荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
想定外の邂逅の末、客人達の案内を終え、夕日が赤く周囲を照らし出した頃にモモンガさん達一行は自由都市の門に向かっていた。
「地上に出る幽霊船とか、ポップ条件間違って無いかな?」
「普通に地上走ってましたねあれ…」
「生体にはなるべく近づかず、アンデッドのみターゲットにすればまあ、やばそうなのはポップし辛いんではないかと」
ネコさま大王国跡地から出た直後に目の前で遭遇した幽霊船をモモンガさんはスキルで支配下に置いた。
それ自体がアンデッドの1個体扱いだった為、命令として跡地の周辺で一定以上のアンデッドが出たら掃討する事を命じてある。人へは防衛戦闘のみで撤退を優先だ。幽霊船自体の影響である程度の強さのアンデッドは出るだろうが、悪化する前に叩く事で、平野の安全度をなんとか確保させる目論見である。
「すいません、俺達だけ後衛で…」
「構いませんよ。降りて一撃ですからね」
「急いで周ったからやたら疲れた」
カッツェ平野に居た、この世界の水準で強そうなアンデッドは<飛行>を使った上で、アイボットの情報網で捕捉し、一部を除いて掃討済みである。
3人共、首にかけた<飛行>のネックレスを仕舞うと、薄霧が明けた場所に出る。自由都市の門の前だ。
「お、お疲れさまです!」
「ご苦労さまです。お仕事、頑張って下さい」
鯱張った衛兵たちに気さくにベルリバーが話しかけ、モモンガさんとペロロンチーノも緊張一つなく軽く会釈をして通り過ぎる。
「…すげぇ、何事もなかったかのように戻ってきたぞ」
「掃討に出てた帝国の部隊の伝令が緊急要件を告げて、例の砦から増援が向かったら、無事に戻ってきた部隊と鉢合わせだっけ」
「冒険者たちやワーカーが何チームも、危うい所だったのを遠距離で援護してくれたらしいぜ。しかも、何も要求せず素通りだ」
尊敬の眼差しで見送られる三人だが、実のところは異形種の姿の影響で強力なアンデッドが出始めたのを慌てて対処しただけなので、気まずい感じである。
(マッチポンプみたいで気が引ける…)
(古のアニメで言っていました、バレなきゃ犯罪じゃないんです!)
羨望の眼差し、途中で感謝の声などを背中に受けながら、そそくさと宿に戻ってきた。高級宿だし一度位は食べておこうかと軽い料理を頼む。まあ現地基準としてはそれなりだったので、良しとした。昨夜は戻れなかったので今日は寝る前にナザリックに戻る予定である。
「そういえば、トールさんが粗食にも慣れておけ、とか言ってましたね」
「たまに、ほんのたまに一口でいいからリアル基準の栄養食、訓練がてら口にしておく位で勘弁してもらいましょう」
「あの人の基準での粗食は、リアル基準よりやばいです…」
「そんなに!?」
ウェイストランドで放射能汚染された水や食料はざらというか、汚染されていない食料が希で、アビリティにマイナス影響とかもよくある話であった。いくら万能の除去薬であるRAD AWAYがあったとて、そんな環境でよく生き延びて来たなと戦慄するモモンガさんである。
「意外とイケたのが、リスの串焼きだそうです」
「丸ごと!? こないだのドッグフードもアレでしたけど!?」
「そりゃぁ、こっち来て食の改良に躍起になるよなぁ」
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最近のトールは、色々な酒の製造研究に加え、リアルでも割高な贅沢品だったスナック菓子(当然合成食)を、トールの生きていた時代の物を中心に再現する研究を行っている。材料は自然食材だ。酒飲み勢が意外にも飛びつき、ああでもないこうでもないと日々試食をしては、様々な菓子類が出来上がっている。パッケージまで凝っているので、近く、音改が地下墳墓内にお菓子用の売店を用意するらしい。
「甘味は兎も角、こういう系統は俺も専門外だわ。これ面白いな!」
「パティシエも専門外ですねこういうの。あ、これ好き」
「流石21世紀前半の出身です。こんなに豊かだったのか。止められん!」
「こういうのを普通に子供の小遣いで食えたのか、すごいな。食感が面白いぞこっち」
「今度は、駄菓子も開発ラインナップに入れるからな…!」
「トールさんが泣きながらお菓子盛り合わせを差し出して来たでござる」
女性陣は主に、ナザリックのパティシエ謹製のスイーツを堪能しているので気にしていない素振りだが、この間、ペロロンチーノは姉が人化した姿でTVを見ながら、横腹をかきつつ醤油煎餅をバリバリ食う姿を目撃している。
閑話休題。
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話は戻って、自由都市の宿の中、男衆による雑談は続く。
「そういや、ベルリバーさんはこっちに来て浮いた話ないよね」
「なんですかペロさん、藪から棒に。シャルティアが居る余裕ですか? 泣きますよ?」
「ああいや、そういう訳じゃなくて。俺ら人化もしてて、欲もあるじゃないすか、トールさんの拠点の…」
「使ってます。フリーとしても関わりの薄いNPCを手籠めにするわけにも行きませんから。
欲だけの発散とか考えると、娼婦とか買うのも面倒になっちゃいまして、必然的に」
「ああー」
「何の話なんです?」
一人だけ仲間外れなモモンガさんに、ペロロンチーノは仮想現実体感装置トランキルレーンの話をした。
「成程、リアルでのVR機器より高性能な装置ですか」
制限も多いナノマシンインターフェースも無しに、催眠状態で脳とやり取りする機能とかリアルより凄いんではなかろうかと驚く。
「すごいのよー、今は制限かけてるみたいだけどね」
「「「!?」」」
いつの間にか来ていたのは、人化して黒中心のビジュアル系ゴシックロリータ服を着こなすスーラータンだった。男衆の目が向いた所で、くるっと廻って「キラっ☆」みたいなポーズ。モモンガさん達はチベットスナギツネ顔になった。
「どうしたんです、スーラータンさん。今日は全員ナザリックに戻る予定なんですけど」
「知ってるわよん。モモンガさんに、私の隠し事を伝えておこうかと思って。他の男性陣はみんな知ってるから」
「隠し事、ですか?」
横でペロロンチーノとベルリバーが黄昏れた感じになっている。どうやら内容をご存知らしいが、モモンガさんは心当たりが無く「???」と疑問符を浮かべている。
「わたしね、制限かける前のトランキルレーンでTSして楽しんでたの」
いきなりぶっこんでくるスーラータン。
「日頃、女の子になりたいと言ってましたからね…」
「そしたらある日、人化の性別が女の子になれたの!」
「えっ」
沈黙が降りる。
モモンガさんがペロロンチーノを見る。目を逸らす。モモンガさんがベルリバーを見る。諦観した顔で天井を見上げる。スーラータンを見る。人差し指を頬にあてて「ん?」という感じで首を傾げた。悔しいけど可愛い。
「大問題でしょうそれ!?」
悲鳴じみた声を上げるモモンガさん。
「いいえ? 私にとっては夢だったのよね。アパレルで働いてたのも可愛い服が好きだったから。
リアルでは手術とかも膨大なお金がかかるし、外見だけ変われて前でえっちとかできても孕んだりできないし」
後ろは?というツッコミは辛うじて思いとどまった。
「孕んだりとかいうなし」
「重要よ? お眼鏡に適うお相手はまだ居ないけどね」
ギルメン達にもシモベ達にも手は出していないし出さないから、と付け加える。
「まあトランキルレーンの制限は、この事もあってトールさん基準のフルダイブは封印されたんですよ。あとTSは原則禁止されました」
制限モードでも十分楽しめますけどね、とペロロンチーノ。
「…危険な技術ですね。というか予想外でしょうねトールさんも」
「人化の姿はゲーム内で作成したものか、リアルの姿がベースになってますけど、精神に引っ張られてまるっと性別が変わるとかは、スーラータンさんの例だけです。ただ効果付き食事で魔力が溜まりすぎて、ぷにる事はありますが」
「魔力でぷにるのは…いや、うん、事例を見てるからよくわかる」
((茶釜さん、ぷにったのか…))
ナザリックのリゾートスパで「えっくち!?」とくしゃみするぶくぶく茶釜さんである。
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話は戻って、スーラータンの話だ。彼というか今や彼女は、ナザリック内でも偽装異形種化をしている。所々が破損して異空間が覗く等身大のアンティーク人形の姿であり、衣装の趣味はリアルのそれに近かった。
真実を知るペロロンチーノとシャルティアの所に度々赴き、夜の生活邪魔しない時間帯で、ゴス系の色々な衣装について盛り上がったりしている。
「怒らないでねモモンガさん、彼ったら最初、慌てて元に戻そうとしたんだから。折角夢が叶ったのに」
トールの前でくるっと周ってカーテシーを決めたと聞いているペロロンチーノは、その時のトールの心境を聞いていたので苦笑い。
「所でスーラータンさん、たまにスーラーたんって呼んでいいすか?」
「いいわよぉ」
「今確認する事なのそれ!?」
「スーラータンさんがいいなら、俺はもう咎めたりはしませんが…」
のんびりしてたら特大の爆弾発言である。幸い、本人はオネェ口調なので違和感はゼロであった。ただ、この件を知らない女性陣に明かすには色々問題もある。
「スパリゾートナザリックとかどうするんです?」
「残念だけど、女性陣も心の抵抗あるだろうし、元男だから男湯もNGだから、いつもは転移門でトールさんの所にある大型リゾートスパでのんびりしてるわよ」
スーラータンは知っている。女性の体で男湯に入ったとしたら、スパリゾートナザリックの階層守護者であるゴーレムが恐らくは動き出すだろう事を。
尚、スーラータンは制作系と便利系ビルドであり、転移門などを使えるものの戦闘能力としてはギルメン内で下から数えた方が早い。
「え、私それ知らない。いつの間に?」
「スパリゾートナザリックに何度か案内した時、思いついて拠点内に作ったらしいわよ。ノリで」
「ノリで」
「今のお客はたっちさんの所の奥さんと娘さんとわたしだけだから、貸し切り状態なのよね。ネコさまの所の子達も加わるかもしれないけど」
モデルは、かつて日本にあったスパリゾートハワイ○ンズと、ゲームに出てくるわくわく○ぶーんで、それらを合体させて統合スパリゾート化した物である。拠点内中層の上下3フロアをぶち抜いて作られたジオフロント型だ。防水の関係上、主に従事しているのはイマジナリ・ニューと同型機のメイドロボ隊である。
(後でアルベドと一緒に行ってみよう。水着とかどうしようかな…)
そんな事を考えるモモンガさんである。人化しているのに表情が変わらないのは営業職での苦労の賜物だろうか。
「あ、モモンガさん、今アルベドの事考えてえっちな顔してた」
「!?」
「図星かー」
先程の思案中ですよみたいなポーカーフェイスから一転、手をわたわたとするモモンガさん。ベルリバーは「なんかパンドラっぽい動きだ」と思ったが口には出さなかった。
「…引っかかりましたね見事に。元男性だけに、我々の機微は筒抜けですか」
「お願いですから、守護者達の間では…!」
「大丈夫よ、そこはギルマスを立てるわ。ま、こういう時位はバカ話とかしましょ」
「んもー…」
その後は雑談に移り、最近の件で話題が無くなった所でナザリックへ戻った。モモンガさんはいつもと同じく風呂でのんびりした後に、自室に入る。
「モモンガ様…」
「ど、どうしたのだアルベド!?」
縋り付いてきて顔を上げたアルベドの目に涙が浮かんでいる。
「モモンガ様から、別の「女の」匂いがします…!」
「…」
気まずい。というか匂いで女かわかるとかちょっと怖い。
確かにスーラータンはローズの香水を使っていたが、女性特有の匂いとかはよくわからない。
モモンガさんは、今の所は秘密だがと前置きした上で、スーラータンが人化した際、女性に変化したと告げた。
「お前に言えないような事は何もしていないよアルベド。スーラータンさんも、お相手としてはナザリック内の者を見ていないと言っていた」
それに、俺はお前一筋なんだから、と言おうとして口を口吻で塞がれ、そのままベッドに倒れ込んだ。なんだかその日だけは、ナザリック転移直後のアルベドが戻ってきた感じである。当然のごとく貪られたが、心配かけたのもあってなすがままにされていたモモンガさんであったという。一応、後半は大いに反撃した。
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夜が明けて、モモンガさんが再び帝国に向かう準備をしに自由都市に転移した後、モモンガさんの自室にスーラータンが訪ねてきた。目的はアルベドである。
「…ふふ、偶には思いっきりしたいからって、知ってて知らないふりとか悪い子ね。でも妬けちゃうわよねぇ、好きな人が居る余裕ってば」
「理由に使ってしまった事は謝罪いたします。
所でスーラータン様、本当に誰もお考えになっていないのですか?」
「今の所は、よ。
お相手いる人には悪いし、略奪愛とかあまり好きじゃないし。あーあ、フリーのいいオトコ、どこかに居ないかしらね?」
アルベドはベッドから身を起こして、顎に指をあてて考える。尚、ベッドは結構大変な状態である。一般メイドが掃除するだろうが、毎度の事ながら片付けが大変であろう事は想像に難くない。
「リアルでの慣習、こちらでは無意味ではございませんか?」
「…成程」
ぺろりと舌なめずりするスーラータン。
その時、拠点で作業をしていたトールの背筋に寒気が走ったという。
やまいこさん親子を蔑ろにはしませんのでご安心下さい。ただ、説得された上で3番目でいいと言われると断れませんが(震え声)。
尚、Fallout4では夫婦のどちらかが主人公なのですが、コンパニオン(同行NPC)とロマンスがあります。同性でも可能です。
スーラータンの人化イメージは、もやし○んの結○蛍です。衣装は作中のゴスにスリット入りスカートでちょっと長め。スリットは深め。男性としては背は低いですが、それでも160cm超えに厚底ブーツも含めて背が高い感じに。
「覗いた太腿の白さにドキっとしたでござる」
「今は問題無いっ! …無いよな?」
「なんか、元男子のスーラータンさんに女子らしさで負けてる気がする」
「実際負けてるぞねーちゃん」
「ゴルァ愚弟!」「そういう所だぞ」「ぐぬぬ…」