲を啜る。合成物特有の薬品臭さだが、苦味を抑えた調整か飲みやすい。

 

「旅人さん、レールロードについてはどう思う?」

「難しい所だな。あっさり記憶を消して人間に混ざるってのは、生身の人間にとっては得体のしれない恐怖だ。普通なら、時間をかけて過去の傷を癒やし、前に進ませるのが正解さ。可能ならファー・ハーバーにあると言われてる人造人間の集落や、今話したリベットシティ近くの集落で、同じ様な境遇の面子と暮らして、自分を取り戻させた方がいい」

 

 キャピタルの人造人間達は、まずは距離を置いて、徐々に経験をさせ、生き物としては違う事を新入りに教える。違う自覚があれば、人間とも必要以上に傷つけ合う事が少なくなるからだ。知らずに混ざるから、発覚時に恐怖を撒き散らす。その事を、自覚在る人造人間達はよく理解していた。尚、少し説得に腕力が必要だったのはその実、キャピタルに居るレールロードの連中だったりする。

 

「レールロードの活動はお題目としては立派だが、短絡的で他のことを一切考慮してないのが怖いね。人間の為にも、人造人間の為にもなってない。いつか、インスティチュートに関係ない所で致命的な衝突が起きるぜ?

 自我を持ったロボットだって居るが、存在そのものは違うと理解し、お互いを尊重し合う限り、良い関係を築ける筈なのにな」

「怖いし、お互いの為になってないか」

「おっと長話したな、珈琲ありがとう。俺は近くで開発が始まってる集落で暮らしてる。また来るよ」

 

 そう言って多めにキャップを置き、トールは店を後にした。

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 夜。スターライト・ドライブインは小規模ながら活気ある集落として開発が進んでいる。バスの車体を使った安全な寝床、安全な水を大量に供給する浄水器、ロボットが世話をする農園と、それらを守るハリネズミのような多量の防衛タレットとロボットたちが居る。

 

「あら、おかえりトールの旦那」

「町長、変わった事は無かったか?」

「いつものヌカ・ワールドからの荷物が来てるよ。後はまあ、イキったレイダーが撃って来たから、身包み剥いで蹴り出しといた」

 

 まとめ役になった元レイダーの女性は、赤ん坊を育てる傍ら、集落の差配を行っている。

 

「なんかあるなら呼んで」

「ああわかった、ありがとう。

 予定時期も外れてないし、ヌカ・ワールド交通センターからのルートも安全確保ができたか。ロボブレインの文句も、皆慣れたもんだ」

『言葉を発するのは我々に残された唯一の自由だ。人間というのは幾らでも残酷になれるのだな。戦前の記録と比較しても、御主人様の所業は常軌を逸する』

 

 独り言に反応するスピーカー音声が聞こえた。トールはいつもの事と苦笑する。彼らはいつも同じだ。

 

「廃品利用だよ。あと残されたんじゃない、残しておいたんだ。

 俺は物を大事にする国から来たんだからな。それで、本音は?」

『地獄へ落ちろ、御主人様。ああ御主人様、言葉で貴様を殺せたなら』

「そうか、後でメカニストに伝えて、巡回頻度を上げてもらうか」

『悪魔! 魔王! 荒野の災厄!  覚えてい…いや、忘れるがいい! 畜生!』

 

 通りすがりの、補給に立ち寄ったロボブレインの一体がいつも通り罵倒を残して巡回へ向かう。罵倒しながら移動するのはいつもの事で、住人たちは軽く吹き出しながら各々の作業へ戻る。

 

「…驚いた。こちらに集落ができたという話は聞いていたが、まるで小さなダイヤモンドシティマーケットだ」

 

 近づいてきた中年男性。黒いサングラスをかけている。

 

「手伝っている俺としては褒め言葉と受け取っておこう。所で何者だ?」

「失礼した。私の事はディーコンとでも呼んでくれ。…ある組織に居る」

 

 最後の方は小声だが聞き取れた。

 

「ふむ? 保護団体の職員が、どういった要件で?」

 

 トールが保護団体と言ったため、レールロードのエージェントと理解していることを確認するディーコン。

 

「話が早いな。我々の活動に、協力して貰いたい」

「俺は一応、利害で動く人間でね。何か見返りはあるか?」

「…少し場所を移そう」

 

 ディーコンと名乗った中年男性は、マーケットの端にある密談用の個室を示す。トールは頷いて個室へ入り、早速と口を開いた。利害がどうのと言ったが、あまり関わり合いになりたくない組織だ。伝える事を伝えてあとは頑張って貰う事にした。

 

「さて、エージェント・ディーコン。先に言っておくが、隠れ家の多くがインスティチュートに察知されてる。早めに引越しを勧めるよ」

 

 ディーコンは少し動揺。

 

「Pip-Boyの事といい、キャピタルの話といい、確信ができた。あんたは101のアイツの保護者、荒野の災厄なんだな? こちらに来ているとは知らなかった」

「そりゃ少し大人しくしてたからな、あの時ほどやんちゃじゃぁない」

 

 壊滅予定の居住地保護やメカニストへの対処、ヌカ・ワールドの一連の所業など各所でやらかしてる事は心の棚に置いてきたらしい。鉄火場的な意味で大人しくしているのは事実だろうが。

 

「俺のことは知らないだろうが、101のアイツとあんた、二人の話はあっちに居た頃によく聞いてる。その情報も、アイボット達が集めてきたのか?」

「そんな所だ。監視の人造人間がドーナツ屋近くで確認されている。既に危険域と言っていい。このままだと、致命的なダメージを受けるぞ」

「…具体的な襲撃予測は?」

 

 普通は対価なしに聞けない情報だが、トールはあっさりと語る。

 

「スイッチボード、アレン、ヘルカイマー、オーガスタ。電子頭脳から情報を吸い出したが、心当たりは…あるようだな」

「なんてこった! 本部の移転も必要か…所でだ、対価はどうしたらいい?」

 

 このウェイストランドにおいて、タダほど高い物は無い。だがトールは例外中の例外だ。単にお人好しとも言うが。

 

「ドーナツ屋で伝えた通りさ。記憶の消去は止め、今はどこかで静かに暮らさせる事を勧める。解き放ってばかりでは、もしもの時に連邦民との確執と誤解が広がるだけだ。混乱は相手の理になるぞ。

 もう一度、俺の考えを伝えておこう。人格と知性は人間と同格だと俺も思うが、彼らは生物として人間と同等ではない。その自覚の上で活動するんだな」

 

 在る種の思想的傲慢さがレールロードにはあるとトールは考えている。インスティチュートも別ベクトルだが同じだ。そうでなければ人類の再定義というお題目なんぞ掲げない。

 所詮、人間は知性を獲得した獣、生き物であり、人造人間は生き物ではない。知性において同格だが、生き物としては同等ではないのだ。それを混同するから根本的に間違う。

 

「…指導者達を説得する必要がある」

「そいつはあんたに任せる。だが先に、目をつけられた隠れ家を放棄して安全確保してからだな。俺はこれ以上は干渉しないし、接触も遠慮しておく。厄介事を起こすようなら、隠れ家を全て探し出して殴り込むからな。殺しはしないが死ぬほど痛いのは覚悟しとけ、いいな?」

 

 キャピタルやモハビではかなり強い脅し文句だが、トールの活動を直接見ていないディーコンは、その強度は理解していなかった。ただ、まるでほら話のような活動内容のいくつかは真実である、という程度の認識だ。本当は「ほら話はオブラートに包まれていた」が正解である。

 

「わかった。あんたの恐ろしさも含め、説得するよう努力しよう」

「頼んだぜ、俺は面倒が嫌いなんだ」

 

 ディーコンとの邂逅は終わり、トールはその後暫くの間、レールロードの活動が控えめになった事を確認した。ゲーム中に把握していた隠れ家で放棄されていたものからは人員が去り、代わりに潜り込んだレイダーやスカベンジャーがインスティチュートの餌食になった。

 

「まあ、この世界のネイト達がお人好しなら、関わってしまうんだろうけどな…」

 

 夫妻が起きてから暫く、トールは一切、レールロードとの接触はしなかったしされなかった。ゲーム中よりは積極的に活動している事はわかったが、人的被害が少なかった影響だったのだろう。

 

 また、ネイト夫妻も心得た者というか、人造人間の扱いについてはトールと同じ考えであり、ファー・ハーバーでアルカディアと交友関係を構築した後は、逃亡人造人間をなるべく彼らの所に送っている。

 

 ある派手な再会まで、実の所、トールも意識から外れていたのだが…。

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>メインクエスト開始後のこぼれ話

 後にバンカーヒルで三つ巴の戦いになった際、トールは事前に止めたにも関わらずドンパチを始めたBOSとレールロードと人造人間の面々を強襲、一人残らず両腕両足を砕いて地面に転がした。人造人間はすぐに撤退、恐らくは事態を把握したネイト夫妻の指示だろう。

 無事に立っているのはバンカーヒルの住人とキャラバンの非戦闘員、あとバックバラモンだけという惨状だった。

 

「俺は止めたよな? あの二人が頑張って交渉もセッティングしてた、各所に話を通して停戦も進んでた、連邦民も喜んでた。

 それでなんでこうなってんだ? ネイト達が戻るまで待てと言ったぞ? 聞こえてなかったのかソルジャー? なあおい? 聞いてるのか?」

 

 全体で数百キロあるパワーアーマー装着のパラディンの一人を、片腕で首元を掴んで持ち上げる。トールの訓練をナイト時代に受けた経験がある彼は、ヘルメット下で顔を真っ青にしている。他のナイトやイニシエイトは恐怖に震え、一部は漏らしている。

 

「伝言だ。エルダー・マクソンかキャプテン・ケルズが指示したんなら”荒野の災厄”が全力でボコリに行くから準備しろと。

 特にケルズのオッサンは念入りにだ、知ってる古傷を全部余す事なく狙ってやるとな。マックス坊やには関節技フルコースだ。俺を止めたければパラディンを大隊で連れてこい! またあのデカブツも壊されていいなら、それも用意しとけと伝えておけ!

 スティムパックは山程あるぞ、喜べってな。全部殴り倒してやる。全部、全部、全部だ! わかったな? わかってなくとも解れ!」

 

 片腕でパワーアーマー装着のパラディンを放り出す。外部ハッキングで停止させていた、パワーアーマーのスティムパック自動投与を再開させると、今度はレールロードのエージェントに向き直る。

 

「お前ら、自分の行動が何を起こすか、起こしたか考えて調べろと言ったよな? それでこれか? この程度なのか? よろしい、ならば教育だ。

 後でデズデモーナとディーコン達に伝えておけ。隠れ家強襲して居合わせたエージェント全員ボコる。逃げても無駄だとな。

 俺からは以上だ、さっさと治療して住処へ帰れ!」

 

 手足に最低限の治療を施し、走るようにして逃げ出す連中を見送り、トールは「なんでこう、頭を使ってくれないんだ…」と嘆いたと言う。

 




 結局、説得(物理)が強い。

 ゲーム中はほぼ無敵のリバティ・プライムですが、そこはMODのチート持ちですから、即死を防ぎ、ある程度の威力で抑えた、V.A.T.S.による連続ヌカパンチラッシュをキメて、キャピタル時代に行われた模擬戦を勝利しました。
 エルダー・リオンズは「無敵の兵器など無い」と大爆笑、サラ以下、センチネルやパラディン達、研究者達は手足を砕かれたリバティ・プライムに顔面蒼白だったようです。

『行動不能。判定は敗北。想定外。友軍である事を幸運と判断』
「ごめんな、リバティ・プライム。責任持って直すから」
『謝罪を受諾。共に中国軍と共産主義の撲滅に向け、全力を尽くしましょう』

 後にも先にも、この世界でリバティ・プライムが明確な破損をしたのは、トールとの戦いだけでした。

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