荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
土埃が近づいてくる。なだらかな丘を越え、馬に乗る1つの集団が姿を表した。アインズさんは彼らの顔を確認するなり、ぺかーぺかーと精神沈静化を繰り返している。
お互いの顔が確認できる距離。全員が馬を降りた。
たっち・みー
ウルベルト・アレイン・オードル
死獣天朱雀
タブラ・スマラグディナ
弐式炎雷
ぶくぶく茶釜
ペロロンチーノ
武人建御雷
ぷにっと萌え
フラットフット
ベルリバー
ヘロヘロ
やまいこ
全員では無い。だけど確かに、仲間達のリアルでの姿だ。
ベルリバー曰く、全員では無いが近くの大きな都市では、拠点代わりの商店を持っている仲間も居て、そちらに残りの面子が居ると伝えてきた。
お互いの間にあるのは沈黙。
かける言葉が見つからないのだろうか。アインズさんは、仮面の下で白磁の顎を半ば空けては閉じるのを繰り返す。
(ほら、アインズさん、何か言ってあげないと)
(俺、何を、何から、話せばいいのか…)
外野なので遠慮していたが一向に何もできないでいるアインズさんを促すトール。口の前をガントレットに包まれた手で覆い、喋ろうと悩むアインズさんの姿に何か感じたか意を決したか、かつてのメンバーたちは一斉に口を開いた。
「「「「なんで嫉妬マスクスペシャルバージョンなんですか?」」」
「開口一番それかよっ!?」
ツッコミで悲鳴じみた声をあげてしまったのは、半ば不可抗力だろう。
メンバーたちに囲まれる中、アインズさんは顔を両手で覆っている。
「顔を隠せる装備がこれだけだったんです! そんな目で見ないで下さい…」
ギルメン全員が「あー」と言った感じで納得している。トールはマスクの由来を知らない為、首を傾げた。
「あのマスク、どんな謂れが?」
「クリスマス期間中にログインしてたら貰えます。あれは10年連続で貰うとプレゼントされます」
「OK、把握した」
物凄く居た堪れない顔で天を仰ぐ。アインズさんはまたぺかーっと光った。
クリスマスイブからクリスマスにかけてログインしていると強制的にプレゼントされた嫉妬マスク。
そのスペシャルバージョンとは、嫉妬マスク実装後以降、10年連続で嫉妬マスクをゲットしたユーザーへの記念品という名の呪いのアイテムである。
アイテム情報すらあまり掲載しない公式サイト上において、これだけは季節が過ぎても情報が掲載され続けていた為、その認知度だけは高かった。
尚、その次の年におけるクリスマス期間は、カップルでのログインユーザーへの嫉妬に溢れた、嫉妬マスクユーザーの集団が人間種・異形種で連合を組んだ、とても凄惨なイベント期間に成り果てた。
閑話休題。
「モモンガさんのロールと装備構成で顔を隠すなんて、勿体ないですものね」
「俺、再会して最初何話そうか緊張して損した! てかアルベド、現実で見るとすげぇ美人!」
「黙れ愚弟。…モモちゃんお久しぶり」
「隣はアルベドだよね?」
「ああ。あの意匠の鎧は間違いない。最後までモモンガさんの側で支え、添い遂げる者として作り上げたが…」
「あれ持たせてみたって言ってましたよね?」
「ふむ、今も持っていたりするのかな」
「来れなくてほんとごめんなさい、あの日だけは外せない事情がありまして」
「病気で入院していたから、もう会えないかと思っていたよ」
「あんな形で落ちてしまいました、本当にすいませんでした!」
「奇跡ってあるもんなんだな…」
「俺ら、向こうでぶっ殺されたもんなー」
「現実化するとすげぇ迫力あるなぁ、流石非公式魔王!我らがギルド長!」
わちゃわちゃごちゃごちゃ、皆が好き勝手にテンションを上げてわいわいがやがや。
アルベドは、普通なら人間種相手には虫けらのような気持ちしか抱けない筈なのに、目の前で好き勝手に騒ぐ面々からは、心の奥底から不思議な感覚が湧き上がる。
モモンガ、ナザリックに最後まで残ってくれた最愛の方。それとは異なるものの、自分が仕えるべき相手の、そう、至高なる御方がたの気配だ。ベルリバーと同じく、人間種の姿になっているのだ。
アインズさんは驚きと嬉しさで、ぺっかぺっか連続して光っていた。
トールはもう、ツッコミも忘れて「拡張現実でPip-Boy装備者には沈静化が判るアイコン表示させてみようかな」と遠い目。他の面子には見えていない事から、トールは自身の出自か装備、あるいはParkが関係しているのだろうなと、目の前のカオスを遠い目で見ながら、ある意味見ないふりである。
もしかしたら、アインズさんの敵対勢力だったかもしれないと、色々と準備をして事前に申し合わせたりして、最悪の事態を回避しようと沢山の用意をしてきたのだが、実は彼らがアインズさんのギルドのメンバーで、しかも異形種の姿を持ってるとかサプライズに程が在る。
隠し事があった点については思う所が無いと言えば嘘になるが、そも、人類の生存圏はこの世界では狭いことが判っている。人間種だけの王国や周辺国において活動するに辺り、異形種では都合が悪い事は重々承知だ。責める訳にはいかない。
ただ、準備やら気を揉んだ事とか、そんな諸々が一緒くたに台無しになった事は、少なからずトールに遠い目をさせるに十分だった。
「こんなわちゃわちゃしてたら、モモンガさんも答えられないだろ。ほれ団長様、代表して挨拶だ」
ウルベルトがたっち・みーを指名。ぶっきらぼうな物言いだが、彼も再会に心を動かされているのが恥ずかしいのか、被っている帽子を深めにかぶり直す。
「暫定の団長だがな」
「俺は副官か参謀あたりがいーんだよ」
MMOでのあの喧嘩ごしの態度が嘘のように、比較的穏やかな二人。
「お久しぶり、そして、あの日は本当に申し訳なかった」
「たっちさん、なんですね? 隣は、ウルベルトさん…」
最後のオフ会をしたのは、ユグドラシル終了の3年前だ。それに人間種の姿になっている面々は、あのリアルでの青白い不健康そうな顔ではなく、陽焼けした健康そのものの表情である。
確かめるように言うアインズさんに、無言で首肯する。
「情報交換も含め、細かい推察は後で伝えよう。端的に言えば、引退してもアカウントを残していた面子で、リアルでは死亡した面子だけが、ここに居る」
ベルリバーとウルベルトが前に出た。
「私と」「俺は」
「「ぶっ殺されたからアカウント残ってたからな!」」
笑うに笑えない。ペロロンチーノが「あちゃぁ」と言った感じで天を仰ぐ。
「そこの二人、コメントに困るネタをまた使うようなら、ぶん殴るよ」
「「すいませんでした!」」
やまいこがガチンとガントレットを鳴らすと気をつけの姿勢になった。ダメージは少ないが、簡単に空を跳ぶ羽目になる事はトールも知っている。ギルメンの中で、こちらに来ても一度も飛ばされた事の無い男性メンバーは居ない。かの教授ですら、こちらでの研究で根を詰めすぎて空を舞った経験があるのはご愛嬌か。
「ただ一人でも、再会できればと思っていました。
本当に、本当に、皆さん、再び逢えて、俺、嬉しいです…!」
魔王ロールも忘れ、本来のほわほわ声で感極まった声でつぶやくアインズさんだった。
(な、なんでしょう、支配者としてではないアインズ様のお声を聞くと、胸の奥がキュンと…)
設定中にモモンガを愛していると書き換えられたアルベドは、サキュバス的な下腹部ではない部分に起きた胸の高まりと言うか切なさに一人戸惑っていた。
アインズさんを片思い中の乙女のごとく見つめるその姿に、ぶくぶく茶釜とやまいこは、キュピーンと目を光らせた。
(悪寒!?)
「あのトールさん、もしもの場合って介入してきました?」
「全面戦争だった場合に備えて、拠点内のロボット兵団に緊急展開ブースターを取り付けてた。まあ無駄になって幸い」
「拠点開発とか交渉メインだと聞いてましたが、トールさんの所の戦力って聞いていいですか?」
「Mrガッツィー、プロテクトロン、セントリーボット、セキュリトロン、アサルトロンが各512体、小型リバティ・プライム4体、リバティ・プライム1体?」
「核融合電池搭載のロボット兵団をその数とか、世界を火の海に包むつもりですか!? ブルー・プラネットさんにぶん殴られますよ!?」
「ベルリバーさん、数はすごい事はわかるんですが、トールさんの所のロボットって強いんです?」
「洒落になってません。全戦力がLV100相当と言えば、伝わりますかね? 特にリバティ・プライムが瀕死攻撃持ちでやばい。弱体化してるそうですが、元のままだと即死攻撃だそうです。あとHPが120LVクラスのレイドボスより高いです。ガルガンチュアと殴り合いできる位でかいです」
「喧嘩両成敗で膝砕きと峰打ち効果の装備満載で出撃させる予定でした。やられる事前提で、全滅してからの戦力回復に一週間位、生産にかかりきりになりますが」
「ふ、増やせるんですか? てか一週間で全部再生産できるんですか!?」
「ロボットですもの。素材さえあれば生産できます。壊れたりジャンクになったら回収します。一度作ると素材に戻すにも一苦労ではありますけど」
「せ、世界征服とか考えないので?」
「めどい」
「左様で」