荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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オリ主という名の添え物(空気)。


死の支配者とワーカーの少女

 帝都での、やまいことの散策という名のデートの最中、モモンガさんから<伝言>で緊急連絡。トールは買い物の途中だったため、先行してやまいこが向かう。

 

 トールが到着した所で、そこに広がるのは酒場の前で正座させられるモモンガさん御一行であった。トールは空気を読んで黙る。モモンガさん達から「助けて!」的な視線が来たが、ふるふると顔を横に振って拒否する。

 

「で、どうしてこうなってるの?」

 

 腕を組んで男どもを睥睨するやまいこ。表情はにっこりと笑みを形作っているが、全然笑っていないのは明白だ。トールとペロロンチーノは、腕を組んだやまいこを見て「お山が!」とか心の中だけで思っていたりするが、おくびにも出さない。

 ワーカー達は硬直が酷い連中が、軽症だった仲間に助け起こされたりしている。尚、直前までの出来事で半ば心を折られているのだが、その恐怖の対象が恐れる女性は何者かと固唾を飲んで見守っていた。

 

「「「ごめんなさい」」」

「謝罪でなくて、理由を聞いてるの」

 

 モモンガさん、ベルリバー、ぬーぼー、フラットフット、ペロロンチーノ、男どもは顔を見合わせて「お前行けよ!」的に肘で突き合う。やまいこの目尻がつり上がっていくのに気づいたモモンガさんが覚悟を決めて口を開く。

 

「経緯から話しますと…」

-

 

-

 事の経緯はこうだ。

 腕の立つワーカーの集まる酒場に向かい、役立つ人材が居ればスカウトしようかと考えたのが始まりだ。

 

 酒場に向かう途中、どうにもひどく憔悴した少女が追い越して行ったので気になり追跡すると、訪れる予定だった酒場に入っていったのを確認した。

 ワーカーは冒険者とは異なり、仕事内容の精査も自己責任だ。その分報酬も高い訳だが、中には冒険者より素行の悪い者も居る。腕は立つが性格は最悪、という代表がエルヤーである。

 ペロロンチーノが「もしや、良からぬチームに無理やり所属させられてるのでは」などと言うので、警戒度を上げて酒場に入った。

 

「…いらっしゃい。あんたがたみたいな上等な傭兵が来るとはね」

「腕が立つ奴を探そうかと思ってな。後ろ暗い仕事の話じゃ無いよ」

 

 ペロロンチーノが軽い調子で店主に言い、他の面子は空いている席へ座る。

 

「まあ、見極めも雇い主の勝手だ。店内でトラブルを起こさないなら自由にしな」

「ありがとよ。これで軽いツマミ類だけくれ、あいにく酒は手持ちがあってな」

「…払いの渋い客は嫌われるぜ」

 

 店主は定番らしい元干し肉を調理した乾き物を皿に乗せて突き出すと、興味を失ったようにカウンターの手入れを始めた。

 

(んで…ぬーぼーさん、フラットフットさん、例の少女はどんなチームに?)

(人間の剣士か軽戦士1、神官1、ハーフエルフの斥候1、悪い感じはしませんね。ハーフエルフの女性は、少女を心配していますし)

(件の少女は魔法詠唱者かな。発動体を持ってる。服は旅装束だけど、冒険に出るには心許ないか)

(ふむー? 距離感は適切っぽい?)

(あ、干し肉なのに悪くない)

(モモンガさんマイペースwww)

 

 そんな会話をしながら、酒場の中をそれとなく探る面々。モモンガさん一行は異分子だ。周囲も此方を探る気配がするが、全員、ナザリックギアのプリセット装備に隠蔽措置を施したアクセサリがあるので、強さの推定すらできず困惑の気配である。

 

(アイボット、ステルス状態のままであのテーブルの会話、経由できる?)

(Pi-pyu-)

 

 聞き耳を立てれば会話は聞けるだろうが、集中する必要があるため不自然に会話が止まってしまう可能性がある。ペロロンチーノはついてきているアイボットに指示して、ナザリックギアへ会話を流させる。

 

「…本当に大丈夫なの? いつもより酷い顔よ」

「なんでもない。行程にも、魔法の使用にも影響は無い」

「期限は長めだ、俺らは余裕あるし、出立は明日にでも…」

「だめ! …ごめん、早急に資金が必要。お願いリーダー」

「…仕方ない。こちらも用意ができてる」

 

 頭をガシガシ掻く男がリーダーのようだ。他二人は複雑な表情だ。少女は装束と道具類を改めて確認している。

 

「おう、ワーカーを探してるんだって?」

 

 少し赤ら顔になった一人の客…ワーカーが、モモンガさん達に話しかけてきた。少女達の会話を聞いていたモモンガさん達は「うわ、タイミング悪っ」とか思いながら、ベルリバーが応対する。他は静かにグラスを傾けながらモニタリング続行である。グラスの中は、トールが拠点やナザリック勢用にいくつか用意してある中で、飲みやすさで定評のある梅酒である。

 

「ええ、早急にという訳では無いので、帝国のワーカーがどの程度の実力の持ち主かをまずは見に来たんですよ」

「へぇ言うねぇ…って、あんた、ベル・リバー!?」

「おっと、騒ぐのはご勘弁を。腕が立つという点は、何も腕力だけじゃない。調査などを依頼する際の、諸々が重要でして」

「…成程。そういう事ならじっくり見極めてくれ、鉄火場以外に腕の立つ連中が揃ってる」

「後で色々話を聞きたいので、これは手付に取っておいて下さい」

「へへっ、こりゃどうも…」

 

 少し高めの酒を数杯飲める程度の額だ。男は強面に営業スタイルを浮かべて引き下がった。が、仲間の居るテーブルに戻るなり強奪されて、仲間の分で山分けのようだ。男は憮然としつつも、そもそもタダ酒になるので暴れたりはしない。

 

(あー、あのチームはもう仕事に出るみたいですね)

(少女個人の問題かもねぇ。お金に困ってるのかな)

 

 時折、テーブルごとに代表のワーカーを手招きして話を聞くベルリバーとは別に、モモンガさん達は少女の状況をもう確認できない事に少し焦る。

 

「おう、あんたがベル・リバーって事は、他の面子は始まりの九連星か? …俺のカンも鈍ったかな、あんたらの強さがみえてこねぇ」

「ちょっとした魔法の応用ですよ。でもそうですね…」

「私でいいかな?」

 

 そう言って、モモンガさんが一瞬だけ隠蔽効果をオフ。絶望のオーラ超マイルド仕様のおまけ付き。すぐに戻すと、ナザリック勢以外が全員、硬直した。今しがた出発しようとしていた少女の居るチームも同一だ。

 

 …いや、少女だけ違った。驚愕に目を見開いたかと思うと、床に四つん這いになって嘔吐したのだ。

 

「うげぇええええええ!」

 

 すわ攻撃かと警戒する少女のチーム。少女はガタガタと震えながら、モモンガさんを恐怖の表情で見た。酒場内のワーカー達の視線が一斉に向く。フラットフットはあちゃーと天を仰ぐ。

 

「あ、ありえない! 大師匠様より!? …おぼぇえええ!」

(え!? え!?)

(…多分この子、あれだ、フールーダの爺さんと同じだ)

「初対面で言うのも何だが、あんたら、うちのツレに何をした!?」

「あーそのー、そのですね? 使える魔法位階が少々高いので、びっくりしたんではないかと、はい…」

 

 一触即発の雰囲気に、ひきつった顔でぬーぼーが説明。

 

「…こう見えて優秀な魔法詠唱者なんだ、退学したが、師匠はあのフールーダ翁だ。それに匹敵するとでも?」

「待って、お願い、ヘッケラン…」

 

 今も歯をガチガチ鳴らしながら、少女が血を吐くように言葉を絞り出す。

 

「どうしたんだ、あの優男が凄まじい魔力でも持ってたとか言うのか?」

「師匠より上! お願い、逆らわないで…!」

 

 この酒場に居るワーカーは、それなり以上のベテランが多い。少女の情報も多少は知っている訳で、そこで干し肉のツマミをカシカシと食べていた優男が、フールーダ翁よりも上と言われて、視線が集中する。

 

(どうするんですこれ!?)

(あーうん、どうやっておさめよう?)

(…誤魔化せるレベルじゃねーぞ)

 

 困った挙げ句、恥を忍んで<伝言>でやまいこに連絡。そして冒頭に戻る。

-

 

-

「ワーカーの皆さん、ごめんなさい。もう少ししたらこっちにも話が伝わってくると思うけど、彼は学士のモガ。使用できる魔法位階は、フールーダ翁より高いのは本当。副長のウルよりも、魔法に知悉している、長年、魔法の研究をしていた私達の仲間よ」

 

 やまいこことマイコの姿を見たことのあるワーカーの一人が、納得しつつも呻く。

 

「そこの子もごめんね…うちのうっかりガ…いえ、モガさんが」

「い、いえ…」

 

 なんとか立ち上がった少女…アルシェは、仲間に布巾を手渡されて口周りを拭う。

 

「騒がせたお詫びにこれ置いとくから、今いる人達に額の分だけ飲ませてやって」

「おい、こんな額!?」

「迷惑料込だよ。あとはそうだね、仕事内容に対しての多少なりの案内、頼むかもね?」

「…わかった」

 

 店主に金貨袋を渡し、やまいこはアルシェに近づく。

 

「…貴女は、もしかしてアルシェ?」

「え、ええ…あの?」

「妹さん達との事で相談がある。今回の仕事を終えたら、家令のお爺さんと一緒に隣の屋敷を訪ねて」

「!? …わかった」

「お仲間さんもごめん。バレアレ印のポーションを一揃い渡しておくから、遠慮なく使って」

「こんな高価な物を!? 流石にこれは受け取れない」

「なら、使わなかったら返してくれればいいよ」

「…お借りしましょう、リーダー。以前購入したそれと全く同じです」

「わかった。全部使われても文句は言わないでくれよ?」

「うん、今回の仕事の成功を祈ってるよ」

 

 アルシェは後ろ髪を引かれるようにしていたが、リーダーのヘッケランに促されて酒場を出ていった。

 残されたのは、金貨袋を渡されてちょっと機嫌の良い店主と、ようやく持ち直して椅子に座り直すワーカー達、カウンターにいつの間にか座ったトールと仁王立ちしたままのやまいこ、そしてまだ床に座らされているモモンガさんである。

 

「あ、あのう、ダメージは無いんですが、足がなんだか痺れて…」

「俺もちょっとつらい…」

 

 口々に、遠慮がちに言う面々。やまいこは頭痛を抑える仕草をしてから、全員に立つよう促す。

 

「不可抗力ということで納得はしましたが、今日は戻りましょう。それで、隠蔽措置について前々から相談してた件について、一度、議題に」

「わかりました」

「戻るかー」

 

 気の抜けるような応答をしつつ立ち上がる。畏怖とよくわからない視線に見送られて、モモンガさん一行は屋敷に戻るのであった。

 




やっぱゲ○る運命(酷

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