荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
高速艦 スキーズブラズニル
戦闘艦 ナグルファル
拠点艦 フリングホルニ
※大まかなイメージのため、正式発表時の名称は異なる場合があります。
バハルス帝国の首都、帝都アーウィンタール。近隣国家群の中でも抜きん出て発展している都市であり、人間種だけでも様々な髪色や肌の色の者が集まる人種の坩堝である。
帝国兵士が高い頻度で巡回しているため、裏通りを好き好んで無防備に歩かなければ、昼間であれば女子供も安心して歩ける治安の良さだ。
市場や商業区域は盛況で、様々な品物がやり取りされている。またゴミ類についても、スラム等の下層民や単純労働奴隷を積極的に雇用して掃除をさせており、とても清潔だ。
「何から何まで違いますね。王国とは大違いだ」
「もう消えたけど、何を根拠に帝国に勝つ積りだったんだろな、王国の貴族達は」
「信じたいものを信じて殉じたのでしょう」
モモンガさん達一行は、雑談の傍ら、馬車の外の光景を眺めている。窓に張り付きたい所だが、そこは大人であるからして自重した。
「宿で手続きを終えたら、魔道具類の多い場所に買い物に行きましょうか」
「俺らは帝国に用事がなかったからあんまり知らないけど、色々便利なのがあるらしいっすよ」
「おおー、楽しみだなぁ。…あ、予算って大丈夫なんです?」
始まりの九連星は活動が長く、高級宿にもさらっと泊まる程には資金はある。だがモモンガさんは彼らの傭兵としての仕事には殆ど何も貢献してない訳で後ろめたい気持ちを感じている。
「引退時に預かってもらってた大量の素材と一緒に来たんですから、全く以て問題無いですよ」
「あまのまひとつさん達、すげぇ喜んでたからなぁ。俺らの人化の装備、防具はトールさん頼りだったし」
トールの手によるバリスティックウィーブ強化の装備は、物理防御力はたしかに90レベル相当だが、魔法的防御、状態異常への防御はほぼ皆無で心もとない物だった。耐性装備はデータクリスタルを解析して製造していたものの、素材の問題か、ユグドラシル時代と同じく限界量があった。
四苦八苦しながら製造メンバーはギルメン達の為に装備を用意していたが、あっちを立てればこっちが立たずと、せいぜい60レベル相当の装備しか作れない事に忸怩とした思いだったらしい。
「嵩張らない範囲で、この世界でもまああってもおかしくない装備を沢山作ってもらったので、それを売却して予算に充てるんですよ」
七色鉱の鉱山、ついでで中位の素材は取れますからとベルリバー。
ただ問題があるとすれば、中位の素材であってもこの世界の最硬とされるアダマンタイトより頑丈だ。今回は採掘で余剰が大量に出た、アダマンタイトやミスリルを使った売却用装備類を多種取り揃えている。使う素材量はこの世界基準ながら最高峰の製造系職が携わる訳で、この世界の英雄物語で語られるような装備が山程作られてしまっていた。
「ついカッとなってやった、今は満足している」
「うふふ、姫騎士装備とか、作ってみたかったのよね」
「中位以下とはいえ、データクリスタルも気にしないでいいからなぁ」
先日の鉱山召喚により、あまのまひとつ、スーラータン、ばりあぶる・たりすまんは超ノリノリで売却用の装備を仕上げたそうな。データクリスタルは下位の物を中心に、少し気が利くかな程度の効果(※ユグドラシル基準)を付与してある。
ただ市場に出されたそれが、一騒動起こす事を彼らは知らない。
閑話休題。
「成程、お土産を沢山持って帰れそうですね」
「宿に着いたらトールさんに連絡して、こっちに来てもらおう」
「部屋から出てくるの、まずくないです?」
「あー、どうするんだろ?」
「宿に着いたら連絡だけくれって言ってたけど…」
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今回の宿泊は、元帝国貴族の屋敷を改装した物を借りた。結構なお値段であるが、全サービス込みの宿を一週間借り受けるよりは少しだけお安い。どうせ、食事その他はナザリックからメイド達が来て嬉々としてお世話しに来るのだから。
モモンガさん達は、屋敷付きの案内人の一人に挨拶をして馬と馬車を預ける。
「ご利用後、屋敷内の状態を確認して場合によっては修理費用を請求する場合がございますのでご容赦願います」
調度類は殆ど売却して最低限か入れ替えはされているのだが、それでも高い物は置かれているため、破損しないよう言い含められた。
「わかった。清掃については部下が行う」
「これを。少ない額ですが、ご家族へお土産でも」
「ありがとうございます」
案内人にベルリバーがチップを渡す。元貴族仕えの者のようだが、粛清の嵐により勤め先候補が少なくなった為、この仕事をしているのかもしれない。
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屋敷内の調査は完了していた。帝国を活動範囲に収めた黒の絨毯によるものだ。命令により屋敷内を闊歩しないようにしているため、彼らが苦手なギルメンや守護者も驚かなくて済むだろう。
「トールさんに連絡は?」
「さっき送りました。15分程で着くとかなんとか…」
既に敷地内には他の目も無いので、ファストトラベルでも使うのだろうかと首を傾げる。帝国にはファストトラベルビーコンの信号を拠点に送信するものは用意してないはずだ。
「あ、そういえばこれを広い所に使ってくれって言われてたんだっけ」
ペロロンチーノが、馬房のある土の庭の中心に球形の物体を投げる。弓以外の投擲も得意なので、丁度中心に落ちた。
「○に、H?」
「どっかで見たような…」
「今のうちに、プレアデスの誰かを呼びます。ナンバーズはどうします?」
「うーん、1ダース呼んでおきましょ」
屋敷周辺に偽装と隠蔽関連の魔法や魔道具を用いてから、転移門を使った。ナンバーズを引き連れたユリ・アルファと、トール拠点のメイド服を纏った…やまいこが現れた。
「な、何で試着の部屋からこっちに!?」
「「「どゆこと?」」」
モモンガさん達も、やまいこも混乱中。
「トール様も暫く此方に滞在との事でしたので」
ユリがしれっとした顔で言うと、モモンガさん達は生暖かい目で見る。やまいこは、人化した姿でちょっと恥ずかしそうである。
「ふむ…ご奉仕プレイか」
「おい」
思わずエロゲバードマンにチョップを入れるモモンガさん。やまいことユリがトールとの交際をし始めて日が浅いのだが、流石にどこまで進んでいるかは聞く訳にも行かない。
「もー、デリカシー無い人は地面に埋めますよ?」
「すいませんでした!」
ナンバーズはそんな様子も何処吹く風、屋敷内の確認とお世話の準備のため、二体を残して一斉に居なくなっている。他のギルメン達の身代わりであるグレータードッペルゲンガーは、外から見て目立つ部屋に入って、演技がてら部屋で過ごす。
「そろそろ、伝えられた時間じゃないですか?」
やまいことユリを加えて、モモンガさん達はマークされた土の庭へ。
「これって…ヘリポートのマーク?」
「ああ、それか!」
やっと思い出し、はちゃーと言った感じで額に手を当てるベルリバー。
「え、トールさん何か航空機でこっちに?」
トールの拠点には、装甲化されたベルチバードがある。空中の警戒が薄い王国であれば、簡易的なステルス化をした状態でも自由に飛び回る事ができるが、AOGの面々は大抵、空を飛ぶ能力やスキル、魔法か魔道具があるので、ほぼ出番が無い。
「いや、特にそんな話は…」
と言った所で、空を飛んでくる何かに気付いたペロロンチーノが上を見上げた。視界内には何も飛んでは居ない。尚、空からの侵入については、帝国は少なくない予算を投じて対策を取っている。
「あれだ!」
指さされた先は、この屋敷の丁度上空だ。空中が何かテクスチャのように消え、そこから人型が現れた。トールのパワーアーマーだろう。空中で軽く前転してから、マークされたポイントへ着地する。轟音が響き、地面が揺れた。
『またせたな』
未来世界では古典となった、ステルスアクションゲームの主人公の名言である。モモンガさん達は無言だ。トールは反応が薄いので通じなかったかと半ば顔を赤くしながらパワーアーマーを解除。
「概ね時間通り…って!? あの距離、空を飛んで来たんですか!?」
「ああ、有人での緊急展開ブースターのテストだ。
少し寒かったし揺れが酷いしで、遠距離は緊急時以外には二度と使いたくない。いかに転移門が楽かわかった」
疲れた表情で愚痴るトール。帝国の対空警戒網はステルスと速度で無理矢理突破したらしい。
今回のパワーアーマー用試作緊急展開ブースター以外に速度を更に重視したパワーアーマー用VOB(バンガード・オーバードブースト)もあるが、トールやモモンガさん達プレイヤーでも無ければ、使用中の加速で失神するだろう。
尚、双方ともに拠点でのテストではシズ・デルタのお気に入り装備である。ガーネットが現在、首都ナザリック上空でのテスト準備を進めてたりする。
閑話休題。
「所で、その後ろでユリの背中に隠れてるのは、やまいこさん? 似合ってますけどなんでまた、メイド服を?」
「あうう…」
目敏いトールが、ユリの後ろに居る見慣れない格好になったやまいこを見る。
「ご奉仕プレイがご希望です」
「ペロロンチーノさん!?」
「勇者かっ!」
全力で回避・逃走姿勢になりながら言うと、いつもなら間髪入れずに鉄拳制裁が飛んでくる所、恥ずかしいのかユリの背中に顔を埋めた。
「ふむ…。かなり興味はあるが、まずは着替えて皆ででかけようか。あとペロさん」
「何何?」
トールは近付くと両手の平を差し出した。意を汲んだペロロンチーノが、ピシガシグッグッ→ドーン、とやる。
「彼女のいい顔が見られた、感謝する」
「こちらこそ!」
お互いガシッと握手。二人共とても良い笑顔である。
「素でこれをやれるのか…」
戦慄するベルリバー。
「トールも来た事だし、早速繰り出すとしよう。ユリ、済まないが屋敷の方は頼む」
「仰せのままに。ではやまいこ様、とても残念ではございますが、お着替えを」
「やまいこさんはどうする?」
「…ボクは屋敷で待ってるよ、こんな顔で表とか無理っ!」
俯いたまま、やまいこは顔を覆い隠して屋敷にダッシュ。ユリは一礼して後を追った。
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「凄く可愛いでしょう、やまいこさん」
自慢気に言うトールだが、モモンガさんとベルリバーは少し呆然としている。ペロロンチーノはぶっ飛ばされていない事に安堵していた。
「いやなんというか、あんな感じの彼女、初めてですよ…」
「ユリとは違ってアップしたポニーテールですが、今はユリが姉っぽいなぁ」
「いつもなら、やまいこさんの方が姉なんですが…」
リアルの彼女を見たことのあるモモンガさん達だが、ユリが若い頃の彼女である事を知っている。この世界に来てより人化した姿の彼女はユリより少し歳上程度の姿だったが、並んでみてもほぼ双子かあるいは姉妹に見えるだろう。
「…トールさん、例の件、お願いします」
ベルリバーが覚悟を決めた顔でトールに伝える。
「了解だ、ベルさん」
男の覚悟に、トールも真剣な顔で答える。
「流石に、限界だったんですよね…」
「いいさ、ベルさんの期待に答えられるよう、全力で準備しよう」
二人は頷いて、真剣な顔で握手を交わす。
「え、何、何の話?」
何の事かわからないモモンガさん。
「いいなー」
「え、ペロロンチーノさん、何の事かわかるんです?」
ちょっと口を尖らせつつも、諦めた表情のペロロンチーノ。
「個人用カスタムメイドのメイドロボです。あっちも大丈夫な大人向け高級機だそうですが、俺はシャルティアが居るので候補から外れちゃいまして…音改さんとベルリバーさんが羨ましい!」
「羨ましいとか、どうせメイドと御主人様プレイとかシャルティアとしてるんでしょ!」
ベルリバーがジト目で問う。
「やってるに決まってるでしょうが!」
「羨ましいんですから、嫁持ちはだまらっしゃい!」
丁寧な口調も忘れて言い合うベルリバーとペロロンチーノ。音もなく、モモンガさんはくだらない言い合いを始める二人の前で崩折れた。
尚、先日トールからレトロなメイド服を譲ってもらったアルベドと、色々楽しんでしまったのは心の棚に置いた。
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都市の送電計画会議に出席して遅れたウルベルトは、ぽこぽこした叩き合いをしているベルリバーとペロロンチーノ、崩折れたモモンガさんと、宥めようとしているトールの姿をして困惑したという。
「んだよ、そんな事で争ってたのか」
「人化したときは深刻なんですよ…」
「ウルベルトさんは、その、どうしてるんです?」
「最近、トランキルレーンのパスを貰ったが…」
「まさか、ウル×デミ!?」
「違うわっ! …人化した、魔将の一人にそのな、頼んでる」
「「「あー」」」