荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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閑話 荒野の災厄と至高なる御方 武人武御雷

 帝国に出かける前のお話。

 いつもの墳墓入り口のログハウス前でナザリックブレンドを嗜みつつ、死蔵していた武器の手入れをしていたトールの前に、武人武御雷が現れた。最近はよく、人化した状態で自分の腕を磨くためにコキュートスと鍛錬をしている。

 

 コキュートスとの鍛錬も終えてぶらぶらと散歩していたのだが、地下大墳墓に戻る前でトールが並べているものに興味をひかれた。

 

「ようトール」

「タケさんか」

 

 トールの目の前には防水シートが敷かれ、その上にコンバットナイフや機械の拳やら巨大なハンマーやらが並んでいた。それらもそそる物があったが、その中に、場違いともいえるような美しい造りの刀が置かれていた。

 

「む、トール。その刀は?」

「これはキャピタルウェイストランドに居た頃、宇宙人に拉致られた友人を宇宙船に殴り込んで助けに行った先で、冷凍保存されてた戦国時代の侍をついでに助けたんだけど、その時に見せてもらった刀を参考に無重力空間で生成したアモルファス化合金を使って縮退炉の重力波で圧縮して作った刀だ」

「…すまん、言ってることがよくわからない」

 

 そうか? と言った所で、伝えた内容が字面だけでは荒唐無稽に過ぎると気付き、キャピタルウェイストランドでの冒険について触りを伝えた。というか筆者すら事実しか書いてないにも関わらず、素で読み返したら内容が頭に入ってこない事に気付いたのはチラシの裏。

 

「…宇宙人に拉致られる時点で大概だが、暴れまわって宇宙船を乗っ取るとか、101のアイツって奴もすげぇな」

「レベルとしては30。ユグドラシル基準だと10位の筈だが」

「…どうなってるんだよウェイストランドは」

 

 トールが「難度=ウェイストランドのレベル」と大まかに図ってはいるものの、明らかに101のアイツや運び屋、放浪者夫婦の強さはおかしいのだ。勝敗を体力半分を基準にした模擬戦、正面切っての戦いではトールも数回に一度は負けると言う時点で色々おかしい。

 彼らだけが異常ではある(トールはもう例外)のも考えられるのだが、実情はFallout3とNVのレベル上限が30で、Fallout4の場合は上限が無い事に起因する。トールは勘違いしているようだが、キャピタルとモハビのレベル推定はユグドラシルと比較すると1:3で、レベル上限30に到達すればユグドラシルの90レベルに相当する。コモンウェルスのみこの世界の難度と同じで、レベルが最初から300だったトールは気付かなかった。

 閑話休題。

 

「ウェイストランドのおかしさはさておき、日本刀を参考に、宇宙で生成した素材で作った刀だと言うことか」

 

 トールは解せぬと言いつつ、刀については首肯する。

 

「実際の所、モノとしては素晴らしいな。バランスも絶妙だ」

「元の刀が戦国時代の代物だったからな。トシローの家紋も織田家ゆかりのものだったし」

 

 振っていいかと確認の上で、武人武御雷はその刀を振る。いつもの得物と比べると短いが、軽すぎず重すぎず、イメージのとおりに刃筋が通る。

 

「対価は払う。2本、譲っては貰えないか?」

「いいのか? CND値は無いが、ユグドラシル武器と比べると単なる物理的な武器でしかないぞ」

 

 素の攻撃力についてはウェイストランド基準では高いとはいえ、ユグドラシル基準では最上級程度である。

 

「構わない。攻撃に関するデータクリスタルも魔化も無いからこそ、使う意味がある」

 

 手入れ不要にする為、自己修復系は入れるかもしれないがと付け加える。

 

「もう一本はコキュートスの為か」

「そうだ。人化した状態で、種族レベルの代わりに伸ばしてきた職業レベルがお互い、いい感じにかみ合って来た。より高みを目指す為に、この刀は最適だ」

「成程。だが…、そういうことならこれも持っていくといい」

 

 インベントリから取り出されたのは、先程の打刀より大きな太刀だ。少し柄も長い。大柄な武人武御雷でも背負う必要があるだろう。

 

「太刀か?」

「ああ。標準的な玉鋼であまのまひとつさんに頼んで打って貰った奴がベースだ。平均で15本の影打ちをした中で、最も出来が良い真打ちを基準に、さっきの刀を製造した方法で作ってある」

 

 いつもの武器と同じ長さである事も付け加えた。コキュートスの装備は武人武御雷のお下がりなので、お互い使い方には支障無い。コキュートスが必要なら、追加の用意もすると付け加えた。

 

「ありがとう、恩に着る。所で対価はどうすればいい?」

「アイテム類ではなく、これを付けて一度、コキュートスとの模擬戦でのモーションデータを取らせてくれ」

「??」

 

 疑問に首を傾げる武人武御雷。トールは続けて説明する。

 

「以前からこの刀を持ってて使わなかったのは、十全に刀の使い方を知る振り方ができなかったからなんだ。刀の使い方をより深く知るタケさんのデータを元に、俺の体格に合わせた動作を構築したいのさ」

「成程、トールらしいやり方だな。いいだろう」

 

 その後、武人武御雷とコキュートスとの模擬戦でモーションキャプチャーを半ば壊すまでデータを存分に取り、トールは拠点で自身の能力と体格データを基準に基礎的な全ての振り方を構築した。

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 暫くの間、新規の技術開発をお休みして、モーショントラッカーを用いて刀の振り方を自分の体に覚えさせた。そして、筋肉の動作データ等も逐次表示した上でトランキルレーンも併用したカリキュラムはトールをして過酷ではあったが、元が日本人だけに刀を振るう魅力には替えられなかったらしい。

 尚、鍛錬に集中し過ぎてやまいこと会う頻度が少し下がったので、埋め合わせの方が苦労したとはトールの弁である。

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 後日、刀の振り方を覚えたと合同鍛錬で披露する。

 

「…スキル無しで、九頭龍閃とか天翔龍閃とか撃つのか」

「これで武技は覚えられないってんだから、ウェイストランドの人類って根本的にこの世界の人間と違うよな」

「むう、私は剣だからなぁ…って、トールさんの刀、雷を帯びてないか?」

「鞘に、ガウスライフルの電磁投射レールを仕込んだらしい。剣速全開で衝撃波が出るとかなんとか」

「それに耐えられる肉体とか、人間って一体…」

「人類(笑)」「「「それな」」」

「そこの異形種フレンズ、武技習得カリキュラム、ハードモードをご所望か?」

「「「勘弁してつかーさい!」」」

 

 漫画やゲームなど、フィクションの技を一通りスキル無しで披露した派手な技の後は、至って普通の剣舞というか型だ。たっち・みーが、その動きの無駄の無さに戦慄する。

 

「速さも至って普通、ですよね?」

「後衛はそう見ますか。でもねあれ、凄いんですよ。一切無駄も無理も無いので、トールさんは全く疲れが無いんです」

「…え、疲労とか発生しないんですあれ?」

「はい。だから凄いんです。あそこから剣速も上げられますが、私の全力での打ち合いもできるでしょうね」

 

 たっち・みーはそれでも私が勝ち越しますが、と付け加えるものの、近接で刀のみという条件で縛った上である。

 

「てか通常攻撃で七色鉱の塊切ってるんだけど!?」

「…これはうかうかしてられません」

「たっちさんが本気だ…」

 

 見れば、ただの金属の刀で巻藁代わりのユグドラシル産インゴッドを音もほぼ無く切っている。

 

「…影が遅れて追ってついてくる速度とかできそうだよな」

 

 弐式炎雷が、かつて読んだことのある古典ラノベ(リアル基準)の技を思い出す。

 

「反射とか発勁はともかく、流石に○影は無理だ。ユグドラシルのアバターならいけるかもしれんが。たっちさんとかタケさんなら、武技とスキルで行けるかもな?」

「物理反射が素でできるようになった時点でまずおかしい」

「今は使ってないが、Perkと装備で既に反射はあるぞ?」

「「「違う、そうじゃない」」」

 

 6階層で行われていた至高なる御方々の合同鍛錬をたまたま見ることができたブレインが、武技も特別なスキルも使わないその技の高みを見て、それだけで自分の技がまだ先に行ける事に気付いて更に鍛錬を重ねる。

 

「おいブレイン、いきなり強くなりやがったな!? 面白ぇ!」

「…高みをもう一つ見たんだ、俺がまだ未熟だって事もな!」

 

 そして、武人武御雷とコキュートスは、今迄以上に興奮していた。人という構造物体を熟知し、その全てのポテンシャルを引き出すだけであれ程の極地に到れるのだ。ユグドラシルからの力を有しているなら、今把握している以上の強さに到れる。

 

「これだ、これが人化の可能性っ! コキュートス、俺達はまだまだ強くなれるぞ! ついてこい!」

「はっ!」

 

 残念ながらその後のたっち・みーとのPvP(定例)は負け越してしまったが、それでもいつも以上に肉薄できた事に武人武御雷は確かな成長の実感に喜び、たっち・みーは逆に悔しがっていつもより鍛錬を重ねるようになったという。

 

「…どんだけ強くなるんですかあの人達」

「タケさんなら、もうほかのワールドチャンピオンが来たとしても勝てると思う」

「実質の強さ、レベルにして5とか10とか違いますよね」

「100から115換算ですか…人化状態ですら近接だともう勝てる気がしない」

「トールさん、何かコメントを」

「あのなぁ、俺の場合は完全に物理限界なんだよ。文字通り人外のユグドラシル基準と一緒にしないでくれ」

 




 トールの技は、「東京バトル」の計算的な動作モーションの研究と最適化と、「落第騎士の英雄譚」のイッキ君の「全てを自己コントロールする」ような合せ技です。
 トランキルレーンの使用も自己コントロール能力を得るための一環ですが、最後に述べている通り素では物理限界です。物理限界ゆえの「無駄の削ぎ落とし」ではありますが。
 あと疲れないという剣の振り方は、ダイの大冒険と某お人好しの魔王様からです。

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