荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
モモンガさん達が帝国に向かっている最中、トールは暇潰しにとトブの大森林に居た。単に散歩するには剣呑な場所だが、ナザリック勢よろしくこの男にとって危険度は低い。
「む、何者でござ…トール殿でござったか」
「おう、元気かハムスケ。野菜くず貰ってきたぞ」
インベントリから、ナザリック食堂で出た野菜くずが入った袋を取り出した。以前は廃棄していたものだが、餡ころもっちもちの配下に森の賢王ことハムスケが入って以降、彼女の食事にと提供されるようになった。
「ぴゃぁあああ、ありがとうでござる!」
これまたインベントリから取り出した大きな器に取り出した野菜くずを入れる。廃棄予定品だったとはいえ、高級食材の切れ端である事、保管場所で腐らないよう<保存>の魔法がかけられた事から新鮮で美しく輝いている。
「ほい、どうぞ」
「頂きます、でござる!」
結構な量になっているそれをガツガツと食べ始めるハムスケ。トールは散歩途中に仕留めた猪と鹿を取り出すと、横で血抜きをはじめた。
「最近は肉も控えめでござるが、拙者、この野菜くずを知ってしまったでござるからして、以前の雑な食事には戻れないでござるよ」
「切れ端とはいえ、高級食材のだからな。うーん、コールスローとか作れる気もするが、食感がネックか」
魔法の大釜から出される食材はどれも高級食材だ。調理の際は食感を基準に捨てられる部位だからして、工夫を重ねないと調理結果はあまり宜しくないのだろう。
「大体終わったかな?」
吊るした猪と鹿の下には大きめのバケツが置かれており、血が目一杯溜まっている。トールはとある銃を取り出すと吊るしたジビエと下のバケツに次々と発射。一番大きな猪を手で触って温度を確かめる。
「何をしているでござるか?」
「もう食ったのか…。仕留めた獣の温度を低下させた。余計な雑菌が増える前に冷やす事で、腐ったり臭くならないようにするんだ」
今、解体中に使ったのは「冷凍」効果が上手く機能しなかった武器としては失敗作の特殊光線銃だ。人間大なら体温が10度前後、低下するので若干の行動力低下効果がある。
もう一度撃ち込み、10度以下になるよう調整する。大雑把ながら温度を確認するなり、バケツを横に避けて解体を始める。手際良く猪と鹿が解体され、肉は主だった部分がインベントリに収められた。
残ったのは端肉と一切傷つけられていない内臓と毛皮だけ。トールは内臓を圧して中の汚物を横に開けた穴に捨てる。ついでに「無限の水差し」を解析してできた「無限の泡水ホース」を上側に突っ込む。洗浄用に用意したもので、上からほぼ純水に近い水をマイクロバブル化した状態で圧力をかけて流し込み、汚物を洗い落とすのだ。
最初に大まかな分を流し出し、次に自立行動するブラシ付き小型ロボットにホースを繋いで完全洗浄。あとは手持ちの魔道具で<殺菌><洗浄>と、綺麗にすれば終わりである。毛皮から切り離し、解析して問題ないことを確認した。
「いつもながら、内臓がそうも綺麗になるとは面白いでござるなぁ」
「強い体があれば、そのまま内臓を食うってのもいけるんだろうけどな、俺ら人間は野生動物の内臓を食うのに工夫が要るんだよ」
今度は別途用意した鍋の中で、小腸を除いた内臓と端肉のみじん切り、肉の脂身と共に、バケツに溜めていた血を弱火で煮込む。水分を飛ばして、少しドロドロになった所で小腸の中に漏斗で流し込む。猪と鹿、両方とも同じ作業である。
「ふむう? 今日は何を作ってるでござるか?」
「色々手法が混ざってるが、血を使った腸詰め、ブラッドソーセージだ。癖があるが、慣れると中々イケるぞ」
詰め終わった分を、一度インベントリに格納して戻した綺麗な鍋に湯を張って煮込む。待つ間、他の道具も格納し、端末操作で綺麗にする。
「こんなもんかな。ほい、少し試食だ」
茹で上がったブラッドソーセージを取り出し、長めにカットして手渡す。
「くんくん…。少しだけ血の匂いがするでござるな。では頂きますでござる」
ハムスケの巨体からすれば、ほんの一口程度の大きさだ。口に含んでモニュモニュと咀嚼すると、目がキラっと輝いた。
「ほほお、血を使ったと言う割に血生臭さは無いでござるな。それになんとも不思議な食感でござる。全体的に、血の集まる腸部分に似通った感じでござるな?」
「レバーに火を入れた感じに近いからな。ハムスケで血生臭さをあんまり感じられないなら、一応は成功か」
トールも茹で上がったブラッドソーセージをナイフで切り落として自分の一口サイズにする。刻んだ肉が食感のアクセントで、濃いレバーを食っているような感じだろうか。
「うん、酒のアテにいいな。今度、やまいこさん達に珍味と称して出してみよう」
「これはトール殿か、もしくはカワサキ殿の考えた物なのでござるか?」
「いや? 俺の居た世界で、動物や家畜を主だった食料にしていた人々の伝統的な料理だった。こっちだって、家畜を育てている農民も手法は違うが同じ様な物を作ってたぞ」
仏教伝来から江戸時代まで、肉食が余り浸透しなかった日本では馴染みが薄いが、狩猟や家畜による食料調達を長らく続けてきた地域では、様々な手法で血を用いた腸詰めが作られている。狩猟の成果の他、牛、豚、羊などの家畜解体時に出る血と端肉、脂身に加えて、穀物や香辛料なども入れて作られたりと、様々なものがある。
「人間達は、殆どは弱いのに色々考えるのでござるなぁ」
「弱い人間だから、色々考え、慎重に行動するんだよ。これも作り方次第で保存食にもなるからな」
「トール殿は強いにも拘らず、沢山知っているでござる。うむ、毎度食べる程ではないでござるが、珍しい味わい、感謝するでござるよ」
最近のハムスケの好みからは外れるが、不味くはなかったらしい。
「おう、お粗末様でした。それじゃ戻るが、今日の予定は?」
「日が高くなるまでは縄張りの見回りと、昼に村のエンリ殿に挨拶して、午後は薬草取りをするメカクレ男と馴染みの冒険者達の護衛でござるよ」
「メカクレ男て。ンフィーレアと呼んでやれよ…」
「言い辛いでござるよ。エンリ殿の番いでも良いでござるか?」
最近、交尾の匂いがよくするでござる、とハムスケ。トールから渡されたEXP薬はンフィーレアに投与され、それから毎日と言っていい程、匂いがするのだそうな。
「バレバレなのか…。別にいいか、好きに呼んでやれ。じゃ、またな」
「またでござるー!」
トールは展開していた荷物を全て格納し、血抜き処理などで出た痕跡も土中に完全に埋めて、カルネ村へ向かった。
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カルネ村は、ここ最近は村という規模から少しはみ出しかけている。トブの大森林を背にするのは変わらないが、住民が倍以上に増えたのをきっかけに、ナザリックからの提案で区画整理を行った。作業を請け負ったのはル・シファー商会のゴーレムと、ナザリックから派遣されたスケルトン達、あとはトールだ。
家は以前のまま、コンクリートで整地された場所に移動して置かれ、道はあぜ道からアスファルト舗装に。中央に設けられた広場は綺麗に石畳で舗装されている。
井戸などの水周りも整備。雨や家庭用排水を半地下の下水路で流し、こっそり設置された下水処理場が水分と残土に分ける。残土の処理はゴブリン軍団が請負い、問題がない場所に埋設あるいは再利用されるようになっている。トールとしては堆肥プラントや太陽光発電を設置したい所だったが、やりすぎないよう釘を差されたので断念している。
村の周りに害獣を防ぐ木製の外壁があったが、一度撤去の後、区画整理後に移動してきた「畑」を囲う形で設置し直された。外部警戒の為の監視塔は、畑の見回り用になっている。
この村なんだか邑(むら:小規模国家の意)なんだかわからない規模になったカルネ村の周囲には、さらに村の外周を守るようにゴブリン軍団が駐屯地を作っている。その上で、周囲を更に囲う形で強固な陣地と防塁が構築された。見張り塔が設けられ、交替でゴブリン軍団の者が監視をおこなっている。
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トールはウェイストランドでは慣れた小走りで森を抜けると、カルネ村の外壁門前に現れた。徒歩に切り替え、監視塔のゴブリン兵に手を振って挨拶。ゴブリン兵は、門の方へ合図をする。
門を通り、見慣れてきたゴブリン軍団の駐屯区へ。精力的に訓練を行うゴブリン軍団の他、村人から有志が参加し、お互い汗を流していた。最近は元冒険者や傭兵、ワーカーだった連中が引退と同時に移住する事が増えている。
「いらっしゃいませ、トール殿」
諸葛亮、あるいは諸葛孔明っぽい中華な衣装を纏ったゴブリン軍団の軍師、ゴブリン軍師がトールを出迎えた。計画の最終段階で、蹴散らされた元貴族の残党が村に襲撃に来た際、エンリが預かっていた「ゴブリン将軍の角笛」の二つ目を吹いたら出現した総数五千のゴブリン軍団の軍師である。
「ご苦労さん。何か問題は無いか?」
「警戒を怠ってはおりませんが、現在の所、平穏そのものです。我々の食料に関しても、拠点より定期提供を受けている缶詰めの他、外の農地も順調です故、森林を荒らさない範囲で狩猟を行えば備蓄も含めてかなり余裕を確保できるかと」
トールの拠点から供給している缶詰めとは、ドッグフード缶の事である。一応、フライパンなどでソテーして味付けすれば、人間でも食えはするが、ゴブリン軍師との相談の上、できる限りの粗食と要望があって、色々用意した中で選ばれたのがドッグフード缶詰めである。
「缶詰め、本当にあれでいいのか? もう少しマシなのを用意できるが」
「我々はそも何でも食べられますが、あまり贅沢に慣れてしまっては極限状況で士気が保てませぬ。あれは十分肉の味がする上、元は犬種の健康を保つための食料ですので、缶一つで一食ともなれば、我々の肉体の維持には十分すぎるというものです。それに保存も長期に亘って可能です故、贅沢とすら言えるでしょう」
「あんたらがいいなら、それでいいんだが…」
「先日、塩や香辛料を生成する魔道具を提供いただきましたので、味付けなども余程多量で無い限りは問題ございません。
それにトール殿、我々は軍団、軍団なのです。全て自力で賄える位でなければ、エンリ将軍閣下のご迷惑となりますので」
「成程な。森林を荒らさない程度の狩猟で抑える分を、缶詰めで補っているのか」
そういう事ならと、トールは生前の知識とウェイストランドサバイバルガイドから、この世界で可能な自然利用の生存術を纏めたノートを手渡した。またゴブリン軍団の兵站担当がいるとの事で、別途用意した野外レシピ類も手渡す。
「これがさっき作ったブラッドソーセージ。軍師と兵站担当で試食して、いけそうなら作ってみるといい」
缶詰めことドッグフードでは不足する、塩分と脂肪分もカバーできる。元の材料が血である為、他の栄養素も十分補えるだろう。
「ほう! これは良いですな。血は解体で捨てておりましたし、内臓はそのまま食したりしておりましたから、このような使い道があるとは。保存食にも使えるならとても良い!」
トールの内臓処理は色々な道具が使われたが、元々、地球では紀元前から作られていたという話だ。ゴブリン軍団なら魔法や魔道具などで時間短縮や衛生問題の排除が行える。
「とても良い贈り物です、重ねて感謝いたしますぞ」
「エンリ達の配下なんだ、この程度は問題ない」
その後も少し話をした上で、トールは軍師と別れて内壁門を通ってカルネ村へ入った。
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「おやトールさん、こんにちは」
畑の見回りから戻ってきた中年男性が、軽く会釈をして通り過ぎる。他にも、気付いて手をふる者などが居た。
挨拶を返しながら、トールは目的地、エンリの新居へ。ここはカルネ村へ越してきたンフィーレアとエンリが住んでいる。すぐ隣はエンリの両親とネムの家だ。
「あらトールさん、こんにちは」
「ンフィーレアは…まだ寝てるか。エンリ、若いだけに仕方無いかもしれんが、もう少し加減してやれないか?」
エンリは顔を赤くしつつも、少し不満気である。既にエンリもンフィーレアも総合レベルにして二十超えだが、前衛職がメインのエンリと後衛・生産職のンフィーレアでは、体力も攻撃力も防御力も大きな差がある(意味深)。
ギルメン達の手解きで一応は何かの前衛職も生えたらしいが、経験点的な意味で足りず、エンリに抗し切れていないのだろう。トールは少し考えた上で、エンリに丸薬を手渡す。
「これはンフィーレア用に用意した体力増進薬だ。もう少しだけマシになる…なるが、やっぱり気を使ってやってくれ。男としては、女性に毎度押し倒されるのは矜持がへし折れるからな」
「そういうもの、なんですか?」
「ああ。彼も男だ、その辺は理解してやってくれ」
とはいえ、女性に気遣いをされる事に気付くとそれはそれで凹むから慎重に、と付け加える。手渡されたンフィーレア用の体力増進薬とは、何の事は無い、ンフィーレア用のEXP薬である。今の状態で使えば、大体レベルにして三十程度まで上がる計算である。今のエンリが二十五程度であるから、勝てずとも対抗は可能だろう。
何の気無しに、インスタントにこの世界での英雄レベルの量産をしているトールだが、本人にその気は全く無い。
「いつもありがとうございます。所で今日は見回りなんですか?」
「ああ、アインズさん達が帝国に向かっているからな、到着まで暇なんだよ。明日か明後日には到着するそうだから、魔法で転移して帝都観光には同行する積り。何か土産とかは要るか?」
エンリは事も無げに魔法での転移を話題に出すトールと、アインズさん達の力に感慨深く微笑む。
特に、アインズさんが現れて以降の始まりの九連星の方々は、カルネ村で力を隠す事は止め、時折、従者の方々と現れては村の手伝いを魔法などで行ってくれている。他の村人から祈られるので、力を使った後はすぐに戻られてしまうのだが。
閑話休題。
「お土産ですか…。ンフィーや御祖母様の研究に役立つ魔道具とか、両親とネムに食べ物とか…、あ、すいません、高いですよね」
「大丈夫だ。相変わらず自分以外を優先するんだな君は。
よぉし、おじさん、ンフィーレアと相談してエンリ用のお土産を考えちゃうぞぉ」
「おじさんって、まだ若い…あれ? 私の子供の頃から変わって無い…」
「改めて事実を突きつけられると凹むからやめて!?」
トールの実年齢と総合年齢からして、生前40+ウェイストランド10(+冷凍睡眠40)+こちらの世界で10、合計で100歳。この世界に到着するまで、次元転移装置で様々な世界を渡り歩いた時間を差し引いても、立派なじじいである。
「…カガクって凄い魔法なんですね、とても百歳以上には見えませんよ?」
「若さの秘訣とか、あったりします?」
「「うわぁっ!?」」
いきなり現れたのはエンリの母だ。なんか真剣である。
「え、ええっと、俺自体は特殊なんだが…。こういうマジックアイテムで疲労を軽減すれば、若さを保てたりする、かも」
取り出したのは、解析済みのマジックアイテム、そのコピーだ。量産してカルネ村の面々に配る予定であり、エンリ宅を訪ねた後に村長へ渡す積りだった。
説明としては、同じ労働でも疲労が軽減されれば、それだけ肉体の老化が防げるという感じなのだが、実証実験なんぞしている訳でもない。トール的には、AP(アクションポイント)の消費軽減がされる。レジェンダリ効果の他、MODのチートアイテムとは別途計算されるので、魔法すげぇ! と解析して思ったそうな。
「という訳で、先にご家族の分は渡しておく。既に疲れ難い体質にはなってるだろうが」
目をキラっキラさせて指輪を受け取るエンリ母。エンリは申し訳ない気持ち一杯であるが、指輪は素直に受け取った。二人共指に早速着けると、指輪は姿を消した。
「ああ、意識すれば出てくるし、その際に外せる。指先が必要な作業の邪魔にならないようになってる」
「すごいですね魔法、大きかったのに指にぴったりですし」
(自動調整はともかく、隠れる機能は魔法じゃないけど、まあいっか)
渡された魔道具というかマジックアイテムは、ナザリックではコモンアイテムに分類される代物だ。効果的にも若干の疲労度累積を軽減をする程度で、ナザリックメイド達の装備する最上位のアイテムと比べたら効果も低い。ナザリックとの取引で手に入れた無数のコモン分類のマジックアイテムの一つである。
ただし、このマジックアイテムのフレーバーテキストに「老化を停止させ、寿命を保つ」などと書いてあった。トールは何の気なしに手渡した訳だが、これでカルネ村の現在居る村民たちは、エルフ並に長寿で若さを保つ事となる事を誰も知らない。
尚、疲労度累積を抑える効果のため、エンリとンフィーレアの夜の生活が激しくなった。EXP薬の効果とマジックアイテムで腎虚から遠ざかる事ができたンフィーレアは、エンリの満足の上を行く結果を出した(隠喩)。頑張った(意味深)。
また、それの影響を受けてエンリの両親や他の村人も励んだ結果、ネムがお姉ちゃんになり、他の家庭もベビーラッシュが起きる。食糧事情も改善したので、大丈夫だ、問題ない。
閑話休題。
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トールはエンリ宅を辞し、村長宅へ。以前より立派な建物になっており、すぐ側には集会用のホールも建設されている。村長には、例の疲労軽減の指輪を山程渡し、外部には配布や売却を行わないよう言い含める。
「これで、今以上にアインズ様のお役に立てるのは有り難い事です」
「何事も程々にな。アインズさんは、朝から晩まで労働しっぱなしというのは好きじゃない。きちんと休むように」
村では最近、首都ナザリックから訪れる商隊と取引を行い、村からは王国貨幣を出し、ナザリックからは道具や食料品類を仕入れている。
王国側からはル・シファー商会の商隊が定期的に現れ、ナザリックからもたらされた品物を買取って村に金貨を齎し、商会は仕入れた品を王国内で販売している。
頭取のるし★ふぁー曰く、
「直接取り引きってのは中間マージン省けるけど、これはナザリックに余計な連中が来ないようにする事と、村の重要度を上げる手間の一つだよ」
との事である。
首都ナザリックには未だ、外部の者を招く準備が整っていない。リザードマンなどの訪れるカルネ村をテストケースに、商売で誠実な取引をする商人を選り分ける算段である。帝国やその他の国の商人も最初はカルネ村に訪れるよう誘導し、体制が整った後は問題ない連中を直接取り引きに案内する。また既にその話は村長や防衛担当のエンリには通してある。
トールは村長宅を後にして、AOGの面々が村で過ごす際の屋敷に向かった。
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村にはル・シファー商会からという名目で、音改が常駐するようになっている。根城だった屋敷を商売用に増築して商談もできるように整えてある。
「こっちはどうだ、音改」
「お、トールか。のんびりしたものだよ、実際の商売はルシが取り仕切ってるから」
屋敷前の庭で、側仕えのメイドにお茶を用意させながらターミナルを操作していたのは音改だ。
「ターミナルの具合はどうだ? 未来のそれと比べると操作が面倒かもしれんが」
「ヘロさんも言ってたけど、コマンド入力型としてはそれ程差異は無いから大丈夫。鯖のメンテとかしてたから」
最近になって、トール拠点内のターミナルを首都ナザリックとカルネ村限定で表に出して使うようになった。以前は拠点内だけだったが、カルネ村の目覚ましい開発ラッシュで、この程度はあっても問題ないだろうとの判断である。
村に外部から来るのは王国貴族のまともな使者、ル・シファー商会の信用在る連中か、馴染みの冒険者(主に漆黒の剣。最近ミスリル級にリーチ)だけな上、屋敷は以前はなかった壁に囲われている。
「ただ、データのやりとりに電波が使えないってのはネックだよ」
「そこはまだ我慢してくれ。ランドマークに設置予定だったアンテナがやっぱり試験通信で問題出てポシャって、舗装路埋設のケーブル工事をしてる最中だ」
この世界ではなぜか、長距離の電波類のやりとりにフィルタリングしきれないノイズが入る。また電離層はあるようだが、反射で異様なまでに電波がかき乱される。AM系のラジオ電波は問題が少ないので拠点とのやりとりや音声放送を辛うじて行っているが、FM系は例外なく搬送波が乱されてしまう。首都ナザリック内のラジオ、TV放送はケーブルである。
他の電波は一切感知されないのだが、どうやら魔法の存在が影響を及ぼしているようで、小さな機器によるデータ通信には向かないと結論付けられ、トールは情報収集に派遣したアイボットも、収集データを短距離でアイボット同志でリレーして拠点に集めている。万単位でアイボットを派遣しているのも、それが理由だった。拠点から離れた際のPip-Boyでのやりとりは、アイボットのリレー通信経由で行われる為に少し時間がかかる。
衛星軌道上に設置してある複数の衛星とは、少々強めの電波通信でなんとかやりとりしているのが現状だ。この世界の周回軌道に載せるのにはかなり苦労した。
最終的には「複数製造したマザーシップ」の一隻をハブ兼衛星のメンテ母艦として、トブの大森林内に設置してある巨大なパラボラアンテナとマイクロウェーブで空間に通路を作り、その中をデータを送受信する力業である。たまにマイクロウェーブの位置がずれるので、大森林内の勢力にはアンテナの敷地に近づかないよう通達している。
閑話休題。
「こことナザリック、エ・ランテルだけでも繋がるならいいか。所でトール、本当にこの子、貰っていいの?」
隣に控えるメイド…いや、メイドロボは、イマジナリ・ニューの同型機だ。ナザリック勢用に追加生産された「数少ない」中の一体である。
電子頭脳は自我に目覚めている物を使用している高級機であり、髪型は黒髪のショートボブ。背は少々低めながら、肉感的ボディである。性格データは主にお姉ちゃんキャラである。あと小悪魔的でちょっとエロい。完全に音改の趣味だ。
一応、モモンガさんの許可の下、ナザリックに所属させる手続きをしたが、音改の常駐がカルネ村となっているのでいつもこちらに居る。
「異性の守護者や被造者が居ないっていう条件をパスできるのが、音改とあと数名だけだったからな。ナザリックメイドは、あの三人衆の子供というか嫁でもあるし」
尚、あの三人衆とはヘロヘロ、ク・ドゥ・グラース、ホワイトブリムの事である。夜の生活については、疲労無効の装備をした一般メイド達に、日毎に入れ替わって大運動会だそうな。ヘロヘロのみ、毎晩ソリュシャンが加わる。
閑話休題。
「プレアデスもそうだからなぁ。ちょっと羨ましいとか思ってたんだよね、専属メイドさん」
「名前はフォルテだったか。既にお手つきだろうから、返品は無しだぞ」
「…あーうん、わかっちゃうか」
「わからいでか。どうだフォルテ、筐体の調子とか、問題はあるか?」
「ございません。強いて言えば、今の所、私はマスターの○○ホですので孕む事ができません。その点は不満を述べさせていただきます」
さらっと爆弾投下。
「…」「…音改?」
トールは無表情で音改を見る。
「ち、違うんだよ!?」
「ふむ? …学習したんだな、そうだろ?」
「はい、左様でございます」
「学習…あ、あれなのっ!? あれが原因なの!?」
なんかソフト罵倒プレイや道具扱いプレイなどをしたのだろうな、とトールは苦笑する。製造されて間もない為、それらを素直に学習したのだろうと。
音改は心当たりがあっただけに、頭を抱えている。
「ほぼ毎晩、存分に使っていただけるのは嬉しいのですが、この姿である以上、考えてしまいました。生物的本能は無い筈なのですが、不思議としか言いようがございません」
「謎だなぁ。神経節ネットワークを、シンスのものを流用したのと関係あるかな?」
「様々なノイズ類がありますが、行為中の振れ幅という点では大いに役立っておりますね。
マスターは遠回しに伝えておられたとの事ですが、私の製造目的は明白ですので、全力で道具としてお勤めしております」
「その方面だとまだデータ足りないから、問題や改善点あれば言ってくれ。改良する」
「ありがとうございます。では早速なのですが…」
内容的に大分アウトだが、のほほんと会話する製造者とメイドロボ。音改だけが顔を真赤にして慌てていて、内容がディープになるにつれ、夜の生活を赤裸々に暴露されているので、最終的に顔を覆い隠して縮こまる。
「いっそ穴に埋まりたい…」
「ふむ、御主人様とメイドさん想定としては、概ね標準的と言った所か。業が深い面々と比べ、拗らせて無くて大変結構」
業が深い面々とは色々拗らせた一部ギルメン達である。名誉の為、名は語らないでおく。
「トールさんクール過ぎでしょ!?」
「ん? ああ、どうしても技術者としては改良点とか探りたくなるからな。流石に妊娠機能は考えてなかった」
フォルテは頬に手を当てて、ほんのり赤くなる。音改はドキッとした。背を向けた所で、下をペロっと出す。小悪魔的なと要望された人格プロトコルも概ね正常に動作、人格に反映されている。
「自我に目覚めた電子頭脳とはいえ、緊急時を除いて外部アクセスできないようロックしてあるから、大事に育ててやってくれ。一定以上経験を積めば、人化の魔道具類も使えるようになると思う」
人化の魔道具やスキル、魔法は、トール拠点内のメイドロボ達、ナンバーズ、そしてこのフォルテでは不発になった。イマジナリ・ニューは問題なく人化できている。エインズワースも同様だが、稼働時間が新しい端末では人化が不発だった。何かしら稼働時間や経験が関係していると、現在は経過観察がされている。
音改は人化から偽装人化に一度切り替えてクールダウン。こういう時、精神がフラットにできる機能は便利だ。
「努力します…。あのフォルテ? 製造者のトールだからって、いきなりぶっこんでくるのは控えてくれない? 心臓に悪い。あとギルメンの皆の前では絶対だめ、お願い!」
屋敷の周辺には誰も居ないが、ギルメン達に聞かれた日には何を言われる事か。
「ではトール様には事前に確認の上で、話題にいたしますね。ただギルドメンバーの皆様はともかく、姉上には既に…」
「姉上って、イマジナリ・ニュー?」
フォルテの性格はお姉ちゃんだが、実は妹である。
「はい。私と違い、その方面の機能は主ではないのですが、先日会話した際、エントマ様とシズ様のとある話題が、ようやく理解できたと喜んでおりました」
そんな話をイマジナリ・ニューとしてたのか、とトールと音改は驚く。ただ、ぼかした内容だったため詳細が想像できなかった所、骨子となる情報を得た事で内容の理解ができ、事前知識とのクロスチェックができたと喜んでいたらしい。
イマジナリ・ニュー本人は特に誰かとそういった関係になる事は考えてないが、恥ずかしながらも嬉しそうに話をする姉二人へ、スタンダードなデータはきっちり積んである自分が、そっち方面には完全に初な二人に何かそれとなくアドバイスできる事を素直に喜んでいたそうな。
尚、姉妹三人だけで行われる会話で、イマジナリ・ニューの「知識のみですが」と前置きした、人化した状態(というか人間)の夜の生活に関する話はシズもエントマも大いに役立ったらしい。ただ、興味津々ではあったが、内容が内容だけに毎度、頭から煙が出そうな程、赤面しながら聞いていたそうな。
閑話休題。
「「…」」
「あの、如何されましたか?」
源次郎とガーネットはそれぞれ、エントマとシズを溺愛している。人化の装備が普及したことと他のギルメンに当てられて、娘の求愛に抗し切れなかったのだろう。そういう素振りを一切見せなかった点は称賛に値する。
「…全体的に、AOGが恋愛脳化してるな」
ヤ○サー化とは流石に言わなかった。
「嫉妬マスク同盟の脱退者が増えて、残る面々がやさぐれる訳だ」
因みに音改は、ユグドラシル時代は彼女が居たので同盟のメンバー外である。仕事の忙しさに加えて、当時の彼女が浮気をした事で破局したが。
トールは、未だトランキルレーンの使用パスを渡していないギルメン達に話をしておこうと心の中で決める。
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「何方かいらっしゃいませんか!」
微妙な空気になった所で、屋敷の門側から声…ニグンの声がした。音改は、用事があるようなら案内するようフォルテを向かわせる。
「至高神より頂きました使命、本日の御報告に参りました」
側仕えに副官と部下を連れて、ニグンが現れた。彼らは音改に深く一礼する。トールは空気に徹する。
「ご苦労さま、ニグン。孤児達の様子はどうか?」
「はっ、以前と比べまして王国は各所に余裕ができ、心ならずも子供を手放してしまった家庭は喜んで迎え入れております。ただ、問題がある家庭に対しては事前の通り、孤児院で預かっております」
「全ての親が子を迎え入れてくれるのが最良だけど、そこは仕方ない話だ」
「誠に遺憾ながら」
ニグンは村の復興と言うか区画整理が終わった後、王国の各所を巡ってナザリックとエ・ランテルで保護していた身売りされた子供達を親元に帰す活動をしていた。完全に孤児になった子供や、親に問題がある家庭(黒の絨毯調べ)の場合は、エ・ランテルに設けられた孤児院か、カルネ村に作られたばかりの孤児院へ預けている。
エ・ランテルの孤児院には、ル・シファー商会経由で度々寄付を行っており、院長の老人とシスターは喜んでいた。子供達も衛生状態や栄養が改善されている。
カルネ村の孤児院については、院長にニグレドが配置された。情報調査に恐怖公の眷属と影の悪魔が携わっており、通常シフト上ではニグレドの能力が持て余し気味だった為だ。彼女の表皮のない顔は、ペンダント型のナザリックギアを装備した状態で人化、あるいは偽装人化して隠している。
タブラが設定し、ユグドラシル時代のお披露目ではギルメンが悲鳴を上げてドン引きした(モモンガさんに至っては思わず魔法を打ち込んだ)やりとりについては、ナザリック内でホラーな手続きは終えているため、今のニグレドは孤児達への慈愛に満ちた院長先生である。
村人達も、以前の村襲撃でポーションを手ずから配ってくれたアルベドの姉上という事で、孤児達への同情も含め、孤児院へはとても好意的かつ協力的である。また、孤児たちも優しく慈悲深いニグレドの愛情を受け、素直に育っている。異形種である事は既に知っているが、それでも正体を明かした彼女を遠ざける事はなかった。
閑話休題。
「全部回り終えるのは大変だろうけど、頼んだぞ」
「はっ、全身全霊を以て、至高神の慈悲と威光を示すべく務めさせていただきます!」
ニグン達が場を辞した所で、音改が少しぐったり。気恥ずかしさに顔が引き攣らないよう努力していたのだ。
「こういうのは、ギルド長にお願いしたい…」
「堂に入っておりましたよ、マスター」
「常に行う訳じゃないんだから、頑張れ」
疲れた様子の音改に、フォルテがお茶を用意する。トールはまた今度と屋敷を後にした。
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村から出た所で、藪で囲われた場所でPip-Boyを操作し、ファストトラベルビーコンを発信。拠点内で計算が行われて転送装置が起動、指定されたMAPデータから首都ナザリックでのトールの定位置、ログハウス前に現れる。
「お戻りになられましたか。昼食は如何されますか?」
「ジャンバラヤとお勧めのカップスープを頼む。食後は珈琲で」
「かしこまりました」
ログハウスから出てきた一般メイドが、丁度昼食時に戻ってきたトールにナザリック食堂の注文を伺う。早めの昼食を終えた交代要員が此方に来る時に、注文分を持ってくる算段である。
「モモンガさん達はまだ馬車の上か。帝国で怪しまれないよう、旅装束を強化した奴を用意しとくかな」
今のトールの服装は、定番のオリーブドラブ色の戦闘服上下に半長靴、艶消し黒色の皮防具一式だ。せめて珍しい作りの戦闘服については、この世界の縫製に合わせたデザインが必要だろう。
インベントリからターミナルを取り出して、定位置にとなった野外の飲食テーブルに設置、拠点に送る服飾データの選定を始める。
「目立たない服装ってなると、漆黒の剣の面子の服装が参考になるな」
この世界での服は量産がまだできないため一般的には高価だ。三着あれば良い方で、庶民は二着がせいぜいである。この辺り、回転動力式の自動織り機を用意して大規模な紡績、縫製工場を準備しない限りは大勢は変わらないだろう。ただ、計画の実行以後は麻や青麻、綿花の栽培にも着手できる余裕が増えた為、服の値段や種類はゆっくりと値下がりと充実がしていくと思われる。
「レエブン侯はやはりやり手だな。紡績、縫製工場がもし許可されるなら、侯爵の所を中核に指名しておきたい所だ」
国家事業として、原材料の生産、紡績と布の製造、服飾産業の確立などが提案できるかもしれない。この世界での布に使える素材類はブルー・プラネットが継続調査しているが、地球での知識をベースに現地での紡績経験を活用して様々な布を用意できるだろう。
「せめて、魔法や魔道具活用の蒸気機関はほしいなぁ」
トールが行ってもいいが、ブルー・プラネットには技術の進歩を加速させ過ぎないよう、この世界で確認された技術以上の知識は外部に漏らさないよう釘を刺されている。
「誰か、現地民で物好きな発想の天才とか居ないもんかね」
実は蒸気機関については既に、法国経由で概念だけは知られていた。だが、動くから何に使えるのか、という発想が欠如していたため魔法ギルドでも倉庫の隅においやられていた。
一部の物好きな若い研究者により色々な回転動力の概念とそれらを使う機械類を提案していたが、予算の都合から研究費がついていない。面白人材好きな、るし★ふぁーが彼女を見つけてル・シファー商会に迎え入れる事で、蒸気、風力、水力、これらでもたらされる回転動力と、動力の保存でコンクリートバッテリーの概念が広まる事となるが、今のトールは知らない。
「帝国の後は竜王国の遠征だけど、その後はドワーフを探す提案をしてみるかな」
技術という面で、ドワーフに期待しているトール。またユグドラシルには無いルーン文字による強化も、モモンガさんが興味を示していた。
ただ、この世界のドワーフも鍛冶や魔化についてはユグドラシル程ではないし、回転動力の概念は彼らにとっても秘技の一つだったりする。また今のトール達は知る由もないが、クアゴアというモグラ型亜人種により山脈のドワーフは滅亡の危機に瀕している。黒い絨毯のローラー作戦も、寒さによる活動限界があり、ナザリックとしては別の調査方法が必要だ。
「交代で参りました。リュミエール、エトワルでございます。お食事は此方で問題ございませんでしょうか?」
カートを押したメイドが転移門から現れる。リボンの色が異なるので、創造主が違うグループなのだろう。
「ありがとう。ではここに頼む」
トールがターミナルを格納して広くなったテーブルに、クロッシュが被った皿が置かれる。クロッシュが取られると注文のジャンバラヤが現れ、エスニック系の香辛料が利いた良い匂いが広がる。
「頂きます」
スプーンを取って食べ始める。やはりナザリックの食材と出てくる料理は、悔しいがトール拠点の大量生産品に比べて段違いであった。
大盛りのそれ(特に指定していない一般メイド基準)を味わいつつも豪快に食べ終え、余韻に浸る。
「いつもながら良い味だった。ごちそうさまでした」
ナプキンで口を拭った所を見計らって、珈琲が用意される。この珈琲もトールの拠点産は質の面で遠く及ばない。地球での珈琲豆の原産は南米方面が多く、ウェイストランドでは交流も途絶えて二百年近い。ウェイストランドでは、保存されていた二百年物の珈琲か、植物由来の合成珈琲だけだった。
魔法の大釜から出てきた珈琲豆を時間を戻して種とし、ドルイド系魔法を使える面子の協力で拠点内に栽培プラントを用意したが、質の面では高級品から最高級品まで出てくる魔法の大釜産の物に及ばない為、現在も栽培条件の調査を継続している。
尚、ナザリックから珈琲豆の提供を受けた際、コピ・ルアクも注文した。トールは早速、拠点で豆の成分解析を行った上で、現地のジャコウネコ系の動物から採取した消化酵素と腸内細菌類を用いて「いつもの」総当り試作を行い、提供を受けた豆とほぼ同じコピ・ルアク系の珈琲豆を生産している。
閑話休題。
「ああ、いい香りだ」
濃い目に淹れたナザリックブレンドが、今のトールのお気に入りである。死獣天朱雀とウルベルト、るし★ふぁーはブラックも嗜むが、モモンガさんや他のギルメン達はミルクと砂糖が無いと飲まないというか、飲めない。
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以下はトールの拠点内、休憩室で珈琲を飲むウルベルトとたっち・みー、そして娘さんのきゃっち・みーの会話である。
「昔の大先輩達は、張り込みに缶珈琲を嗜んでたって話だぞ?」
「いつもの合成珈琲が過って、せっかくの天然物もそのままだと無理になってなぁ…」
「パパ、昔から苦いのが苦手で、いつもお砂糖二杯入れないと」
「ほほう?」「バラさないでね!?」
「あとミルクも必須です。最初からミルクコーヒー頼めばいいのに」
「…ハードボイルドとは程遠いな?」
「糖尿病とか初期は魔法で治せるけど、お砂糖は程々にしないと、お腹が風っちみたいになるよ?」
「うう、気を付けるよ…でも苦手」
という会話があったとか。
「トール様、そういえば先日、やまいこ様とユリ姉様とデートに行かれたとか」
ちょっと棘のある言い方のエトワル。トールは噎せた。珈琲がいつもより苦く感じた。別にここはあの連中と過ごしたアトラ○ウス銀河では無い筈なのだが。
「ごふっ…、あ、ああ、最初は斜め後ろからユリが着いてくるだけだったが、やまいこさんの申し出で、一緒に隣を歩いたよ」
「それで、どこまで進まれたのです! 正直に仰って下さい」
責めてるように聞こえるが、目はなんか爛々としていて鼻息も荒い。リュミエールは止めるよう袖を…止める気はそんなに無い仕草である。というか目がキラキラしている。
「交際をする事になった。流石にそれ以上は俺からは言えない。二人の許可を貰ったら言うけど」
「「ずるい」」
「ずるいて…。俺はきちんと責任は取る、それだけは言っておこう」
「「きゃー!」」
君等も女の子だなとトール。夜はそれぞれの創造主とどったんばったん大騒ぎだろうにとは、心の中で言うに留める。
「平和だ。モモンガさんと邂逅をしたときが、一番緊張してた気がする」
トールも様々な状況を想定して備えはしているが、このまま平穏に過ごせればいいなとトールは思う。こうして、トールやナザリック、AOGの面々はそれぞれの趣味を嗜みつつ、穏やかな日々を過ごしていた。
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ただ、トールの願いは、竜王国の戦線で起きた予想外の邂逅により、儚い一時の夢となる。壊された平穏、傷つき倒れたトール。それに怒るのは、ナザリックとアインズ・ウール・ゴウンだ。
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アインズ・ウール・ゴウンの名が畏怖を以て語られ、近隣諸国へ盛大に広まる時が迫っていた。
え、トールだって人間ですよ? 不意打ちで全力攻撃食らったら怪我位はします。