荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
その日、勝手に経験値を消費する魔法の実験をしたモモンガさんは、見物ができなかったとプンスコする他のギルメン達に囲まれていた。報告会でポロッと言ったのがきっかけである。主なメンバーは、同じく超位魔法まで扱える職業持ちの面々だ。
「「「ずるい!」」」
「ずるいって…以前からこの日に実験するって言ってたじゃないですか!」
「にしても、効果の中から選ぶんじゃなくて、願いの強度で消費量が変わるか…」
「これ、使ったらどうなるんだろね? 使ってみる?」
やまいこが取り出したのは「流れ星の指輪」だ。課金ガチャ産の超レアであり、経験値消費無しに<星に願いを>を最大の選択肢数で使用できる。モモンガさんは、ボーナスの殆どを費やしてやっと一つを手に入れたが、やまいこは持ち前の幸運で、試しに回した一回で入手した。
「や、止めて下さい! 勿体ない!」
モモンガさんは悲鳴を上げる。リアルでは生命を繋ぐリソースをほぼ全額つぎ込んでやっと1つだった訳で、余りにも勿体ないと感じてしまう。
「ユグドラシルだと最大効果、500%分相当だっけか。確かに勿体ない」
(んー? 確か、俺の部屋に同じ様なのが数個あったような?)
クックマンという料理特化の異形種であるカワサキは、職業用アイテムを目的に課金ガチャをぶん回して、自分には無関係な山程のアイテムをナザリックの自室に放り込んでいた。その中に、流れ星の指輪も数個あった。
「トールさんのお陰で、なんか光る位に強欲と無欲が経験値を溜め込んでるからちょっとヤバめな願いもいけるか」
トール拠点で生産されているMOD産チートアイテムの一つ、EXP薬。服用するとグレードごとに経験値が加算されるぶっ壊れアイテムである。以前、経験値を別途溜め込む事ができる世界級アイテムの「強欲と無欲」を装備した状態で最大効果の物を三桁近く服用した結果、光り輝いた。爆発して破損したら泣くに泣けない為、溜め込む実験はそこで終了している。
「やばめって、世界の法則改変とかはやですよ、怖すぎる」
消費型の世界級アイテムにして、「二十」と呼ばれるぶっ壊れ中のぶっ壊れ性能の「永劫の蛇の指輪」であれば世界の法則に介入はできる可能性があるが、世界を汚すなと、かの竜王が出張って来るのは間違いない。
「あの竜王が激おこで突撃してきそうだ」
「そこまでヤバい願いじゃなくて…、ご近所に七色鉱の鉱山、ってのはどうだい?」
久し振りに報告会に参加した、あまのまひとつが提案する。後衛職以外のギルメン達が、異形種の姿にも関わらず笑みを浮かべた。
「「リベンジアンド、ゲットカロリックストーン!」」
イエー! とか手を打ち合わせるペロロンチーノとフラットフット。
「…イケるかな? 首都ナザリックの敷地、少し拡張して貰う?」
「そうですね。市街もデザイン含めて整って来たんで、崩したく無いですし」
「山脈を呼ぶよりは、地下墳墓から少し離れた外周近くに、地下の採掘坑を用意するか」
「墓地エリアの周囲に鉱山孔を開けたいけど、流石に完成済みの都市区画丸ごとを移動とか、流石のトールっちも無理じゃね?」
「まあまあ、鉱山が呼べるかもまだ不明なので、外壁の拡張と鉱山の召喚を試してみましょう」
さて、次の日。トールを招聘して墓地区画近くにある広場にて、七色鉱の鉱山の一つを召喚する実験が行われる。
「ほー、この世界では存在しない鉱石か。少しだけでいいから、材料として譲ってくれないか?」
ユグドラシル産の装備類の中で、どうしても解析ができなかったのが七色鉱を始めとした、現実には存在しない材料に使った装備類だ。コピーも不可能、解析も不能と、物理的には存在し得ない魔法的な代物か、何か異次元の物質の可能性があると結論付けられている。その上で解析は続行しているが。
「成功したら是非、貰って下さい。熱素石を精製する程の量でなければ問題ないです」
「では第一弾、セレスティアル・ウラニウムの鉱山から行きますよー」
のほほんとした声でモモンガさんが手をふる。そして、再び超位魔法の魔法陣が展開された。
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始原の魔法に匹敵する超位魔法の気配を察知したツアーが、住処で飲みかけのビールを盛大に噴いた。一応、法則の改変は無く、世界の軋む悲鳴は無いが、異常なまでの力が集まった事に背筋が寒くなる。最終的には力の波動が霧散したので安堵する。
「何をしているんだい、アインズ…」
人化して、人間の酒類を昼間から飲んでいたツアーは、こぼしてしまったビールをブレスを軽く吹いて片付けると、次の鎧便で詳細を尋ねる事を決めた。
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だがツアーよ、あと六回は噴き出す事になるので、飲み物を飲むのは終わってからの方がいいぞ。
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結局、この後六回、都合七度、ツアーは飲み物を吹き出した。後でアインズさんに問い詰めた結果、鉱山を領地内に呼び出したと聞いて、ピクニック以来の失意体前屈をキメる事となる。
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実験結果…大成功。AOGの面々は狂喜乱舞である。クールタイムを置いて、次々に七色鉱の鉱山が召喚された。弐式炎雷とフラットフット達が順番に調査し、目的の鉱石の入手と、リポップの確認がされた。
「場所的に不格好になるが、ま、今の都市配置からして全部をずらせないだろうから仕方ないか」
「できれば地下墳墓を囲う土壁の外周に設置したかったですけどねぇ、さらに周囲を囲って、墓地を配置とか」
土壁の内部にはメイドロボのナンバーズ用の整備設備が隠されているので、これを崩す必要がある。
「ん? トールさん、何してんの?」
「え、召喚された鉱山をワークショップでチェックしてる。ふむ…あ、デミウルゴスとパンドラ呼んでもらえます?」
「「「???」」」
AOGの面々は首を傾げつつ、スクロールで<伝言>をモモンガさんが使って二人を呼び出す。トールは周辺の区画地図を取り出して、早速何やら相談。デミウルゴスはなんか感動して、その上で大きく頷いている。パンドラは表情が変わらないが、なんかその場でクルっとターンして、ずびしっと手を出す。モモンガさんの精神安定化が発動する。
「お待たせ致しました。この度は七色鉱の鉱山の召喚、成功をお祝い申し上げます」
「私、ひと目で良いので「熱素石」を拝見したいと思っておりましたっ! …おっと、興奮が抑えきれず申し訳ございません」
「えーっと、二人共トールさんと何を相談していたんだ?」
しきりに首を傾げていた「ばりあぶる・たりすまん」が聞くと、パンドラズ・アクターが手に持った比較図面を全員に見えるよう広げた。デミウルゴスは、手に指示棒を取り出して説明を始める。
他のギルメン達は図面を見ているが、モモンガさんは上に出ているパンドラズ・アクターの顔が気になって仕方ない。
「相談しておりましたのは、ナザリック地下大墳墓周辺への鉱山の移動と、周囲外壁の設置におけるデザイン、墓地区画の再配置と、それに伴う首都ナザリックの全区間の拡張と移動でございます」
「…質問、今から移動ってできるの?」
「はい、そう聞いておりますが? というか今、トール殿は着手しておられます」
「「「!?」」」
視線を移せば、トールは地下大墳墓の遺跡オブジェクトの上に立ち、ワークショップを起動して偽装用の墓地区画を一時格納、土壁に覆われた地下大墳墓の周辺に七色鉱の鉱山を一つ一つ移動して配置している。
鉱山はワークショップ上では移動だけができるオブジェクトとして認識されていて、撤去、格納ができない。トールはデミウルゴスの設計の通り鉱山入り口を配置し、周辺をデザイン済みの外壁で囲った。そして墓地区画を再配置する。
「最初は外周行くぞ」
「御随意に」
首都ナザリックでは緊急放送により、区画の移動が通達されていた。訓練されているシモベ達は、慌てず騒がず、近くの建物内に避難する。
「よ…っ、こらせっ!」
首都ナザリックは、王国の王都の大体二倍程の面積を持つが、今回の追加整備計画により面積が三倍に広がる。周囲を囲う外壁が等間隔に割れ、音も無く前進。位置に着いた所で、空いた部分に同じ外壁がそびえ立つ。
「南方面の門周辺で1m程のズレだそうです」
「了解!」
デミウルゴスの指示で位置を修正。完璧な等間隔と綺麗な曲線を描く外壁が完成した。遠目で見ても破綻は見えない。
「んでーはっ、切り分けられたピザのごとく、各区画をお願いいたしますっ!」
ギルメン達が呆気にとられる中、モモンガさんは精神安定化が連続で発動中。というかなんでポーズを取って回るのか。
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十分もしない間に、首都ナザリックの区画整理というか移動が終了した。全体的に区画の周囲に空き地ができている状態だ。ピザを綺麗に切り分け、それを外に向かって引っ張ったような感じだろうか。
「ふいー、終わった。できるだけゆっくり全体を動かしたが、シモベ達に怪我は無いか?」
「今の所、そのような報告は来ておりません。お疲れさまでした、トール殿」
「空いた部分に配置する建物のデザインは、また今度にしようか」
呆然としていたギルメン達が、一斉に再起動した。
「「「何してんの荒野の災厄!?」」」
声も揃ってツッコミである。
「何って…、拡張工事? デミウルゴス、埋設ケーブルに影響が出てる筈だから、発電所勤務の悪魔達に、電気工事担当のMrハンディを連れて巡回をするよう伝えてもらえるか?」
「かしこまりました」
Fallout4に実装されたハウジングシステムでは、一度設置したオブジェクトを移動する際、一塊になったオブジェクト全てを一度に移動させる機能があった。揃えた床や建物を同じ居留地で移築するのに便利だった。
また、首都ナザリックに敷設されている電気網は現在、全区間が切断されて停電している。既に発電所は送電を休止中だ。
「あ、鉱山が正常に採掘できるか、再度見てくれないか?」
「い、行ってくるけどさ…」「事態が飲み込めねぇ!」
「…都市ごと全体がまるっと動くとか、拡張工事ってさらっと言うトールがやばい」
「また広くなるのか。あ、それでデミウルゴス達を呼んでデザイン的な破綻が無いかとか確認したのね、納得」
「地下大墳墓は動かせないのか?」
「無理。移動不可のオブジェクトになってる。撤去とか格納もできない。鉱山は移動だけできた」
ツッコミ疲れたギルメンは、墓地の外壁に跳び上がって墓地区画を見渡したりしている。デミウルゴスとパンドラズ・アクターによる、鉱山採掘に適しつつもデザイン面を計算した配置に感心している。
「あれ? 墓地の近くに小川と池も作ったの?」
「ああ、これはAOGのプリドゥエン用の格納庫。地下大墳墓から離れた位置なら地下を掘れたから、デザイン用意してたやつをついでに配置した」
「「「格納庫ですとぉ!?」」」
子供心を忘れない、AOGの男性ギルメン達が目の色を変えて集まった。一部男性メンバーは苦笑し、女性陣は不思議そうに首を傾げている。
「実用性無視だけど、森林からの発進よりは見応えあると思う」
「それはそれで見たいな!」「出る際に鳥とか飛び立つんだろ、そうだろ!?」
急いで鉱山の調査に行った、弐式炎雷とフラットフットが戻ってくる。
「鉱山は問題なく採掘ができる事が再確認できたぞ…って」
「何、どうした?」
「あの池、飛行船の地下格納庫なんですって!」「なんだってぇ!?」「まじかよ!」
「水中格納庫への着艦とか発進はロマン!」「夜中にする? 日中にする?」
「「「両方見たい!」」」
なんだかわいわい盛り上がる。
「件の船は整備でうちの拠点だから、発進と着艦テストはまた後で。帝国から帰ってからな」
それを聞いた男性陣が、一斉に失意体前屈になる。落胆具合が激しいのが、たっち・みーとウルベルト、そしてモモンガさんだ。いきなり何が起こったか理解できないデミウルゴスとパンドラズ・アクターがオロオロしていた。
「あー二人共、そんな心配しないでいいからね」
「私達はわからないけど、男はみんな、一度は見たいと思うものなのよ」
「正式にあの船で出る前に、名前、決めないとねぇ…」
まだ決めてなかったのか、というツッコミは誰もしなかった。
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