荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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さて、Fallout4本編開始です


荒野の災厄の旅路・コモンウェルス その6

 2287年に入った。Fallout4のストーリーが開始される年だ。

 ゲーム中の歴史の通りであれば、パラディン・ダンス率いる偵察部隊グラディウスが到着して拠点を構えるも、戦闘により人員を失う。そこに現れるのが主人公だ。

 また、クインシーの虐殺が発生し、その場のミニッツメンで生き残ったプレストン・ガービーが残存の住民を連れてサンクチュアリを目指す。

 

 半年間の間、まだ穴の多い監視網で逐次情報を取得しているが、どこも動きが無い。

 

「レールロードとニックは放置として、問題はダンスとガービー達か」

 

 色々布石は打ったが、本来よりはマシ程度で完璧では無いとトールは考えている。だが実際の所は、ほぼ全てのスーパーミュータントやフェラル・グールを都市部から駆逐し終えたキャピタルウェイストランド程では無いにせよ、ロボブレインが不平不満を垂れ流して履帯で爆走しながら主なルートを巡回する影響で、コモンウェルス中の流通や街道はかなり安全が高くなっている。

 また、史実ではガービー達はガンナーに追い込まれ、フェラル・グールが多数蠢くジャマイカ・ブレインで半数の市民が命を奪われたのだが、各所を爆走するロボブレインが既に殆どを駆逐し終えている。

 

 その事をすっかり忘れていたトールは、どちらの救援をしようかと悩む。また、本来は死んでいる筈の主人公の伴侶を救命している訳で、あちらを放置する訳にもいかない。

 

「…神ならぬ身ってのは、ままならないもんだ」

 

 もう随分と前になる生前の記憶。薄れかけているそれをメモに取って再確認しているが、追加されている筈のコモンウェルスでのMODのロケーションはどれも発見されていない。支援している所に派手に資材もキャップも投入しているので、余裕は多く無いのだ。

 

「すまんクインシーの市民達、できる限り生き残ってくれ」

 

 祈るように呟く。が、本当に多くの市民が生き残ってスターライト・ドライブインに到着して入植希望を出してくる事を、今のトールは知らない。

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 事前にパラディン・ダンス達の基地となる警察署には、内部の整理と共にターミナルへBOS関係者用のメモを残してある。

 

『ブランディスの後続達へ。ここは俺がいくつか用意したセーフハウスの一つだ。壊さなければ自由に使って、任務遂行に役立ててくれ。

 パスワードはBOSであれば解るものを設定してある。解除すれば幾らかの補給物資と警察署に設置した防衛設備を起動できる。生き残れ』

 

 本来の流れでは、主人公が救難放送を聞いて接近→フェラル・グールとダンス達が交戦中→援護→BOSに協力しないか?→放送用アンテナ直すぞ→とある施設で人造人間と交戦→協力ありがとう、BOSに入隊しない?

 というのが大まかな流れだ。クエストにより修理されたアンテナで救難信号を発信した影響でBOS本隊が呼ばれる。回避もできるが、ここは現実であり、電波塔が無事か直るのなら、本隊の到着も早まるかもしれない。

 

「ブランディスの件もあるから、油断をしていなければいいが」

 

 無事に全員を送り返したのだが、再度来る偵察部隊でダンス以外のメンバーが油断しているとなると史実通り生き残りが三人になりかねない。

 

「一応、監視は継続しておくか。まだ到着はしていないようだし」

 

 どのルートから来るか解ればよかったが、輝きの海方面は除外するとして、陸路か空路か海路かも不明である。ブランディス達は海岸沿いに南下して去っていったが、今はクインシー方面含め、ガンナー達が勢力を伸ばしているので危険地帯だと言えよう。

 

 結局、どの程度生き残るかは実力次第と、これもまたトールは放置する事にした。流石に主人公夫妻をほったらかしにする訳にも行かない。

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 10/23 雨が降る日だった。未だ戻らない主人の家の前で、雨に濡れたまま浮かぶコズワースに挨拶をする。ここ何年かで時折サンクチュアリに訪れているのですっかり馴染みになっている。

 

「ずぶ濡れのようですが、少しお休みになって行かれますか?」

「流石に家主が居ない状態で、人の家には上がりこめないよ。用事があるからまた後でな。

 …ああそうだ、追加で人が来るかもしれないから、可能なら他の空き家を見回って害虫退治をしておくといいかもな」

「ふむ。確かに鬱陶しいのが居るようです。増えて我が家に来ないよう、先んじて手を打っておくとします。ではトール様、またお会いしましょう」

 

 周辺家屋にラッドローチなどを退治に向かうコズワースを見送り、Vault111へ向かう。爆風に飛ばされてそのまま亡くなったと思われる人や兵士の遺骨が、フェンスで堰き止められて折り重なっている。転送装置で出現し急いで向かったあの日は、そういう物を見回す余裕が無かったなと思う。

 

 丘の頭頂部へ近づいてフェンスゲートを越えると、Pip-Boyが短距離無線でリンク。扉の開閉シークエンスにアクセス。降下式の扉の上へ乗る。信号を送信するとブザーが鳴り、下へ。

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 Vaultの扉は閉ざされている。扉前のコンソールに、伸ばしたケーブルの端子を接続して開閉操作。ブザーが鳴り、重々しい音を立てて扉が開く。Vault内はそこかしこでエラー音が鳴り響いている。ゲーム中では冷凍睡眠装置が故障のため停止し、その影響で主人公は起きる。既にシステムでは切り離しているが、緊急停止の影響元が故障するのは同じようで、中々エラー音がうるさい。

 

「前日に待機すりゃよかったな」

 

 後の祭りである。

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 主人公は、自身の正面にある冷凍睡眠装置に眠る最愛の妻の前で立ち尽くしていた。ゲーム中のデフォルト容姿とほぼ同じだ。近づくと警戒をしていたが、敵意が無い事が解ると何者かと誰何された。

 

「Vault-TECの職員か?」

「いや? …状況が掴めて無いのは当然か。オーケー、アイスマン、お互いの自己紹介も含め、揃って説明するとしようか」

 

 トールはバツが悪いのを隠し、主人公が見つめていた装置に近づく。

 

「…もう、妻は」

 

 主人公は怒りと悲しみを秘めた表情で、装置を見ている。扉が開き、軽く霜の降りた状態で妻がそこに居る。トールは無理矢理に主人公を近づけさせた。

 

「奇跡って意外と、身近にあるみたいだな」

「まさか!?」

 

 実は生きていた妻。主人公は愛しげに彼女を受け止めると、一人、押し殺したように嗚咽を漏らした。

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 トールはまだ体の震えが取れていない二人が落ち着くまで待ち、簡易コンロで温めたコーヒーを渡しながら、途中のターミナルで見たとVault111について説明する。同時に、ウェイストランドとなった今のこの世界についても。

 二人は驚愕に目を見開くが、恐慌はしなかった。こういう強さを二人共、有している。流石は主人公である。

 

「そういう訳だアイスマン。あー、二人共そうか」

「俺はネイト。こちらは妻のノーラだ」

「貴方の名前は?」

「トオル・ミナセ。まあ今はトールで通してるよ。それで、こんな世の中だが人間はばっちり生きてる。二人はどうしたいんだ?」

「「息子を探す」」

「…訳ありのようだな。オーケー、微力ながら力を貸そう」

 

 その後、二人と共にVaultを脱出するべく部屋を出る。脇にメンテナンスを請け負っていたプロテクトロンを伴ってだ。

 

「二人共、V.A.T.Sのインプラントは? 無ければバイオメトリクスシールを張って、Pip-Boyを装着する必要がある」

 

 ただし、専用機材が無いと外せなくなると付け加えて。

 

「大丈夫よ、ネイトは兵役時代に、私も同じ様な訓練経歴の過程で入れてるから」

 

 Pip-Boyは二人分無かったので、取り出して渡す。101のアイツや運び屋、そして目の前の二人の強さを支えている一端がこれな訳で、渡さない選択肢は無い。

 

「いいのか? 聞いた外の世界じゃ、もう製造もできない高性能の端末になると思うんだが」

「予備だよ。実は、扉を開いた時、職員だった骨からいくつか戴いてるからな」

 

 そんな呑気な会話をしつつ、途中でラッドローチを蹴散らす。夫妻共に巨大なローチ(ゴキブリ)に驚いているが、殺るとなると、途端に冷静になって対処していた。ネイトが…銃、ノーラがバトンを持っている。

 

「得意分野の違い?」

「…嫌いなんだ、ローチ」「私は平気よ。流石に食べないけど」

「俺は喰う羽目になったら気絶する絶対というか確信する」

「あなた、目が泳いでるわよ」「無理なものは無理!」

「ネイト、そんなんじゃウェイストランドは厳しいぜ?」

「努力する…が、食うのだけは本当に勘弁してくれ…!」

 

 再び閉じているVaultの扉を空け、エレベーターで外へ。

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 外に出ると、記憶の光景から一変したウェイストランド・コモンウェルスとサンクチュアリの姿を見て絶句する二人。

 

「? スターライト・ドライブインからの無線?」

『あー、旦那、聞こえてたら至急きとくれ。お客さんが来てる』

 

 自動音声であると追加でメッセージ。嫌な予感がしたトールは、二人の為に十分な物資と装備を二人に手渡したが早いか、駆け出した。

 

「どこに行くんだ!?」

「すまん、世話をしている居留地に問題が起きたかもしれない!

 急いで向かうが、二人はまず自宅で待つコズワースに会うんだ!

 対処次第、サンクチュアリに戻る!」

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 ラジオで状況を知ったトールがスターライト・ドライブインに急いで戻ってきた時、見慣れない顔が多数、固まっていた。

 

「急いで戻ってきたが…入植者か?」

「ああ旦那、よかった。希望が集団で来たのは別にいいんだけどさ、その代表が話をしたいって」

「貴方がここの支援者、トールさんか? 俺はコモンウェルス・ミニッツメンのプレストン・ガービーだ。ドラムリン・ダイナーで、ここが入植者を募集していると聞いて来たんだが…」

 

 予想外の人数である。多数の市民を率いて来たガービーと幾人かのミニッツメンを確認するなり、人数に頭を抱えた。途中、ダイヤモンドシティ等の居留地へ結構な数が移住したと言うが、それでも一〇人近くが居た。ゲーム中の生き残りを除いた数でだ。

 

「全員受け入れると余裕が少し無いんだが、何とかするよ」

 

 だが、ガービーは首を振る。

 

「ここは沢山揃っている。だからこそ俺達はサイトに従うよ」

「サイトだって? ありゃあビジョンを見るが、正確性を得られる程の担い手は少ない筈だ」

 

 知っていて知らないふりをする。実際、史実ではママ・マーフィーの導きでいくらかの生き残りが自由博物館へ辿り着き、主人公と出会ってサンクチュアリに来る事となる。

 

「…巨大な力の渦だねアンタは。過去も霞んで見えづらい。だがどこに吹かせた風も、悪い風じゃない」

「悪くないというのは朗報だ。ふむ、このご婦人が?」

「ああ。ママ・マーフィーという。俺達が無事に、クインシーを一緒に脱出した全員がそれぞれたどり着けたのは、彼女のお陰だ」

「ここを見て期待してもらっても困る。サンクチュアリは手付かずだ。敵も居ないが何も無いぞ?」

 

 それでもとガービーはミニッツメン、クインシーの生き残りをスターライトドライブインに移住できるよう頼んできた。町長は了承したが、資材を追加で用意して増えた住民用に拡張する必要がある。そこから三人程減るなら、現施設でまかない切れる。

 

「ありがとうおじさん」

「お、おじ…ああ、おじさんなんだよなぁ…」

 

 ゲーム中では死んでしまっている、ジュン・ロングとルーシー・ロングの子供であるカイル。

 年齢だけで見れば、立派におじさんを通り越してお爺さんである。かつて少年グールに反論したのを笑えない。

 

「こほん。それじゃカイル、俺は彼らを案内してくるから、ご両親と食べ物を一杯食べて寝て、後で勉強もするんだぞ?」

「苦手だけど頑張るよ。またね」

 

 トールは人造人間調査が全員パスした事を確認した上で、ガービーとスタージェス、そしてママ・マーフィーを連れてサンクチュアリへ向かう。そしてその過程、鬱陶しいレイダー達の抗争を避けて入った自由博物館で、目覚めさせたが途中で放置してきた主人公夫妻と再会する事となった。




自由博物館の戦いは、侵入を許してないのであっさり目になる予定。

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