荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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Falloutの二次創作については、今の所は予定は無いですね。
というかそろそろ農繁期なので余裕が無い。

さて、頭髪の心配されるジルクニフ登場。


追記:確かに表現が変だったので修正


死の支配者と帝国の皇帝

 昨日受け取った報告から、バハルス帝国の皇帝が直接、屋敷に来る事がわかった。モモンガさん達は少し早めに起きて準備をしている。ウルベルトは物凄い嫌そうな顔をしながら、念入りに隠蔽を施している。モモンガさんも同様だ。

 

「…影の悪魔から報告、ジルクニフ帝が城を発ったそうだ」

「それで、此方に向かっていると…」

「まじかー…いやほんと、まじかー」

 

 ペロロンチーノは他の面々と同じく、ナザリックで仕立てた(作・スーラータン)制服をメイド達によって着付けられている。因みに元のデザインは少し古風な軍服なのだが、実はモモンガさんの所有物を元にしてある。

 

「これ、ネタ装備なんですけど本当に良かったんですか?」

「え、カッコいいじゃないですか! …異形種の姿だとえらいことになりますけど」

「骨に豪華な軍服か…。こういう所のセンスはいいんだよな、こういう所は」

「ネーミングセンスは壊滅的な所が、天は二物を与えずというか…」

「本人も自覚あるし、その辺で…」

「ううっ、いいですよもう…」

 

 トールの気遣いが痛い死の支配者である。

-

 さて元となった軍服型装備はモモンガさん的にはネタ装備ではあるが、実は伝説級の代物である。七色鉱をふんだんに用いており、前衛系と便利系のデータクリスタルを使って作られた、特化型ではないもののソロ探索に向いた装備だ。ただ術者系の効果がほぼ無いので、その点を考慮して「ネタ装備」としている。

 他の面子の装備については例の鉱山の素材で聖遺物級の物が出来上がった。必要金貨については、デザインを見たトールがノリノリで提供した金塊が元である。王国、帝国金貨に加工して細々と放出してはいたが、ナザリック勢も遠慮するし、いい加減使い道が無かった。つい最近、金の卵を生むガチョウ召喚ガチャ(傭兵モンスター召喚)をトールが再度やってみた所、用意した二百枚の召喚スクロール中、実に九割で召喚が成功してしまい、金素材については余っていたのである。

 

「少女漫画系の軍服っぽい」

「キラキラ加減が確かに」

「よおし、全員分作れるよう援助するかー」

「「「!?」」」

 

 男性デザインは比較的すぐに完成。あとは個々のアレンジのみだったのだが、難航したのは女性デザインである。尚、スーラータン用含む。

 

「ズボンだ!」「フレアか、タイトか!?」「ミニスカ、いいよね」「ガーターベルト見せたい!」「ちょwwww」「ニーソじゃー!」「いやショートで!」「パンプス?」「ブーツでも…」「ロング、ロングで!」etc…。

 

 男性陣を置いてきぼりに「女性四人で」喧々囂々のデザイン会議の末、上着はともかくとして、腰以下は「他三人の意見で」個々にデザインされる事が決まった。

 

「ボ、ボクがショーパンニーソでサイハイブーツ!?」「ね、ねえ、タイトスカートにガーターベルトとか私ムチムチ感パないんだけど!?」「わぁい、フレアだと何だか新人士官ぽくて可愛いねこれ!」「これ要望したエッチ感通り越してエロでしょ…」

 

 女性陣のデザインお披露目は何故か延期となったが、男性陣が仮縫いで人化状態でお披露目した際は、女性守護者やシモベがもうキラッキラと目を輝かせた。アルベドとシャルティアに至っては鼻血を吹き出す始末である。

 

「し、辛抱堪りません!」

「アルベド、ステイ、ステーイ!」

 

 本人達は、日本人の容姿で着ている感覚なので微妙と称しているが、実はトールが「CHA+4」を装備効果で追加している。他のギルメン用の装備も同様だ。ユグドラシル装備とは別途計算される。

 メタ的な話、数値上はCHAが平均5あれば人間種としては平均的な所、リアルの値を元にした人化状態の個々人の数値は平均より上で、標準で8を備えるのが何を隠そうモモンガさんである。そこにCHAを+4する訳で、人外じみた(実際に人外だが)魅力を有している事になる。

 閑話休題。

 

「自分としては微妙ですが、皆さん似合ってるんでは?」

「そうか? 堅苦しいのは苦手だから、少し着崩していいよな?」

「…お、なんか悪っぽい感、でましたね」

「それ想定してデザインしてあるなこれ…すげぇやスーラータンさん」

 

 モモンガさん、ペロロンチーノ、ベルリバー、ウルベルトは、所有職をモチーフにした徽章を胸に付け、それぞれのパーソナルエンブレムをあしらったサッシュをかけた。

 ウルベルトは少し着崩しているが、細身の彼はだらしなさとワイルドさのバランスが取れている。尚、同じような縫製バランスなのがカワサキ用であるが、あっちはガタイがいいのでワイルドというか野生というかそんな感じだ。

 

「素敵ですわ…」「か、カメラ使って宜しいでしょうか!?」

 

 今回の着付け担当の一般メイド達は幸せ一杯と言った表情。一部は涎が出ている。スクリーンショットをいちいちアイテム使用で取るネタアイテムだった「カメラ」を使って、色々な角度から画像を撮影する。側で控えるナンバーズ達ロボメイドは無表情なので落差が酷い。

 

「所で…、なんでトールさんは着ないんです?」

 

 振り返ったベルリバーを見て、トールは眩しいものを見るように…いや実際眩しいのだが。

 

「神々しいなオイ。まあなんでって、みんなは俺の友人ではあるけど、俺はAOGの所属じゃなかろ。それに俺は、前世じゃこの服の方が着慣れてる。コスプレだけど」

 

 地味な緑色の軍服。徽章も無く、腕の所属部隊の位置には、ただ下地のような形が残るのみだ。早々に自分で着替え終えており、手には制帽を持っている。

 元は陸上自衛隊の制服、そのレプリカだ。生前、登録していた予備自衛官補から予備自衛官になれた際、任官で着せてもらったのに感動して別途自分で仕立てて貰ったものが元のデザインである。

 

「? それは確か、防衛軍の古い制服じゃあ?」

「よく知ってるな。俺の時代じゃ、陸上自衛隊だよ」

「…古いエロゲで出てたもので」

「さいで」

 

 偏っているが何気に色々と知っているエロゲバードマンに、苦笑するトール。

 

「その件は後で伺いましょう。ウルさん、後どのくらい?」

「そろそろ先触れ担当が着く。出迎えはユリ、頼む」

「かしこまりました。他のお付きの方の案内に、ナンバーズを同行させます。行きますよ」

「「「命令受諾」」」

 

 帝国の歴史に残る邂逅が始まろうとしている。色々な意味で。

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 ジルクニフは少し上機嫌だった。今迄自分の才を超える者は帝国にはおらず、かの王国の忌々しい王女は逝去した。既存の戦略は全て瓦解はしたが、それはそれで面白いと感じている自分が居る。

 考え過ぎは良くない、これからを考えましょうと、寵姫に言われた事も大きい。ただ、ちらちらと頭部を見られていたのは何でだろうか。

 

「何でそんなに嬉しそうなんですかい?」

 

 帝国四騎士の一人、「雷光」バジウッド・ペシュメルが疑問を投げかける。

 

「いや何、表向きは身分を隠して滞在してはいるが、あちらで噂になった魔導皇国の重鎮らしき面々と会えるのだ。他の世界から訪れたとの噂、確かめる良い機会だ」

「法国の神を超える、死の支配者の側面を持つ魔導皇国皇帝…本当に、神を超えるとお考えで?」

 

 帝国四騎士の一人、「重爆」レイナース・ロックブルズが、訝しげな物を見たかのように眉根を寄せる。

 

「何を証拠に神だとするか、定義は無い。だが、もしも確認している魔法の位階が、実力を隠していたとするなら…!」

「落ち着いて下さいよフールーダ翁、悪い癖だ」

「すまぬな、我が魔導の探求に必要な人物が居ると思うと、興奮が抑えきれぬ」

 

 上機嫌だったジルクニフが、頭痛を抑えるかのように頭に手を置く。美形なので絵になる。

 尚、モモンガさんとウルベルトは、得体のしれない怖気にぶるっと震えていた。

 

「…バジウッド、もしもの時は頼む」

「へいへい、わかってまさぁ。そろそろニンブルとナザミが例の屋敷に着く頃です」

 

 先触れと出したのは、「激風」ニンブル・アーク・デイル・アノックと「不動」ナザミ・エネック、帝国四騎士の二人である。二人共、礼節を弁えた騎士らしい騎士であり、特にニンブルであれば下手を打つ事はそうそう無い。

 尚、原作においてナザミは、(表向きは)報復として帝国を強襲したマーレのドルイド魔法で地割れに飲まれ、命を落としている。

 

「なあ、爺」

「なんでしょうか、陛下」

「いっそ、魔導皇国に恭順するのはどうだ?」

「陛下、それは!」

「冗談だ。…今の所はな」

 

 封建国家から専制君主制への改革を成し遂げ、各所を牛耳る貴族たちから位と特権を剥奪し、有能な者のみを召し上げて強固な地盤を固めるべく奔走してきた皇帝は、駆け抜けてきた今までが間違っていないと確信はあるが、今後の帝国を思うと、次世代に不安を感じている。

 最愛の愛妾ロクシーは血筋的に地位が低いが、実際の内縁の妻である。次世代を立派に育てると言ってくれた彼女の為、帝国の改革を推進してきた側面もあるのだ。

 傀儡で終わるか皇位継承の後継者争いという名の貴族共による代理戦争という、歴代皇帝が受けてきた血で血を洗う運命を変えたが、些か、走り続け過ぎて疲れを感じているのも確かだった。

 

(魔導皇帝。その統治は世界の終わりまで続いたという。ならば、願う光景のその先を知っているというなら…!)

 

 期待しているジルクニフには悪いが、モモンガさん達はガチで一般市民である。できるだけ穏便に、可能な範囲で帝国の状況をお手伝いして恩を売っておこうかな程度しか考えていない事を、ジルクニフ帝は知る由もない。

 その「お手伝い」の齎す結果が、色々な帝国内の問題を即時解決した上で、洒落にならない力の差を思い知らせてしまう事となる。そんな事をやらかす、うっかり骸骨と愉快な仲間たち、自重をどこかに置き忘れた荒野の災厄がこの世界に居る訳だが。

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 さて、帝国サイドはさておき、モモンガさんサイドである。事前の打ち合わせで矢面に立つのはモモンガさんになった。代わりというか要求で、帝国内での活動の際は、徹底的に身分を隠蔽する事を願った。王国では「大々的に」お忍びモモンさん御一行様を「正体を知らないふり」をする事が流行している。

 

「おお、あの人達が!」

「馬鹿野郎、この国が良くなる手助けをしてくだすった人達なんだ、お邪魔なんかするなよ!」

(ほう、ミジンコ共にしては配慮を弁えているのね)

(わかってますよー的な扱いが逆に痛い…)

 

 活躍を見た者、助けられた者も王国では多いためあまり騒ぎ立てする事はそれこそ不敬と、こっそり見守るスタイルが不文律となっていた。

 たまーに出てくるお馬鹿さんは、ナザリックのシモベが手を下す前に王国民側が対処してくれる。そのため、監視や護衛を裏から請け負っているシモベの感情が、以前の「虫けら共」から「偉大さを理解する奴ら」程度にまで評価が微妙に上昇している。

 

「そういやあれが様式美すぎて、王国だと吟遊詩人の歌になってる件」

「まじですか!?」

 

 あれ、というのは「貴様、モモン様に不敬な!」「止めろナーベ」「はっ、申し訳ございません…」という一連の流れである。そんなに頻度が高い訳でもないが、最初に戦士モモンの助力を得たという貴族の男が、大々的に戦士モモンの活躍を広めているのが要因の一つである。

 

「今度、まとめ映像とか見てみる? あったらだけど」

「お、いいねいいね」

「恥ずか死しそうだからやめて!?」

「モモンガさん、実はアイボット経由で王国各地から特に上手い奴は収集済み。今の所、五話分位ある」

「何してくれてんの荒野の災厄!?」

 

 ギルメン達は色々押し付けてる感もあったので、帝国における扱いについては了承する。

 

「ロールは…いつも通り? そんなんでいいんですか?」

「双方ご挨拶って奴だ。後で正式に使者を出して国交について話し合うだろうし、今回はお互いお忍びだからな」

「あー、だから人化でこの軍服」

「曲がりなりにも神話級と聖遺物級ですからね、少々威圧になっちゃいますが」

 

 神々しすぎて少々所ではない。

 

「ご歓談中失礼いたします、マスター。

 ナンバーズ21より伝達です。帝国の先触れの方がユリ姉様と接触中」

「うむ、じきにジルクニフ皇帝も来るか。失礼が無いよう案内せよ」

「主命受諾」

 

 ナンバーズ16が(ナザリックギアの拡張現実で解る)来たので咄嗟にお偉いさんロール。

 

「最初は学士モガで、機会を見計らってアインズ皇帝でいきます」

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 なんだこれは、と言うのがジルクニフが屋敷に入った直後の感想であった。確か、取り潰された貴族の物であった屋敷だが、歴史だけは長い名門ではあったものの、取り立てて裕福だったという事は聞いていない。

 

「こいつは…」

 

 バジウッドが思わずと言った感じで呻く。

 屋敷の中は、綺麗に清掃がされた上で、ナザリック的には最低基準の調度類が持ち込まれていた。華美ではないが、どれも見たこと無い意匠ながら優美であり、それでいて歴史を感じさせる落ち着きを見せている。

 尚、この準備についてはギルメン達のナザリック内の内装担当が首都ナザリックで「屋敷のコピー」を元に改築を行い、それを格納したトールがつい先程、先触れの到着直前に置換した突貫工事である。

 

「ようこそいらっしゃいました、バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス様。私は執事のセバス・チャンと申します。

 先触れの方々も、お通ししております。お連れの皆様もどうぞ此方へ」

 

 屋敷で出迎えたのはセバスだ。バジウッドもレイナースも、その佇まいに武人としての警鐘がガンガン鳴り響くのを感じている。

 

(只者ではないぞ!?)

(これ程の人物が執事とは…)

 

 騎士二人にわずかに緊張が走る。この威圧感は、カッツェ平野でガゼフが切り込んできた際の気迫を遥かに上回る圧力だ。咄嗟に剣に手をかけなかったのは、自制心からではなく一切の敵意が感じられなかった点、それだけである。

 

「礼を言う。行くぞお前達」

 

 ただならぬ雰囲気を感じたが、ここで気圧されては皇帝の名折れとジルクニフが前に出る。秘書官のロウネと…なんだかそわそわしっぱなしのフールーダがそれに続く。

 

「落ち着いてくれ爺…」

「はっ、申し訳ございませぬ」

 

 バジウッドとレイナースは、もしもの場合に備えてフールーダをいつでも取り押さえられる位置に動く。

 案内された先は、応接室の前の準備室。部屋に入るとニンブルとナザミが席を立って待っているので座らせた。テーブルにはこれまた美しい茶器があり、カップからは湯気が立っていた。

 

「参る前にお茶を頂けるかな? 緊張で喉が乾いてしまったよ」

「畏まりました」

 

 軽い一杯の紅茶は香り高く、疲れ気味の脳がスッキリする感覚になった。紅茶などを特に好んではいないバジウッドですら、淡く感じる甘みに驚いている。

 

 身嗜みを整え終えたのを確認した所で、セバスが案内のために扉を開けた。

 

「モガ様、お客様をお連れしました」

「お通しして下さい」

 

 ジルクニフが考えていたより若い声が聞こえる。応接室は、広間と同じく落ち着いていながらも調和の取れた美しさだったが、それ以上に応接室に居た人物達が眩しく映ってしまい、思わず目を細めてしまう。

 

「ようこそいらっしゃいました、皇帝陛下。何分、急なお話でしたから大した準備もできず、慌てて体裁を整えた事をお許し下さい」

 

 目がなれて、あらためて見る。ジルクニフの目の前には、眼鏡をかけた柔和な顔立ちの男と、人相書きで見たことのある始まりの九連星の内3人、そして影の薄い男が一人いた。

 

「いや、私もせっかちな質でな。何も問題ないとも。私の事は既に知っていると思うので、貴殿の名をあらためて伺ってよろしいかな?」

 

 ジルクニフ側は事前の調査により、ベルリバー、ペロロンチーノ、ウルベルトの事は知っているが、目の前に居るモモンガさんについてはノーマークだ。恐らくは彼が魔導皇国の重鎮なのだろうとあたりをつける。

 

 衣服は一級品などという言葉が陳腐に思える程のもので、幽かに光り輝いて見える。そして四名は共通の意匠を持つ仕立ての服を、何の気負いも緊張もなく纏っており、それがとても良く似合う。フールーダからよく話題に上がっていたウルベルトは、少し着崩しているにも関わらずそれが自然であると思えるほどだ。

 

「これは失礼しました。私は始まりの九連星、最後の星、学士のモガと申します。他のメンバーはほぼご存知かと思いますので、協力者にして友人のトールを紹介しておきます」

 

 最後の一人、という点にひっかかりを覚えるジルクニフ。

 

「紹介に預かったトールだ。ル・シファー商会とは別途、物資などの支援を始まりの九連星にしてきた、しがない裏方だ。高名な皇帝陛下に拝謁できたことを光栄に思う」

 

 再びノーマークの人物だ。バジウッド程ではないが地味な色合いの衣装の奥には、鍛えられた体があるように見受けられる。背筋はすっと伸び、確かな修練と共に所作に教養を感じさせる。南方の衣装にも見えるが、そのどれとも似つかない。

 

(しがない裏方てwwwwもにょるwwww)

(裏方としか言いようが無いけどもにょるわ!)

(はいはい、ポーカーフェイスですよ皆さん。…もにょりますけど)

(おまいら…!)

 

 グループ会話の内容を顔に出さない面々。中々の面の皮である。

 

「皆さん、お座り下さい。かの皇帝を立たせたままというのも、具合が悪いので」

 

 着席した所で、メイドがお茶の用意を始めた。驚いたのは数名を除いて、同じ容姿のメイドが複数居た事である。フールーダの顔を見るが、困惑した表情で首を振る。

 

(完全に人のようでいて、わざとなのか耳と頭部に魔導器のようなものがある。魔法ではないゴーレム? いや、魔法の気配は一切感じられぬ)

 

 モモンガさんはお茶を勧めた。ナザリック農場で栽培を開始した高級紅茶だ。至高なる御方々が日々常飲するものだとして作られている。また、特別なお客様用としても使われる予定であるので、今回はテストを兼ねている。

 

「ジル、これは素晴らしい。先程戴いた物も良かったが、これはより頭がスッキリする」

 

 最初に毒味と飲んだフールーダが、目を輝かせた。続いてジルクニフ達が飲むと、味わいに驚く。バジウッドは一口飲んだ後、用意されている砂糖を二杯入れた。あらためて飲むと、ここでまた驚いた顔である。レイナースは砂糖の白さにも驚いている。

 尚、ナザリック産アイテムとしての飲食効果は、疲労の解消とMPの回復速度増加だ。これがどちらか効果あるとすれば、ジルクニフは働きすぎである。

 

「うむ…深く、優しい味だ。どちらの茶葉だ?」

「我が国で栽培しているものです。よろしければ、お土産に用意しておきます。疲労解消によいですよ」

(…顔には出ていない筈だが、観察眼は鋭いのか)

 

 勘違いである。ナザリックギア内蔵のPip-Boyに追加された、MODの疲労値あるいはAP値を解析する効果である。

 

「さて、先に訪問の理由なのだが…単刀直入に聞こう。貴殿らは、魔導皇国の重鎮だと聞き及んでいる。相違ないか? もしそうであれば、我が帝国は是非とも、友好な関係を結びたいと訪ねたのだ」

「何のことやら、というのは通じないですよね。

 …では、あらためて自己紹介をしよう」

 

 先程のちょいホワホワボイスはどこへやら。モモンガさんが魔導皇帝モードになる。

 

(…すげぇギャップ。実はモモンガさん、声優さんとかできるんじゃなかろうか)

(少年ボイスから男性ボイスまで幅広いよなー)

(今度、茶釜さんに評価聞いとくか。プロのご意見)

(はいそこー、そういうのは後にしてー)

 

 なんとも締まらないグループ会話とは別に、ジルクニフの方は緊張が走る。

 

「学士モガ、というのは世を忍ぶ仮の姿。

 我が真の名は、モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック。アインズ・ウール・ゴウン魔導皇国同列41皇の一人にして長、ナザリックの主、皇帝アインズだ。

 以後、見知りおくがいい」

 

 プレッシャー演出の為、一瞬だけ隠蔽の指輪を外した。流石に絶望のオーラ(マイルド)は自重している。ほんの一瞬だけその圧倒的な気配が漏れ出し、物理的に風が吹き抜けたかのように感じるジルクニフ一行。

 

「ただ、今は学士モガとしてここに来ている事を考慮願いたい。…よろしいですか?」

 

 指を口元でしーっとするポーズ。茶目っ気の積りである。

 

「あ、ああ、わかっ…」

「目が、目がー!」

 

 フールーダが目を抑えて椅子からずり落ちて転げている。極めて平静を保っているように見えて、モモンガさん達は慌てていたりする。

 

(え、どっかから攻撃!?)

(モモンガさん隠蔽外しちゃ駄目だって! 目潰し食らったようになってんじゃん!?)

(本当に見えてるのか…)

(大丈夫? このおじいちゃん?)

 

 隣のバジウッドが慌ててフールーダを助け起こそうとするが、突然バネじかけの玩具がごとく、背筋を伸ばしてピンと立ち上がった。

 目が飛び出し気味に見開かれており、呆けたように開いたままの口元にあるゴーレムを想起した、してしまった。

 少し前にエ・ランテルで暴れ(?)周った、ラバーチキン・ゴーレムを思い出してしまい、吹き出す前にナザリックギアのモードを人化から偽装人化にするモモンガさん一行。トールは一人、鋼の精神で笑うのを堪えていた。

 

(こういう時、便利ですねそっち!?)

(トールさんは大変ですよね)

(やべぇ、精神安定化してるはずなのに、笑いそう!)

(この間、ゴーレムに対抗してパンドラズ・アクターが変身したのを思い出しました…)

(わ、忘れてたのに! 恨みますよベルリバーさん!?)

(見事な、それは見事な「らん、らんらら、らんらんらん♪」でしたねぇ…)

(君達、ここに精神安定化とか、便利なのが無い人が居るんだから自重して!?)

 

 やはりどうにも締まらないグループ会話である。完全な精神安定化はモモンガさんだけだが、他の面子も異形種化する事で精神がある程度はフラットになる。人間のトールを除いて。

 

「至高の魔法詠唱者! 魔導の神よ! 私にどうか、どうか魔導の深淵を覗くご助力をぉおおおおお!」

 

 飛び掛かるような動作を見て、ジルクニフの顔がさっと青ざめる。モモンガさんは硬直し、ウルベルトはあちゃーと言う感じで天を仰ぐ。トールは敵対反応ではないので出遅れた。そして、帝国四騎士の動作は機敏であった。

 

「はなせっ、はなせぇえいっ!?」

「くっそ、妙に力強いから困る!」

「お鎮まり下さいフールーダ翁!」

 

 じたばたというかダバダバと暴れるフールーダをバジウッド達が一斉に拘束するも、思った以上の力で暴れる。はなせー!とか、至高なるお方よぉー!とか聞こえてくる。

 

「すまぬ、モガ殿…」

 

 ジルクニフが流石に青ざめた顔でモモンガさんに謝罪。なんか髪がはらりと少し落ちた気がするが、モモンガさんは気付かないフリをしてスルー。

 

「知ってはいましたから、想定内です」

 

 先程の威厳在る声とは変わって、最初の優しい声音に戻るモモンガさん。ジルクニフは、少し面食らった表情になるが「これが魔導皇帝、その器なのか!」と驚いている。

 尚、モモンガさんは聞いていたよりもホラーな上、今もダバダバした動きに内心はドン引き中である。ウルベルトはトラウマを刺激されたのか、そっとペロロンチーノの後ろに隠れた。

 

「フールーダ翁、落ち着いて頂けますか?」

「は、はい、魔導の神のお言葉とあれば!」

 

 ダバダバした動きがピタっと止まり、トールは流石に頬をひくつかせた。モモンガさん達は一度は戻しかけた偽装人化を寸前で止める。そして、なんだかいつもより背筋が通っているフールーダ翁である。

 

「その魔導の神というのはお止め下さい。もう覚えられる魔法も器の限界に近くなっていますから」

「あ、貴方様程の方が!?」

「ですが、それまでの探求はどれも無駄にはなりませんでした。火力こそ我が友には及びませんけれど」

「まあ、瞬間火力なら自負はあるが…我が友の深い知識と巧みな運用には敵わんよ」

 

 モモンガさんの行使可能な魔法の種類は七〇〇以上で、使い勝手の良い魔法に偏るきらいはあるが、ほぼ全ての魔法の効果を知悉している。

 

「フールーダ翁、探求の徒として、先駆として、こちらを贈ります。詳しい書物は私の行使可能な系統ばかりで恐縮ですが、貴方の魔法探求に役立てて下さい」

 

 目配せでナンバーズに命じて本を一山、持ってこさせた。

 用意したのは、最古図書館にあったユグドラシルの設定書や、魔法の名前とフレーバーテキストの網羅されたイメージブックなどなど、魔法関連のそれっぽい解説本をゲーム的なデータを省いてこの世界の言葉に翻訳したものだ。職業ごとに行使できる分野が違うので、そういった物を別々のデザインの本として作成してある。

 

 文字配置や画像編集については、電子書籍の出版社に務めていたク・ドゥ・グラースがそれっぽい感じで配置し、印刷後の本を時間経過加速の魔法を使って古びた感じに仕上げている。

 魔法陣などは、追加でモモンガさんが魔法の行使テストをした際の録画データから、映像を解析して画像データに起こした物を記載している。

 

 またFalloutのスキルブックならぬEXPブックとして効果を生産時に付与してあるものが一冊混じっている(アンデッドのビジュアルブックみたいな奴)ので、四〇レベル以上が対象だ。四〇レベル程度なら五〇レベルへ、五〇レベルなら55レベル程度まで上がるだろうそれは、トールの茶目っ気である。

 尚、後日それを読んだフールーダ翁は、得た知識との相乗効果でレベル五〇に到達、第七位階の死霊魔法を習得した。EXPブックは効果を失ったが、伝説級や未知の高位アンデッドの資料としては貴重な第一級資料として写本依頼が続出した。

 閑話休題。

 

「先に言っておきますが、私は教えるのは得意ではありません。ただ、そうですね…それらの資料を紐解き、第八位階に見事達したというなら、定期的にそれ以上の位階の魔法をお見せする機会を設けましょう。ウルベルトさん、それでいいですか?」

「ああまあ、見せるだけってんならいいぜ」

 

 これで人参をぶら下げつつも、爺様にペロペロされる可能性は大幅に減るだろう。ペロペロされるならアルベドに…いやいや、何を考えているんだ俺はとモモンガさん。

 

「第八、位階…! わ、私に可能であると!?」

「学び始める事に、年齢は関係ありませんよ。諦めたらそこで試合終了です。なるべくわかりやすく纏めた物ですが…そちらの死霊魔法をまずは見て下さい」

 

 ベルリバー達は、途中挟まれたネタに反応する。

 

(安○先生! バスケが…したいです!)

(そういやトールさん、生前にリアルタイムで元ネタ見てたんですっけ)

(百年後も○西先生ネタが残ってる事にびびる)

 

 震える手で、テーブルに置かれた本の一つを手に取るフールーダは、死霊魔法に関する本を開くと、食い入るようにそれを見て、ギョロギョロと文字列を追い、目を爛々と光らせ、口の端からは涎を垂らさんばかりに喜悦に染まる。

 

「こ、これこそはぁ! わしが求めてた答え、其の物ぉおおおお! わかる、ああわかるぞぉ!? そういう事だったのか!! うっひょひょぉおおおお!」

(((うわぁ…)))

 

 モモンガさん一行は、その光景にドン引きである。流石にジルクニフをほっとく訳にも行かず、別室でごゆるりと御覧くださいといった感じでナザミとナンバーズを同行させて追いやる。

 ナザミは「部屋の外でいいですか?」と疲れた表情。ジルクニフは眉間にシワを寄せて頷く。

 

「…大変、失礼した!」

 

 もう少しは威厳あるままでいたかったジルクニフだが、もう無茶苦茶である。また髪の毛が落ちた気がしたモモンガさん。帝国側の騎士達は、物凄く困った顔で黙っている。

 

「先程も言いました通り、想定内ですよ。ただあんなにはしゃがれてしまうとは、その点では想定外ですけどね」

 

 苦笑しつつ余裕たっぷりに言っているが、内心汗がダラッダラである。

 

(どこまで価値があるのか、魔法に疎い私では把握しきれないが、爺があのように喜び叫ぶなど、私の記憶では数度しか無い!)

 

 最近であれば、研究所に封印している死の騎士の捕獲時、ウルベルトの行使位階が判明した時だ。

 

「私の、我が国の意図はそう難しい物ではないのです。突然ではありますが隣国となりましたから、お互いが穏やかに暮らしていく為、これはほんのささやかな贈り物の一つですよ」

「対象が爺一人とはいえ、貰いすぎのような気もするが?」

「帝国は王国と違い、魔法詠唱者への待遇が高いですから。あの方がさらに実力を伸ばせば帝国はより盤石となり、生まれ変わらせ…いえ、生まれ変わった王国は待遇の改善に乗り出し、今迄以上に人間種のゆりかごに相応しくなりますから」

(やはり、王国の問題を尽く叩き潰したのは魔導皇国! だがゆりかごだと? …アインズ皇帝は、我々の統治を見て、まだ不足と判断しているのか?)

 

 違います。ゆりかごというのは法国の捉え方でそれを踏まえて言ってみただけです。魔法詠唱者の待遇改善については、もう少し高い位階が大手を振って使いたいなー程度の考えである。

 

「もう一つの贈り物なのですが…、此方を」

「これは…、貴国の発明なのか?」

「はい。今や首都ナザリックのみの我が国では使い道が無いものですから」

 

 白く均一な紙の束に書かれているのは、農耕、治水、都市計画に用いる事ができる様々なアイディアであった。上水道下水道、古代コンクリート、鉱山開発の手法、多種の農機具、土壌改良の方法など、元はかつての地球で用いられてきた技術だ。

 

「それと、此方でもル・シファー商会で売り出す物があります。効果を試した上で、できれば継続して購入頂きたい」

「ふむ。ロウネ、どうだ?」

「…詳しい詳細を伺いたいのですが」

「ではトール、説明を秘書官殿に」

 

 モモンガさんが目配せし、トールとロウネの間で相談が始まる。

 

「…これが本当ならば、人手をより多く有効に、工期の短縮まで!」

「あと、土壌改良にこういう肥料が…」

「真か!? く、資料も完璧か…」

「身構えなさんな。これを使うならこれが…」

「成程、こういう使い方はできるのか?」

「お、気付いたか。こうするとこうで…」

 

 なんだか盛り上がっている。帝国ではスケルトンを利用した農業の模索がされているが、フールーダの死霊魔法の位階はともかく、広く人員が必要な箇所で細やかな操作や命令が行える術者の育成は遅々として進んでいない。

-

 優雅にお茶を飲むモモンガさん。お茶請けを勧めた所、これにも驚くジルクニフご一行。ナザリックのパティシエ謹製、バターとチーズを主にしたスイーツである。

 

「私もバターは少し食すが、甘味にこのような使い方をするとは…」

「全くくどくない。こりゃあ美味い。レイナースはど…」

(もぐもぐもぐ…)

「気に入って頂けたようで何よりです」

 

 暫くして、晴れやかな顔で秘書官のロウネが戻ってきた。いくつかの資料に付箋を張っており、それをベースにジルクニフへ「理想的な数値となりますが」と前置きして、提案を受けた際の帝国内の整備計画進捗速度が、これまでの実に七割増しになると言ってきた。

 

「参った、これ程の贈り物、返すものが思いつかない」

「ふふ、それだけではありませんよ。ジルクニフ陛下、我が友に土地調査の専門家が居ますが、山等を調べてみる気は?」

 

 山を調べる。国家間では鉱山資源調査のキーワードだ。希少な鉱物は戦略物資である。

 

「…聞こう。国の生命線だ」

「以前、自然調査の傍ら、帝国内で確認した物との事です。資料は…これですね」

 

 帝国領内の地図が取り出された。ロウネとバジウッドがごくりと唾を飲み込む。ジルクニフは顔には出していないが、内心は驚愕に満ちている。余りにも詳細に描かれた地図だ。帝国地理院にも存在していない精度である。

 また髪の毛がはらっと落ちた。モモンガさんは、トールに頼んで毛生え薬をお土産に用意する事を決めた。

 

(トールさんの詳細地図だもんなぁ…衛星情報で補完した)

(この世界だとかつての地球のように、軍事機密ですからねぇ)

 

 地図には採取鉱物の予測点とその比率、想定規模が記載されている。また採掘時のゴミ処理についても別途添付の資料に記載がある。秘書官のロウネは、開発の算段を考え始める。

 

「帝国の財源となればいいのですけど…」

「いやいや、なればいいとか、本当にこれだけ鉱山があるとすりゃ、高い金払って都市国家側から色々仕入れる量が…!」

 

 思わず口走ってしまったバジウッドは、しまったという顔をするが、ジルクニフは肩を竦める。なんかもう一杯過ぎて、彼の器がでかいとはいえ満杯である。

 

(((どれだけ知られてしまっているんだ!?)))

 

 戦慄する四騎士だが、ジルクニフはもう驚きを通り越して笑っている。

 

「かつての王国貴族と犯罪組織に頭を悩ませていた事は知ってる」

「貴国の事情はまあ、色々存じ上げてますが、言いふらしたりはしませんのでご安心を」

「これが対処費用の代わりになればいいのですが」

「ま、王国はこれからマシになるから、多少は温情かけてくれると、友好国としては有り難い訳です」

「…成程」

 

 どうにか絞り出した一言。

 ジルクニフは、王国との戦争はもう止めろという意図があると考えたが、別段、モモンガさん達はそんな事は考えてない。どうしてもやるなら仕方ないとは思っているが。

 尚、ジルクニフは次善策として王国への戦略をいくつも構想していたのだが、一旦白紙に戻す事に決めた。王国自体はどうとでもなるし、あの王女が居ないならさらに容易だ。だが魔導皇国がどう出るかと考えれば、手ずから助けた以上は何らかの形で出てくるだろう。

 

「あとはそうだな。モガさん、実地を見て他の提案ができないか見て回るってのはどうだ?」

「今の所は資料だけですから、場所によっては特殊な手段が必要な所があるかもしれませんね」

「陛下、帝国領内で、使い道のない広い土地というか領地はありませんか?」

「? どうにもならない為、住人を退去させている元貴族の領地はいくつかあるが…」

 

 意図が全く読めず内心困惑するジルクニフ。他の帝国側の面子も同様である。

 

「飛び地として、魔導皇国が領地を必要としておいでで?」

「バジウッド!?」

「ああ、違いますよ。帝国が王国へ戦争を仕掛けている理由は把握していますが、もっと他に食糧問題を解決するお手伝いをできればと考えていたのです」

 

 モモンガさんが目配せすると、ウルベルトがそっと、帝国領土の地図…アイボットによる調査のためやたら高精度のそれを取り出す。先程の地図は山ばかりで拡大率も低めだが、此方は大きく拡大してある。都市など、区画の詳細すらわかる。

 

「まあ使える土地になれば、という所があったら印をつけてくれ。提案できる内容次第だが、悪くない取れ高は期待できるぞ」

「…ほら話、という訳では無いようだ」

 

 高精度にすぎる地図を見て呻くジルクニフ。

 

「陛下、信じるんですかい!?」

「わざわざ使い道のない土地をと言われたのだ、悔しいが見たものだけを信じる私も、この方達ならと信じてみたい」

 

 モモンガさんは静かにしているがにっこり笑う。ジルクニフは少し考えた上で、秘書官のロウネに確認を取り広げられた地図にペンで書き入れる。優先度と理由を付け加えたのは、せめてもの抵抗、あるいは矜持だろうか。

 

(ふむ。俺としては…ここだな)

(奇遇ですね、私もそこがいいと思いました)

(ここなら穀倉地帯になったあと、帝国は守りやすいよな)

 

 選ばれた土地は、これまで高い能力や財力を持った貴族が尽く匙を投げた曰く付きの場所だ。伝承によれば、闇の力を持った竜王と死者の軍勢が衝突した場所であるとされる。

 

「竜王と死者の軍勢に呪われた土地? 成程、それは興味深い」

 

 モモンガさんは思わず「え、面白い」と言いかけたのは秘密である。ジルクニフとしては「探求者、学士というのは生来の気質なのか」と一人納得してたりする。

 

「頼んでよろしいか? 領内の交通許可証は夕方までには送り届けよう」

「それは有り難い。ああ、一週間後に帝都を出ますが、できれば連絡要員の方を同行頂けないかと」

「…陛下、私が参りますわ」

「では、出発時にこのレイナースと幾人かの精鋭を付ける」

「わかりました。宜しくお願いします、レイナースさん」

「此方こそ、よろしくお願いいたしますわ、アインズ陛下」

 

 一週間後にレイナースと側付き数名を伴っての土地調査、戻ってきたら報告と共に晩餐会という事になった。他、細々した事は屋敷に詰める面子が伺うとする。

 

(俺は絶対、調査に同行すっからな!?)

(あの老人を、どんだけ怖がってるの世界災厄)

(餡さんとねーちゃんに頼むか)

(トールさんは、やまいこさんと帝都デートですよね?)

(…他二人が精神ダメージ喰らいませんか?)

 

 今の屋敷は場所も悪くないので、帝国での仮拠点として購入する方向で考えていたりする。そうなると防諜・防衛について乗ってくるのが荒野の災厄である。必然的に調査も兼ねて屋敷に待機だ。

 正式な文章のやり取りは後に首都ナザリックで行われる。最後に、アインズさんとジルクニフは立って握手を交わした。

 

「貴国と我がナザリック、末永く良好な関係を築いていきたい」

「それは…私もだ。…最後に一つ、頼みがある」

「なんでしょう?」

「私の事を、爺や親しい者はジルと呼ぶ。モガ殿…いや、アインズ殿、貴殿にそう呼んでもらえるような関係を結びたい」

「ふふ、これは予想外の頼みです。

 …ではジル、公の場では無い限りは、私の事はアインズと呼んでくれ。私が得たこの世界での初めての友人になる」

 

 だが公の場ではモガで通してくれよ、と茶目っ気のある笑みで笑いかける。CHA8+4の合計12は伊達ではない。ジルクニフは魅力あるモモンガさんの微笑みに、思わず笑みを返す。

 精神系魔法の類は使われていない。これは純粋にアインズの魅力だと気付く。

 

(明らかに過剰な力を持っているにも関わらず、それを振りかざす事も無く、そして明らかに格下の私ですら、その懐に迎え入れてくれるのか)

 

 あのフールーダの力は戦術級で考えても他国に対して強い優位性を持つ。その爺を軽々と超える魔法詠唱者が目の前のアインズであり、それと同級の力を持つ皇族が他に四〇人居るというなら、抗える手段を持つ者は評議国や法国ぐらいのものだろう。

 始まりの九連星の活躍は、遠目に見ることができたナザミ曰く「全てが英雄で、全てが異なり、全てが連携する」と絶賛された。力をそれでも隠していたというのだから、これはやはり、収集してきた噂話は全て真に近いだろう。

-

 まあ、色々と心酔し始めちゃった所悪いのだが、モモンガさん的には「え、まじで友人でいいの!?」、ウルベルトは「ほほう、見所あるな。意図があるなら探っとくか」、ペロロンチーノは「出たよーギルド長の人誑し」、ベルリバーは「装備効果でもう堕ちたなとか言うと、後で茶釜さんが涎垂らすなぁ」とか色々である。

 

「ありがとうアインズ、終生、良い関係を続けられるよう私は努力する。

 ああ、とても有意義な時間だった。何か相談事があればすぐに言ってくれ」

「わかったよ、ジル。もう帰るのか?」

「すまないな、流石に執務を長時間さぼってはいられん。爺はあの始末だし…」

『こ、ここ、こんな所までぇええええ!? うひょぉおお!』

 

 隣の部屋で歓喜の声が続いている。ジルクニフもモモンガさんも、なんとも言えない表情で乾いた笑いが出る。

 

「急拵えだったからなぁ、あっちの部屋は防音対策全くしてなかったから」

「こっちは外の音は聞こえて中の音は漏らさないとしたが、あれは流石に盲点というかなんというか」

 

 あまり会話に参加していなかった(空気に徹していた)ペロロンチーノとウルベルトが苦笑する。

 

「…良かれと思ったんだが、悪いことをしてしまった」

「いやいや、ここ数日はウルベルト殿の話題ばかりで、飛びかかって靴を舐めるか、地面を這い寄って靴を舐めるか、それをどう止めたらいいか考え通しだったんですわ」

 

 バジウッドの弁に、ウルベルトが思わず後ずさった。これには一同、笑いが溢れる。

 

「戴いた書物で、暫くは研究にかかりきりになるだろう。その間に、我が帝国を存分に見て廻ってくれ。後に、貴国へ正式な使者を出したいのだが、良いか?」

「わかった。我が首都、ナザリックは帝国の使者を歓迎しよう。

 それではまた会おう、ジル」

 

 後日、帝国の使者としてジルクニフ自ら出向く事に気付いた時、報告を受けたモモンガさん達は「フットワーク軽っ!?」とお茶を吹いたという。

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 ジルクニフ一行が帰ると、モモンガさん達は着替えを終えて一斉にだらけた。トールだけはケロッとしている。笑いを取るべきかとそっとインベントリから「ラバーチキン」の玩具(非ゴーレム)を取り出そうとしたが、止めておく。

 何故なら既に、ラバーチキン・ゴーレムが屋敷内に居たからだ。網膜投影レーダーに、見たことのある反応が五つほどあるのは、るし☆ふぁーの仕込みだろう。

 

「なんか精神的に疲れた。贈り物攻勢しちゃったから、うち、下に見られたりしませんかねこれ…」

「そうでもない。国力差を見せつける威圧外交だよ」

「え、そんなに?」

 

 トールは、拙い準備といいつつほぼ完璧なお出迎え準備、セバス達の行き届いた動き、モモンガさんの強さと懐の広さ、帝国領内を詳細に調べ上げる調査能力、革新的な技術を惜しげもなく放出などと、次々と「威圧外交」的な意味に取られるものを上げていく。

 

「まあ、ジル帝も色々お疲れみたいだし、あの資料と贈り物で体制をより固めて、AOGの面々との友好と、話の通じない系亜人の対処に加わって貰えれば御の字だ」

 

 始まりの九連星としては、定期的に竜王国への遠征は行っているが、人間種側が「ただ食われる獲物じゃねぇぞ!?」と殴り返せる体制を整えられるまでの手伝いとも考えていた。

 ペロロンチーノはちょっと寂しそうではあったが、今度の遠征が始まりの九連星としては最後である。

 ただ、最後と赴いた中、竜王国から直々にペロロンチーノとドラウディロンの交際について通達というか依頼というか嘆願があって、一悶着あるがそれは後に語る。

 

「竜王国の戦線は押し返してそろそろ大詰めですからね。帝国の支援があれば、維持は容易でしょう」

「問題は産業かなぁ。竜王国の特有の綺麗な織物とかあるけど、紡績産業という規模でもないし」

「そういえば、るし☆ふぁーの奴が、後でトールに相談があるってさ。生産周りで」

「なんだろう? わかった、後で聞いてみる」

 

 るし☆ふぁーの相談とは、王国内で見つけた蒸気機関とそれを活用しようと四苦八苦する技術者の話だ。熱源に魔法を使うクリーンな蒸気機関であり、相談を受けたトールは「パラダイムシフトきたー!」と叫んだという。

 後に、魔法熱蒸気機関は、ル・シファー商会が王国と帝国、竜王国に契約を結んで広め、鉱物資源量と工作精度の拙さから大々的には広まる事はないが、回転動力の活用概念の広まりで産業革命の走りとなってしまった。

 

「…既に法国には概念があったなんて!」

「ああまあ、石炭を使わないだけマシという事で…」

-

 

 

-

 帰りの馬車の中、屋敷が見えなくなるなりバジウッドが問う。

 

「陛下、まじで友人って思ってるんで?」

 

 訝しげなのは当たり前である。国家に真の友人は居ないからだ。

 

「…真になれれば良いな、とは思っている。あの屋敷の準備、あの服、統制と訓練の行き届いた家人…かの国の力、全く底が知れない。

 バカどもには、絶対に余計な茶々を入れさせるな。逆鱗に触れては帝国が傾く…いや、滅びるぞ」

 

 真剣な表情で告げるジルクニフ。滅びる可能性については、常識外とも思えるかの国の底知れぬ力であれば不可能では無いことをバジウッドは本能的に気付いてしまっている。

 

「ええ、魔法詠唱者だって話でしたが、一瞬放たれたあの気配で、俺らは死を覚悟しました。始まりの九連星は、他にも前衛の手練も居ると聞きます。まかり間違っても敵にはしたくねぇです」

「レイナース、お前は同行を志願したが…」

「かの国であれば、私の呪いを解く方法もあるのではと。ただ、仕えた国を放って行くというのは、信義を重んじるであろうあの方々の心象を悪くしますから、それとなく聞いて頂けるなら、これからも陛下にお仕えいたしますよ」

 

 レイナースの顔半分は職業「カースドナイト」の影響で常に醜く膿んでおり、呪いを解く方法を帝国の力で探す見返りに帝国に仕えている。

 

「わかった、次の機会に頼んで見る事としよう」

 

 とはいうものの、その戦力を手放したくないジルクニフとしてはどうすべきか頭を巡らせる。

 尚、レイナースの悩みは秘匿していたナザリックの世界級アイテム(1キャラの1つの職業レベルを同格の職業に差し替えできる代物。再利用は一週間)を使って叶える事となる。

 

「そういやニンブルとナザミ、どうしたんだ、一言もさっきから喋ってないぞ」

「…俺が無口なのは知っているだろ。ニンブルは、失恋したんだ、放って置いてやれ」

 

 思わずジルクニフ以下、残りの四騎士とロウネの視線が集中する。

 

「ほほう、迎えに出たというメイドに一目惚れか? 家族からの圧力をどうにかこうにか避けているお前が」

「んで、どんな風に振られたんだ?」

「随分えぐるのね、バジウッド」

「…怖い目で見るなよレイナース。で、どうだったんだナザミ?」

「母にして姉という人物と、一緒に貰われる約束をしたのでお断りさせていただきますとかなんとか」

「…すげぇなそいつ。始まりの九連星で関連する女性となると、チャガとモッチ、あとはマイコだが」

「俺はマイコは見たことがある。あのメイドによく似てる。母にして姉というなら、姉妹で嫁ぐのだろうな」

 

 それを聞いたニンブルが思い切り黄昏れている。ほぼ全員が生暖かい目で見ている。

 

「…陛下、こいつが今こうだからって、適当な貴族の娘とか充てがうのは悪手ですんで」

「そういうものなのか? なら止めておこう」

 

 ジルクニフはそういった色恋周りの機微は無い。親兄弟を粛清した結果、心が壊れている。

 

「所で、この資料なんですが…、実行、ご裁可下さいますよね?」

「…妙な圧力をかけるでないロウネ。試験的にまず行い、成果が出次第予算を都合する」

「ありがとうございます!」

(この程度の技術は、出しても惜しくないって事か…)

 

 モモンガさん達的には「帝国さん宜しくね! これ贈り物だから!」という引越し蕎麦程度なのだが、個人間はともかく国家の友好的な外交については誰もが素人だからして、向こうから見れば国力差をまじまじと見せつける形となってしまった。

-

 尚、帝国側の反応を聞いたデミウルゴスは、そらもう満面の笑みであったという。

 




「土産にと持たされた物が結構あるな…、ん、これは?」
「悩みごとが多い場合は頭髪に悪いとの事で、毛生え薬だそうです」
「何故私の頭を見る!?」
「強がらず、試してみませんか」
「…いいだろう」


「あら陛下…、悩み事が解消されたので? 良かったですわね」
「ロクシー、気付いていたのか…」
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