荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
「お願いでありんす! あちきに力を!」
「何で私に相談なんです…」
「…シャルティアの望みなら、仕方ない」
「血涙流す程に悔しがるとかホラーか」
第三階層、シャルティアの守護領域に呼ばれたトールを待っていたのは、部屋の端で膝を抱えて黄昏れるペロロンチーノと、まるで乙女のような(失礼)感じで涙を湛えて見上げるシャルティアの姿である。
色々と話を聞けば、何のことは無い。慎ましやかなシャルティアの胸についてである。
聞き終えたトールの顔が、思わずチベットスナギツネ顔になったのは仕方ない。
「流石に、ナザリックの面々を此方の技術で弄るのは不可能です。それを踏まえて、人化した姿の改造か、一時的な改変が候補です」
「一時的で」
「せ、殺生でありんす…」
即答のペロロンチーノ。
「一時的ならまあ…、ナザリックギアの変身モードセレクタに、外観に加算するスキンを導入する事で対応できるかな」
ナザリックギア。ユグドラシル由来の魔道具とFallout世界のMOD追加コラボ魔改造な、設定形態への変身モードを有する装備アイテムである。
守護者へ提供されているタイプは至高の御方々と同じ高級モデルの為、偽装人化の外見を複数登録できる。登録情報はトール提供のMODによるスキンも使うことができ、必要に応じて様々な外装を使用可能だ。
「あの、感覚はどうなるでありんす?」
「偽装人化のスキンだから、ちゃんとあります。とりあえずペロさんはほっといて、変えたい体型の候補を聞きますね」
トールはインベントリからターミナルと、専用の拡張機器を取り出してテーブルの上に置く。この拡張機器は、以前、ゲーム用にと開発した外部演算用のユニットで、ターミナルと同じ性能を映像処理に特化させている。
表示されるのは、ナザリックギア作成時にスキャンしたシャルティアの体型データを3D化した物だ。全身タイツっぽい色合いにしてあるのは、流石に友人の嫁兼娘のヌードモデルを表示するのは気まずいというか、一応は配慮である。
「さて…相変わらず、この状態で既に完璧なバランスだな」
「そうでしょう!?」
「はいペロさんどうどう…シャルティア、何の位にする? 余り大きくするとこの完璧なバランスが崩れるが」
「あの…まずは此位で…」
シャルティアはいつものドレス姿で、自分の胸を指す。多重パッド入りという設定は、シャルティアをモデリングしたデザイナーが巨乳で外見を作ってしまったので、ペロロンチーノはせめてもの抵抗でパッド入りとして貧乳設定をねじ込んだ為だ。
「ふむ…此位か」
「お、おおお、おおおおおおお!」
画面上のモデルであるが、自分の姿できちんと胸がある事に、シャルティアはいつもの口調を忘れて見入っている。
「ほほう、これはこれでギリギリのラインか。デザイナーさん、凄い造形感覚だったんですね」
「ええ、今居ない事がとても悔やまれます…」
「あ、あの、これで、これでお願いするでありんす!」
はいはいと、トールは表示モデルをベースにナザリックギアのスキンデータを生成すると、ブランクのホロテープを入れて記録する。それを預かっているシャルティアのナザリックギアに差し、データをインストールした。
「おっと、早速使う前に…」
「な、成程…」
いきなりセレクタを使おうとするシャルティアを止めてほしょほしょと耳打ちすると、シャルティアはそそくさと隣の部屋へ行く。
「どうしたんです?」
「今の状態で変わると、服装プリセットが無いので体型だけ変わって、パッド入りの胸がえらいことになります」
「おk、把握」
少し待っていると、隣の部屋で歓喜の叫びが聞こえた。どたばたと戻ってくる。
「跳んでも跳ねてもズレないです! ああ、これが持てる者の悩みという、贅沢な重みっ!」
「…これはこれでいいな」
「切り替えられますし、まあ彼女のコンプレックスですから、理解してあげて下さい」
ペロロンチーノは気分を切り替え、偽装とはいえ生身となった胸を嬉しそうにぐいぐい押し付けてくるシャルティアを抱きしめた。
「これはこれでよし!」
「切り替えはえーなおい」
思わずツッコミを入れる。
「それじゃ、何か問題出たら連絡を」
「ありがとうでありんす!」
「服デザ、ウェイストランド産で面白そうなのあったらよろー」
多分、変わった体の確認に、すぐさまおっ始めるんだろうなぁと苦笑しながら、トールは転移門を潜っていつものログハウスに向かった。
-
-
数時間後、再びトールはシャルティアの部屋に呼び出された。
「で…今度は何の相談なの?」
「陥没か普通か、重要じゃないですか!」
仁王立ちして主張するエロゲバードマン。シャルティアが顔を赤くして俯く。トールはチベットスナギツネ顔になった。
「…ペロさんの部屋に、シャルティアのギア専用にツール置いとくのでご随意に」
「やったぁ!」
「か、陥没でありんすか!?」
後に、このツールで偽装人化をカスタマイズしたシャルティアの姿にアウラが驚愕する羽目になる。
「やーい貧乳!」
「そっちこそ貧乳でありんすえ!?」
「私は将来があるもの。こんなパッドなんか入れ…えっ!?」
少し強めに押せばいつもはズレる筈が、柔らかくハリがあって、そして重い感覚がする。
「これ偽装なんでしょ!? なんで柔らかいの!?」
「こ、こら、やめるでありんす! 」
オロオロとするマーレを尻目に、何だかキャットファイトを開始するアウラとシャルティア。
「び、敏感なんでありんすから、乱暴にしないでくんなまし!」
「感覚あるとか、どういうことー!?」
ナザリック乳比べ、偽装とはいえ脳内での番付が入れ替わった事実に、アウラは愕然とした。
「偽装人化でありんすが、あちきはペロロンチーノ様とトール殿が仲良いでありんすから」
「あ、あたしもちょっと頼んでくる!」
だが、ぶくぶく茶釜の許可が降りず、アウラは暫くちょっとやさぐれる事となった。シャルティアはかつての自分を見ているかのように、妙にアウラに優しくするようになったらしい。
「背伸びするのもまた尊し!」
「意外とひでぇな姉ちゃん…」