荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
一晩明けて、自由都市の宿内に残ったのは、モモンガさん、ペロロンチーノ、ベルリバー、トールという面子だった。
「寝不足とかは無いけど、はしゃぎまくってたな皆」
トールは一人起き出して背伸び。他は全員思い思いの格好で毛布を被って寝転がっていて、起床予定時間になったのでドッペルゲンガー達が起こして回っている。
「お早う。皆が身支度する間に、残せない物だけ片付ける。朝食の用意をするから、ついでに手伝って貰えるか?」
「了承しました」
モモンガさん達が起きて身支度を終えると、テーブルの上には朝食用のワンプレート保存食が湯気を立てていた。目玉焼き、ベーコン、ポテトサラダ、そして…。
「トーストをお持ちしました」
焼いた後、半分に切って側にバターを添えたトーストをドッペルゲンガーが持ってきた。離れた場所では、使い終えたトースターを格納するトールが居る。飲み物は程々の温度に温められたミルクである。
「おはようございます…ふぁあ、人化してると朝がちょっと辛い」
「おはようございます。習慣は中々抜けませんよね。疲れとかは全然無いんですが」
「おはようですよ…。お、ベタなモーニングですね、俺これ大好き」
頂きますと手を合わせ、食べ始める面々。トールはポテトサラダを最初に片付けると、トーストに全部載せして挟む。個別に食べ始めていた面々は「その手があったか!?」的に驚き、真似をしてサンド。一口食べて目を輝かせるAOGの面々を見て微笑むトール。
「そういやモモンガさん、アルベドが最近、料理を習ってるそうですよ。なんだか人化すると、異形種分を一時的に失う代わりに別途、職業レベルが人化中には生えるみたいで」
「え、ほんとですか!? しかし…なんでまた料理を?」
「「自覚無しかーい!」」
「え、え?」
和やかに談笑をしつつ食事を終え、片付け終えると宿を後にする。トールはナザリックへ戻った。出てきた面々に、宿の支配人は食事の提供ができなかった事を謝罪してきた。
「ああ、問題ありませんよ。お抱えの料理人が、魔道具で用意しているので」
コック衣装を来た仮面のドッペルゲンガーが一礼。遠回しに見ている他の客が「有名な傭兵団ともなれば、食事も専属がいるのか」と驚いている。貴族か100人単位の傭兵団でも無ければそこまでしない。
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さて、宿にはギルメン達に扮したドッペルゲンガーを残してある。他の面々は散策中か宿で休息という設定で、門を出る。同じくアンデッド掃討へ向かう冒険者やワーカーが遠巻きにしている。
「あの腕の腕章、あの男も団員なのか?」
「だが、今迄見たことないぞ…」
少し居心地悪いので、さっさと移動する。
「どうです、モガさん、アンデッド探知は?」
「攪乱されてる感じで確かに気持ち悪いですねこれ」
この学士風スタイルでは「モガ」という名前にした。ナザリックギアを偽装人化に切り替え、死の支配者の能力で周囲を探るも、事前情報の通り霧そのものがアンデッドの反応を返している。
「Pi-pipi」
「お、トールさん所のアイボットか。ここにも派遣されてるのか」
目の前の目立つ所に、丸い金属のボディをしたロボット、アイボットが隠蔽を解除して出現した。くるりとその場で回って、お辞儀するように上下にボディを動かす。
「周囲警戒をお願いしていいかな? できれば我々以外の人々の状況含めて」
「Pi…Pi-pipi!」
アイボットはベルリバーの問いに一回りして答えると、先導して飛び始めた。薄霧の近く、もう一機が現れてモモンガさん一行の脇に並ぶと、空中に周辺調査状況を表示する。
「おお、SFっぽい」
「便利ですよねぇ。何台生産されてるやら」
トールが調査用に派遣している数はそれこそ数万単位だが、今は詳しい話は置いておく。探知範囲は半径にして500m位だろうか。アンデッド掃討を行っているらしい冒険者やワーカーのチーム、又は整然と並んだ帝国兵らしい集団の位置が解る。
「この場合の主なセンサーは、動体、温度、音波でしたっけ」
「Pipi-Pi-Pi」
「そうか合ってるか。頼んだぞ」
「Pipipi」
「今回の予備目的として、カッツェ平野の遺跡の調査があります。中心部にユグドラシル系の建物の廃墟があって、そこで黒い絨毯が退けられてるそうなんです」
「トラップが残っている…となると、ギルド拠点?」
「恐らくは。王国との戦争時は見えず、霧の中であれば出現しているようなんですが、罠で迷わされてるのか人間種国家で廃墟に気付いている所はありません」
アイボットが気を利かせたのか、周囲探知の情報の他、目的地候補へのルートを表示する。歩いていけば10km程先のようだ。
「随分前の遺跡のようだが、何か他のギルドの手がかりになるかもしれませんね」
「我々にとって危険な世界級アイテムが眠っているなら先んじて確保しておきたいですから。下位の物であっても、外出するメンバーの保険に持たせると数の確保になりますし」
のぞみ薄ではありますが、と付け加えるベルリバー。運良く二十の世界級アイテムを手に入れたが、それを計算に入れても全員を保護するには足りない。
「熱素石なら、使い捨て前提で防御全振りのアイテムが作れたんだけどなぁ」
「理論上は3つ入れた防御の魔道具で、ロンギヌスも相殺できるんでしたっけ。うう、惜しい。鉱山の独占阻止が…この世界じゃアダマンタイトが最も優れた鉱物だそうですし」
かつて、ユグドラシル時代に鉱山を独占し、七色鉱を大量に集め、それら全種を一定量消滅させることで入手できたのが熱素石だ。同じく消費型の永劫の蛇の指輪よりは落ちるが、運営にお願いをできるタイプの消費型世界級アイテムで、鉱山独占が崩れていなければ再入手ができただろう。
「七色鉱の鉱山でもナザリック周辺か中に出現させない限りは無理ですね」
「ま、無い物ねだりでしょ。過ぎた事で沈むのは無し無し」
「「だがあのゴーレムは許さん!」」
「…噴き上がるのも無しで」
テクテクと歩くモモンガさん一行。アイボットとペロロンチーノの監視網を逃れられるアンデッドはおらず、気付いた時には弓か魔法で撃ち抜かれている。
「うーん、俺の目でも100m先は通じないんだよなぁ」
「ペロンさんのお陰で奇襲は防げるけど、ゴースト系は霧に紛れると少し面倒です」
「護衛に死の騎士を…だめですね、はい」
この世界ではアダマンタイト級の冒険者がチームを組んで討伐する伝説級のアンデッドである。呼び出して使役するなど、周囲に余計な混乱を招きかねない。
「Pi-Pi?」
「あーそうか、お前達が居れば大概わかるか…え、ナニナニ?」
「近距離信号通信をオンに? あ、ナザリックギアか」
揃ってナザリックギアを操作し、左腕に仮想ディスプレイを表示。ラジオの項目で、周波数を「通信」に設定。自動的に眼鏡フレームタイプの網膜投影機が出現。すると…。
「「「目がー! 目がー!」」」
網膜投影用レーザーが目を焼いた。物理的に焼いてはいないが、視界が真っ白になった。
「PiPi-Pi?」
慌ててナザリックギアを人化にセレクト。網膜投影ディスプレイが正常に動作し、周囲情報を表示。Pip-Boyの標準データ表示に、周囲状況がわかる円形レーダーが追加されている。
「おお、これは便利というか、頼り切りになりそうで怖いですね!」
「成程、アイボット達の探知情報をリンクしてるのか」
「ユグドラシルのより、未来的でかっこいいなこれ!」
テンションが上がる元未来人達(トールの前世比較)。が、網膜投影で拡張現実の情報表示を行う技術が、実はリアルでは富裕層対象にしか無かった。例外はVRゲーム中の表示だけである。
以降はさくさく進んで行き、時折検知される赤表示にはモモンガの魔法やペロロンチーノの弓で撃ち抜かれていく。
「いつもは感覚的に探知してるものが、こう視覚的に見えると違うなぁ」
「ですね」
感知→どーん! の繰り返しで惰性で移動している為、500m圏内に入った途端撃ち抜いていくのだが、たまに交戦中の冒険者やワーカーの相手を撃ち抜いてしまう。
「横殴りごめん…」「やっちゃったZE♪」
「あちらに怪我が無いことをよしとして、とんずらしましょう!」
向うから此方はわからない距離な事と、スケリトルドラゴン程度であった事を言い訳に、モモンガさん達は更にスピードを上げて目的地へ向かっていった。
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カッツェ平野ではそこそこベテランに入るその大型パーティの首魁は、アンデッドの出現密度が濃く、消耗が激しい事に気付き、いつもの折返しの目印の塔が見える前に撤退を決断した。
しかしそれは一歩遅かったらしい。
「最悪だ! この消耗状態でスケリトルドラゴンとは!?
盾隊、防ぎつつ後退! 弓隊、削れなくても撃て! 他は尻尾に注意し、横から殴り倒せ! 魔法隊、周囲の雑魚を散らせ!」
温存していた筈の魔法隊がスケリトルドラゴンの前では無意味と化した。犠牲が確実に出る。そう思った矢先、もう2体のスケリトルドラゴンが出現する。絶望だ。
「ひ、ひぃ!」
カタカタと顎を鳴らし、3体のスケリトルドラゴンが冒険者を睥睨する。カランと音を立てて、盾を取り落した音がする。へしゃげたそれを、スケリトルドラゴンが踏み潰す。次は、お前だと言わんばかりに。
「くっそう、ここまでかよぉ!」
が、彼らが想像した蹂躙劇は起きなかった。閃光を纏って飛来した何かが寸分違わずスケリトルドラゴンそれぞれの頭部を吹き飛ばしたからだ。同じ硬直の後、ばらばらに崩れ砕けるスケリトルドラゴン。滑稽な絵面だが、ここにそれを指摘できる心の余裕がある者は誰一人いない。
そして再び閃光。今度は空中で拡散し、周辺の低級アンデッドを薙ぎ払った。静寂。少し霧にも晴れ間が出て、周囲の状況がわかる。骨の竜の残骸、正確に撃ち抜かれた無数のアンデッド、それが転がっている。
「な、なんだったんだ?」
「わけがわからない…が、助かった」
パーティの首魁は安堵のため息をしつつ、報奨金の為の証拠を確保させる。主に魔法隊の面々が拾い集めた。
「…被害は?」
「盾隊が大分怪我をしました。予備から盾を用意しましたが、連続戦闘は厳しいかと」
「わかった。きついと思うが都市へ急ぐ」
地面に座り込んでいた面々は顔を顰めつつも立ち上がる。首魁は同じ様な事は3度目だなと額の汗を拭った。
(始まりの九連星、彼らが自由都市に来ている時に起きる。今は遭遇の偶然に感謝して、拾った命を喜ぶか)
閃光が飛んできた方向へ深く一礼し、冒険者達は去っていった。
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「…俺らってバレてね?」
「Pi? Pi-Pipi」
横殴りして怒ってるかなと思ってアイボットに頼んで転送されてきた静止画に、ばっちり頭を下げる首魁の姿がある。面識は無いが、明らかにバレてる。ペロロンチーノは引きつり笑いである。
「し、支援攻撃という事で結果オーライ。だめかな?」
「大丈夫です、多分」
「結構な数のアンデッドですよね。いつも此位でてくるんですか?」
確かにベルリバーの記憶と比べても出現頻度やアンデッドの強さが異なる。スケリトルドラゴンはめったに遭遇しない大物だ。だが先程は三体出てきた訳で、何か強いアンデッドに影響されて質も量も上がっている気がする。
「何か、強いアンデッドが出現したんでしょうか?」
「どうだろ、いつもの同じく一撃だからわからんですよ」
「そういえばモモンガさん、今は人化してますよね?」
「ええ。入った直後はオーバーロードの状態でしたけど…あ」
「あ…」
「…やっぱりか」
気付いたらしい。
アンデッドは、より強いアンデッドに影響されて強い個体が呼び出される。
では、世界最強クラスの死の支配者がその場に出現していたら?
「俺のせいか…」
廃墟の調査が終わり次第、一通り周辺のアンデッドを掃討しようと決めたモモンガさん達であった。
予告として、彼らだけが辿り着ける廃墟には、とあるギルドの残滓があります。
考察の範囲ですが、本作ではかつてあった事にしました。
また、カッツェ平野がこうなった理由は、某外伝ネタから引っ張ってくる予定。