荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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雨天の中、機械操作をする苦行。くっそ寒いですが、皆様、風邪などはひかれぬようご注意を。

修正:ウルレイカ→ウレイリカ


至高なる御方々と戦闘メイドの暴走

 ナーベラルは物凄く追い詰められていた。誰かに追い詰められた訳でも無いのだが、精神的というか待遇的にというか、ともかく、追い詰められていると感じていた。

 

 何をといえば…、創造主である弐式炎雷との関係である。

 

 度々、散歩や視察や傭兵仕事を共にするのだが、何だか態度が素っ気ない気がしていた。創造主は、他の至高なる御方々との会話等では結構軽口を叩く訳だが、他のシモベとの会話と比較して、ナーベラルとの会話は何だか余所余所しい。

 

「何か、粗相があったのでしょうか…」

 

 普段の真面目ポンコツ系っぷりはさておき、別段そんな訳無いのだが、自分でも気付いていない所が原因で疎まれてしまっているのではと考え込む。

 

 考えすぎである。

 

 それに、一般メイド達や、ソリュシャンとルプスレギナがお手つきになった時は素直に祝福したものの、シズとエントマに先を越された上、創造主が女性であるやまいこの子であるユリが、やまいこと共にトールと寝床をともにする仲になったと気付くと、自分の状況に愕然とした。

 

「シズやエントマ、ユリ姉様にまで…」

 

 姉妹のお茶会でも何だか知っている同士でこそこそと、夜の話題をする姉妹達の隠喩やらが一切解らなかった。ルプスレギナには上気した顔で「じきに解るようになるっすよー」とか言われたが、納得できない。エントマに聞いてもシズに聞いても「個人的な内容なので」と口をつぐまれている。ユリには「ボ、ボクに聞いちゃ駄目!」と湯気の上がる頭を外して表情を隠された上で逃げられた。

 

 相談先を悩み抜いた挙げ句、恥を忍んでイマジナリに相談する。場所はナザリック地下墳墓、ロイヤルスイートの並びにある倉庫の一つだった。

 相談を受けたイマジナリは、少し間があってから耳打ちする。内容が内容だけに、顔を真赤にするナーベラル。

 

「きょ、虚偽を言うなら容赦はしませんよ!?」

「事実です。姉妹機のフォルテも、音改様のお役にほぼ毎晩立てていると報告を受けています」

 

 足元が崩れたかのような衝撃を受けた。

 ナザリック所属ではあるが、元が外部の存在であるフォルテにすら先を越されている。

 

「わ、私は…疎まれているのですか…?」

「いえ、疎まれている訳では無いかと。ナーベラル姉上は、弐式炎雷様に大事にされていますよ」

 

 イマジナリ・ニューはプレアデスの番外で、情動的な性格パラメータはかなり抑制されて設定されているものの、愛情や親切心などはほぼマックス設定である。シズやエントマとは特に仲が良い。

 最初は毒舌をナーベラルに浴びせかけられた事もあるが、そういう設定と割り切っているので、その奥の真意を分析すれば、初期設定に忠実でとても真面目で考えすぎるだけ、という判断を下していた。ただ補足情報で「ポンコツ系」と記録しているのは秘密である。

 

「で、でも」

「ただ状況の進展にあたりまして、幾つか、確認事項があります。宜しいですか?」

 

 イマジナリの確認事項は、仲が進展して弐式炎雷と夜のアレコレを致すにあたって、ハーフゴーレムの弐式炎雷は人化するとして、ナーベラルの身体がどうなっているかであった。人気のない密室で確認するというのはちょっと背徳的である。

 

「異形種の状態では穴は前後大小共に無しと。身体造形はほぼ完璧ですが、ほぼ、というのが問題ですね」

「穴とか言わないで!?」

 

 平然とした顔で言い放つイマジナリに、偏ってはいるが知識は嗜んでいるナーベラルが悲鳴じみたツッコミを入れる。空き部屋での相談なので他にもれないのが幸いか。

 

「だ、大小って…」

「前と後ろともう一つ、人間であればにy」

「わ、わかってるから! わかったから!」

 

 いつもの怜悧な表情はどこへやらである。素直クール系のイマジナリの淡々とした説明に慌てるナーベラル。

 

「それと、種族特性の影響でしょうか? 人化状態であっても不感症気味だと判断いたします」

「ふ、不感症!?」

 

 これまた偏った知識だが、触られようが抱きしめられようが、鈍いと相手が自信を無くしてしまう可能性があると、その手の「ウ=ス異本」に記載があったのを思い出す。

 

「急いては事を仕損じる、とメモリにもありますので、解消方法が無いかお調べ致します」

「お、お願いね。うう、どうしたら…」

 

 イマジナリの把握状況としては、ナザリックのNPC達は元はAIであり、多少の情報蓄積はあっても情動的な経験はほぼゼロに近いと考えている。イマジナリは知識だけはかなり詰め込まれているので、恋愛相談の様々なパターンデータから目の前の不器用な姉の為に、少しお節介を焼く事にした。

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 何のことは無い。朝方戻ってきて必要な荷物を取りに来たトールに相談である。帝国へとんぼ返りする準備中のトールは、イマジナリが珍しく自分から話しかけてきた事に驚いている。

 

「マイスター・トール、以上のような状況です。妹と致しましては、何かしらナーベラル姉様にアドバイスができないかと」

「…そりゃあまぁ、内容が内容だけに、他の面子には相談し辛いか」

 

 ドッペルゲンガーの種族特性がどのようなものかは詳しく無いが、設定された姿からもう少し踏み込んで変身の詳細を詰めて貰うか、人化状態で弐式炎雷に頑張って貰うかだ。

 

 トールはお節介を焼く算段を色々考えるが、ナーベラルの追い詰められっぷりは予想を遥かに超えていて、想像の斜め上を行った。今回はその騒動と顛末の話である。

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 所変わって、モモンガさん一行の帝都滞在三日目である。

 

 帝都の仮拠点予定だった屋敷については、思ったよりも利便性が高かった為、二日目の夕方に提供している商家に連絡して、皇帝の許可があると前置きした上で、即金で購入する事になっていた。

 

 昨日、案内人に依頼してセバスが支払いに行った。

 

「この額をぽんと出されるとは…、流石は帝国にも名が轟く傭兵団の方々です。いやはや、驚き通しですよ」

「手を加える前から綺麗に維持されていましたので、主達も気に入ったのですよ。とても良い買い物だと喜んでおいでです」

「ありがたい話です。土地等でまた何かございましたら、これからも是非ご贔屓に」

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 初日と次の日、濃密な時間を過ごしたモモンガさん一行は、ベルリバーとペロロンチーノは固定として、ウルベルトと入れ替わりで帝国観光メンバーに弐式炎雷とぬーぼーが加わった。

 モーニングを食べ終えてまったりと食後のお茶を楽しんでいた所に、転移門で弐式炎雷とぬーぼーが現れた。遅れてトールも出てくる。

 

「ういっす! お疲れ様、モモンガさん」

「や、最初から濃かったみたいでお疲れ」

 

 昨日報告を受けていた他のギルメン達は、驚くやら爆笑するやら反応も様々だった。モモンガさんは苦笑い。他の二人も同じような感じである。

 

「今日こそはほんと、のんびり行きたいです。ぬーぼーさん達も一緒で?」

「一緒に行くのは僕だけかな。弐式炎雷さんは、トールさんに何か相談があるって」

「おう。パワーアーマーの専用機を作ってもらう話と個人的な相談があってな」

「「「専用機!?」」」

「…しまった、試作機だってからまだ内緒だったんだ」

「「「試作機ですとぅ!?」」」

 

 モモンガさん、ベルリバー、ペロロンチーノ、ぬーぼー…、子供心を忘れない男共は、ぽろっと漏らした弐式炎雷に詰め寄る。

 まずったなぁ的な顔で弐式炎雷が覆面の下、顔をひきつらせていた。

 

「パワーアーマーのクラス外スキル持ちと、その中で事前設定のアチーブメントをクリアしてASモードの使用許可が下りた人向けに、データクリスタルを導入した試作パーツを使った機体を試す話だったんだよ。だよな?」

「ああ。こっちの拠点で生産したパーツに、解析済みデータクリスタルを導入して、ASモードで動作するか確認する所だったんだ」

 

 ASモード。トールがパワーアーマーのモーションデータを差し替え、人間以上の機動力を発揮できるようにした高機動高速戦闘モードである。

 ユグドラシル基準のガチ前衛であるたっち・みーと武人武御雷を除き、パワーアーマー装着状態でもユグドラシルのレベル80までの純前衛か、レベル90までの後衛として、問題ない動きができる。

 欠点はフュージョンコアの消耗が激しい事だ。1挙動で1%が消費される。また、動作が余りにも激しいことから、フレームの損壊を保護する為に装甲パーツが耐久力を消耗させて負担を肩代わりする。

 

「レジェンダリは?」

「もち、二重セットの上でデータクリスタルを使うらしい」

 

 通常、Falloutのレジェンダリ(特殊効果)は1つの部位につき1つしか付与されていない。ユニーク品であれば、レジェンダリとは別枠で効果がある物が少々ある程度だ。トールはレジェンダリが自由に付与できるMODを導入しているので、ユニーク品のベース効果に2つ以上のレジェンダリ効果が付いた装備を作成できる。

 Fallout4の仕様で、パワーアーマー装着時は他の防具類の効果が発揮されないのだが、トールの導入したMODは重複させる事ができる。そのMODが機能しているなら、ユグドラシル装備をした上でデータクリスタル入りのパワーアーマーを装着し、全部の特殊効果が発揮されるなら、かなりの戦力向上が見込める。

 

「…ユグドラシル装備の上から、追加で装着できると?」

 

 パワーアーマーの装着は人化状態限定ながら、ユグドラシル装備を付けた上でASモード機動ができるなら、戦力というか防御力の底上げとしてはとても良い。というか、魔法にも対応できるパワードスーツを装着して満足行く挙動で戦えるというのは、とても夢がある。

 

「装着はできるが、データクリスタルの効果が出るかはまだ不明らしい」

 

 トールと弐式炎雷を除いた面子があからさまに落胆する。

 

「その確認も兼ねてるんだ、昼頃には調査も終わるから、昼飯の時間に<伝言>で確認してくれないかな?」

 

 屋敷を帝国拠点として購入できたのは僥倖と、地下を含めて既に様々な手を加えているトール。外見は一切変わっていない。

 

「モモンガさん、後の楽しみって事で、俺らは観光観光♪」

「そ、そうですね。でも期待してますよ」

 

 何気にギルメンの中でパワーアーマーを一番気に入って訓練しているのはモモンガさんである。純粋な意味でのパワーアーマー訓練では無くASモードだが、使いこなしについてはトールが手放しで褒めていた。

 

「ついででオークションの結果も聞いてきます」

「それじゃ、行ってきます」

 

 ナザリックギアの変装モードを起動して、モモンガさん達は裏口から出発。様々な角度から監視があるようだが、認識阻害の魔道具などを駆使しているので、人間種的な基準で感知するのはほぼ不可能である。

 

「…んで、試作機のテストは本当として、相談の内容は?」

「ナーベラルの事なんだ…」

 

 黄昏れた雰囲気で弐式炎雷がぽつり。トールは朝方、イマジナリにも相談を受けたばかりなので苦笑した。

-

 ナーベラル・ガンマ。プレアデスの戦闘メイドの一人にして、攻撃魔法を得意とするウォーウィザード。お忍びのモモン様の従者、美姫ナーベとしても有名だ。種族はドッペルゲンガーだが、黒髪の女性の姿以外には変身能力は設定されていない。

 

「最近は“嫌いな上司との付き合い方”をベースにした、対人間マニュアルの導入でマシになってると聞いてるが」

「そこはいいんだ、頑張ってるし、実際だいぶマシだから。その、相談事ってのは…」

 

 人化した覆面姿の忍者がモジモジする姿はちょっとシュールである。

 

「知ってる」

「げ、え、ええと、わかっちゃう?」

「まあわかり易いっちゃわかり易いんだが…」

 

 ナーベラルのぽんこつぶりは今に始まった事では無いが、今回の相談の肝はそこではない。

 

「何で俺に相談が来るのかはさておき、幾つかのルートから相談が来てる。それに、オーレオールとイマジナリ除けば、戦闘メイド達でお手つきになってないのってナーベラルだけになったからな」

 

 暗に、ユリもお手つきになったという事だが、相手はトールなのでここではスルー。

 

「何が不満なんだ? ばっちり好みなんだろ」

「不満無いし、好みどころかどストライクだよ! …でもなぁ、ナーベラルの忠誠心とかを言い訳に、無理強いするようにってのはなんというか…」

 

 また、自分が作った理想の嫁に自分の欲望をぶつけるというのは、何だか自慰行為にも似た感覚を覚える訳で、彼女に意思があるとはいえ後ろめたい気持ちが多分にある。

 

「無理強いではなかろ。というか、わざわざウサギさん魔法セットまで使えるようにしといて、何も手を出さないとかヘタレか」

「…魔が差しました。専用のバニーセット衣装だって用意してあります。費用の問題で、くノ一衣装は外装しか用意できてません」

 

 弐式炎雷が用意し、死蔵してあるバニーセットのデザインについては、原作絵師の方のイラストを元に立体化したフィギュアと同じ代物とお考え頂きたい。

 くノ一衣装については、FG○の加藤○蔵の第一再臨をベースに、なんだか対魔忍なぴっちりスーツにした代物である。

 

「バリスティックウィーブでよければ、用意しとこうか?」

「宜しくおねがいします」

 

 閑話休題。

 

「シズとエントマに先を越されて、焦ってるようだな。因みにイマジナリ調べ。弐式炎雷さんの意思確認をした上で、ナーベラルとの付き合い方をどうにかするって話が既に来てる訳だ」

「おおう…」

「いきなりヤれって訳でなくて、一緒に寝床にでも入って隣り合って寝るだけでもいいだろ。ナーベラルの性格からして避けられたとかから勘違いしたら、嫌われたとか疎まれたとか思い詰めて、自害しかねんぞ?」

 

 確かにやりかねない。弐式炎雷は頭を抱えた。

 

「あとは…、異形種体だと穴が無いだとか、人化した状態で不感症気味らしいとかかな」

「まじか」

 

 美女の姿は擬態で、という設定がまずかったらしい事に落胆する弐式炎雷。

 

「そこはお互い、人化して時間をかけろ。一緒にただただ触れ合ってるだけでも、幸せは感じられるもんだからな」

 

 不感症という点については、人化した状態で弐式炎雷に頑張って貰う事で、あっさり解消しそうなものだが、覚悟を決めて貰う必要がある。

 

「…レディ・キラーは伊達じゃないな」

「Perkは今回無関係だっつーの。とりあえずだ、夕食と飲みに誘って、ナザリックかうちの拠点の自室に一緒に入って後は流れで」

「童貞には荷が重すぎる…」

 

 異形種としてはハーフゴーレムな訳だが、ナザリック勢は人化を維持して感性を鈍らせないようにしているため、考えが本来の人格寄りである。

 

「偽装異形種モードで飲みの後、異形種モードで同伴して気分を落ち着かせればいいじゃないか」

 

 トールはメモを用意して、夕方のデートプランをさらさらと書き留め、弐式炎雷にわたす。

 

「こういうのをさらっと準備できるトールさんが頼もしい」

「今晩、ナーベラルと軽くバーで飲んで、そこから部屋に誘って一緒に寝るだけでも試しとけ」

 

 誘う言葉は自分で考えろよーと言うと、弐式炎雷は屋敷の庭園のベンチでうんうん唸る。トールはナンバーズを呼び出してお茶の用意を頼んだ。

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 さて現在、屋敷にはトールと弐式炎雷、やまいことユリ、奴隷エルフ達、あとはナンバーズが居る。モモンガさん達は観光だし、セバスには戻ってきたらたっち・みー達のお世話に戻るよう伝えてある。

 

 やまいことユリについては、人化した状態で疲労無効の装備が無いまま色々と昨晩トールが頑張ったせいで、疲労でぐっすりである。全SPECIALの人間限界突破は伊達ではない。

 

「「「さくばんはおたのしみでしたね」」」

「ついカッとなってやった。今は反芻している」

「「「余裕かっ!」」」

 

 というやりとりが後にあった。

 朝食で珍しく出てこない二人について、トールに生暖かい視線が注がれたとかなんとか。

 

 ただ、後でその話題を耳にしたやまいこ達が、頭から湯気を出しそうな勢いで顔を真赤にして部屋に引きこもってしまったのは仕方ない事だろうか。

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 トールは庭園のベンチで考え込む弐式炎雷を横目に、パワーアーマーステーションとフレームを設置、整備モードを起動して試作したパーツを取り付ける。

 

 ベースはT-45fだが、ユニーク品扱いで性能が高くなっており、付与されているレジェンダリとデータクリスタルの効果がバッティングせずに動作するなら、とても有用な装備になるだろう。

 

 一通り組み付けた所で、パーツ全体のチェック。問題が無いことを確認した所で、まずは自分で装着する。ユグドラシルのシステム上での制限とは別のトールがまず試し、弐式炎雷が復活次第、人化状態で試して問題が無ければ正規生産に移れる。

 

『毎度上手く行く訳でもないが…』

 

 まずはPAモードで動作確認。跳躍すると、MODにあったジャンプ力強化のレジェンダリのお陰で2m近く跳べた。パーツのリンクも問題なし。

 組み込まれているデータクリスタルは、パーツに魔法ダメージの減衰性能を付与する物と、耐久力をゆっくりとだが回復させる物を組み込んであるが、今の所、パーツにダメージを発生させる要因は無いので確認はできない。

 

 屋敷の庭園の端には、トールが帝都へ訪れる際に用いた着地点があり、そこは広くなっていて土が露出している。周囲も同様で、そこそこ広い。動作モードをASに変更。パワー出力を戦闘へ切り替える。

 

 跳躍、着地から横っ跳び。流石に負荷が高いのか、脚部のパーツ耐久度が減少する。少し待つと、徐々に耐久度が回復し始めた。半分成功である。あとは魔法ダメージの減衰確認と、最終チェックとして人化した弐式炎雷が試せば初期調査は成功だ。

 

「トールさん、弐式炎雷さん、ナーベラルが大変!」

『うおっ!? 隠蔽の結界を張ってあるからって、いきなり転移門から出てくるのは心臓に悪い。ナーベラルがどうしたんだ、餡ちゃん?』

 

 餡ころもっちもちが慌てた様子で転移門から現れた。

 詳細を聞いていくと、トールの顔がなんとも言えない表情になっていった。

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 時間はちょっとだけ前に遡る。

 

 ナーベラルは最古図書館で、自身の擬態の精度を上げるべく女性の体についての詳細な絵などがある本を探したのだが、そういった物は一切、所蔵が無かった。これは、ユグドラシルのエロ関連規制が厳しかった為だ。ゲーム中、閲覧できる状態で保存されていた場合、メンテ中のAIによる機械的チェックで捕捉されると、消去あるいはBAN対象となった。

 各種の「ウ=ス異本」が無事だったりペロロンチーノのエロゲデータが大丈夫だったのは、全て黒塗りやモザイクが施されていた上、暗号化してゲーム中はすぐにデコードできない形式にされていたお陰である。

 

「ここでも駄目となると…」

 

 そこでシャルティア辺りに相談していれば、多少は偏るものの造形は判明しただろう。他の女性体を持つ守護者やシモベも同様だ。だがなけなしの矜持か、はたまた恥ずかしかったのか、それとも斜め上のポンコツ思考からか、そういった選択肢を取らなかった。

 

「こうなれば…、至高の御方々をして、かつての世界では封印せざるを得なかった、あの五大最悪の一体に頼むしか…!」

 

 やはり斜め上のポンコツ思考だったようである。

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封印されし5大最悪の一体、エロ最悪。王国健全化計画後、下賜された元八本指の麻薬部門の長や側近達を愛でていた(彼基準)所にナーベラルが相談に現れた。

 

「お願いがあります」

「私めに役立てる事があればお聞きします」

 

 ただ、ナーベラルの相談内容が斜め上で、エロ最悪と呼ばれた上位ローパー種は思考が停止した。その上で、内容を咀嚼して再確認したが、やはり意味がわからない。

-

 唯一、女性のアレについては「擬態の精度を高めるため」という事は理解できたが、下賜された女達のそれは使い込まれていたし使い込んでいるので、新たに変化させるとしても目の前の美しい戦闘メイドのそれにはそぐわない。

-

 そこで、主観だが下賜された女の一人の、造形が慎ましやかで美しいと思っていたそれに上級回復魔法を施して新品同様にし、それを使って構造を講義した。ナーベラルが顔を真赤にしながらも真剣に見入る。

 尚、構造知識についてはなぜか修得している<クリスタルモニター>も使っての専門的なものだった。知識に加えて実技もある訳で、詳細を描写すると18Rなので割愛する。

 

「…とても、役に立ちました」

「それは重畳」

「もう一つの件は…!」

「落ち着きなさいませ、ナーベラル・ガンマ…!」

 

 もう一つの願い。愛しき創造主の為、不感症の身体を女性らしくしてほしいとのナーベラルの嘆願に対し、エロ最悪はどこまでも紳士だった。

 

 基本的に、侵入者にのみその能力を振るうのがエロ最悪である。身体を大事にするべきだとか、貴女の身体は素晴らしい造形なので大丈夫とか、至高なる御方は疎んだりはしないとか、色々理由を述べて嘆願を却下し続けた。

 

「私は、あの方に、あの方に…!」

 

 諦めきれず、ジリジリと距離を詰める戦闘メイドと、ジリジリと後ずさる触手モンスターの図。なんだこれ。

 

「思い詰めてはなりません。さあ、このような所に貴女は長居するべきではありません、お戻りに…」

 

 暖簾に腕押しのエロ最悪に対して、自己完結して混乱したナーベラルがぐるぐる目で突撃してきた。咄嗟に身に纏う媚薬の効果を全てオフにした上で、素早く手足だけを拘束。どうしても卑猥な光景になるのはエロ最悪の面目躍如か。暴れるナーベラルを苦労して押さえ付けるその間に、同じ五大最悪の一体であり特に仲の良い恐怖公に<伝言>で緊急連絡。

 

「なんと…、急ぎナザリック内におられる至高なる御方々に連絡いたします」

「頼みます。その間、しでかさないよう拘束を…って、そこは蹴ってはなりませ…!」

 

 拘束中に運悪くナーベラルが暴れて蹴りつけてしまったのは、ローパー種であるエロ最悪が媚薬効果のある息や粘液を溜め込んでいる部分だった。事前に能力はオフにしていたものの、直撃したら人間なら狂死寸前になるであろう感度を3千倍に増幅する吐息の一部が漏れてしまった。

 尚、下賜された人間に対してはかなり薄めて使っているが、それでも効果が絶大なそれに触れてしまうナーベラル。

 

「…!? …! …!」

「しまった!?」

 

 濃度としては随分と薄く、ここが密室で空気の大きな流れが無いのは幸いだったが、ほんの少しのそれに触れたナーベラルは、不感症だった身体の痛覚以外を高められてしまったのである。

 

 エロ最悪は急いで床に寝かせたのだが、結果、できあがったのは床でびたんびたん跳ね回る擬態が解けたナーベラル。頭部を打たないよう、触手を束ねて枕にする所は紳士である。どこぞのエロゲバードマンに見習わせたい。

 

 尚、大変失礼ながらと前置きした上で、釣り上げられた大型魚がびたんびたん暴れるかのようだったと、後にエロ最悪は述べた。

 

「この程度で済んだのは幸いでした…わん」

 

 餡ころもっちもちの指示でナンバーズを伴ったペストーニャが、擬態が解けてしまったナーベラルに解毒を施した上で回収。色々たれ流しだった事から弐式炎雷の自室に送るのははばかられた為、担架に載せて地表のログハウスに移送した。意識が朦朧としているナーベラルの体を清めさせ、身だしなみを整えさせる。

-

 ログハウスには、緊急連絡を受けて戻ってきた弐式炎雷が待っていた。

 

「後は任せてくれ」

 

 弐式炎雷はナーベラルをそっと抱き上げる。朦朧としていた意識が戻った彼女は、視界に弐式炎雷の顔が入ったことに気付くと慌てる。すぐに美女の姿に擬態する。かの最悪の講義のお陰か、自身の構造が変化しているがそれに気付いていない。

 

「に、弐式炎雷様…!」

「ごめんな、お前の事が嫌いになったとか疎ましいとか、そういう訳じゃなかったんだ」

 

 不安にさせてごめんと付け加え、ロイヤルスイートの自室に二人で入るとペストーニャに告げる。気を利かせたイマジナリが、二人が自主的に出てくるまではそっとしておくよう他のメイドにもお願いする。

 一般メイド達は密かに期待しながらお任せをと胸を張った。弐式炎雷とナーベラルが何の位の二人の時間を過ごすかはわからないが、少なくとも数時間は誰も通さない事にした。

 

「マイスター・トール、戻られたのですか」

「ああ。これでまあ、Worked it out. ちょっと違うか。元の鞘に収まった、かな?」

「これでナーベラル姉様も落ち着かれれば良いのでしょうけど、望み薄です。多少の変化でよしとしましょう」

「…何気に辛辣だな」

 

 モモンガさん達の報告はどうするかなと考えながら、トールは再び帝都へ戻った。

 

『トールさん、これ面白いね!』

「あーうん、手間が省けた」

 

 帝都へ残してきたパワーアーマーの残りのテストを誰に頼もうかと考えていた所、戻ってくるなり眼の前にあったのは、餡ころもっちもちがパワーアーマーを装着して遊び回る光景だった。

 

『結構細かくトレースしてくれるんだね』

「パワーアーマー姿で、女の子挙動とか珍しいってレベルじゃねーぞ」

『PAモードだとトレースが男の人の大股歩きにあわせてあるけど、ASモードは自由が利くから逆に楽。あとで一着、用立ててくれないかなトールさん』

「構わんよ。10年で4桁台のフレームやパーツがあるから」

 

 女性陣でパワーアーマーをASモード機動までこなしているのは、実は餡ころもっちもちだけである。いつもの異形種の姿や人化した時以上にキレの良いマニューバで縦横無尽に飛び回る。パワーアーマーの耐久度が心配な位に。

 

「データが取れるからいいか…ん?」

 

 ふと、トールの網膜投影レーダー上に反応が2つ。隣の屋敷との境部分だ。餡ころもっちもちの動きを見るフリをして視線は動かさず視界に入れ、V.A.T.S.を起動させる。

 

(餡ちゃん餡ちゃん、そのままでいいので聞いて下さい)

(どしたのー?)

 

 隣の屋敷との境目に、2つの中立反応があると告げた。ターゲット情報から同じ背格好の少女というか幼女であるとも。

 

(壁の穴を見落としてました…。あのまま侵入されてたら、後に配置される予定のシモベに排除されかねない)

(こっちを見てる感じ?)

(ええ。パワーアーマーの動きに喜んでるみたいです)

 

 餡ころもっちもちはなにか思いついたのか、着地すると近くに居たアイボットに幼女たちを迎えに行かせた。幼女は突然現れた金属の球に興味津々。捕まえられるようでそうでない絶妙な動きで誘導してくる。

 トールは苦笑しながら、二人の小さなレディを出迎える。

 

「いらっしゃい、小さなレディ」

「こんにちは見知らぬおじさま」「ごきげんよう見知らぬおじさま」

「二人は姉妹? 双子なの?」

 

 パワーアーマーから既に出ていた餡ころもっちもちが、まだ頭に葉っぱをつけていたりする幼女達に質問する。

 

「さようです、みしらぬお嬢様」「あと姉様がいます、みしらぬお嬢様」

「ふむ、正式にお客様として迎えようか。俺はトール、こちらのお嬢様がアン・コーロ・モッチ・モチ」

「モッチでもアンでもいいからね、お二人の名前は?」

「クーデリカです」「ウレイリカです」

 

 小さなレディはぎこちない動きでカーテシー。微笑ましいものを見るように笑顔になるトール。餡ころもっちもちに至っては「きゃー! 可愛い! 可愛い!」と、グループ会話内で大騒ぎである。表情に出さないのは流石だ。

 

「宜しくね。できれば今度からは正面の門から来て頂戴。ナンバーズ、来客です。お茶の用意を」

「速報。マイコ様達が起床されたご様子。大分慌てています」

「落ち着かせて、朝食摂らせたら此方に」

「命令了承」

「めいどさんだ」「めいどさんだよ」「そっくり!」「わたしたちとおなじ?」

 

 トールのうっかりで侵入してきた小さな二人。

 原作においては、ナザリックに侵入して帰らぬ人となったとある少女の妹達だ。無邪気にいつもと同じ日が来ると信じ、もう戻ることは無い姉が帰ってくるのを待ちながら、傾いた家の犠牲になる哀れな子供達である。

 

 このトール達と幼女達の邂逅により、ある少女の悲劇が、回り回って喜劇に変わる事になる。




残りの五大最悪はどこで出そうかな。
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