荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
これはいきなりの終盤の話ですが、これからもコモンウェルスの話は思いつき次第続けます。
メインクエストの終盤であり、相容れない勢力との決別が迫るのがゲーム中の状況である。選べずどこの勢力も維持したまま、というプレイヤーも多かった。これがFallout4の評価を割ってしまった原因でもある。
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が、ここは現実となったウェイストランド。トールは放浪者夫婦と各所の事態を引っ掻き回し続けたが、コモンウェルスの状況を確認し終えた所で、どこかの殲滅ではない選択肢を作り出す事になった。
「二人から持ちかけられるとは思ってなかったよ」
「私達は、神の慈悲で知恵を得た獣。所詮はどこまで行っても生き物なのよ。人類様、人間様なんて、高尚な物じゃないの。それをあの子達はわかってない」
「インスティチュートは、人類そのものの定義を間違えている。獣だと信じたくないのさ。わからず屋を説き伏せるのもまた、親の役目だ」
インスティチュートは、コモンウェルスでやり方を間違い続けた挙げ句、人造人間という次世代を残せない悲しい存在を作り出し、人類の再定義などという馬鹿げた妄想を掲げた。
「再定義も何も、知恵が他より回るだけの生き物よ、私達は。その挙げ句が戦争なの。極限まで積み上げた負債で滅びかけたのが私達よ。原点は、良い暮らしをしたいという、生き物としての欲求ね」
「アメリカ人とは思えない発言だな。神が人間を作ったんじゃないのか?」
「信仰は尊いが、どこまでいっても我々が生き物である事を忘れてはいけないんだ」
そしてインスティチュートを事前に、荒れ狂う暴力で心を折ったのが放浪者夫婦である。トールも協力したのだが、極限まで鍛え上げた二人は手を出すまでもなく暴風となって、無数のコーサー達を戦闘不能にした。
中央エレベーター付近に山と積まれて呻くコーサー達を見て、インスティチュートのインテリ達は心が折れた。一体たりとも、死んでいないのだから。
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現在の指導者であるショーンには「わからず屋には、拳骨だ。どちらかを滅ぼせばそれで済む訳じゃない、落とし所が大切なんだ。我々は人間なのだから」と言い聞かせた。その後、恐怖に震える各部署の代表との会合でネイトとノーラ夫妻は指導者に就任した。
真っ先に指示したのは、第三世代人造人間の製造と開発の中止と、FEVの研究凍結だ。無駄なリソースを費やす事を止め、現実を見据えた研究を進めていく方針である。
ビッグエンプティの技術を知るトールとしては、インテリが閉鎖空間でこじらせた技術なぞ悪い意味で想定内であり、トールがちらと披露したいくつかの技術はインスティチュートの数世紀先を行っていたので、これまでブレイクスルーを見つけられなかった研究者はそこで心が折れた。
「ルートとしてはインスティチュート殲滅ルートの亜種だよなこれ」
「何のことだ?」
「いや何でも無い。それよりもやっと来たなここまで」
「ええ、貴方のお陰よトール。これで、ショーンの願いを一歩、進める事ができる」
戦前を知る放浪者夫婦は、コモンウェルスから始める人類復興の最初の一歩として、各勢力に接触と交渉を重ね、各勢力との会合まで取り付けた。
ミニッツメンから放浪者夫婦、BOSの交渉者としてキャプテン・ブランディス、レールロードから副司令のDrキャリントンを交え、コモンウェルスのみならずウェイストランドでの人類の復興を目標に交渉を行った。
端的に言えば、今ある力と手段を組織の枠を越えて束ねて行こうという話だ。トールに次いで力を持つ放浪者夫婦がインスティチュートの舵取りを担う。
夢物語ではなく、現実的な目線で未来を築き上げようとする訳で、殲滅する事より余程「有効活用」が望める。
その筈だったのだが…。
「…マックス坊やとケルズのおっさんへの落とし前は、俺が付ける。二人はアルカディアに彼らを連れていってやってくれ」
かの場所における三つ巴の戦闘は、護送予定の脱走人造人間集団を保護しようとするレールロードと、それを阻止しようとするBOSとの戦いに、トールが介入した。挙げ句があの惨事である。
「本当にいいのか一人で?」
「殺す積りは毛頭無い。あくまでも「わからず屋に拳骨」を食らわせるだけだ」
ネイトとノーラは吹き出して「頼んだ」と言い残して、ファー・ハーバーへ向かった。戻ってきたらインスティチュートの拠点へ行き、病気でもう残り少ないショーンとの時間を過ごすよう言ってある。
「さぁて、事前通知はした、準備も整えた。あとはBOS次第だ」
MOD由来の、吹き飛ばすだけの貫通1ダメージナックルを用意。ただし、ゲームと違ってこっちは現実。ダメージは発生するので、本来受ける衝撃は体を駆け巡る。つまり痛い。
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BOSに危機が迫っている。割と創立以来最悪の事態かもしれない。
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>その頃BOSでは
譲れない事で衝突するのは、人間が命であり動物である証明だ。人間が野生の獣であって、同時に武器として発展させてきた知恵は、危険を回避する為と、対抗する手段を得るために進化させてきたのだから。
しかしながら、衝突するのは相手が同レベルか工夫次第で超えられる壁、あるいは一矢程度は報いる事ができる相手であればこそであり、例えば襲いかかる自然災害に危険を承知でぶつかりに行くのは勇気ではなく無謀である。
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その日、文字通りウェイストランド最悪の災厄がブラザー・フッド・オブ・スティールに襲いかかって来ると報告…いや、伝言があった。ご丁寧にも来襲予定日時が指定されている。
「い、以上が荒野の災厄こと、トール氏からの伝言です」
顔面蒼白のパラディンの報告は大分オブラートに包まれていた。端的に言えば、空港を襲撃し、立ち塞がる連中は一人残らず殴る事、ランサー・キャプテン・ケルズとエルダー・マクソンは特に念入りに挨拶に来る事が伝えられた。
挨拶と言っても言葉ではない。挨拶(物理)である。
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それを聞いた当のランサー・キャプテン・ケルズとエルダー・マクソンを、思い出させたトラウマが一歩、後退らせた。脇で聞いていたパラディン・ブランディスが憔悴した顔で、よろけて壁に手を突いた。
「…エルダー・マクソン、私が折衝で出ている間、何をしていたんだ? いやキャプテン・ケルズだな、これは騙し討ちではないか?」
「人造人間の存在は脅威だと、以前から言っている。考えていた内、かなり悪い事になった。対策を考えねばならん」
「かなり悪い事? 最悪に決まっている!
対策? あの災厄が全力で襲いかかってくるんだぞ!? 在る訳が無いだろう!
わかってるのか!? 死にはしないが、迎撃に出た全員の心が折れるぞ!?」
「そんな軟な鍛え方はしていない!」
「101のアイツと彼の用意したカリキュラムをせめて10周、平気でこなしてから言え! トールは教官として横で30周はこなしたぞ! それにあいつはリバティ・プライムの手足を素手で殴り砕く男だ! パワーアーマーがあろうが薄紙同然と鎧袖一触に吹き飛ばされるのがオチだ!」
「…まて、リバティ・プライムの件は初耳だ」
エルダー・マクソンは脂汗を垂らしながら、ケルズの視線に首肯。ケルズは目を見開く。インスティチュートへの最終攻撃の為に用意はしてあるが、いつもは頼もしい筈のその姿が、途端に頼りなく見えた。
「エルダー、話していないのか…。そうか、俺はもう知らん、小隊の連中と共に救護班に行く。後始末はしてやる、思う存分ぶん殴られてこい」
止める間もなく、パラディン・ブランディスが怒り肩で去る。
「怒っているかどうかはまだわからん。スクライブから実際の音声記録を確認しよう」
記録班の音声記録は先程のパラディンのパワーアーマー経由で記録されている筈。整備班に連絡を取り、ホロテープへ記録して確認することとなった。
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>各部署代表への通達と反応
各部署の代表と補佐が集められた後に再生されたホロテープ。そこに記録された音声は、スピーカーをびりびりと震わせた。かつてトールと調査のためデスクローの異常発生地帯に同行した経験のあるベテランのスクライブが、音声記録を一度聞き終わった時点で泡を吹いて気絶した。
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内容からして、荒野の災厄が激怒している事が裏付けられた。
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救護担当に引きずられてそのスクライブが居なくなると、各部署の代表達は、エルダー・マクソンとランサー・キャプテン・ケルズに胡乱げな視線を向ける。
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荒野の災厄がBOSに襲撃をしかけてくる原因は、主にエルダー・マクソンとランサー・キャプテン・ケルズ、この二人にある。インスティチュートと人造人間に対しては、二人はキャピタルBOSにおける強硬派だ。キャピタルウェイストランドで、リベットシティ隣で辛うじて人造人間の集落が存続しているのは、自ら人造人間と明かしている事、101のアイツが保護している事が大きい。
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人類復権・復興と、再び災禍を招きかねない危険なテクノロジーの収集、あるいは破壊を目的とする武闘派組織がBOSである。本部BOSはテクノロジーの収集に拘るハイテクレイダーと化す中、キャピタルBOSはエルダー・リオンズが現地民の保護を優先したのを皮切りに、101のアイツ親子とトールの尽力もあって、テクノロジー収集と現地民保護による地域からの協力体制が確立、現在に至る。
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そして現在、人類の復興に対して違うスタンスを持つインスティチュート側についたのが、放浪者の夫婦である。荒野の災厄は中庸であり、本来であれば交渉ができる人物であった。
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が、ファー・ハーバーのアルカディアへの攻撃命令、パラディン・ダンスの措置、そして先日の三つ巴になった戦いが止めとなったようだ。
往年の災厄のそれを知る古株のパラディンは顔を青くしている。尚、トールはキャピタルに居た頃と比べて一切、歳をとっていない。それが余計に恐怖を煽る。
「…やっちまいましたな。挑まれた以上は十全を以て当たります。それが彼から受けた教えですから。ただ、戦果は期待せんでください」
直接遭った事の無い若いナイトやイニシエイト達は士気も練度も悪くないだろうが、災厄の視界に入ったら為す術もないままに戦闘不能にされるだろうと。
「どうやって対処するか考えは、ですと? 訓練通りに動き、全力を以て立ち向かい、あとは祈ります。ああ、先にお祈りは済ませた方がいいかもしれませんな、手間が省けます」
視界に入ったその時点で詰む。見られたら死ぬ古の邪眼と同義だと。あと目の向いている方向に居る時点で壁を貫通してくるとも。
トールのPerkのそれは、バニラのものとは違い、索敵範囲内に存在している全ての対象をターゲットできる。完全に遮蔽物に隠れていようがお構いなしである。
「彼ほど、過去の資料の大事さを知る者は居ない。だが流れ弾が飛んでこない事を祈るだけでは、足りません」
スクライブ含めた戦闘以外の分野の面々は、責任者の指示でとばっちりを恐れて今の仕事道具をかき集めてボストン空港の前哨基地から離れる事になった。
「彼は壊しませんよ。ですが、ソルジャー達のとばっちりはご免です」
命令違反ではなく「貴重な資料や機材を守るため」というまっとうな理由である。放浪者夫婦とトールによって齎された資料や機器は、まさに宝の山である。そそくさと彼らは場を辞した。
「エルダー、キャプテン、信念を貫き通すのは立派よ? でもね、彼の提案はあの夫婦の願いでもあるの、わかる? あの二人ほど、戦前の悪さと良さを知悉している人たちは居ない。その上で、私達の原初の理念に共感して、今以上に活動の範囲を広げられるよう頭を悩ませてくれたのよ?」
プロクター・イングラムは特に怒っている。災厄が一通り暴れた後、各種メカニクスの修理や整備は彼女達に降り掛かってくる為だ。
「それを汲んで、彼らにも私達にも最良の未来への選択肢を駆けずり回って準備したのがトールよ? 二度、事前に阻止して、それでもとブランディスが行ったのに…!」
苛立つプロクター・イングラム。落ち着かせる為に壁を殴る。配線や配管にダメージが行かない部分を凹ませるのはまだ理性が仕事をしているお陰だろう。
「言っておきますけどね、災害に対して素手で殴りかかるみたいな無謀は、人間としての勇気と知恵を放り投げた、野生動物ですらない愚行なの。
わかってる? もう要塞に居たのが随分前だからって侮ってるの? ねえ? 聞いてんのか! おいこら!」
殴りかからなかった事を褒めろと叫ぶ彼女を、整備班の面々は総出で引きずって行った。
「…キャプテン・ケルズ、我々は勝てるか?」
「消耗戦に持ち込めば、あるいは」
希望的観測である。まさに「希望(HOPE)」に満ちたそれ。
ただし「希な」「望み」と書くのが日本語で、トールの前世は日本人だった。
荒野の災厄が激怒している音声を記録したホロテープは、一度だけの再生を最後に厳重に封印された。これは、特定世代のキャピタルBOS特効精神兵器として、代々のエルダーに申し送られる。
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>悲壮な雰囲気のBOS
襲来に際しては、日時が指定されている。十分に準備を行える時間も用意された。心もとないのは食料だろうか。コモンウェルスの主たる食料供給事情は、ほぼ全てがネイト・ノーラ夫妻が将軍を務めるミニッツメンの保護居留地からの物だ。取引が停止されれば食料事情は確実に悪化する。
そこにいつものキャラバンと共に、3体のロボブレインが大量の荷物を持って現れた。BOSにとっては、哨戒、調査に向かう際、主だった街道を通ればいつも爆走しているロボブレインを見かけるので馴染みの姿である。
『ここがBOSの前線基地か。宅配物だ、受領サインをさっさと寄越せ。こんな危険地帯には一秒とて居たくないのだ』
「…これ、トールが送り主か?」
『そうだ。ご主人様の国には「敵に塩を送る」という、あえて相手が必要とする物を送り、十全に体制を整えさせてから叩き潰すという言葉があるそうだ。なんとも心温まる話だな、私には無い筈の背筋が凍りつく。回路が結露しそうだ、どうしてくれる』
3台のロボブレインが運んできたのは、現在の厳戒態勢であっても一ヶ月は余裕で持つ食料・弾薬の山だった。戦前備蓄の発掘、放出品ではなく、現在も動いているプラントを利用した真新しいパッケージである。トールの嫌がらせだった。古株のナイトが震える手でサインをすると、荷物を置き終えたロボブレインがいつも以上の速度で走り去っていった。
「本気だ、荒野の災厄が本気で心を折りに来てる…! もうお終いだ、望みが絶たれた!」
「な、ナイト!? 誰か、衛生兵、衛生兵!」
尚、事前に空港近くに非戦闘地域が指定されており、トールはそこには手を出さないと追加通達があった。
空港近辺の少し高くなった建物には、いつの間にか空港敷地を見渡せる観客席がわざわざ設置されていた。これもトールの嫌がらせである。これで古株のパラディンやナイトの心が更に折れた。
BOSに全面的に味方するルートも考えましたが、よりこっちの方が「災厄」らしいかなと。