荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
村と外を隔てる木製の門を抜けると、一人の男が立っていた。脇の樹の下には馬が居て、ノンビリと草を食んでいる。
「お久しぶりです、村長さん」
トールとアインズさんを先導する形で出てきた村長を見ると、男は軽く会釈をした。
「お久しぶりにございますリバー様。私一人での出迎えとなり、大変申し訳ございません」
「いえいえ、襲撃があったと聞いて肝を冷やしました。亡くなった方が居ないようで何より。隣の方々は、トールさんの伝えてきた方ですか?」
「話が伝わっているのですか?」
「ああ、使い魔を伝令に出した」
正確には、同行させていた空中浮遊型の球体型ロボット、アイボットを経由して連絡してあった。ゲーム中では、基本的にはラジオの機能で受信のみだったが、改造により短距離なら相互通信が可能である。
「村長殿、他言できない話をするので、村の方で待っていてくれないか」
「わかりました」
「3人共、俺は少し離れて見ている」
トールの身体能力及び、インプラント手術により内蔵された戦術支援機構「V.A.T.S.」で対処が可能な距離まで離れる。会話は聞き取れるし話も伝えられるが、直接の介入はしないというポーズだ。
(モモンガさん、我慢できない事があるなら先ず私に)
(わかっています。貴方の顔を立てますし、何より俺も大人ですから)
トールとアインズさんでアイコンタクト。アルベドの嫉妬の炎がメラっと燃えるが、態度には出さない。トールの背筋に悪寒が走る。
「私は傭兵団”始まりの九連星”に所属する、リバーと申します」
「お初にお目にかかる。私は、モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック、アインズとお呼び下さい」
リバーと名乗った男は、アインズさんの言葉を聞くとゴクリと唾を飲んだ。
「アインズさん、ですね。所で、アインズ・ウール・ゴウン、と言いましたか?」
「事前に伝えてる通りだリバーさん。俺としては、あちらでの遺恨は忘れて欲しい。でなければ、彼が動く前に俺自身が対処をしなくちゃならない」
「それは理解しているよ。右も左も分からない中、トールさんには皆、世話になってるからね」
少し複雑そうな表情を見せるリバー。アインズさんも、ギルドの評価の事を理解しているので、目の前の人間種のプレイヤーに対して努めて平静に言葉を紡ぐ。
「既にトールから話は行っていると思ったが、知っているのだな。
私のこの名は、我が大切な友、かけがえない彼らが残してくれたナザリックと子供達、その全てを背負うと決めた証と誓いだ。
…そちらが向こうでどのような立場であったかは知らない。トールとの友誼もある。だが我々を害さんとするなら」
静かで淡々とした言葉。だがリバーから怒気が噴き上がる。いや、怒気というよりは叫びだろうか。
「そんな事をするか!」
「ベルさん!?」
叫んだその声に、トールはリバーの身内名を思わず言ってしまうが、誰も気付いていない。
「ただ一人、ただ一人でギルド拠点を守り続けた貴方だろう!?
幾人かはやり遂げてしまった、飽きてしまった、忙しさに、日々に、仕事に、それぞれの理由で去ってしまった仲間たち。
たまに顔を出す幾人かは居ても、一緒に遊ぶ時間なんてもう無かった!
それでも、いつでも待っていると、あの世界の大変な日々の中、最後の日まで守り続けたのだろう!?
全てを託されて、全てを背負って、心に誓い、守り通したギルド拠点と共にここに在る、そんな貴方とその名を馬鹿になんてする訳無い!」
血を吐くような言葉。アインズは叩きつけられた言葉に呆然とした。すぐさま沈静化されたが。
「…貴様、何を知っている?」
「よせ、アルベド」
ずいと前に出たアルベドを押し止める。
アインズさんとしては、目の前の男は引退組だったのだろうと当たりをつけた。リバーの言葉には罪悪感が滲んでいた。ナザリックを守り通したアインズさんへの称賛とも取れる言葉は、すぐ落ち着かされてしまうとはいえ、心を打った。
「申し訳ない、声を荒げてしまった。何を知っているか、だったね?
来れなくなってしまった日、私があちらで死んだ日、それ以降の事は他の皆から聞いただけだ。
ただ一人、アインズさんが最後の日までナザリックを守り通した事、それだけ」
リバーの顔は感情を押し込めているような、泣き笑い。
「まて、何を言っている!? お前が…いや、貴方が向こうで死んだ日!?」
「そう。死因については他の皆の事もあるから後でね。
ただこれだけは言わせてくれ。
本当にごめん、モモンガさん。そしてありがとう、ユグドラシル最後の日までナザリックを守り通してくれて」
「まさか…、まさか貴方は…!?」
彼は、アインズ、ではなくモモンガと呼んだ。
アインズさんは記憶を呼び起こす。何度もやったオフ会での記憶。リアルで記憶していた顔と比べると、肉付きも健康になり、肌も青白いものから浅黒い感じになっている。
「オフ会の時の顔と比べると、陽焼けしただろ? こっちは日光浴とかし放題だからね」
「ベルリバーさん…ああ、なんてことだ!」
「ふふ、ようこそモモンガさん、異世界へ!」
アインズさんはぺっかぺっか光る。トールは妙な方向へ行きそうな会話の推移を見守っていたが、まさか二人が知り合いと言うか同じギルドメンバー同士であるとは思いもしていなかったので呆然としている。
(…ギルメン、確か異形種オンリーでは?)
(あ、ユグドラシルにはスキルと魔法にも人間種に変身できるのあるんですよ。アイテムなんかもう、結構ポピュラーでして)
あっけらかんとした感じで宣う死の支配者の言葉。
「心配して損したよちくしょうめ!!」
思わず地面に崩折れて、トールは拳を叩きつけた。アインズさんはベルリバーと顔を見合わせて、思わず笑ってしまったのは不可抗力だろう。
だが和やかな空気に変わった二人とは対局に、アルベドは兜を取ると真っ青な顔で二人を見た。武器を起き、跪く。
「べ、ベルリバー様!? なぜ人間の格好なぞ!? いえ、至高の御方のお一人であらせられる、ベルリバー様にかような態度を取った失態、この生命d」
「ストップ、すとーっぷアルベド!! 私が人間の姿だから間違っただけだって!
モモンガさん、まさかNPC達って皆、こんなノリなの!?」
ベルリバーは慌てた様子で尋ねてくる。魔王ロールに戻したアインズさんは、目配せして頷いてから、できる限り優しい声をかけた。
「アルベドよ、ベルリバーさんは咎めてはいない、顔をあげよ」
「は、はい……」
その表情は今にも泣き出しそう。ベルリバーは、今は人間種の顔で悪いけどと前置きしつつ、優しく笑いかける。
「居なくなってしまった私達に代わり、ナザリックを、モモンガさんを支えようと気を張っていたんだよね?
ありがとうアルベド」
「も、勿体ないお言葉…!?
ど、どういたしましょう!? 村に接近する集団に、ナザリックの戦力を監視に差し向けてしまいました!?」
「なんだって!?」
再びペカーと光るアインズさん。光を確認しているのはトールだけだが、其内、他人にもわかるような装置でも取り付けてやろうかと画策している。
「あー、多分大丈夫。人の姿だとLV下がってるけど、職業レベルは元のまんまだから。うちともう片方の集団は問題ない。監視だけなら、今頃ペロロンチーノさん達が手を振って挨拶してるさ」
「それはそれで、八肢刀の暗殺蟲が凹む気がしますが…」
余談だが、ここから少し離れた所では移動しながら索敵していたペロロンチーノが、隠れている八肢の暗殺蟲に手をひらひらさせてにっこり笑いかけていた。
「問題がある集団が、別途近づいていると?」
幾分か真剣味の戻ったアインズさんが問う。
「そうだね。うちと一緒に来るもう片方の王国戦士団は、村襲撃犯の対処の為に急いできたようなものだし、王国戦士団は囮に見事にひっかかった訳だ」
「来ているのはどこだ? 帝国兵では無い事は確認しているが」
トールに問われたベルリバーは、困ったように腕を組む。
「法国さ。竜王国でもみかけていた、陽光聖典の連中だろう。ま、王国戦士団だけだとあれは全滅必至だけど、トールさんも居るし、それにうちが来てるならどうとでもなる」
事前に実力というかLVにおいてトールから聞き及んでいたアインズさん。前衛で壁役のアルベドが前に居るなら、余程特殊な相手でも無い限り、人間種相手に遅れを取ることは皆無だろう。
ベルリバーは信頼の目でギルド長とアルベドを見る。
「ふふ、俺とアルベドですか?」
「そうそう! 最後の大トリでギルド長と伴侶が来たからには、評議国の竜王でも出てこない限りは鎧袖一触だよ!」
評議国の竜王。これも事前に聞いている話だ。始原の魔法を使う最強の竜種。プレイヤー嫌いであろうことは聞いているので、今から準備しておかねばと心を新たにする。
「は、はは、伴侶!? 今、伴侶と仰られましたか!?」
サキュバスが入ってるとリアルに目がハートになるんだなと、トールは少し現実逃避。
「アルベドステーイ、落ち着けー、落ち着けー!?
ちょっとベルリバーさん! 嫌だって訳じゃないけどね!? 話が急でしょ!?」
「え、モモンガさんの好みどストライクで造形したって…あ、それは皆で内緒にしてたんだっけ」
「初耳!?」
ゲーム中では流石に、理想の嫁NPCとかはペロロンチーノの前例もあって追随はできなかったというかしなかった。それに本人に内緒で作り上げたとなれば、迂遠なギルド長いじめともなりかねないのでアルベドが完成して配置したはいいが、皆、この件については黙っていたという。
本人にリサーチして理想の嫁NPC完成!
…でもこれ、彼女なしの相手に教えるとか羞恥プレイとかいじめじゃね?
うちの魔王様の嫁設定というのは維持するけど、流石に黙っておこうか…
という感じである。
「そりゃメンバー全員、言ってないもの。ただNPCが個々の意思を持った以上、あとは本人達の気持ちだけだよ。
やったねモモンガさん、親公認だよ!」
アインズさんが空を見上げると、表情の分かりづらい異形種なのにいい顔してそうなタブラとペロロンチーノがGJサインをしている姿が幻視できた。
(タブラさん、なんでそれでビッチであるとか設定してあったんですか…)
もしも設定改変しなければ、自分の理想の嫁がビッチでほかとも関係持って修羅場待ったなしである。
設定変えも彼の作戦の内とすれば、策士にもほどがあると言えよう。