荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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ヴァディス自由都市はスマホゲーより。

始めたばかりですが、うちのナザリックには星5が一人も居ません。


死の支配者と旅先の自由都市

 カッツェ平野。一年を通して薄い霧に包まれ、一定時期だけそれが晴れる。霧に包まれた状態では見通しが悪いだけでなく、それ自体は無害ながらアンデッドの反応を有すため探知能力が無効化される。また、様々なアンデッドが出現する危険地帯だ。

 

 アンデッドの特性として、その存在自体にある負の魔力というべき物が呼び水となり、段階的に強いアンデッドを呼び出す。呼び出された強いアンデッドは更に強いアンデッドを…と言った感じで、無限ループする。そのため、カッツェ平野におけるアンデッドの定期的な駆除は、戦争をする帝国と王国の間柄であっても重要である。

 

 ヴァディス自由都市は、両国出資により、監視や迎撃の為に建設された。カッツェ平野北の街道にあるこの街は高い防壁に囲まれており、いざと言う時の為に分厚い鉄の扉が用意されている。ここには帝国から交代で正規兵が訪れ、定期的にアンデッド退治を行う。また、ある程度の実力を持った冒険者やワーカーの良い食い扶持になっている。

 

 首都ナザリックを出発した帝国お出かけ隊は、ちょくちょく風景を楽しみに馬車に転移してくるモモンガさんを除き、ほぼ無人のまま自由都市へ到着した。

 

「おいあれ、始まりの九連星の馬車じゃねぇか?」

「周囲のはゴーレムメイカーの重装ゴーレムか。近くで見ると強そうだな」

「後ろのは幌馬車として、一台はなんか貴族用なのか?」

「護衛用に自前のを持ってるとは聞いたが…」

 

 自由都市には傭兵団としてのギルメン達も竜王国への遠征やその帰り途中、試し打ちや八つ当たりなど、様々な理由で訪れており、馬車が掲げる旗は古参の冒険者やワーカーに認知されている。

 

「ここがアンデッド掃討の為の都市ですか。成程、人としてはそれなりの連中が多いみたいだ」

「帝国は国家事業としてやってますから、冒険者として来るのは王国側の人間が殆どですね。ワーカーなら帝国の方が多いですけど」

「げ、バレませんか?」

「大丈夫でしょ。今回は帝国に行くついでの調査も兼ねてます」

 

 貴賓用馬車の中、ベルリバーの言葉に首を傾げるモモンガさん。今の彼の姿は、冒険者モモンとしての鎧姿ではなく、動きやすい旅装束に仕立ての良いローブを上に纏い、顔には伊達メガネを付けた、どこか学士風の装いである。術士系装備は段階別に残してあったため、それをナザリックギアの外装登録でチョイスして組み合わせた。実際の装備は聖遺物級である。

 

 尚、スーラータンやウルベルトが「目立ちすぎず、見窄らしすぎず」のモモンガさんの要望に外装の組み合わせを決めたのだが、人化した状態で伊達メガネを付けて偶然居合わせたアルベドやぶくぶく茶釜にお披露目した所、周囲の一般メイド含めて尊さに昇天しかけた。

 

「あっ…」「はうっ…」「ふわぁ…」

「モモちゃん、ずるいわー、いいわー」

「モモンガ様っ…(鼻血)」

「わ、わわ、何が起きた!? 誰か、誰かペストーニャを呼べー!?」

 

 背は高いがやや童顔なモモンガさんのリアルの姿から不健康さを排除し、頭髪も清潔そうな短髪に、その状態で眼鏡追加、そして照れくさそうに一回転したのがどストライクだったらしい。

 閑話休題。

 

「中々の女殺しっぷりですね、トールさんも褒めてましたよ」

「喜んで良いのだろうか…おっと、着きましたね。ここが今日の?」

「はい、黄金の輝き亭の傘下宿の一つだそうです。明日一日、平野の様子を見回ったら、明後日は帝国に向かいましょう」

「すいません、俺のワガママで…」

 

 ベルリバーは苦笑する。

 

「そもそもペロロンチーノさんに引っ張られて来てる訳ですし、この程度はワガママでもなんでもないです。楽しんでください」

「ありがとうございます」

 

 途中でセバスと入れ替わった御者が、扉を開ける。ベルリバーに続いてモモンガさんが降りた。何か周囲が騒がしいなと見てみれば、有名な傭兵団の誰が来たのかを見に来た野次馬達である。

 

『ペロロンチーノさん、着きましたよ』

『はいはいっと、ドッペルゲンガー達を連れて降りますんで』

 

 二台目の幌馬車の中で転移門が開き、ペロロンチーノと幾人かのギルメン達の姿をしたドッペルゲンガーが降りてきた。

 

「ペロロンチーノさん、首元、どうしたんですそれ?」

 

 軽装鎧姿のペロロンチーノの首元、そこに赤い痕がいくつもある。

 

「え、鏡はっと…ぬわっ、シャルティアめ…」

 

 口調は怒っているようだが、態度は全くそうではない。首をかしげるモモンガさんとは別に、ベルリバーはちょっと恨めしそうである。

 

「キスマークですね。我々の場合、すぐ治りますが」

「…な、成程」

 

 既にモモンガさんは童貞ではない。繰り返す、童貞ではない。よって、到着までシャルティアの住処に居たペロロンチーノがナニをしてたかと、首筋のキスマークについては理解できた。

 

「因みにモモンガさんも、首元が出る服の時の朝、人化してるとついてたりしますからね」

「げ、まじですか!?」

「ナカーマ、イエーイ「い、イエーイ?」「リア充爆発しろ!」

 

 揃った所で宿の支配人が直接案内しに来たので、全員がそれに従って最も高い部屋に通される。

 

「装飾品は過剰でないのがいいですね。なんだかこっちの方が落ち着きます」

「夕食はまあ、酒のアテだけ頼んで、TVディナーをレンチンしましょう」

「俺、新型の方作ります。二人は?」

「同じで」「同じく」

「ま、遠征でもないし、流石に復刻版は胃がもたれるからなぁ」

「すっかり舌が贅沢になりましたよね、私達」

「ブロック食とかチューブ食とか、もう無理っす」

 

 TVディナー。アメリカ発祥の電子レンジ調理用ワンプレート保存食のカテゴリ名だ。トールの拠点で生産されており、アメリカンなメインディッシュに付け合せとライスの組み合わせでワンセットである。後にカワサキ監修のメインディッシュの物に生産物の殆どが置き換わったが、一部の愛好家の為に復刻版として初期生産タイプも継続製造されている。

 以下、トールの拠点にある食料生産プラントでの一幕。

 

「所で、このプラントってずっと動いてますけど、備蓄って?」

「一年辺り合計十二トン位かな。フル稼働させてない最低限で」

 

 トールが生産させたものは保存料も使わずに百年以上保存が効く。だが、そんなに作ってどうするんだろうか。

 閑話休題。

 

 ルームサービスで軽いツマミ類を注文した後、夕食の準備としてクーラーボックスからTVディナーとサイドメニュー類、可搬式にした電子レンジなどの準備を始める。

 

「インベントリから電子レンジが出てくるのテラシュールwww」

「んな事言ってないで、先に出したバッテリーにコンセント繋いでくださいよ」

「おーい、フライドポテトできたぞー」「ヌカ・コーラうめぇ」

「先に飲んでんじゃねぇよwwwあ、俺はワイルドでよろ」

「トランプ持ってきた」「大貧民やろうず」

「てか来すぎだろ!w 予定に入ってないのも来てるぞ!」

「何してんのさ君等w」

 

 自由都市に到着したのを聞きつけた男性ギルメン達が入れ替わり立ち替わり、暇を見て転移門で飛んで来るので、何気に騒がしい夜になった。最後にトールが、差し入れを持って現れる。

 

「なんか、男子高校生の修学旅行の夜みたいだな」

「修学旅行って何だ?」「俺、小卒です」「辛うじて中卒」「俺学無し」

「…おおう」

「トールさんが泣きながらヌカ・コーラとピザを差し出して来たでござる」

「修学旅行か。成程、二十一世紀前半まではあったんだなぁ」

「高等学校どころか中学校自体が世紀の中盤以降、通える人間が少なくなりましたからね」

 

 幾人かだけ存在を知っているギルメン達が感慨深く言う。

 

「なんでペロさんは知ってるんでしょ?」

「エロゲから」「おk、把握した」

 

 嫌な知識の偏りである。

 

「修・学・旅・行! と来れば、本来なら温泉の覗き見とか女部屋に侵入とかイベントがある筈の行事!」

「血涙流しそうな程、悔しげに言うなやw」

「学園の企画、本格的に考えます? 首都部分で」「あら良いわね、ナザリック学園リブート」

「それだぁ!!!」

 

 流石に守護者やシモベを通わせる訳にも行かないのでこの場ではポシャったが、平和な時代の学生気分を味わって貰おうと、後にトールはどこかで見た学校の校舎や施設一式を首都ナザリックに建築した。一部のギルメン達に非常に喜ばれたそうな。


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