荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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ある日の転移実験。
「成功! 一応、21世紀前半の地球っぽいが…」
「…あんた、何者だ?」
「ああ、こんにちは。俺はミナセトオル、こんなナリだが日本人…」
「俺達以外に次元転移を使えるような日本人なんか居るか」
「別の世界から来た、次元渡りの旅人だ。…てか本当に日本なのかここ? 君に物騒な代物を突きつけられてるんだが」
「日本だよ。ゆっくりこっちを向いて、正直に話せ、何者だ?」
「だから言ってるだろう、次元を渡り歩く旅人だ…と」
「何だ、俺を見て驚いてるのか?
「…オウ、ジーザス、まじか」
「見る限りはただのオッサンだが、まるでステが見えん。てかあんた、なんだ、何を驚いてるんだ?」
「オッサンは事実だが余計だ。しかし…銀髪で黒い服に眼帯、片腕は義手? …すげぇ、見事なまでの」
「言うな」
「中二病スタイル」
「次言ったら撃つぞゴルァ!」


新たな敵と準備
死の支配者と呪われた荒れ地


 

「…本当に一瞬で来てしまいましたね」

「制限はあるとの事ですが、軍事で考えれば有用にして悪夢のような魔法です」

 

 見渡す限りの荒れ地に降り立つアインズさん一行とレイナース達帝国騎士達。幾度となく有力な帝国貴族が開発を挑み、敗北してきた土地だ。見込みのない場所ではあったが、平野である事と河川がある事が、挑戦と挫折を誘発させてきた罪深い場所である。

 

「ふむ、これは酷いですね」

 

 学士モガの格好で早速見渡しているアインズさんは、動物の影どころか草木一本すら生えていない荒野を見ている。ほぼ地平線の先まで、岩石や起伏を除いて何も無い。

 

「どうです、ペロさん?」

「数キロ先に、開拓跡地っぽいのがあるけどあれは野営地にも向かないね。井戸は掘った跡はあるけど、水も出ないんじゃない?」

 

 独り、ペロロンチーノは馬車の上に立ち<クリスタルモニター>らしき表示を見ながら周囲を見渡している。

 

「となると、効果範囲的には5回位か?」

「重なり合うようにすればその位ですかね」

 

 そしていつの間にか、脇には天幕の準備が進んでいる。何処から取り出したのかテーブルや椅子が搬入されつつある。重装ゴーレム達は周囲に散開して警戒中だ。まっとうな生き物の気配は無いとはいえ、この荒れ地には他から追われてきた手負いのモンスターが逃げ込む事があるからだ。

 

「レイナースさん、地図上での位置とすり合わせをしたいのですが」

「え、ええ、わかりましたわ…」

「会議天幕もそれ程広くないから、あぶれた面子は隣の天幕で休んでてくれ」

 

 会話の最中もテキパキとナンバーズ達が動いて野営の準備。天幕は3つ張られ、会議用、休憩用、荷物用と準備された。夜間の休息については偽装の天幕を追加しつつ、実際は帝都の拠点で休む手筈を説明済みである。

-

 

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 天幕に入ったアインズさん達は机上に広げたトール謹製の地図を前に、レイナースと相談である。現在は帝都側の荒れ地、そことの境界線上だ。見る方向を変えれば植生がある土地が見えるが、反対側は赤茶けた土地が広がっている。

 

「いかがでしょうか? この土地はいかに優秀な者が挑もうとも主命を果たせなかった呪われた地なのです」

「成程。我が友ブルー・プラネットさんの調査でも、真っ当な手段では不可能だと結論付けた場所という事がよくわかりました」

「だがまあ、俺達は真っ当な手段は使わない。竜王に呪われた土地だってんなら、その呪いを排除すればいい訳だからな」

「…何か、方法があるのですか?」

「魔法で何とかする。座標はどうだい、モガさん?」

「ええ、アイボットから情報が来ました。これだと…3回でどうにかなりそうですね」

「?? それはどういう?」

 

 疑問符一杯のレイナース。ウルベルトは苦笑しながら、地図上のいくつかのポイントを示した。

 

「使用を予定している大規模な魔法を、この3つの地点で使用する。影響下に入ると緑地化されるんだ。少々、荒れた場所が残るが、そこはドルイド系魔法を修めた仲間にカバーしてもらえる規模だ」

「こ、この呪われた地をたった3回の魔法でどうにかできると!?」

「結果を御覧じろ、って奴です。モガさん、此方を」

 

 ベルリバーが虚空から<強欲と無欲>を取り出した。現在、急ピッチで<熱素石>を使った防御用装備を生産して配備しているが、今回のアインズさん達のように遠出する場合は、所有する世界級アイテムをそれぞれのメンバーに持たせている。無論、他の未知の世界級アイテム対策である。

 

「そ、それは…」

「我らが所有する秘宝の一つだ。先日貴女に使ったのも、同じ希少さを持つ秘宝の一つ。あれとは異なり、この中には力の根源となるものが詰まっている」

 

 経験値です。

 レイナースの目には、とてつもない精緻で豪奢な一組のガントレットに見える。文字通り輝いており、それだけで異様な威圧感を放っていた。

 アインズさんはそれを装着し、これまた虚空から取り出した、スタッフオブアインズ・ウール・ゴウンのレプリカを手に取る。

 

「ホコリくさいのも何ですから、ささっと終わらせて屋敷に戻りましょう」

「思ったより巻き込めそうですから、日帰りでいけますね」

「座標は結構大雑把でいいけど、川には注意してくれ」

 

 天幕から出たアインズさん達は能天気に話しているが、レイナースは理解が追いつかない。この身に宿っていた呪いを解いた秘宝と同列の代物というのは理解できたが、力の根源となるものとは一体?

 

「報告については、まずは結果だけ知らせて、次に内容を伝えるといいかもね」

 

 ペロロンチーノはのほほんと言い放つ。

 

「さて、大森林での使用以来だな。行ってきます」

「「「いてらー」」」

-

 

-

 その日、端末を操作して情報収集しつつ、人化してヌカ・コーラなるしゅわしゅわする甘い飲料を飲んでいたツアーは、天空に向かって撃ち放たれた巨大な力の束、その巨大さに盛大にコーラを吹いた。

 

「またか!?」

 

 また何かあのどこかとぼけた骸骨がやらかしてくれたのだろうか。世界に悲鳴はあがっておらず、暫くすると巨大な力の気配は霧散した。不意打ちに咳き込んだら、気管に入った炭酸がきつい。

 

「今度は何をしたんだいアインズ…」

 

 鼻から炭酸の抜けたコーラが垂れているツアー(人化)。リグリット辺りが目撃していたら盛大に笑われるだろう。布巾でいそいそと拭って、探知をする。

 

 探ってみると…、かつて、常闇の竜王がプレイヤーらしき存在と戦った余波が残る帝国の土地だ。始原の魔法で大地から生命力を吸い上げて枯らした場所であり、数百年経った今も殆どの場所が枯れている。

 

「え、土地に緑が?」

『ん? ツアーなのか?』

 

 住処に、ここ何度も聞いて慣れてしまったアインズの声が響いた。彼にはこの場所は教えていない。

 

「そうだよ。私の住処だけど…、どうして声が? さっき感じた魔法の気配を探っていたんだけど」

『成程、超位魔法のせいだな。心配するなツアー、枯れて誰も住めない土地を、少しだけマシにした』

 

 少しだけとは言うが、草原と雑木林が緑色で生命力を盛大に誇示している。

 

『お前の住処を図らずと突き止めたのは、探知魔法を検知した際、自動的に相手の場所を探り当てる魔法を常時備えているからだ』

「…成程。そこは以前、常闇の竜王がプレイヤーらしき相手と交戦して枯らした土地だったんだ」

『常闇の? 宵闇ではなく?』

 

 似通った名前だから聞き間違えたのかとアインズさんは考えているが、何かしらの力で自動翻訳されているだけで、それらはこの世界では大きく意味合いと名称が異なる。それに気付いていない。

 

「うん、常闇の竜王だ。以前、竜王同志で意思を伝達できる領域で、プレイヤーを倒した事を散々自慢してた」

 

 アインズさんは話の流れから聞き間違いと判断するが、間違いに気づけなかった。

 確か、ネコさま大王国のネネコは百レベルだが戦闘職ではないロールプレイ寄りだったなと思い出し、それを自慢するとかないわーとか思う。

 

「声だけはでかいし自慢話ばかりだし、性格は悪いし器小さいし、色々やらかして嫌われてるから、みんな10年位無視したけど」

『イキり系竜王!? 10にも満たないコミュニティで総スルーかよ…』

「何それ? …いやそうでなくて、あんまりその系統の魔法、使わないでほしいんだけど」

『それはできない。ただ、自然が好きな友人の事もあるから、世界其の物を壊すような使い方は絶対にしないと約束する』

「あー、うー…わかった。今回は枯れてしまった土地を癒やしたみたいだし、不問とするよ。でも、くれぐれも連発はしないでくれないか? 心臓に悪い」

 

 あと胃にも。

 

『大丈夫だ、この系統の超位魔法は、おいそれと連打できる代物では無いからな』

「本当に頼むよ? さっきは驚いて、飲み物を吹き出してしまったよ…」

『今回の件ではあと2回だから我慢してほしい。それではな』

「ちょ!? おいアインズ! 骨! おーい!?」

 

 声は唐突に途切れた。あと2回、同じ様に魔法が行使されるという。ツアーは人化を解き、寝床の上で項垂れる。

 

「害意で周囲を壊す訳でも無く、善意で世界を変えすぎる訳でもないけど、あの骨、本当にいい加減にしてくれないかな…!」

 

 先日、明らかに運動不足とリグリットに爆笑されながら言われた為、運動がてら評議国周辺でも飛んで見回ろうかと考えるツアー。

 

「それにしても宵闇、宵闇の竜王ねぇ? かの破滅の竜王のような、外からの来訪者か?」

 




「ふえええ、ハジメざァンンン!」
「ええい、纏わり付くな!」


「…すまんな、いじめた積りは無かったんだが」
「自業自得。とはいえ、あのバグウサギが手も足も出ないとか、貴方、本当に人間なの?」
「正真正銘人間です(キリッ)」
「冗談はオッサンだけにして?」
「辛辣だな!? …旦那さんに聞けばわかるだろうが、オーラの防御以外は、武術のミックスでしかないぞ?」
「あれ、全部受け流したの?」
「そういう事だ。未来視は気づいた時点で選択肢を全部潰した。それと破壊の跡は全部、あの怪力うさ耳娘のパワーが原因…なので」
「修繕ができるのは知ってるから、頑張って?」
「ちくせう!」

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