荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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誤字報告に感想、ありがとうございます。正直、評価点が入るよりモチベが上がります。

さあ来年初夏まで農繁期だ(白目)



帝都の拠点と困惑のエルフ達

 屋敷に到着。奴隷エルフ達は、馬車から降りるなり立派な屋敷の前に連れてこられて困惑している。屋敷から夜会巻きに髪を結い上げた怜悧で清楚なメイドと、少女のような髪型の長身のメイドが現れた。

 ベルリバーがエルフ達と二人に指示を出す。

 

「あなた達はまず身嗜みを整え、軽く食事を摂りなさい。落ち着いたら、あなた達の今後の事を話します。ユリ、ナンバーズ、彼女達を頼みます」

「かしこまりました」「命令承諾」

「わ、わかりました…」

 

 ユリとナンバーズに預ける。やまいこも遅れて出てきて、横を通り過ぎるエルフ達の耳の辺りを見て悲しげに目を伏せた。

 そして、顔を上げるとベルリバーに向かう。

 

「ボコボコにした?」

「勿論です」

 

 やまいことベルリバーは即座に手をパァンと打ち合わせた。間髪入れずの快音の響きに、モモンガさん達は思わず苦笑する。

 

「治療は任せて。<重傷治癒>で古傷もいけるはずだから」

「じゃあ俺は食事の準備だ。病人食がいいかな。エルフって好き嫌いというか食事の制限あるのか?」

「どうでしょ? お粥とかはお米メインですよね」

「肉や魚の出汁類もアウトだと困るな…」

 

 王国内ではほぼ見かけず、帝国でもハーフエルフすら珍しく、エルフはほぼ奴隷ばかりなので、食事周りは不明である。モモンガさんが<伝言>でブルー・プラネットに連絡を取り、強すぎない肉食であればいいと教えられた。

 

『ガツガツは食べないけれど、多少は摂る感じだ。ハーフエルフは人間寄りだけど、濃いものは避ける傾向にあったな』

「成程、ありがとうブルー。また何かあったら相談する」

「フィールドワークもいいですけど、もう少し顔を見せに来て下さいよ」

『はは、夢中になり過ぎてしまってね。今度の遠征前には一度、ええと首都ナザリックだったか。戻ることにするよ』

 

 今は聖王国辺りに居るブルー・プラネット。王国での計画後はフィールドワークに出ていたので、首都ナザリックの建設後の状況は見ていない。彼の目的は亜人種達の生態と文化の調査だ。忍者系の傭兵モンスターと、トールのロボット達が調査協力と護衛を行っている。

 喧嘩をふっかけてくる亜人部族も居るが、大抵は怪我をさせずに鎧袖一触だったりする。一部の亜人部族はその強さに魅了されるか、手を出さないよう恐れるかの二択で、聖王国側へのちょっかいが減っている副次効果が発生していた。

 閑話休題。

 

「用意してるので大丈夫ってのは僥倖だ。

 まあ、一切肉食というか動物性栄養なしってのは、特殊な内臓や腸内環境でもないと無理だしな。植物性の代替食を続けると、疲れやすくなったりどこかで無理が出る。そういう奴が少し肉食うだけで元通りになるなんて、俺の時代じゃザラだった」

 

 そうなのかーとユグドラシル組。天然食が庶民に出回らなくなって久しいため、身を持って体の状態の悪さを知っているだけに感心しきりである。

 

「うーん、出歩くのは明日にしない?」

 

 ペロロンチーノは、直接見て思ったよりも健康状態が悪いエルフたちを心配していた。

 

「引き取った私達がいきなり居なくなるのはちょっと可哀想か」

「となると3人は暇になるな。まあやること無いならゆっくりも悪くない」

 

 そういえばウルベルトは? と聞くと、発電所の方でデミウルゴスから相談があるとの事で既にナザリックに戻っているという。

 

「なら、録画して貰った闘技場の試合を見たいんですが」

「ああ、エルフ達の用意が整うまで見てるといい。

 アイボット、先程の試合とここ一ヶ月の試合、武技の使い手が出場してるのはリスト化して転送」

 

 隠れて待機していた帝国調査用のアイボットの一体が現れ、帝国内に派遣しているアイボットの収集データのネットワーク、その上に共有している録画データのリストをナザリックギアに転送する。

 

「色々ありますね! ありがとうございます」

 

 後にホロテープに録画されたそれらは、この世界特有の魔道具用に映像データが変換された。後に、機構が整理されて帝国で量産を始めた魔道具ビデオの普及に一役買う商品となる。

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 早速部屋に行く道すがら、試合内容をPvP視点で考察しているモモンガさん達を見送り、トールは軽食と飲み物を用意するよう屋敷内に呼んでおいたMrハンディの一体に指示する。

 

「…エルフの地位向上は、かの狂王をどうにかしない限りは無理だな」

「法国との戦争も、強姦が原因だって話しだからね」

 

 トールはやまいこと連れ立ちながら屋敷に戻る。

 今度ナザリックに迎え入れる番外席次は、エルフの狂王が法国の神人を孕ませて生まれた事を聞いており、トールもやまいこも顔を顰めていた。少なくとも狂王を幽閉するか討って体制を変えなければならないが、国家間の事情に介入する訳で、おいそれと行う訳には行かない。

 

「法国が攻勢を緩めたら、途端に周辺へちょっかいを出したり女性を攫ったりと無茶苦茶だよ…」

「あの国が亜人殲滅に舵を切るのも仕方ないか。悪くない国ならアウラとマーレを連れて観光とか茶釜さんは考えてたけど、無理だって諦めてたな」

「どうしよう、ボクとしては竜王国に行く前にさっさとご退場頂いて、余計な火種は潰したい。議題に上げてみるかな」

「竜王国への遠征まではまだ間があるが…、決まったら俺も付き合おう。デートと言うには物騒だが」

「んもう」

 

 軽く腰横からヒップアタックをされて苦笑するトール。胸もボリュームがある上、十分なくびれがあるのに尻は安産型だなと思うが口には出さない。

 

「モモンガさん達が出るまでに一度、報告会があるからそこで議題に出すよ。丁度、番外ちゃんだっけ、彼女の到着が近いから」

「タケさんが出向いて確認したそうだが…、そういや難しい顔してたな」

「なんだろね、変な子だったんだろうか。出生が出生だし…」

 

 変で片付けば良かったのだが、法国側の承諾を得て人化した状態で訪れた武人武御雷は、番外席次と出会うなり「私を孕ませて!」と張り付かれて混乱した。

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 だいしゅきホールドで。

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 敵意は一切無かったし、正面からぱたぱたと駆け寄られたのもあって油断していたのもある。最初に抱きつかれた上で、くねっと体を密着させた上でのだいしゅきホールドだった。

 理由を聞けば「強者の子を孕みたかった、貴方は私が見た中で最も強者! 戦わなくてもわかる!」と来た訳で、後で模擬戦でも何でも付き合うからと引き剥がして戻ってきた。

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 流石に3桁歳とはいえつるぺた気味の少女に開口一番「孕ませて」と言われた事は他のメンバーには伝えられず、番外席次が到着するなり出迎えた武人武御雷は、他のメンバーが後で登場した際にジト目攻勢を受ける事となる。特にエロゲバードマンに。

 

「たっちさん!?」

「えーと…ノットギルティ」

「ちくしょう!」

 

 たっち・みー等もワールドチャンピオンなので強者だが、隣に居た奥さんのるっく・みーに、得体のしれないプレッシャーをかけられた為、番外席次は避けた。英断である。

 閑話休題。

 

「世話役はラナー達とるっくさんだったか。大丈夫なのか?」

「首都ナザリックの居住区で慣れて貰う感じ。一応、交代でナンバーズを1ペア交代で付ける予定。プレアデスだと、ユリとイマジナリ以外は厳しいからね」

 

 戦闘メイド達は連携こそ素晴らしいのだが、かの番外席次はビルドは無茶苦茶とはいえレベル百なので、単体では負ける可能性が高い。ユリやイマジナリ・ニューが戦闘能力の面で対抗できるものの、他の仕事も考えると常に貼り付けておく訳にも行かない。

 その点、ナンバーズは首都ナザリックが完成した事から地下大墳墓周辺の哨戒任務が無くなり、48体という数を活かして人手が足りない所へ配置される事が多い。力も強い為、任務が無い時は一般メイドの補助を担っている。

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 やまいこと別れて屋敷の台所へ入ると、調理担当のMsナニーが出迎えた。下拵えは終わっていたので、カワサキの病人食のレシピを元にお粥を作る。

 

「治療終わったよ。凄く喜んでた」

「早いな。服はどうする?」

「今は下着の上にキトンを着せてる。ドーリス式だっけ確か」

 

 キトン。元は古代ギリシャの一般的な衣服で、長方形の布と肩留め、腰を締める帯だけで体を覆える。

 

「仮のローブを着せていたが、元々あのエルフたちは粗末な貫頭衣だけだったからな。とはいえ、やまいこさん達は人化しないと装備できない形式か」

「布を纏うだけで装備制限とかびっくりだったなぁ」

 

 モモンガさん達のようなユグドラシルのプレイヤーは、自身が強力な代わりにかつての装備制限が大きく影響する。システム的な制限を受けているのだ。

 単純な話、パンツを履いてズボンを履く、シャツを着て上着を着る、そういった重ね着ができない。まあ異形種の姿でそれをやるのはシュールだが、人に近い姿のメンバーも制限にひっかかる。

 

 トールの場合、偏執的に重ね着を模索したMOD製作者が作ったMODの影響で、下着上下、アンダーウェア上下、アウター上下、外套、足と靴周りがそれぞれ別になっていた。その上にさらに防具が追加できる。ゲーム中では単にテクスチャの切り替えで再現していた部分もあるが、ウェイストランドではこの仕様だった事に大きく助けられた。

 尚、そのMODの原型そのものは別のゲームのデータ流用だった事が発覚して公式からは消されたのだが、着想は支持されたため、問題ない仕様にしたものが別作者によりPC版だけとはいえリリースされ、大いに盛り上がった。

 特に女性用エロ装備MOD方面で。

 トールが入れたのもそれが目的である。ペロロンチーノ経由でシャルティアに提供しているものも、殆どがそのエロ装備MODベースである。先日は、人化の状態でボディーハーネスの上にマイクロビキニという「その用途」でしか考えられない組み合わせだったそうな。

 閑話休題。

 

「漆黒聖典の子とか大変だったろうな。ユグドラシル装備、位置がズレすぎると途端に強固になるから、花摘みとか全部一度外さないと…って、なんで拳構えてるの!?」

「デリカシーないですトールさん!」

 

 これは失敗したとトールは思って、甘んじてやまいこの拳を受ける。吹き飛びはしないが地味に痛い。

 尚、ペロロンチーノがデザイン案を出した漆黒聖典女性隊員用の新装備は、履いてない的レオタードデザインのお陰で多少ずらす事で要件を満たせる為、大変喜ばれたそうな。

 

「ぐふ、利いたぜ…」

 

 ボク怒ってるぞ的なポーズのやまいこに、痛みに耐えつつ苦笑するトールであった。

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 奴隷エルフ達の名前とクラスは、青髪がアーフィで神官、茶髪がイエラでレンジャー、金髪がウーシアでドルイドだ。

 エルヤーに買われる以前に、あの狂王に孕まされて生まれた子に才能が無かったとして前線送りとなり、法国に捕らえられて奴隷商人に売られ、そこで徹底的な調教を受けた。

 魔法の武器に匹敵する値段で取引される目玉商品として帝国に送られて、そこでエルヤーに買われたのだ。以後、奴隷にして援護要員、そして性奴隷として使われ続けた。

 

「…いいのかな、こんな贅沢な扱い」

 

 イエラが湯船に浸かりながら、何度も耳を触って確かめている。あの懐かしい森で触れ慣れていた筈の、自分の耳だ。私達を引き取ったベル・リバー様のお仲間でマイコ様という方が魔法で治してくれた。気弱なアーフィが、使用されたその位階の魔法に、治った耳に泣きながら驚いていた。

 

「イエラ、また前髪が落ちてますよ…」

 

 ウーシアが、水気を吸って目が隠れるイエラの前髪をそっと動かす。ウーシアの耳も、上下にピコピコ動いている。

 

「私達、これからどうなるのでしょう…」

 

 一人、アーフィが不安げに首まで湯に沈む。

 ベル・リバー様や他の方々はとても優しく声をかけてくれて、此方に来るまでの間はと、真新しい良い肌触りのローブを着せてくれた。風呂場の脱衣場で脱ぐのが名残惜しい位だった。

 

「マイコ様が私達を引き取るようにと願われたそうだけど…」

「正直、あれ程のお力を持つ神官様なんて、国でも見たこと無かった」

 

 何かお役に立てることがあるのだろうかと思うアーフィ。慈善行為で引き取られたとして、もしも放り出される事になったら、エルフの保護は一切無い帝国では、すぐに奴隷落ちしてしまう。同じ考えなのは他二人も一緒だ。イエラとしては、ペロンの身のこなしから、弓を使う職としては遥か高みに居ることに気付いていた。

 

「こんな汚れてしまった身でも、性欲処理にお使いになられるのは一向に構わないのですけど」

「で、できれば…ベル・リバー様に使って頂きたいな」

「あの粗チンのエルヤー、乱暴なだけでしたからね…何度、こっそり魔法で治した事か」

 

 悲報。エルヤーは粗チンだった。

 まあ、粗チンだろうがスローなわっふるわっふるを心がければ、刺激は弱いが満足度は上がるのだけれども、エルヤーにそんな気遣いはある訳がなかった。

 

「…おまけに連射するだけで早いし量も少ないし」

 

 続報。エルヤーは速射だけど弾切れ早かった。

 

「失礼します。皆様、洗浄はお済みになられましたか?」

「は、はいっ!」「隅々まで…」「綺麗になったと思います」

 

 突然入ってきたのは、無表情の長身メイドだ。それぞれ湯船に浸かっていたエルフ達を見て、湯浴みは済んだかと確認しにきたようだ。

 

「スキャン実行。…未洗浄箇所を確認、失礼ながら不十分です。身嗜みを整えよとのマスターの命令です。

 手隙の機体に応援要請しましたので、洗浄します。準備を」

 

 ずらっと出てくるナンバーズ達。全員同じ格好で同じ無表情なので怖い。両手に洗浄用のヘチマタワシと石鹸を持っている。

 

「洗浄開始」

「「「了解」」」

「「「きゃああああ!?」」」

 

 エルフ達は思う存分、洗浄された。背中も脇も股間も前から後ろから隅から隅まで徹底的に。ぐったりした所で肌保護の香油を塗られ、髪の毛先が整えられた。頭髪もトリートメントされ、くすみ、色落ちかけていた髪が色を思い出したかのように煌めく。

 

 最後に、サイズがぴったりの簡素な下着を付けられ、その上に一枚の布を工夫したローブのようなもの…キトンを纏う。闘技場から来る間に着せて戴いたローブも素晴らしい肌触りだったが、この衣装もとても肌触りが優しい。

 

「準備完了。鏡で個々人に確認願います」

 

 鏡の前に立たされたエルフ達は、一見、目の前の姿見に映るエルフは誰だろうと首を傾げた。傾げた所で、見覚えのある自分の姿に驚き、再度、耳を触ってしまう。鏡の中の自分も同じく耳に触れた。

 

「これ、私達なの?」「嘘…」「綺麗になってる…」

「外見に問題はございませんか?」

 

 無表情に聞いてくるメイドにコクコクと頷くと、メイドは一人が先導して廊下へ促す。浴室の出口に、これも履き心地がいいサンダルが用意されていたので、これをエルフ達は身につけた。

 

「他機体は浴室の清掃開始。皆様は、まずは食事をお摂り下さい、ご案内します」




尚、エルヤーの槍の設定は、本作だけのものです。

奴隷エルフの名は本作だけの捏造。まあ覚えなくても支障無いです。

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