荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
モモンガさん達が、ネコさま大王国の二人とNPC達を連れ帰った次の日、いつもと同じく地下墳墓前のログハウスで珈琲を啜っていたトールの前に、私怒ってます的な感じで餡ころもっちもちが現れた。
「トールさん、猫ばっかり優遇してずるいです!」
「…別にどっちかを優遇してる訳じゃないんですが」
餡ころもっちもちはリアルにおいて犬を飼っていた。ペットロスで数ヶ月は意気消沈した事もある。この世界に来てから、暫くは我慢していたのだが、ナザリックが現れて以来、事ある毎に第六階層のアウラの配下に居る犬系のモンスターをモフり倒すのが日課である。
「このままでは圧倒的な犬派ギルドだったAOGが、猫派に牛耳られてしまいます!」
「そんなに深刻な話なんですかね?」
救助したモモンガさん達を筆頭に、人懐っこい猫の魅力にやられたギルメン達が「猫、いいかも」と言い始めた事に、餡ころもっちもちだけでなくアウラとその配下のモンスターが危機感を感じているという。
「トールさん、犬要素は無いんですかウェイストランドに!?」
「一応、あるけど…。もふもふ感は無いな」
サイボーグドッグ、ロボットドッグ、あとは放射線とかウィルスで変異した犬とか、普通の犬も希に居るが本当に希である。
「却下」
「聞いといてそれか。お役に立てずすいません、私はこれで…」
スックと席を立つトールに縋り付く餡ころもっちもち。外から見れば、モンスターに捕食されつつある人間の姿である。
「見捨てないで!」
「めんどくさいなおい!?」
再び席についた二人。側の一般メイドに頼んで、珈琲と紅茶を用意してもらう。
「本当に犬でモフモフ要素は無いんですか?」
「あるにはあるが…、今は眠らせていてな。地下の第2実験区で見せよう」
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トールの拠点地下には、いくつかの実験エリアが存在する。多重外殻と隔壁に包まれたそこは、爆発や汚染などの危険性が高い実験をするために用意された。いざという時は実験区ごと滅却、トールがワークショップで格納の上で分解、消滅させる手筈である。
「こんなに広い空間が必要なんです?」
「今呼び出す」
Pip-Boyから拠点内にリンクしているワークショップの格納物リストを呼び出す。そして建築モードに切り替え、目の前の空間に設置。
「久し振り、でもなかったか。すまないなヒュージ、中々出す機会が無くてな。今日からは、住処を用意したから自由にできるぞ」
目の前に現れたのは、シェパードベースの雑種犬である。実験区の周囲を不思議そうに見渡してから、近くにトールをみとめると嬉しそうに尻尾を振った。ぶんぶんと空気を震わす勢いだ。
ヒュージは、目の前の主を「見下ろす」形で、立っている。
「…こ、これ」
「俺の友人の相棒、ドッグミートのクローン…ヒュージミートことヒュージだ」
MODで追加できる要素の一つで、相棒犬のドッグミートとは別に追加できるコンパニオン(同行NPC)だった。色々問題があったため、現地でも出せずにMOD追加の秘密バンカーで過ごさせていて、旅立ちの日に眠らせて連れてきたのだ。
ヒュージの問題は唯一つである。
「おっきすぎない!?」
「だが犬だ」
大きい。四脚で立った状態で5m程度だろうか。アウラのお気に入りの一体、フェンリルのフェンより大きい。犬をそのまま巨大化させると骨格など構造上の耐久度の問題が出るのだが、MODの「でかいドッグミート」をベースにしたこれは、この巨大犬を現実化させる為に色々と効果を発揮していた。
「フェンちゃんよりでかいよ!?」
「少々硬いがもっふもふだぞ?」
「立ったままだと足だけしか抱きつけない!」
「我儘だなー」
「そういう問題じゃないよ!?」
トールの気分的に、動物類やアボミネーションなどの生体はこの世界に殆ど持ち込んでいない。またクローン等も製造は可能でプラントもあるが一度たりとて作業は行っていない。例外はモブグレネードのレイダーだろうか。あれはナザリックに定期的に卸され、有効活用されている。
「ヒュージ、伏せだ」
指示に従い、ヒュージは巨体を床に伏せさせる。
「この人…うん人だ。この人は俺の友人だ。お前と仲良くしたいんだ」
スンスンと匂いを嗅いでいたヒュージは、首を傾げて餡ころもっちもちを見つめる。少々迫力に気圧されていた彼女だが、おずおずと近づいてヒュージの横顔を撫でた。
「し、失礼します…。うわぁ、ちょっと毛が太いけどふさふさだ…」
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その後、ヒュージは嫌がる素振りも無く餡ころもっちもちのモフり倒しになすがままにされていた。背中によじ登ったり、ブォンブォン振られる尻尾にはしゃいだり、途中で人化して一人で大はしゃぎである。
「おーい、餡さん、そろそろ…」
その脇で拠点内の差配をしていたトールは、いつの間にか静かになっていたのに気付き、端末から顔を上げる。ヒュージは嬉しそうに、背で寝る餡ころもっちもちを起こさないよう大人しくしつつ、尻尾を振っている。
「すぴー」
トールは設置していたターミナルを格納、預っているグループ会話の魔道具を起動してモモンガさんに呼び出し発信。
「ああうん、犬要素が足りないって言われて、え、ペストーニャとアウラが凹んでる? そこはそっちでどうにかしてくださいよ、私に言われても困りますってば。
なんだかやまいこさん達の機嫌が悪い? どういう事なの…」
ちなみに、交際の申込みがされる前である。
「…仕方無い。ヒュージ、外に一緒に出るぞ」
ほんの小さな声で返事をするヒュージ。彼はかしこいのです。
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斜行エレベーターを使って外に出たトールは、通用ゲート外で待っていたモモンガさんと幾人かのギルメン達にヒュージを紹介する。餡ころもっちもちはペストーニャ達に任せたが、いつもは落ち着き払った犬頭のメイドが、なんだか嫉妬にまみれた感じで見ているのに苦笑いである。
「そういう訳で、うちの守護獣?のヒュージだ。できれば仲良くして貰いたい」
異形種姿のAOGの面々だが、見上げる大きさのヒュージにポカーンである。
「「「でかい…」」」
「まあおっきいだけで、レベルは多分100相当、攻撃力は俺の素と大差無い。耐久力は10倍高い程度の普通のわんこだよ」
「「「そんな普通のわんこが居るかァ!」」」
巨大なドッグミートを出現させるMODは実際にあります。