荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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なんでこんな話を思いついて書いちゃったんだ俺。

追記:
 感想でツッコミ貰ったので後付設定。
 現地に暮らして久しい悪戯好きのゴーレムマスターが、現地人の反応を事前調査してない訳が無いという事で、強さを誤魔化す隠蔽効果が付与されてるという事でここは一つ。


閑話 墳墓の遊び人とゴーレム捕獲依頼

 その日、エ・ランテルの冒険者に持ち込まれた仕事は、逃げた試作小型ゴーレムの捕獲というものだった。依頼者はル・シファー商会。作業用のゴーレム派遣も商材とする、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの大手商会である。

 

 報奨金は高いわけではないが低くもない。ただ他の依頼と違ったのは、定員が定められており、参加だけでも1日は三食分を払える破格の待遇だ。目標のゴーレムの捕獲に至っては、一ヶ月は慎ましくあれど暮らせる程度は稼げる。

 建築や補修といった日雇の仕事が落ち着き、護衛や討伐などの仕事にあぶれた冒険者が小遣い稼ぎと集まった。

 

「小遣い稼ぎとしてはいいよな」

「一晩の酒代にはなりそうだ」

「なんだよお前もかよ」

 

 定員に一人足りない程度まで人数が集まり、ギルド職員が台の上に立って依頼の紙を持っている。

 

「はい、集まりましたね。締め切ります。参加者にはこの依頼書兼人相書きというかゴーレム書き?の手配書をお渡しします。参加証明にもなるので、夕刻まで捕獲できない場合はこれと引き換えに本日の参加費をお渡ししますが、無くさないように」

 

 手配書が渡される。妙に緻密な画が描かれており、そこに捕獲対象の…。

 

「ゴーレ…ゴーレム?」

「何これ?」

「ゴーレムというか、妙なニワトリ?」

「なあ、これ何て呼ばれてるんだ?」

「確か…、ラバーチキン・ゴーレム、だそうです」

 

 ラバーチキン。かつてアメリカ等で定番のパーティジョークグッズだった、トゥーン化したニワトリを吊るし〆たような格好のゴムの玩具である。日本ではびっくりチキン等と呼ばれていた。

 それが、画に描かれていた。目が飛び出た間抜け面、ぽかんと口を開いた状態で正面を見てるのか見てないのか、そんな顔をした玩具の姿が描かれていた。

 

「なんかこう面白い顔してやがんな」

「眼の前で見たら笑いそう」

「目が合ったら笑う自信あるわ私」

「てか絵の時点で既に面白いんだが」

「えーと皆さん、捕獲にあたって注意事項があります。これを発見したとき、決して笑ってはいけないそうです」

 

 冒険者達に困惑が広がる。

 

「笑ってはいけないって…我慢すればいいのか?」

「条件としては、吹き出したりしない限りは人間に近づいてくるそうです。吹き出させた時点で逃走するとか」

 

 行動パターンとしては、人間か同種のゴーレムに反応して移動する。また人間の視界に入っていない状態で移動、いつの間にか近づいていて、目線が合った所で「鳴く」らしい。

 また複数体が集まると、複雑な音程で曲を歌うというか奏でるとか、謎の生態というか機能を備えている。

 どちらの場合も、近くで誰かが吹き出した時点で逃走するらしい。

 

「「「なんでんなもん作ったんだよ!」」」

 

 冒険者たちの総ツッコミ。彼らは知る由もないが、十中八九、悪戯目的で作られたゴーレムである。犯人は無論、るし☆ふぁーである。

 

「さあ…。とりあえず、総数としては十体、頑丈なので攻撃は効かないという事で、網などの捕獲具などで捕まえる事が推奨されます」

「お、複数捕まえたら?」

「増えますね」

 

 やる気が削がれ気味だった冒険者たちに喜色が広がる。参加費に加えて一体ごとに報奨金というのは、危険度が低いことも含めて見た目は美味しい話である。

 

「まじか!」

「よぉっし、気合入った。行くぞ野郎共!」

「「「おおう!」」」

「頑張って下さいねー」

 

 ひらひらと手を振って見送るギルド職員。

 

「…暇そうだったからいいけど、忙しいときに発注してたら顰蹙ものだぞこれ」

 

 ギルドの建物内、テーブル席に居る二人。目の前で変装している、るし☆ふぁーに言うのはトールだ。ナザリックが各々のエンジョイモードに入っている為、首都ナザリックの整備以外は基本的に継続研究ばかりで暇だったのである。

 

「彼らは派手にお金使うから、手元に金が無いというのは余り宜しくない状況なんだよ。釣られて伸びる消費ってのもあるからな」

「それでも雀の涙だろ、エ・ランテルでの経済規模にしたら。本音の所は?」

「おもしろ動画が撮りたかった!」

 

 いっそ清々しいまでの発言である。

 

「それが本音か…。頼まれた通り、アイボット撮影班をステルスで配置してある」

 

 実の所、前世ではラバーチキン関連の動画に爆笑して日々の疲れを癒やしていたトールとしては、自立連動追尾型ラバーチキンゴーレムが起こす騒動を少し楽しみにしていたりする。

 

「面白い画が撮れるといいな!」

 

 るし☆ふぁーはウキウキ気分で結果を待った。

 

-

 

>冒険者Aさんの場合

 

 色は黄色、細長い。手配書には全面の面白い顔とは別に、後ろ頭と全体図が描かれている。どこを足としているか不明だが、直立状態で動くと記載されている。

 

「さて、俺の酒代はどこに居るかなっと」

 

 傾向として、一人で居る人間に近付くらしい。他にも同じく、人気の無さそうな路地などを見回る冒険者の姿がある。

 エ・ランテルの治安は良い方と言い切れないが、決して悪いものではない。かの元第一王子達反乱軍が討たれてより、八本指は完全に姿を消し、大きめの犯罪組織なども軒並み壊滅。互いを牽制し合う中小のチンピラが居る程度だ。駆け出しでは厳しいが、鉄級に上がるような冒険者たちの敵ではない。

 犯罪組織の壊滅にはかの魔導皇国の方々が力を貸したとの噂で、さらにあの食堂の用心棒の皆さんが居るエ・ランテルはとても安全な都市といえる。

 

 それはさておき、今の目標はゴーレムだ。路地裏は一人で行くには少々厄介だったが、今のエ・ランテルでは注意深くしていれば問題ない。

 

「お?」

 

 路上に置かれた木箱の上に、細長い黄色が居た。背中…多分、背中を向けている。実物を見たのは初めてだが、想像以上に間抜けな姿である。

 

「くっ、笑うな…」

 

 そう自分に言い聞かせながら、ゆっくりと近付く。ゴーレムは動いていない。

 

「そのままだ、そのまま…」

 

 細長い背中に両手を伸ばす。まだゴーレムは動かない。

 

「そう、いい子だ…」

 

 手が届く範囲。捕まえようと狭めた所で、ゴーレムがこちらを向いた。

 

「ぶぐっ…!」

 

 ぽかんと口を開けた間抜け面。正面を見ているようでいて、どこも見ていない飛び出した目玉。

 だめだ、これはだめだ。見続けて居たら、いやとどめのあれをやられたら…!

 

「ブエー」

「ふぉぼびゅっ!?」

 

 我慢できなかった! ゴーレムは左右にプルプル震えてひとしきり鳴いた後、我慢しきれず盛大に吹き出した冒険者を尻目に超高速で消えていった。

 

「く、くそ…!」

 

 笑いを堪えながら悪態をつく。だが姿は覚えた。それに二度目なら耐性もつくので、二度と同じ手にはひっかからない!

 

「…ブエッ?」

「ブフォォ!?」

 

 未だ去っていなかったらしい。おまけとばかりに一声鳴いて去っていった。

-

 

-

>冒険者ペアの場合

 

 隣り合っていると近づいて来ないとの事で、せめて探知範囲をお互い補う事で不利をカバーする。

 

「居たか?」

「居ないわねぇ」

 

 主な路地裏は他の冒険者が向かった。人気の無さそうな場所を探す。

 元犯罪組織の根城だった建物の一つがある。取り壊し予定のようだが、利便性から優先度が低く区画整理計画の後半に回されているようだった。

 

「ん、あれ?」

 

 相方が指差した方に、黄色い後ろ姿が建物の向こうに消えるのが見えた。

 

「居たな。場所を確認しよう」

 

 宜しくないフォーメーションだが、二人揃って建物の入口脇の窓からひょっこり顔を覗かせて中を見る。

 

「どれどれ…」

 

 中を見ると、暗がりの中、複数体が居た! 全部捕まえられれば報奨金追加である。だが獲物を前に舌舐めずりは三流だと、あの始まりの九連星の誰かが言っていたと思う。

 

「吹き出さないでよ?」

「お前こそ」

 

 ゴーレム達は並んで背中を向けている。吹き出したりしなければ大人しいらしいので、二人共、包囲方向を変えて近づいて行く。緊張が走る。3体のゴーレムは下を向いていたが、一斉に顔を上げた。そして…。

 

「「「ブァー」」」

 

 一斉に同じ音程で鳴いた。

 

「「ぶむっ…!?」」

 

 なんとか耐える二人。絵の時点で中々やばかったが、自立しているそれが動いて鳴いている姿は、インパクトが強かった。

 

「ブェアー(↓)」「ブェアー(→)」「ブェアー(↑)」

「「「ブェーアー!」」」

 

 音程を変えてそれぞれが鳴いた後の見事な和音である。冒険者ペアはなんとか吹き出すのを我慢したが、後ひと押しで決壊するだろう。

 

「がばん…!」「がばんだ…!」

 

 二人共酷い顔でゴーレムだけを見つめて近付く。

 

「ブェー…ブェっ?」「ブェーブェブェ」「ブェアー」

 

 だめだった。なんか人形の寸劇のように会話のごとく鳴き始めたゴーレムを見て、お互いの顔を見た時点で二人共「「ボフォォ!?」」と吹いた。トドメは相方の顔である。

 ひとしきり二人は笑って、逃したことに悔しそうにしながら再度の捜索に立ち上がる。

 

「…これ、かなり厳しいな」

「あれずるいわよ…なんでゴーレムが寸劇始めるのよ!」

「やめろ、思い出させるな!」

 

 先程までの決壊寸前顔に比べればマシだが、二人共思い出し笑いを堪えて視線を下に。

 

「「「ブェ?」」」

 

 まるで「どうしたの?」と聞くように頭を傾げるゴーレムの姿が地面にあった。鳴き声も揃っている。

 

「「ぶふぅうう!?」」

-

 

-

>冒険者Bさんの場合

 

 斥候を任されているベテランの冒険者は、酒代の為に依頼に参加していた。できれば捕獲してツケ分を支払いたい所である。

 

「…しかし、あれは反則だろ…!」

 

 既に二度遭遇したが、ゴーレムの罠?にはまって吹き出してしまい捕獲は失敗した。次こそはと、持ち前の機動力と探知範囲で捜索を再開する。

 

「足元でもう一度鳴くのはやりすぎだろ…」

 

 ベテラン冒険者は、今回の依頼について薄々感づいていた。悪戯好きのル・シファー商会の頭取は、名うてのゴーレム使いとしても傭兵仕事で名を馳せている。最近は冒険者の仕事も取り合いであり、他の地域はともかくエ・ランテルでは出遅れると丁度いいか楽な仕事は取られてしまっている事が多い。

 で、楽しむ事に余念がないという頭取は、依頼という形で暇な冒険者に金を出し、何か視界を共有するゴーレムなどを使ってこの状況を面白可笑しく楽しんでいるのだろう。

 気付いたのは、カンに近く完全な探知ではないが、ずっと何かが自分を視界に収めている気配がするからだ。

 

「まあツケ分は自分で稼ぐとして…」

 

 いつの間にか市民の居住区まで来てしまったらしい。ズーラーノーンの事件の後、比較的早い段階で建て直しが行われたため、古い建物は補修が施され、新しい建物も多くある。

 ふと見れば、井戸に設置された揚水ポンプという道具を使い、ご婦人方が水を汲み上げて洗濯をしていた。揚水ポンプはル・シファー商会の取り扱い品だが、都市長が頑張ったそうでエ・ランテル内の殆どの井戸に設置されている。

 

「ちょっと水を貰うよ」

 

 一応断りを入れて、呼び水を入れてポンプを動かす。何度か動かしていると綺麗な水が出てきた。先に呼び水を溜め直し、横の小さな桶に自分の分を入れようとする。

 

「ん?」

 

 ポンプの口から、ずぼっと何かが出てきた。黄色いあいつ。無害だがある意味危険なあのゴーレムだ。

 

「ゴベベベベベベベ…」

「ぶふぉぉ!?」

 

 たっぷり水と空気を混ぜたような状態で口から水を盛大に吐き出すゴーレム。吹いてしまう。目が合った、耐えられない。一人で笑いだしてしまい、周囲に訝しげな目で見られる。

 

「ブェッ…」

 

 なんか力尽きた。冒険者も笑いすぎて力尽きた。だが最後の力を振り絞って口を真一文字に引き絞り、震える手で捕獲した。吹いた状態で超反応で逃げる範囲は既に把握している。先に二度逃げられた際に、範囲は把握済みだ。仮にもベテランと呼ばれているのは伊達ではない。吹き出していても、止めて再度近づけるなら、捕獲はできる。

 

「つ、捕まえた…捕まえたぞ!」

「ブェーブェー」

「鳴くなっつーの! くっそ…!」

「ブフェヒー」

 

 握りしめたらまた鳴いた。鳴く度に笑ってしまい、残念そうな顔で周囲に見られながら、冒険者が落ち着くまで大分時間がかかった。

-

 

-

>その他

 ラバーチキンゴーレムは、エ・ランテルの人の居る所、殆どに出現しては笑わせて逃走を続けた。

 ある場所では、定番というか椅子に座ろうとした人の所に出現、哀れな鳴き声を響かせた。

 またある場所では、見事なコーラスで鳴いた。一般民は拍手喝采である。

 他の場所では、店先の看板娘の隣で真似をするようにお辞儀をしていた。

 またある酒場では、エールの出る所に陣取り、口からエールを吹き出した。

 

「「「適応力ありすぎだろ…!」」」

 

 夕方になる頃、都合9体が捕獲された。参加した冒険者のほぼ全てが笑いすぎて表情筋と腹筋が大激痛であり、一部冒険者は仲間の神官に頼んで回復魔法をかけてもらった程である。

 

「一体はのがしてしまいましたが、これにて依頼は終了。参加費用と報奨金をお支払いいたします。ゴーレムは研究中の玩具用途との事で、また同じ様な依頼を出すかもしれないと、本日参加の皆様にはあの食堂ご利用の際に使える一品追加券を別途、支給するとの事です」

 

 冒険者達は一斉に歓声を上げたそうな。

-

 その後、映像をまとめたものがトールによって編集されてナザリックのTV放送で流された。るし☆ふぁーの発案という事でモモンガさん達は嫌な予感がしたが、妙に凝った編集で流された映像に皆、大爆笑したという。

 

「トールさん、編集上手いっすね…!」

「俺もう井戸の話とか無理…!」

「馬車止め近くで、連続で踏まれるのがお気に入り」

「慣れるようで慣れない! もっかい見…ぶはははは!」

「連続映像とかやばい、何度見ても慣れない…!」

 

 守護者の反応は様々である。コキュートスは首を傾げていたが、他の守護者達は「笑ってはいけないナザリック」状態で笑いを堪えている。笑いすぎて腹筋が痛くなってきたモモンガさんは異形種の体に切り替え「我慢せず笑ってもいいぞ、咎めたりしない」と何度も精神沈静化を繰り返しながら言うと、デミウルゴスとアルベド、マーレは俯いて笑い始め、シャルティア、アウラは思い切り笑い出した。

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 デミウルゴスは滑稽な人間共の姿に笑いつつも、悪戯と称して行われたこの「実験」の成果に感嘆していた。

 

(弱く無害なゴーレムで、これ程の効果とは…!)

(くうぅ、モモンガ様をこれ程笑わせるとはっ、流石は至高なる御方っ! 負けませんよ!)

 

 尚、面白がりつつもちょっとラバーチキンゴーレムに嫉妬するのはパンドラズ・アクターである。

-

 るし☆ふぁーとしては成功の部類だろうか。これからも定期的にやるかなと画策している。飽きられる可能性もあるが、定番というか天丼はお笑いでお約束である。

 

「そういや一匹、どこ行っちゃったんだろな?」

「荷物に紛れて他の都市とか行ってたりしないか?」

「在りうる。まあ鳴く以外は無害だから、後で回収すればいっか」

「いいのかそれで…」

 

 その後、行方不明だった一匹のラバーチキンゴーレムが、王国各所で出現しては間抜けな面と鳴き声を響かせ、人々を笑わせ続けたそうな。

 




「ラバーチキン・ゴーレム」 総合LV15
 ゴーレムマスターである、るし☆ふぁー謹製の小型ゴーレム。何ら攻撃手段をもたないが、極小の体、打撃に強い合成ゴム製の体に高い俊敏性を持ち、破壊を目的とするならかなりの高難易度となる。また高速移動するので、その最中に捉える事は困難。
 最初の依頼以降、冒険者の捜索や地理把握の一環としてル・シファー商会から定期的に依頼が張り出されるようになった。

 尚、捕獲から逃れた一体のゴーレムはエ・ランテル以外の地域に出没する。

「何これ…! 何これ…!」
「一応あれ、ゴーレムなんだな? すごい技術なんじゃないのか?」
「私でも何度かに一回はミスる」「無理に捕まえるとすごく抵抗する」
「それより、ラキュースが笑いすぎて心配なんだが」

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