荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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がんばれえるやー(棒読み)


至高なる御方と帝国闘技場の決闘

 その日の午後、闘技場で行われる対戦カードに帝都中の通を自称する連中が色めき立った。

 方や、剣だけは天才的な「天武」のリーダー。

 方や、竜王国の戦線で有名な「始まりの九連星」の一人。

 通りがかった際の偶発的な出来事から、激怒したエルヤーが喧嘩を吹っ掛け、それを涼しい顔で受けたベル・リバーという未知の対戦だ。事実とは異なるものの、いつもより闘技場は盛況である。

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 帝国皇帝との初めての邂逅の後、用事があるというウルベルトを除いて、気疲れした精神を回復すべくゆったりと昼食を楽しんで闘技場入りした一行は、通された控室でベルリバーの準備がてら雑談をしていた。

 

「えっと、武器なしで本当にいいんですか?」

「ハンデ戦です。一撃で吹っ飛ばしたら面白くない。あれだけ自信満々でしたから、武技の一つや二つ、披露位はさせてやろうかと」

「この世界特有の技術ですね。トールさん、録画はお願いできます?」

「帝都配置のアイボットが担当してる。ただできる限り、速度は抑えてもらえると助かる。調査用だと秒間60が限度なんだ」

「ふむ。60fpsですか、わかりました」

 

 百レベルと二桁前半。ユグドラシルでは笑い話にもならないレベル差である。不幸なのかバカなのか、エルヤーは素手で来るようにと歪んだ笑みで言ったが、各種スキルは使えないものの本来は剣での連続攻撃を主とするベルリバーにとって、この程度はハンデでも何でも無い。

 

「これ、手加減できる装備とは聞きましたけど、効果は?」

「ダメージ1固定の、昏倒効果が付いたバンテージ。メリケンサックだとあのエルなんとかが難癖付けそうだったので」

「防具は手甲だけですね、見た目だと」

 

 ベルリバーは、エルヤーの攻撃を全て、手か手甲で捌き切る腹積もりである。一晩明けたが、まだ怒りは収まってないらしい。

 

「ダメージ1固定…オラオラですか?」

「あのエルなんとかだと、ラッシュの速さ比べはできそうにないっすけどね」

「リアルって本当に、娯楽が少なかったんだな…」

 

 モモンガさんが思わず呟くと、待ってましたとばかりにノるペロロンチーノ。某奇妙な冒険ネタは百年経ってもリアルでは廃れていなかった事に戦慄するトール。

 

 そんな感じに、殺伐としているはずの闘技場控室でわいわいやるモモンガさん一行。出場を控えて軽装で佇むベルリバーの手に、トールはバンテージを巻き、おかしな所が無いか確認している。

 

「終わったぞ。確認してくれ」

 

 数度、宙を拳で突き、薙ぐ。グッグッと拳の状態を確かめ、自然と笑みを浮かべる。

 

「バッチリですね。あ、そうそう、提示する見せ札を持っていきます」

「構いませんよー」

 

 見せ札というのは、昨日、やまいこに頼まれていた奴隷エルフの身柄要求の掛札として、帝都で売却予定だった刀である。見事勝てばエルヤーはそれを手に入れる事ができるが、ベルリバーは負ける気なぞ無い。後日、エ・ランテルのブレインに下賜する予定である。

 

「モガさん、オッズはどうだった?」

「確か、エルなんとかが高いね。だけど傭兵でのネームバリューが利いてる感じで差は少ない」

「それって賭け成立するんかな」

「とりあえず、ベルさんに金貨2千枚かけといた。もう締め切り」

 

 他全員が「いつの間に!?」と一斉にトールに振り向く。

 

「ずるい!」「なんか奢って!」

「祝勝会、俺が出すから」

「「「わーい」」」

「子供かっ!」

 

 思わずツッコミを入れるトール。扉がノックされ、覗き窓に人影。

 

「ベル・リバー様、お時間です」

「わかりました。他の皆さんはどちらに居れば?」

「場外となる場所にベンチを設置してあります」

「ありがとう。さて、行ってきますか」

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 さて選手入場である。前座試合は中々の好カードだったらしく、場のテンションは上がる一方である。そしてエルヤーの登場に、人となりを知る連中は一斉にブーイング。ベルリバーの登場に歓声が迎える。

 

 関係者席で、闘技場のプロモーターであるオスクは、今日の試合が転がり込んで来たことに狂喜乱舞していた。その雇い主の姿を冷めた目で見る首刈り兎は、いつの間にか慣れてしまったメイド服で隣に佇む。

 

「どうだね、エルヤーと始まりの九連星の方の実力は?」

「…逃げていい? ベル・リバーってのと、その仲間の二人は超級にやばい。エルヤーなんかどうでもいい」

 

 帝国でも「実力だけは」名が知られるエルヤーをどうでもいいと言い放つ首刈り兎。オスクはそのつぶらな瞳を見開く。

 

「試合に出るベル・リバー殿以外の二人も? 片方はペロン殿、もう片方は…んん?」

「一員って事以外は不明。魔法詠唱者みたいだけど、それでも超級にやばい。ベル・リバーとペロンはその上。直ぐ側に居る地味な男はよくわからないけど、やばい程度。程度ってのもおかしいけど」

「いやはや、出場されるのが一人だけというのが残念だ!」

 

 実力差が事前に解る時点で賭けが成立しないので、オスクは黙っていた。地味な男は首刈り兎の見立てで「やばい」程度なので、彼くらいはいい試合ができそうだなと出場依頼をしてもいいかと考える。

 

 とりあえず、トールの事を言ってるなら止めたほうがいいと、モモンガさん達は全力で止めるかもしれないが、オスクがトールに使いを出して話を通すのは、モモンガさん一行が帝都を離れて荒れ地の調査に向かった後なので、後の祭りである。

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 モモンガさん一行はセコンドとして座る場外の椅子に。視界を遮れるよう屋根がある事に安堵する。向こうを見れば、エルヤーがみすぼらしい格好の奴隷エルフに怒鳴り散らしている。

 

「…小石をぶん投げたい」「同意するけど今は我慢で」

「難度90に届かない位か。レベル30未満?」

「最近、投影情報を修正したんでしたっけ。便利だなぁこれ」

 

 魔法やスキルが必要なレベル看破は、Pip-boyを内蔵したナザリックギアの情報解析が行ってくれる。以前はウェイストランド基準のレベルとユグドラシルのそれを混同しそうになると意見が上がったので、トールが修正して「難度」と「レベル」に再計算している。

 

 また本来、相手のレベル帯以外の大まかなビルドの解析には魔法やスキルが必要な所、ペロロンチーノが看破した情報が戦術支援ネットワークで共有されていた。

 

「…そういえばこれ、隠蔽の装具も貫通するんですよね、レベルだけ」

「どうなってるのウェイストランド戦前の科学…」

 

 ベルリバーは、掛け金の上積みとして用意した刀を手に闘技台へ上がる。エルヤーは自分の他に、奴隷エルフを3人共連れてきた。魔法に依る支援や回復をさせるのだろう。卑怯とは言わないが、観客席からはまたブーイングだった。

 

 審判員はベルリバーを見るが、軽く肩を竦めて問題ないことをアピール。観客席がどよめき、エルヤーの表情が引き攣る。

 

「よく逃げずに来たな。ふむ、素手でと言ったが臆したか?」

「掛け対象の拡大を希望したくてね。友人が、彼女達を引き取りたいそうだ。私に勝てば進呈しよう」

 

 エルヤーは一人の奴隷エルフに顎で命じて、ベルリバーが差し出した刀を持ってこさせる。抜き放ち、刀身を見る目が驚愕の後、喜悦に満たされていく。

 

「こ、これ程の…!?」

 

 法国でも見たことの無い素晴らしい武具。いや、あの漆黒聖典の数々の神の遺産程ではないが、市井では望むべくもない格の違いを持つ刀だ。エルヤーにとっては、だが。

 

「名誉をかけた戦いに無粋かもしれませんが、私が勝てば彼女達3人を引き取ります。貴方が勝てば、それを進呈しましょう」

「言ったな!? 今更覆す事はまかりならんぞ!」

 

 返却された刀は、固唾を呑んで見守っていた審判へ渡された。

 

「双方、準備はよろしいか?」

「いつでも」「構わん!」

 

 観客席も今は静かだ。

 

「では、試合開始!」

 

 宣言と同時に、奴隷エルフ達は場外ギリギリに移動する。エルヤーは油断なく愛剣を構えた。対するベルリバーは自然体。動きが無い。

 

「まずはご挨拶と行きましょう…かっ!」

 

 ベルリバーは大分わかりやすく地面を蹴り、拳をアッパー気味に振る。ギリギリで鼻先を掠める拳にエルヤーはその端正な顔を歪めて避けた。考えていた以上の踏み込み速度と拳の速度に肝が冷えた。

 センスだけはいい、センスだけは。そう評価を付けるベルリバーである。

 

 エルヤーは剣を振るって間合いを取ろうと牽制するも、ベルリバーはずんずんと前に出ては避け、あるいは手甲で弾く。目は真っ直ぐエルヤーを見ている。真剣で嘲りも無い、見極めんとする目の光に、エルヤーは法国時代に師事していた師との稽古を思い出す。

 

「考え事とは、余裕ですね」

 

 余裕がある訳ではないエルヤーは、なんとか取り繕って何でも無い風を装う。

 

「では、もう一段階上げていきます」

「なっ!?」

 

 先程までで一杯一杯であった。武技を使っていない事もあるが、素手と手甲で武器を持った相手の懐へ躊躇なく進んでくるベルリバーに、エルヤーは強い焦りを覚える。

 なんとか切っ先を細かく使って牽制し、距離を空ける。武技を用いて自分のポテンシャルの底上げを行い、今度こそはと斬りかかるも空振り。先程よりも精度と速度を増した拳が、エルヤーの頬や鼻先、肩や腕の薄皮を掠っていく。

 

「し、支援を寄越せぇ!」

 

 堪らず奴隷エルフに命じて、各々が可能な支援魔法を自分にかけさせる。武技との併用が行われれば、実質的に難度にして30は差ができる! …その筈だったのだが。

 

「途端に雑になりましたね。息は上がってないようですから、鍛錬不足か」

 

 確かに早くなった、力強くもなった。だがそれだけだ。先程までは鋭く正確だった太刀筋も、刃筋もぶれ、ただただ強引に合わせているだけ。ベルリバーは幾度もあったチャンスで、わざわざ薄皮を剥ぐように拳を掠めていく。速度はどんどん上がり、掠めた所に血がにじむ。エルヤーは武技も併用しているが、息があがってきた。品切れだ。

 軽く小突くと、「昏倒」の効果でエルヤーがぐにゃりと倒れ伏した。慌てて立ち上がるのを、観客達は笑いながら見ている。

 

「…他に隠し芸はありませんか?」

 

 バンテージの端についた血にわざとらしい動きで気付き、汚らしいものがついたと言わんばかりに、懸命に振り払う仕草。その滑稽さも相まって、観客席から揶揄と失笑が漏れる。無論、笑う対象はエルヤーだ。

 

「芸、芸だというのか!」

「まあ芸にすらなっていない、才に胡座をかく典型でしたね。せっかくの支援魔法を活かせていない。最大能力時における鍛錬はしておくべきでした」

「…認めよう、貴様は久しく見ていない強者だ。だが私もこのまま負けるなぞ、許せんのだァ!」

 

 言うが早いか、後方に下がっていた奴隷エルフに急接近して腕を掴むと、走り込んでから増加した筋力で平行に投げ飛ばす。その後ろに隠れると死角から近づき、エルフごと突き刺す算段である。観客席から悲鳴が上がる。

 

「…剣士の矜恃すらない。下衆が」

 

 流れるような動きで正面から跳び、奴隷エルフを片手で受け止めてくるりと位置を入れ替える。体勢が崩れた所にエルヤーの剣の切っ先が向かう。無理な姿勢から腕が伸び、振るわれるが空振った。

 観客席からそれが見えたのは、一部の強者だけだ。伸びた腕が高速で振るわれ、ベルリバーの体の位置がズレたのだ。

 

「なっ!?」

 

 某ロボットアニメの金字塔における、多くが膝を打ったという後付設定、重心位置を手足の挙動で動かすことで、体の姿勢制御を行う技術。それを無理矢理、行った。

 避けた所で剣を素手で掴む。エルヤーは全く動けない、動かせない。そのままベルリバーは懐に潜り込み、アッパーで打ち上げた。

 

「がほっ!?」

 

 軽く宙に浮いた所で斜め下からさらに打ち上げるようにもう片方の手で斜めにアッパー。加速する。エルヤーの全身に打撃痕が増えていく。宙から降りれない。どんどん加速する。

 

「オラオラオラオラオラ!(以下略)」

 

 なんだかあのボイスが聞こえてきそうな勢い。

 

(いや実際聞こえてないか?)

(こういう時だけボイスチェンジャー起動します)

(何してんの荒野の災厄!?w)

 

 鎧はひしゃげ、顔も腫れ上がる。手足は無数の凹みができる。

 

「オラァ!」

 

 トドメとばかりに斜め下へ打ち込まれ、エルヤーは地面でバウンド。わざわざ跳ね返るよう魔道具で地面に弾力をもたせた。跳ねてもう一度地面に叩きつけられて、痙攣する。かつての端正な顔も見る影もない。

 

(HPは何の位? …お、半分残ってんじゃん)

(ダメージを受けた感触だけは元の通りなんですよあれ)

(え、痛いのだけはそのまま? なにそれ怖い)

 

 ベルリバーはエルヤーに近付く。審判が走ってきて、倒れ伏したエルヤーの状態を確認。戦闘不能である。

 

「勝者、始まりの九連星、ベル・リバー!」

 

 闘技場を大歓声が包んだ。ハズレの掛札が投げられ、大騒ぎである。

 ふと見れば、奴隷エルフ達がエルヤーに走り寄って来る。治療をするのだろうかとベルリバーが見ていると、思い切り足蹴にしている。体力的には余裕はあるので放置。意識は戻ったようだが、くぐもった悲鳴が上がっている。

 

「自業自得とはいえ、哀れな…」

-

 

-

 モモンガさん達のところへ戻ると、試合の総評というか武技に関する考察などをモモンガさんが質問していた。長居するのも何なので、そそくさと控室まで戻る。

 

「どうでした? あれでも武技は結構多彩でしたから、参考になればいいのですけど」

「主にバフ系と、攻撃スキルのようなものなんですね。確か、他の支援と併用できるとか」

 

 以前から収集していた武技の使用データを元に発動状態を感知するよう、Pip-boyの戦術支援システムでバフがかかった状態は判別できるようになっていたりする。

 

「ええ。取得条件は解明しきってませんが、バフ系は人化している時、適応する職を得ている時を最低条件に、何らかの形で極限的状態になると私達でも得られるみたいです。攻撃系は見取り稽古と修行ですかね」

「え、誰か取得してたりします?」

 

 この世界特有の技術、武技。人化状態で習得している事は知っていたが、取得条件を仲間たちがある程度は解析済みな事に驚くモモンガさんである。

 

「たっちさんとタケさんが代表的。トールさんと結構模擬戦してたから」

「二人共、実力が近づき始めてから貪欲でなぁ…」

「…あれくらいやらないと取得できないと?」

 

 モモンガさんの額に冷や汗が垂れる。

 他のメンバーは無論の事、モモンガさんもトールとの模擬戦を見ていた訳で、持ち運びのPvPフィールド(ガチャ産)を設置していた中とはいえ、あの打ち合いに参加するのは躊躇する。

 

「極限的状況というのがネックですからねぇ。本人が追い込まれた状態になれば、何でもいいみたいですけど」

「…習得できたけど、俺二度と、トールさんと鬼ごっこはしたくない」

 

 ペロロンチーノは当時を思い出したのか、全体的な能力強化の他、移動速度と俊敏性上昇の武技を人化状態で得る事になった「鬼ごっこ」について思い出し、死んだ目になった。

 

「俺が爆破してすっ転ぶミニガン持ってちょっと本気で追いかけただけじゃないか。怪我したらスティムパックぶっ刺しながらだから、実質ノーダメのはず」

「あれカスダメだけど痛いんだからね!?」

「プラマイゼロなだけで、習得までの累積分で10回は死んでますよ…」

「てか、笑いながらトゲトゲ付きのガトリング持って全力で迫ってくるトールさんと追いかけっことか、ホラーだよ!?」

 

 狙撃ポジションの位置取りの為、高い敏捷性を誇るペロロンチーノだったが、いくら逃げても隠れても見つけて、周囲から嬲るように薄皮を剥ぐように爆発性の弾丸を雨あられと撒き散らしながら近づいてきたという話に、モモンガさんは顔をひきつらせた。

 

 尚、条件が完全特定できた数少ない訓練方法だったので、希望した後衛系と前衛全員が同じ鬼ごっこで追いかけ回された。その中で足の遅いぶくぶく茶釜は、暫くの間、ミニガンの発射音が聞こえると夢でうなされた。意外な所では弐式遠雷も、隠れている所をV.A.T.S.で見破られては「ブリッツ」を装備切り替えキャンセル(MOD効果を使用)して接近されまくり、都合三十回は死んでもおかしくないダメージを食らって武技を習得している。

-

 ふと、トールは思いついたかのようにモモンガさんに質問。

 

「やるか?」

「やるかっ!」

 

 明確な拒否だが、他のメンバーは「モモンガさんだけ逃すものか…!」と目配せをし合う。人化させた守護者も交えれば、逃げ道は塞げるなとペロロンチーノ。モモンガさんに謎の悪寒が走る。

 

「さ、後は配当と身請けを終えて、また観光にいきましょうよ」

「馬車を呼んでおいて正解でしたね。徒歩だと観客にもみくちゃにされそうだ」

 

 一応、ナザリックギアの登録スキンには、変装用のものも用意してある。ただ、プリセットで用意されていた「変装用」とある装飾品のセンスは悪かった。トールにファッションセンスは無い。

 以下、試しに装着してみた時のやりとり。

 

「なぜ鼻眼鏡wwww」

「これで誤魔化される方がおかしい」

「見てわかるハゲヅラとか何これ」

「解せぬ」

 

 あんまりにもあんまりだったので、トールが用意したプリセットはお蔵入り。髪色と髪型、あとは体型を誤魔化す装備をスーラータン達が準備した。

 閑話休題。

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 トールは配当金を、モモンガさん達は奴隷エルフ達を引き取りに専用窓口へ。

 

「こ、此方が配当金となり…ます」

「二千程度で正解だったな。ありがとう」

 

 元金二千が「程度」扱い。始まりの九連星への畏怖が高まる事を間接的に行うトール。魔法の道具だと前置きして、山と積まれた金貨袋をインベントリに格納する。

 一方、奴隷エルフ達を引き取りに行ったモモンガさん達。

 

「君達は今から我々の所有物となる。だけど、無体な扱いはしないから、そこは安心してほしい」

 

 エルヤーに私的な復讐を終えたエルフ達はすっきりした顔だったので、ベルリバーは苦笑しながら彼女達を連れ出る。元の襤褸布を綺麗なローブに着替えさせた。

 

「一度、あちらに戻ってマイコさん達に預けましょう」

「…ろくなもん食わせてないのかな。エルフにしたって、痩せすぎだろこれ」

 

 ちっぱいは好きだが、ガリガリ気味なのはアウトなペロロンチーノが、痛ましい物を見るようにエルフたちを評する。

 奴隷エルフ達を幌馬車に乗せ、御者は人化したシモベが行う。モモンガさん達は高級馬車だ。ユリ経由でナンバーズ達に風呂と治療の準備を指示した。ペロロンチーノがくるっと馬車の天井に上りベルリバーをひょいと天窓を開けて引っ張り出す。ベルリバーが周囲に一礼すると、歓声と黄色い悲鳴があがった。

 

(モテモテですね)

(モテモテだ)

(モテモテじゃないか)

(少し、モモンガさんの苦労が理解できました。これは恥ずい…)

 

 前衛ながらどちらかといえば地味な方と自己評価するベルリバーにとって、歓声で囲まれる状況は初めてである。同じような状況でロールを崩さないモモンガさんの適応力の高さをあらためて尊敬するベルリバー。

 周囲にぎこちなく手を振ってから馬車に戻ると、モモンガさんが笑顔に無言で、両手を取って上下にぶんぶんと振った。

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 闘技場を去る馬車を見送っていた野次馬達は、試合内容を知らない面々に自慢気に語る者に耳を傾けたり、内容を見たもの同士で盛り上がっている。

 

「すげぇな、あれが傭兵団、始まりの九連星…」

「あんな立派な馬車、貴族位しか持ってないだろ」

「所で、王国方面に出現したっていう魔導皇国の関係者だって噂、お前知ってるか?」

「ああ。だが与太話だと思ってた。しかし、あの資金力と言い強さと言い、マジかもなぁ…」

「あの鮮血帝の事だ、警戒して次回の戦争は延期かもな」




なお、ボッコボコにされたエルヤーには、スティムパックをプレゼントしておきました。というか刺してきました。びくんびくん

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