荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
思いついたら書き足してる中、機能を調べる為に閑話や幕間などの話の順番をいじっていたら、なんだかタイトルがチェックしてる各所のお話と被ってるなと思い、替えた次第です。
凡庸なタイトルですが、わかりやすさ優先ですので、ご容赦の程を。
「至高なる御方々、準備が整いましてございます」
「入って貰いなさい」
応接間に、身奇麗にした奴隷エルフ達が入ってくる。緊張の面持ちで歩く彼女達は、廊下もそうだったが部屋の豪華ながらも落ち着いた内装に驚いている。
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そして、目の前に居るのは「至高なる御方々」と呼ばれていた、ベル・リバー様、ペロン様、マイコ様、モガ様だ。それぞれ基本的な意匠はそのままに、各人に合った形で整えられた衣服を纏っている。輝いて見えるのは「始まりの九連星」の刺繍が入った腕章である。
「うん、綺麗になりましたね。身体の具合はどうですか?」
四人のうち、やまいこを除いて男性陣はエルフ達の変わりようにびっくりしている。表情には出さない。
(うわーお、エルフってやっぱ整ってるなー)
(煤けてるのが洗われただけっていうレベルじゃないな…)
奴隷エルフが緊張した表情で目を向けると、至高なる御方々の隣に佇むメイド、ユリ様が軽く首肯する。
「は、はい、3人共、治療していただいて、元気になりました。ずっと気怠かった身体が、嘘みたいに軽いです」
「軽く食事を摂ったようですが、まだ少し食べられますか?」
「あの、私達は…」「食べたいです!」「!?」
「ふふっ、正直で結構。ナンバーズ、彼女達に椅子と、あとは紅茶と軽く摘めるものを」
「「はい」」
促されて座る。奴隷になってから、椅子に座って食事を摂った事など数えるほどだった。その時も硬い板の粗末なもので、食事処の隅っこに座らされたのを思い出す。エルヤーには床の上に置かれた皿で、手を使わずに食わされた事もあった。
「緊張させちゃってごめんな、では早速、君達のこれからについて話をしようか」
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ベルリバーが指を立てて語りかける。
「君達には此方から提示できる選択肢が三つある。一つは開放の後、エルフの国に送り届ける。一つは、王国にある我々の屋敷に住んで使用人として過ごす。最後の一つはこれも王国の食堂で…」
そこまで言った所で、ペロロンチーノが済まなそうに遮る。
「あー、ベルさん、食堂はなんか従業員過多だって」
クレマンティーヌにアケミ、ザ・ファイブズがその身体能力を無駄に活かして大量の客を軽々捌く訳で、素人のエルフ達が入ってもあまり役立てないだろう。
「え、そうなんです? …すまない、二つだけだったね。どうしたい?」
「国には絶対、帰りたくありません…」「私も」「わ、私も」
エルフの国の事情は、モモンガさん達も確認している。囚われて奴隷落ちした事も含めると、再び前線送りとなる以上の過酷な扱いをされるだろう。
「では、王国にあるカルネ村の、私達の屋敷に使用人として働いて貰いますが、いいですか?」
「…厚遇、感謝します。ですが、不躾ながらお願いがあるんです」
「ふむ、聞くだけ聞こうか」
モモンガがそう言うと、エルフ達の視線がベルリバーに集中する。この世界では基本的に美形率が高いのだが、高値で取引されるエルフだけに美貌は別格だ。人化しているのもあるが、注がれる視線にベルリバーは気圧される。
「な、何かな?」
「ベル・リバー様に私達、お仕えしたいんです!」「お、お願いします」「私達、何でもしますから!」
「ん? 何でもするって言ったよね?」
思わず反応するペロロンチーノ。
(ペロロンチーノさん、壁抜き行っとく?)
(ごめんなさい!)
そんなグループ会話はさておき、困惑のベルリバーをなんだか生暖かい目で見るモモンガさん。
(な、なんですモモンガさん!?)
(気付いてて言ってませんか?)
(何を!?)
余計に生温い視線に晒されるベルリバー。どうにもゆるい雰囲気になった所で、横でユリがこほんと小さく咳払い。眼鏡をチャっと上げる。
「端的に申し上げますと、ベルリバー様に惚れ込んでお仕えしたいと言う事ですね。そうなりますと、至高なる御方々にお仕えする以上は、礼法含め、厳しい指導が必要です」
「…だ、そうだが。私は君達の意思を尊重しよう」
「モモ…! モガさん!?」
「いいじゃない。てかさ、奴隷落ちした所を颯爽と助けた訳だし、惚れられちゃうのも無理ないね。これなんてエロゲ?」
「エロゲて…。あ、あの、無理しなくていいからね? 別段、屋敷の使用人で構わないんだけど…」
「ただ、そうなると我々のもう一つの姿も知らなければならない」
緩んだ空気を引き締めるように、モモンガさんが魔王様モードに入った。
「もう一つの、お姿ですか?」
「我々は人では無いのだよ。この姿も真ではあるが、もう一つ、異形の姿を持つのだ」
「…驚いたりしても、咎めません。無理に受け入れろとは言いません。開放を希望して、王国で再出発するなら支援もします」
「覚悟はいいかい?」
奴隷エルフ達は唾を飲み込み、ゆっくりと首肯する。
モモンガさん達は、ナザリックギアのセレクタを操作。人化から異形種幻影を透過モードにする。奴隷エルフ達の目に恐怖が映るが、それでも目を逸らしたり気絶したりはしない。
異形種モードに設定、完全に変身が終了する。エルフ達は恐ろしさというよりその存在の圧力に気圧されているが、誰一人、目を逸したり錯乱してはいない。
(…この子達、根性あるね)
(俺は気に入りましたよ。どうです、ベルリバーさん?)
(わ、私に振るんですか!?)
(三タイプ、色々違う楽しみが…!)
(ペロさんギルティ)
(しまった!?)
(やっちゃいましたねペロさん…)
ペロロンチーノが宙を飛ぶか地面に埋もれるかどちらか確定なのはさておき、奴隷エルフ達はモモンガさん達から目をそらさず、真っ直ぐベルリバーに目を向けた。
ベルリバーは無数の口が付いた異形。今はオフにしているが、メイン以外の口は常に冒涜的な何かを囁き続ける。
「これが私達のもう一つの姿だ。そして、我が名はモモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック。魔導皇国の皇帝だ」
「俺らは同列四一皇が一人、ペロロンチーノ」
「同じく、やまいこ」
「同じく、ベルリバー。恐ろしいでしょう? その上でもう一度聞きます。私達に…」
「そこは私に、でしょう?」
モモンガさんがなんか骸骨面なのにニヤニヤしてる気がする事に、ちょっとイラっとするベルリバー。やまいこもなんだかニコニコしてるというか、お見合いセッティングするような感じである。ペロロンチーノに至っては、親指立ててたりする。
この悪ノリ大好き連中めと胡乱げな目になるベルリバーである。こんな時に限って、ツッコミ役もこなすトールは居ない。
「ええと、こんなですが、私に…仕えますか?」
「「「はいっ!」」」
思った以上に元気に返事をされて、困惑気味のベルリバー。やまいことペロロンチーノは「イェイ!」と言いたげな感じで両手でパーンとかやってたりする。力が入りすぎたか、ペロロンチーノは手のしびれに悶絶中。
能力としてはオフしても常に何かを喋るように動くベルリバーの身体中の口が、パクパクとしか動いていない。モモンガさんは笑いそうになるのを精神安定化の発動で抑制されるのを待って、極めて冷静な声音で沙汰を出す。
「…いいだろう。これよりお前達は、我が魔導皇国の一員となる。指導の後、ベルリバーさんの専属として仕えて貰うが、その代わり、我が名に置いてお前達の生活と安全を保障しよう」
「「「至高なる御方々に感謝を」」」
「宜しい。ではユリ、彼女達はカルネ村の屋敷へ。セバスと相談して指導内容の設定を」
「はい、お任せ下さい」
現在は屋敷に音改が常駐しているが、ベルリバーもエルフ達の移住に合わせて移住する事にする。ナザリックが来る以前は住んでいた訳で、勝手知ったる第二の我が家だ。
後にメイドロボのフォルテと音改の夜の生活に中てられたエルフ達が悶々として、夜遅くに用事を済ませてひょっこり戻ってきたベルリバーが、色々溜まりまくって限界突破したエルフ達に押し倒される遠因となる。
閑話休題。
「今日はもう疲れただろう。我々はまだ話し合いがあるので別室に行くが、テーブルの上にある物は全て食べてもらえると手間が省ける」
「またね。訓練、頑張って。たまに見に行くから」
モモンガさん達が人化して、部屋を移す。ナンバーズ達も居なくなり、奴隷エルフ達は促されるまま、軽食として用意されたサンドイッチを食べる。美味しい。淹れ直された紅茶も香り高く美味しい。
「エルヤーに使い潰されるだけと思ってたから」「それに比べたら」「すごく怖かったね」「でも、優しい声だった」「人間よりも穏やかそうな方々だった」「救われた以上、一生懸命お仕えしよう」「うん」
エルフ達が食事を終えた所で、察したナンバーズが現れて客室に案内する。キトンを脱いで寝台に入った所で、色々な事がありすぎた彼女達はすぐに寝息を立てた。
「エルフ達の就寝を確認」「バイタル安定、レム睡眠時を警戒」「了解、睡眠用魔道具の準備」「脳波パターンの計測開始」
これからエルフ達は、これまでの出来事で刻まれたトラウマが、日常生活の他、夢の中でも襲いかかる。魔法で記憶をいじる事も検討されたが、MP消費の割に抜け落ちた記憶で混乱する可能性もあったため見送られた。
ナンバーズ達はやまいこの指示に従い、彼女達が安らかに眠れるよう、睡眠不要の身体でこれから暫く、指導と共に寄り添う事となる。
後の、カルネ村での夜の出来事。
「ちょっと、待って、ねえ!?」
「待てません」「十分待ちました」「辛抱たまりません!」
「ナンバーズ、ちょっと…!?」
「ツー、ツー、只今、手が離せません。御用の方は、ピーっという音の後に伝言をどうぞ」
「今居るよね!? って、モモンガさんだな命令!?」
「ごゆっくりどうぞ、との事です。私達はお邪魔にならないよう、外で待機致します」
次の日、物凄くいい顔で音改に挨拶されました。