荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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幕間 各国の現状 その2

>竜王国

 徐々にかつての勢力圏を取り戻しつつある竜王国。法国から陽光聖典も駆けつけており、初期に築いた防壁まであと一歩という所だろうか。

 

「…陛下」

「…」

「陛下!」

「な、なんじゃ?」

 

 執務室で、例年よりは少なくなった書類を処理するドラウディロン女王と宰相。先日届いた手紙を見てから、女王の様子がおかしいというか、窓の外を見てはため息をつく。

 

「年甲斐もなく恋患いですか? 今は仕事をしてください」

「年甲斐も無いとはなんじゃ年甲斐も無いとは! …今年も来て下さると手紙を戴いたのじゃ、嬉しいではないか」

「はいはい、嗜好の広さをどうにか飲み込んだ女王様、えらいえらい」

「扱いが年々ぞんざいになっておらんか!?」

 

 先日届いた手紙は、始まりの九連星からのものだった。今年も大攻勢にあわせて参陣するとの連絡。当然ながら、女王の想い人であるペロンことペロロンチーノの名もある。

 

「丁重に扱われたければ仕事をしてください。押し返しているとはいえ、犠牲は出ているのですから」

「わかっておる。食料周りはル・シファー商会が保存食を大量に、通常の糧秣をいつも通りか。保存食は民草に有り難く、ビーストマン共には不評みたいじゃのう」

「1つで人間の一食分ですからね。ビーストマンですら5つ食えば、味は兎も角、腹は膨れて、食料調達を人間からという目的が最近変わってきているようです。有り難くない話ですが」

「所でだ、宰相。何か隠している事は無いのかの?」

 

 女王の視線に、宰相は涼しい顔だが一瞬だけ引きつり笑い。

 

「…ペロン殿というか、始まりの九連星に関わる情報です。既に聞き及んでおられるかと思いますが、都市ごと転移してきたという国が、王国と帝国の中間地域に現れました」

「アインズ・ウール・ゴウン魔導皇国じゃな。実際に確認させている最中であるとは聞いたが、王国の国家転覆を画策する連中を鎧袖一触と聞いておる」

 

 光る空飛ぶ船、大量の空飛ぶ魔獣などといったいろいろな荒唐無稽な話もあるが、軍が強すぎて誤認したかもしれないなというのが二人の結論である。

 

「それでですね…、始まりの九連星の方々は、元々は魔導皇国の同列四一皇の一人であり先にこの世界に現れた方々という事です。ペロン殿も必然的に…」

 

 がたんと音を立てて立ち上がるドラウディロン。

 

「朗報ではないか!? 仮にも女王と身分の無い方、そう思って我慢し続けたというに、ペロン殿が同列、あるいは我が国より格が上となれば、交際を打診するのに何の問題もなかろう!」

「…それが大問題だっつーの、わかってんのかこの偽装ロリ」

「偽装ロリゆーな。大問題ってなんだ?」

「女王を輿入れさせるわけにもいきませんし、魔導皇国の傘下に入りますか? ペロン殿を婿養子にして」

 

 女王は唯一無二で、国を新たに背負う後継者は居ない。そもそもビーストマンの定期集団襲撃にさらされている国を、女王に代わって誰が責任者として背負うというのだろうか。特産品も特に無い訳で、こんなババ抜き国を取り込むような他の国はまず居ない。

 

「む、むむう…そこは、どうにかならんか?」

「どうにもならないから言ってんでしょーが!」

「かの国の方針はまだわからんのだろ。隣国となる王国を、直接的な武力で助けたという話もあるのだし、まずは外交よな。使者を選定せねばならん」

 

 関連資料を引っ張り出して言う女王。この辺の判断力は伊達に数百年生きていない。

 

「うっわ、脳が恋愛に茹だってるかと思いきや…。こほん。

 大攻勢の際、ペロン殿達に我が国との外交、交流について会談の席を設けます。ただ百歩譲って我が国を魔導皇国の傘下国にして頂くとして、うちに差し出せるモノってなんも無いんですよ、いやほんと」

「妾がおるではないか!」

「可変型偽装ロリを嫁に出すので、国を守って下さいとでも?」

「可変型とか言うな。…だめかな?」

「駄目なんじゃないですか?」

「…聞くだけ聞いていい?」

「聞くだけならいいでしょう」

 

 意気消沈した女王を見て、宰相は「子種だけでも貰えるよう何か考えますか」という、かなりドライな事を考えている。認知は兎も角、女王に子ができたなら、かのペロン氏の性根からして無下にはしないだろうという考えだ。

 

「さあ、仕事の続きですよ。会談の席まで我慢して下さい」

「わかっとるわい…」

 

 色々と望み薄の想定なのだが、後に行われた非公式会合にて、ペロンことペロロンチーノは、女王から交際を申し込まれた。エロゲバードマンは即決。他のギルメン達は頭を抱えた。

 

-

 

>聖王国

 リ・エスティーゼ王国の南西に位置する半島、そこに存在する人間種国家である。原作においては全土を巻き込んだナザリック・マッチポンプ劇場の舞台となった悲劇の国だ。

 

 東側にアベリオン丘陵があり、ここには多種多様な亜人種が覇権を巡って争っており、その煽りで被害を受けないよう常に警戒している。巨大な城壁を築いて防御を固めているのも、人間種と比べて遥かに強い亜人種達の襲撃を恐れての事だ。建国以来亜人種達の脅威にさらされてきた結果、神殿勢力と結んでの国家運営はかなり宗教色が強く、代々の王は聖王と呼ばれている。

 

 歴代の聖王は男子が継承してきたが、当代の聖王カルカ・ベサーレスは女性である。前聖王と神殿の後押しで、初の女性聖王として即位した。

 

 それまでの男子継承の伝統を崩した結果、北部は兎も角として湾を挟んだ南部貴族からは反発が強く、あまり強い態度の取れないカルカ聖女王の姿勢もあって、国民の間には不満が燻っている。

 

-

 

 首都ホバンス、そこにある神殿の政務室の中、聖女王カルカ・ベサーレスは王国方面から齎された報告書を見終えると、眉間にシワを寄せた。すぐに指先で解すものの、頭痛を抑えるポーズである。

 

「ねえ、ケラルト」

「外交使節団の算段は整えています。後は誰を代表にするか、ですけど」

 

 目的を言うまでもなく察してくれる友人。ちょっと察しが良すぎて怖い。

 

「レメディオスは駄目よね」

「駄目ですね、いやむしろ無礼討ちされるのが温情です。下手したら空飛ぶ船が国を焼き払いに来る可能性があります」

 

 二人揃って深い溜息である。

 先頃齎されたのは、王国で起きた争乱の顛末である。王国は他の世界から現れたというアインズ・ウール・ゴウン魔導皇国と国交を結び、以前とは比べ物にならない安定した統治が進んでいるという。

 そして、二人が頭を悩ませているのが魔導皇国の扱いだ。聞けば、魔導皇国皇帝アインズは、法国で死の神と崇められているスルシャーナと同格かそれ以上の存在であり、アンデッドを超えた死の支配者であるという。どこで流れた情報かは再度調査中だが、真実と概ね同一であろうと言われている。

 意図的に流された情報は、以前AOG内で策定されたアインズ・ウール・ゴウン魔導皇国伝説(仮)そのままである。

 

「…実際の所、人の姿も持っていて、とても理知的で穏やかな方であると報告は受けています。自国と周囲が穏やかであれ、と積極的な介入はあまりしたがらないようですね。王国は騒がしすぎて例外だったのでしょうけど」

「あの国は貴族が最悪だったもの…。まあ、あの麻薬の量が激減したから、王国が変わったのは真実でしょうね」

 

 かつての王国で犯罪組織に生産されていたライラの粉末は、周辺諸国へ密輸され、少なくない被害が出ていた。特に前線では問題になっており、厳罰を持ってあたっていたが途切れること無く密輸ルートが形成されており、頭の痛い問題だった。

 

「外交使節団には、王兄であるカスポンド様に代表をお願いし、パベルを護衛に付けましょう」

「兄様なら適任ね。護衛は何故?」

「あんの脳筋のどちらかに、外交使節団のまともな護衛が務まるとでもお思いで?」

「ごめんなさい」

 

 脳筋のどちらか、というのは聖騎士団団長のレメディオス・カストディオと聖王国九色の一人オルランド・カンパーノである。

 どちらも基本、脳筋である。片や頭がアダマンタイト、片や命令違反の常連と、前線で戦って貰うのは兎も角、場合によっては揚げ足取りに終始して腹の探り合いになる外交という言葉の上での戦場において、二人は落第である。

 

「私は魔法の関係上、あまり良い印象を持たれない可能性がありますから今回は保留です。次回以降がもしあるなら、向かいたい所ですが」

「珍しいわね、貴女が敵でもない相手に興味を示すなんて」

「…かの国では、全ての命が公平であるとされています。人間も亜人もあの国では、死の前に同じだそうです。いつもなら戯言と一蹴するのが私ですが、もし本当なら見てみたいのです、争いの先に至ったという国を」

 

 もしかしたら、誰も泣かない国を作り上げているのかもしれないと、長年の友人は言っているのだ。カルカは自身の願いを汲む友人に、心の中で感謝を告げた。

 

 その後、編成された外交使節団は聖王国を出発。丁度、魔導皇国の首都ナザリックに到着したのが、帝国から来たジルクニフ皇帝が現れてすぐのタイミングだった。その時起きた出来事についてはまた、後に語る事とする。

 

-

 

>評議国

 なんだか短い間隔で定期的に王国へ鎧を派遣し続けるので、食堂で時折出会うモモンガさんに、

 

「食事は必要ないとの事だが、余程、私の友人の料理を気に入ってくれたようだな。それとも実際は食いしん坊なのかね?」

 

 などと言われ、食いしん坊ではないと頑なに主張するツアー。

 

「…ここの料理はね、ずるいんだよ。持ち帰って食べて、交代で派遣した鎧がまた見た事がない料理を持ってくるんだ、どれだけレパートリーがあるのさ」

 

 食いしん坊では決して無いんだぞ、と繰り返し主張するツアーの分身。食堂としては事前に告知して貰っているなら問題無く、魔法の袋に入るだけ用意をしている。店主のカワサキは色々とジャンルを替えて料理を山程作るのが楽しくて仕方ないと笑っている。

 

-

 

 さて、住処の中、世界各所へ鎧の制御を並行して続けながら、ツアーは様々な情報を並行して得ている。

 

「法国は、かの神人の子とやらの護送か。アインズとの約束もあるから、今は手を出さないでやろう」

 

 忌々しいことこの上ないが、あの心穏やかな死の支配者が受け入れるのだ。こういう時に癇癪を起こすのは竜王として宜しくない。

 

「エルフの国はどうしたものか。法国からの攻勢が下火になったからと、今度は他の国境まで手を伸ばし始めたのか…」

 

 場合によってはきつい仕置も辞さない。あの国の王は、強い次世代を孕ませる事に躍起になっており、法国のあれの存在がエルフ王の耳に入ったならとても看過できない事態が起こるだろう。

 

「法国からも連絡があるだろうけど、後で私も警告を出しておこうか」

 

 竜の姿で伸びをする。座っているだけだと体が鈍る気がする。人型の鎧を動かしているせいだろうか。最近は余計にそう思う。

 

-

 

 後に、方方を旅して再度ツアーの所に来たリグリット曰く。

 

「なあツアーよ、お前さん、少し太ったかい?」

「!?」

 

 


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