荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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お待たせした挙げ句、山もオチも無い内容で申し訳ありませぬ。
年末、農作業ラッシュでございまして・・・。
コミケ前にもう一度、更新できるかなぁ。


死の支配者と帝国観光する至高なる御方々

 観光中のモモンガさん一行。屋敷とナザリックでの騒動は知らされていない。後で、エロ災厄のローパーから報告が上がったが、ナーベラルの暴走故と弐式炎雷からのフォローもあり咎められる事は無かった。

 

 とりあえず、弐式炎雷は私用で合流できなくなったと連絡があったので、ぬーぼーの案内がてら観光に注力しようという事になった。フラットフットがいつの間にか先行して飛びまわっているとついでに連絡。暇だったらしい。

 

「ほえー、やっぱり帝国は進んでるね」

「ぬーぼーさんもそう思うっしょ? 王国の街並みのゴチャゴチャ感は好きだけど、こういうのを見るとね」

 

 大通りに限るが、馬車道と歩道は別れ、路面は石畳。雨水用の排水路まである。定間隔で<持続光>の魔道具、あるいはランタンを下げる為の街灯が設けられている。

 

「モガさん、闘技場とか雰囲気どうだった?」

「殺し合いもあるって話でしたけど、控室も観客席も凄く綺麗だったんですよ」

 

 そんな感じに初日と二日目の初見を話題にしつつ、整えられていても雑多な人種の坩堝となっている道を歩いていく。当然、ナザリックギアの戦術支援機能は有効。モモンガさんの迷子対策は万全だ。

 ぬーぼーが笑い、モモンガさんは渋い顔である。

 

「過保護だなぁトールさん。最年長だけあるわ」

「教授も実は歳下だもんなぁ、俺らなんて子供同然かも」

「そんな中、一番心配されてるのがギルド長の件」

「俺、リアルだと三十路だったんですけど!?」

 

 わちゃわちゃ両手を動かしてアピールするも、パンドラズ・アクターのようにしか見えない。誰もわざと指摘しない。尚、このやり取りもアイボットは録画してたりする。

 

「「「そういうとこだぞ」」」

「むぐぐ…あ、なんだろあれ?」

「ほんと、そういうとこだぞ…って、なんだろあれ?」

 

 モモンガさんの視点の先には、奇妙な形のゴーレムというか、壊れ錆びた何かがあった。それを置いている店は雑多なガラクタが置かれている。

 

「…トールさんの拠点で見たことあるような?」

「俺も見たことある。確かセキュリトロンだったっけ」

「でも、あんなに古びてはいませんでしたよね」

 

 こっそりステルス化して同伴中のアイボットに命じると、近くに隠れていた一体がセキュリトロンらしき鋼鉄のそれに近付く。人の視点が無い位置に移動し、小さく紫電を飛ばした。

-

 アイボットは減衰前提で錆びついた共有ポートに通信用電流を流す。反応があった所で、動力供給ポートの無事を確認してコンデンサに充電し、一般的な通信プロトコルでの交信を開始。

 プロテクトについては、トール拠点で用いられているものと、前の世代で使われていた暗号を試した所で、前世代用が適合。それを用いて、必要情報を吸い出した。破損が多く見られるデータだが、ウェイストランド産のそれらは数百年を経過しても稼働するハードウェアだけに、重要部分は無事だった様子。

 

 満足したようにアイボットが離れると、ナザリックギアに「完了」と短いメッセージ。

 

「後でトールさんに聞いてみるか。他にも面白いものあるかもしれない」

 

 奥で暇を持て余す店主に声をかけて店の事を聞く。遺跡やら何やらで出土した代物のうち、解析ができなかった上で破損の激しいものをタダ同然で引き取り、店に並べているという店だ。女性店主は、ポーション販売の傍らで始めたとの事だったが、集めてくるのが趣味になってしまってこの雑多な店の状態だと笑って言った。

 

「複雑な金属の代物もあるだけど、これがほんと、全く何の為のものかわからないのよね」

 

 モモンガさん一行は、ナザリックギア内蔵のPip-boyの機能を起動。大まかに装備や道具の他、雑多なアイテム等を網膜投影情報で確認できるのだが…。

 

「めがー!?」

 

 一人、目を目頭を押さえ地面を転げるぬーぼー。

 

「どうしたんだいお客さん!?」

「あー、何か光が反射したんじゃないですかね」

「気にしないで下さい。彼、夜目が利くタレントあるんでその影響です」

 

 人化していないと、目や目に相当する器官が網膜投影用レーザーに過敏に反応する。ぬーぼーがそれを忘れていて情報表示を使ったせいで、目潰しを一人食らう羽目になった。

 

「うう、自分の探知能力とは別枠だったから、機能を使った事なかったんですよう」

 

 自分たちもカッツェ平野でやった事はさておき、苦笑するモモンガさん達である。

 

「ほほう、壊れてはいるけど興味深いのが多い」

 

 耐久度が減って、破損状態になり機能が停止した元ユグドラシル産らしいアイテム類が幾つかと、ユグドラシル系ではない効果だが、込められた能力が不明なものまで様々だ。いくつか興味を引かれた物を中心に、店主に許可を貰って<上位道具鑑定>で品定めする。

 

「予定より予算オーバー? どうしよ」

「あー、今お気に入りのがあるんだけど、どんな道具か解らないのよ。それをその魔法で調べてくれるなら、割引する」

「商談成立ですね」

 

 店主が持ち出してきたのは、謎の文字列が書かれた石版だ。網膜投影情報では「魔法のアイテム」とだけ出ている。Pip-boyで解析不能となれば魔法の出番だ。これを調べたモモンガさんは、ナザリック的には効果は微妙ながら、調べた結果を店主に伝えた。

 

「なんてこった! これは是非とも学院に報告しないと!」

 

 学院の非常勤職員でもあるという店主は、難度30の作業用ゴーレムを呼び出し、複数制御できるという石版に狂喜乱舞。形は違うが、同系統のアイテム類を魔法で見つけ出して渡すとこれまた絶叫。隣の家から「うるせー!」と怒鳴り声。

 店主は見繕っていたガラクタ類の代金は要らないとモモンガさん達に押し付けた。

 

「何だか悪いな、こんなに貰って」

「いいのいいの! これで、作業用ゴーレムを制御できるなら、解析して一体でも誰しも使える魔道具ができるかもしれないの!」

 

 第一線からは自ら才の無さに退いたそうだが、それでも帝国の役に立つ研究をとこのガラクタ屋を開く傍ら、ポーション製造と共に研究をしているという店主。彼女の意識の高さを見て、帝国の体制の強さに感心するモモンガさん一行だった。

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 店を辞して、再び散策に戻るモモンガさん一行。今度はオークションを代行してくれた魔道具店の本店に向かう。

 オークションは大荒れで、金貨が乱れ飛ぶ羽目になったらしい。出品した装備類は高値で売れたものの、とてもじゃないがすぐに受け渡しできる金貨の量ではないと、昨日の夕方、申し訳無さそうに支配人が自ら報告しに来た。

 

「はは、これは困りましたね。余り多くの額を溜め込んでしまえば、経済に宜しくない。モガさん、ついでで注文するのはどうです?」

「いいですね! 個人的に欲しかった物があったので」

 

 その代わりというか、ユグドラシルには存在していなかった効果の魔道具類の内、首都ナザリックで運用できるものを大量に仕入れる事で持ち帰る金貨の量を抑えようとベルリバーが提案。初日に色々と購入したが、諦めた物も多かったのでモモンガさんは機嫌よく了承した。

 支配人が追加の生産希望も承りますと提案すると、モモンガさんは笑顔でお願いしますと返答。首都ナザリックで試験運用含めてどれだけ必要かは不明な為、追加生産については合議した上で依頼する事となった。

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 今日は、追加で欲しい物が無いかということと、帝都は初めてとなるぬーぼーの為に訪れた。偽装は解除し、通常の人化だ。こちらの支配人は事前に武具店の支配人から連絡があったのか、すぐさま一行を出迎える。

 

 武具店ではリストだけだったが、こちらはショーケース入りで様々な魔道具が置かれていた。馬車用の魔道具は、豪華な馬車丸ごとが置かれ、説明用の案内板がある。皇帝陛下の馬車に採用されたという事で、書かれている値段はかなりのものだ。

 

「サスペンション等も無しに走破性が上がるとかすごいなこれ」

「トールさんも興味示すかもしれないから、一台、予備パーツ含めて注文しといた」

 

 ほしょほしょと話をする一行の前に来た支配人自らが、案内と説明を行う。再び「えっ、面白い」マシーンと化したモモンガさんと、珍しげに戦闘用以外の魔道具を見るぬーぼー。他の二人も実物を見て、なにか使い道が無いかを考えながら説明を聞いた。

 

「案内ありがとうございます。いやあ、流石に帝国、珍しいものを沢山見れてよかったです」

「いえいえ! 当店といたしましても、今後共末永くご贔屓にと下心もございますので!」

「ふふ、また時間があったらお邪魔します。先程お願いした物を注文致しますので、届け先にお願いしますね」

「はい、残金の再計算後、責任を持ってお届けいたします!」

 

 再び従業員総出でお見送り。二度目のモモンガさん達は慣れたのか諦めたのか、固まった笑顔で出ていく。ギルド長はにこやかに軽く手を振りながら退場である。

 

「…慣れない。モモンガさんすげぇや」

「ロールに入ると、途端に落ち着きますからね。精神安定化とか無しにこれですから、ギルド長」

「煽てても何も出ませんよ?」

 

 そして再び変装した人化で出歩く面々。そんな最中、ペロロンチーノが時折、屋根の上などに視線を向けている。

 

「…厄介事?」

「ボジョレさん、探知頼んで良い?」

 

 ボジョレ=ぬーぼー。リアルでは超高級品となった天然物のワイン。その初物ワインを味わうブームは、一部の超上流生活者以外には、その名前とネットミームだけが残っていた。

 

 暇つぶしに先に一人で出歩いていたフラットフットが合流。グループ会話で周囲に居る追跡者について間近で確認して貰う。無論、追跡者達は気付かなかった。

 

「ふむ、帝国の護衛のようです。監視というよりは、近くに余計な連中が居ないか動いているみたいですね」

「ジルは頼もしいですね。これで帝国内での厄介事の殆どは排除して楽しめそうです」

「さらっと言えるギルド長が頼もしい」

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 帝国の監視というか隠密部隊は、例の屋敷から出てきた面々が人相書きと異なっている事に困惑しながらも、重要人物と判断して分隊を付けていた。魔道具店で変装を解除したのを見て、判断に間違いがなかったことに安堵している。

 ただ、追跡していることに気付かれたのはいいとしても、より念入りに隠れている筈の隊員の場所が、かのペロンにはバレていた事に驚いていたりする。

 

「分隊長、自信が無くなりそうです…」

「かの4騎士に、全てが英雄級と言われた面々だ、気にするな…」

 

 にっこり笑って手を振られた以上、バレているが任務は続行である。

 

「お、悪くないですね。王国とは大違いだ」

「でしょ? 護衛の人にも届けてきた」

 

 いつの間にか背後に立たれ、香ばしい香りの串焼きを手ずから渡されたとしても。

 

「分隊長…」

「くれぐれも、失礼の無いように!」

 


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