荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~ 作:マガミ
「人間?」「あの格好、どう見ても平民…」「それも…」
「二人?」「さすがゼロの…」
「起きろ少年、というか無事? 生きてるか?」
「う…ここは? てかそっちこそ、誰?」
「俺はミナセ、ミナセトオル。君は?」
「ええと俺は、平賀才人。しかしここ、どこなんだ?」
「ここがどこかはわからん。が、俺とは違い、少年はどうやら魔法で召喚されたようだな。ほれ、そこのピンクブロンドの小さな子が君を喚び出したらしいな」
「召喚? 魔法か何かって事? 何のドッキリ? …なんだか、物凄く怒ってる上に周囲が笑ってる?」
「明らかに想定外なんだろう。…言語サンプルが少ないな、まだ何を言ってるか全くわからん」
「??? てかミナセさん、もし仮に俺が魔法とかで喚び出されたとして、そっちは?」
「次元転送装置の実験だ。…最も、地球型世界の設定の積りだったが、イレギュラーが発生したらしい。…しかし、君は友人の声ととても似ている。大分若いが」
(仮設の魔力計測器だと大気にも魔力がある。何で明らかに違う次元に接続したんだ?)
「こっちが魔法でミナセさんがSF…うう、夢なら覚めてくれないかなぁ!?」
「残念、夢じゃない。む、召喚主が何か君に用があるようだ…が…?」
「え、何、なんで近付いて…!?」
帝国より馬車で数日かかる場所に、その荒れ地は存在する。伝承によれば、名の知れぬ竜王が大地の力を吸い尽くし、その力を敵対していた何かに打ち放った名残であるという。
その後、帝国が今の形になるまでの間、いくつもの人間の王や亜人の長など、様々な種族がその荒れ地を領土とせんと侵攻したが、河川が流れる穏やかな平野であるにも関わらず、命一つ無きその大地は、全ての願いも企みもはね退けた。
帝国もジルクニフ皇帝の治世より以前から、幾度となく優秀あるいは有力な貴族が手を尽くしたが果たせなかった。
そして今、それを伝え聞いてきた帝国四騎士が一人、レイナースと随伴騎士隊の目の前に広がるのは、見渡す限りどこまでも広がる緑の絨毯である。
「…神だ、神の御業だ」
騎士の一人はへたり込みながらそう呟いた。隣に居た同僚は、両手を祈りの形で、目の前の光景を見ている。
「これが…、魔導皇帝の力…」
天空に飛び、視認範囲を遥かに遠ざかった人影。その直後、あまりにも巨大で複雑な魔法陣が展開され、上空の雲がそれに押されるように円形にかき消えた。静寂の後、唐突に砕け散った魔法陣が周囲を光に包み込み、耐えられず目を閉じてそれでも足りずに腕で防いだ。
そして光が薄れ、目を開いた帝国騎士や兵士達が最初に目にしたのは、一面の緑である。昆虫や鳥の気配は無い。純粋に植物だけが繁茂する平原が目の前に存在していた。
「おーう、エリア境界がどこか判らんかったけど、認識した範囲全部いったなー」
「<飛行>で上空から使ったのは正解だったな。その辺の判断は流石だぜギルド長」
「アイボット達に周辺の確認をして貰ってますけど、これならドルイド系使わなくても大丈夫そうですね」
驚愕と畏怖に身動きが取れない帝国の面々とは裏腹に、とても呑気な感じで分析をするナザリック勢である。
そしてふよふよと飛んできたのは超位魔法を使い終えて、ついでにツアーとの会話も終えた学士モガことアインズさんだ。
「さて、一度の使用で結構いけましたが、どんな感じです?」
「円形ですべて同じ植生っていう不自然さを除けば成功だな」
後から来たトールが、傍らにハブとして滞空するアイボットに通信ケーブルを繋ぎ、グループで制御して周囲を偵察させている。エロゲバードマンとのやりとりで、ハードウェア的にビジュアル制御面を強化した端末には、現在の元荒れ地の状況確認がパーセンテージで示されていた。横には緑地化状態を示すデータが並んでいる。現在の所、確認状態と緑地化は同じ数値を示していた。
「それにしても凄いな、<天地改変>だったか」
「ユグドラシルではエリア一つのフィールドエフェクトを変更させる程度だったんですけどね」
「…となると、この効果範囲でも最大値じゃないな。視認範囲が広がれば、もう少しいけそうだ」
(ああそうそう、超位魔法を使ったらツアーに釘を刺されましてね、どうやらあのカテゴリの魔法は危険視されているみたいです)
(ふむ。余り関係を悪くする訳にも行きませんし、連打は控えた方がいいみたいですね。あ、探査終わりました)
周囲から見れば無言で端末の画面を示したかのような仕草。トールに促されてアインズさん達が覗くと、探索率と緑地化率が同じ百%を示している。
「あと二度程は使う可能性はありましたけど、嬉しい誤算です。これでジルにはいい報告ができます。…あの、レイナースさん?」
「は、はい、なんでございますでしょうか!?」
呆けたように緑地化された元荒れ地を見ていたレイナースであったが、声をかけられて飛び上がるかのように動く。
「ジルに約束した、荒れ地への提案はこれで悪くない成果がでたと思います。お手数ですが、帝都へ戻って報告をお願いできますか?」
「はい、それはもう!」
なんで驚いてたり挙動不審なのかは解らないアインズさん。超位魔法を使う関係上、人化幻影モードな訳で死の支配者の感性ではその辺りは察する事ができない。
帝国騎士の面々を<転移門>で送り出し、アインズさん一行も仮陣地を撤収する。偽装の馬車隊を帝都方面へ、ナンバーズ達を<転移門>で見送り、トールは缶コーヒーを取り出してアインズさん達と共に地面の上で駄弁っている。
「見渡す限り全部同じ草原になっちゃいましたけど、俺、シム系のセンス無いんですよねぇ」
「リアルだとVR全盛になって、複雑化しすぎて廃れ気味のジャンルだしな」
「画面見ながらのスタイルが逆に古いタイトルで継続してましたねぇ」
ディストピアなリアル世界。ゲームのジャンル隆盛は色々聞き及んでいたものの、人口減少と教育の不備は文化の停滞と逆行を招いていた模様。
「どうなってるんですかリアルでのゲーム事情…」
「「「基本的に糞?」」」
「やだ、心が死にそう」
糞の山の中でどうにかのめり込めるタイトルを探して、日々を生き延びてゲームに浸るという、どうあがいても絶望な世界に遠い目をするトールである。
そんな会話の最中、トールは網膜投影レーダーに敵対反応を確認する。元の数値の高さとMODの拡張、そしてオーラによる検知能力は数キロという範囲に及ぶのだが、その反応は唐突に現れた。
距離にして50mだが、いきなりの出現にトールは黙って立ち上がる。
「よう、ちょっといいかお前ら」
「誰だ貴様は」
歓談を邪魔されたのも理由だが、それ以上に警戒していた筈のトールやペロロンチーノの索敵を掻い潜っての出現。ウルベルトは態度には出さないが最大警戒である。
「そう身構えるなよ、同郷の誼だろ?」
「…プレイヤーか」
「そうさ、遠くに超位魔法の魔法陣が見えたからな。どうだ、こう見えても俺はこの世界に長く生きてる。あの糞なリアルを知ってるなら、こっちで面白可笑しく暮らすのに、手を組まないか?」
大仰な仕草。少しボロいフードからは口元が覗いている。そこからニタニタとした大きめの口が見えた。友好的な口調だが、端々に人を小馬鹿にしたような態度が見え隠れする。アインズさんは営業先で、ウルベルトはストリートでよく見た、少しばかりの権力で粋がる小物と同じ気配だった。
「既にのんびり暮らしているからな、多少の取引は考えなくもないが、お互い、不干渉でいかないか?」
「なんだよツレねぇなぁ。キモい異形種じゃねぇプレイヤー同士だってのに」
「…そういう所だぞ」
「あん?」
声音からして男。推定レベルは100。人間種。隠蔽措置はしてあるようだが、複数の目による情報とPip-Boyによる解析はそれを突破していた。
そして…、敵対状態を判別するレーダー反応は、敵対を示す赤表示のままだ。トールは同じデザインでより攻撃的な装備に切り替える。アインズさん達も、ナザリックギアのセレクタを変更して、人間の幻影を纏った状態で異形種化し、フル装備に切り替えた。偽装レベルはアインズさん95、ほかは70。油断してくれるならという程度の考えだが、今回はそれが上手く行った。
「まあいいや…。俺としちゃあ、忌々しい地下墳墓と一緒に来たっつー糞チーターのアインズ・ウール・ゴウンに一泡吹かせる同士が欲しかったが、レベルも必要レベルに達してないし、今回は縁が無かったって事で」
「ああそうだな、縁が無かった」
「モガさん、”王国に”戻ろうか」
「そうですね。それでは失礼する」
そう言って、他の無言の面子を伴って背を向けた。トールは黙って首を振る。レーダーが赤表示だからだ。
歩いて離れていくが、向こうに動きは無い。
「どうしたんだトール?」
(LVがじわじわと削られてます。皆さんは?)
(特に何も)(ナザリックギアの評価も変わらない)(変化なーし)
(となると、私だけが効果を受けてる?)
トールの見かけのレベルは300だが、渡り歩いた数々の世界の影響で…内包する力の量はおかしな事になっている。それらの力を制御するのは見かけのレベルを持つウェイストランド産の体の方だ。だがレベルドレインにより、これがバランスを崩し始めている。
今まで感じたことのない感覚に、姿勢を崩して片膝立ちになる。
「トール!? …おい、何をした!?」
「ちっ、効いてるのはそこのNPCだけか。弱い人間種や現地人なら一瞬で崩れ去るってのに」
「貴様!」
「止めだ止め、カンストNPC相手じゃ5レベル吸えりゃいいとこだ…って、何だこりゃ? あーくそ、そうかよ、100超えNPCとかお前らもチーターか!」
「勝手な事を言うな! …お互い不干渉だと言った筈だ」
「ああん? カンストでもない雑魚共が、装備置いて俺様の糧になれよ」
異形種化しているアインズさん達は、冷静さを保ちながらも激しい怒りを感じていた。
「断る。俺達を雑魚ってんなら、さぞかし有名なプレイヤーなのかあんた?」
「装備も変わってるからなぁ、いいぜ聞かせてやる! 俺様はかのアインズ・ウール・ゴウン大侵攻の企画を立てた「†宵☆闇†」様だ!」
(((うわぁ…)))
「あの糞チート異形種ギルドにはしてやられたが、補給もままならねぇこの世界、今度こそじわじわと削り殺してやる!」
残念ながら、首都ナザリックというかナザリック地下大墳墓の維持費や補給については、ゲーム現役時代よりも充実している状態だ。荒野の災厄のような、別ゲーの物量チートが協力しているとは夢にも思わない。
(てか知ってる?)(知らん)(主導と指揮は別の人じゃね?)(聞いたこと無いなぁ)(掲示板で暴れてるの居たけどそれじゃないかな?)(あー、たどり着いて真っ先にアレで蒸発した奴か)(蘇生直後に装備全損した面白映像の人か!)
(トールさんは大丈夫ですか!?)
(レベル減少は終わりました。EXP薬あるので投与して補填できてます)
(よかった…でもなんでトールさんだけ?)(あれじゃないですか、対人間種用のレベルドレイン)(ああ前提職の)(でもアイツ、人間種だよな?)(てかトールさんが人間種扱いだった点について)
(((それな)))
(…うぉい)
そんな会話をしながらも内心安堵しているアインズさんの横で、ウルベルトがニヤリと笑う。
「いくつか、残念なお知らせだ、ヨイヤミさんよ」
「んだと?」
「俺らはお前の事を知らない。
お前は俺らの事をよく知ってる」
「は? 何言ってんだおめー!? てめえらなんか知っ…!?」
ナザリックギア、レベル偽装解除。同時に、幻影を解いて並び立つ、4人の異形種。現役時代よりも強化された装備は、それだけで圧を放っているかのようだった。
「理解したか、愚かなる侵略者よ。我らはナザリック地下大墳墓に居を構えし、アインズ・ウール・ゴウン」
「俺らはお前を知らないが、お前は俺らの事を良く知ってるだろう? くくくっ、中々の道化っぷりだな」
「ねえどんな気持ち? 意識もされてなかったとかどんな気持ち?」
「こ、コケにしやがってぇええええ! 出やがれ、常闇の竜王!」
その言葉と同時に、巨大な気配が唐突に現れた。晴れていた上空は厚い雲に覆われて、500m先は見通せない霧が周囲を覆う。ヨイヤミを名乗る男は現れた巨躯の頭部に立つ。
「なんだありゃ…!?」
巨大な気配は前兆も何も無く現れた。所々骨が見え隠れし、太い鎖で刺され覆われた巨大な…竜の姿をしている。
「驚いたか、驚いたよな!? 喜べ、お前らがせこせことオ○ニーで作ったNPCから奪った力で、俺様が神罰を下してやるからな!」
そしていつの間にか、周囲には無数の異形が囲んでいた。一つとして同じ姿はしていないが、共通点がある。
それに気づいたのはアインズさん。彼の異形種としての反応に、周囲を囲むのはアンデッドであるという確信だった。合図も何も無く、異形のアンデッドはアインズさん達に襲いかかろうとして…、魔法と剣技、弓による攻撃で跳ね飛ばされた。
「ちっ、足止めしてやがれよ、吹っ飛ばすからな!」
言うが早いか、アインズさん一行に常闇の竜王の口が開く。嫌な予感しかしない。ウルベルトは周囲の異形アンデッドの処理をベルリバーに委譲、単体用で不死系に効果の高い魔法を連打するが、何か障壁に阻まれて効果が薄い。
「放てぇ!」
それはかのロンギヌスに匹敵する、世界一つに値する力を対象の消滅に振り切った禁断の力。いかような存在であろうと、直撃させればこの世界から消滅させる。そして、古竜の躯が放つブレスは、トールから奪ったレベルと事前に溜め込んだ魂の力を燃料とし、複数のプレイヤーであろうと問答無用に消滅させる威力を秘めていた。
力は巨大、されど撃ち放たれる力は凝縮されて細い、それが薙ぎ払うかのように放たれようとした。
「させるか」
勝利を確信していたヨイヤミは気づけなかった。閃光の最中、人影がそのブレスの起点近くに飛び出し、数えるのも馬鹿らしい数でありったけの障壁を張り巡らせた事を。
張り巡らせただけではない、VATSで高速化し、お蔵入りしていたモジュールを起動して瞬間的に能力値を100倍、リアルタイム演算でブレスの構成エネルギー量を把握すると、拠点内の予備含む数十機の核融合炉と次元接続、一度持てば十分とフォトニックレゾナンスバリアーの生成器にその膨大なエネルギーをつぎ込み、それに加えてオーラを各機材に纏わせた。
数秒の攻防。トールはプレイヤー複数を消滅させるそれを、防ぎきった。
代償は、拠点内核融合全ての緊急ダウンと、次元エネルギー接続用のニコラテスラ式トランスファー全機の破損。そして、オーラが無ければ防ぎ切れなかったが、自己存在の延長線上とも言えるオーラがブレスに直接触れてしまった事による、トールの身体の破壊だった。
「は? なんで?」
躯竜の上で、間抜けとも言える気の抜けた声を出す人影。
落ちてきたのは、胸から上と頭部、左腕だけが残る、トールの残骸だった。Pip-Boyだけが冗談のように綺麗に残っている。傷口というのが憚られる損壊。ボロ雑巾の方がまだ、元の形を残しているだろう。消失部分は、修復がされてはボロボロになって消えるのを繰り返している。おそらくは、あのブレスによる何かしらの効果が蝕んでいる。
「防ぎ切りやがった!? それでも全部跡形無く消える筈だろ!? なんで残ってやがる!?
なんで動いてやがる!? 死んでないとか嘘だろ!?」
そして、その姿で彼は生きていた。三割ほど削られた頭部と顎を動かし、グループ会話を開始させる際のジェスチャーをする。
(…も…モンガ…さん、無事…か? 他…は?)
Pip-Boyは健在ながら神経伝達周りの不具合か、または本人が死亡寸前であるせいか、乱れることが滅多に無いメッセージがごく近距離であるにも関わらずとぎれとぎれだった。
(大丈夫だ!)(私もです!)(今のうちに回復を!)
周囲を囲む異常なアンデッドの群れを薙ぎ払う最中、アインズさんが急いで近づき、上級ポーションを振りかけるもいまいち効果が薄い。
先程の凶悪な攻撃を見舞わせた人影といえば、攻撃前の不遜な態度は何処へやら、驚き慌てふためいた様子でがなり立てている。
「何だよ糞っ、壁役NPCとかふざけやがって! ブレスはあの槍以上の筈だぞ!? また貯めるのにいくらかかると思ってんだよ! それを全体ガードとかチートだろうが! AOGのクソチーター共がぁ!」
「勝手な事を言いやがって…!」
「不愉快にも程がある!」
「うるせぇえええええチーター共ぉおお!!!!」
最初の邂逅から既に、話の通じる相手ではないと結論し、ペロロンチーノはいつものお調子者の様子は一切無く、空から攻撃を見舞い続けている。ウルベルトはリキャストタイムが短い中から、効果的なものを連続で叩き込んだ。
巨大な竜の躯が、攻撃に耐えられず幾度となくふらつく。そこで冷静になったか怖気づいたか、
「今は退いてやる! じわじわと苦しめてやるからな!」
自信満々で放った必勝必殺の攻撃が、こともあろうにメインメンバーの一人として落とせなかった事に苛立ちながら、捨て台詞を吐いて…逃走した。躯竜の姿が掻き消える。
「待ちなさい!」
「待つかよぶぁーか!!!! ぐあっ!? 畜生め!! あだだだだだ!! ふざけんな!? 覚えてろ!」
事前に複数の逃亡手段を用意していたか、<次元封鎖>なども効果が無く、魔法的追跡も躱してしまった。ウルベルトとペロロンチーノが追撃を放つが手応えは薄い。
トールは未だ、襤褸切れのような姿のままだ。消滅に抗うように再生と消滅を繰り返している。
アインズさんは<伝言>で首都ナザリック側に緊急要請。世界級アイテム「強欲と無欲」を用意してもらう。某インド世界の件で半狂乱となった過去のあるやまいこについては、ユリと居残りのギルメン達に抑えて貰う。
(モモンガさん、アイテム以外の回復や解呪とかの魔法の類は、使用はちょっと待って下さい)
先程までとは異なり、ある程度はっきりしたメッセージがグループ会話に届く。
「な、何故ですか! こ、こんな、こんな姿になってるのに!」
アインズさんは、オーバーロードの異形種体になっている筈なのに、精神安定化を繰り返している。
(私が抑え込んだ事で複数のプレイヤーを消滅させるに足る呪いのようなものが燻ったままです。下手に干渉すると、施術者に影響がでる恐れがあります)
半ばぐちゃぐちゃになった顔で、薄く笑みを浮かべるトール。
(大丈夫、今は無事な所をオーラで包んで峠は超えました。再生と修復が侵食を上回りはじめてます)
「ど、どの位で治るんですか!?」
(今の解析ペースなら、一ヶ月あれば元通りですよ。はは、いやほんと、死ぬかと思った。あのクソ神の呪い以来です)
「…インドラの呪いより厳しそうだが」
(実際厳しいかと。今も解析による対抗手段はほぼ相殺頼みの力押しです。一週間程あれば、外見だけなら戻りますけど)
それを聞いて胸を撫で下ろすアインズさん達だったが、なにかに気づいたウルベルトが顔を顰めて確認する。
「なあトール、あんた、一ヶ月もその状態で居る積りなのか?」
「「「!?」」」
「そ、その間、消滅と再生の痛みに耐え続ける積もり!?」
(一ヶ月は最長と言った所ですよ)
トールは現在状況を伝えた。Pip-Boy上では各部位は全損で、現在も文字化けしたバッドステータスが侵食している。主だったデバフは全SPECIAL-10、秒間1%のHP損壊、LV減少。体に内包するオーラにより無事な部位を保護して生命維持をしつつ、連続でスティムパックとEXP薬を投与して損失分を補填している状態だ。
呪いについてはオーラの抑え込みと並行して解析を行い、存在を蝕む攻撃を封じ込めながら、欠損箇所の修復を全力で行っているという。
ただ、再生と損壊を繰り返す訳で、むき出しの神経周りは痛覚をダイレクトに伝えている。脳内麻薬物質の分泌は、解析演算を行わせている脳の未使用領域の鈍りを誘発するため、抑えてしまっているのだ。
拠点に戻ればZAXスパコン群に解析を代行させる事で緩和できるだろうが、それでも再生と損壊は起き続ける。
結論、戻るまで超痛い。
「そんな…!」
(大丈夫、痛みには慣れてます。ご心配なく、ありがとうございます、ウルさん、皆さん)
そう言ったトールに何もしてやる事ができず、歯がゆい気持ちで何とも言えない表情で見つめる面々の前に、たっち・みー達と共にエインズワースがMsナニーを随伴させて現れた。位階魔法の使用は押し留めて、エインズワースに命じてフォトニックレゾナンス技術による専用の隔離浮遊ポッドにトールは収められた。
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機器の調整が終わり「ほぼ峠は超えた」と伝えるトール。
用意された補助電脳に接続して演算を譲渡したので、痛みはともかくとして本人としてはどうにか「一息ついた」と言った所だろうか。
(情けない格好だな…むう、マイサンも無い)
「再生したアレだと童貞になるのかな?」
(どうだろう? 哲学的テーマだ)
「(HAHAHAHAHAHA!)」
多少は余裕が出たのか、トールとペロロンチーノが軽口を叩くが、絶賛心配中のやまいこの件があるだけに、居合わせたギルメン達は安堵を過ぎて、怒りの四つ角が出る。
「ペロロンチーノさん、こっちに来なさい」
「峠も超えたっていうし、空気を和ませようとしたんだぁぁぁぁ…(フェードアウト)」
「トールさん、完治したらやまいこさんのお説教ですからね?」
たっち・みーが静かで平坦な声で告げる。
(うっぷす、了解です…)
「ご心配をおかけして大変恐縮ですが、面会可能となりましたら追ってお知らせ致します。御用のある場合はJrの端末までお知らせ下さい。当バンカーの施設につきましては、改築完了次第、通常営業となりますのでご利用をお待ちしております」
そう言って開いたままの<転移門>を潜っていくエインズワース達を、アインズさん達は見送った。
「峠は超えたってのを信じるしか無い」
「…戻りましょう。緑地化の件、帝国へ連絡もしなくては」
「ええ、わかりました」
そう言うものの、アインズさんは動かない。いや、ゆっくりとした仕草で、今回の「敵」が去った方向をじっと見ている。方向としては王国だが、アインズさんの予感めいたものは、そこよりもさらに先…聖王国の方面を示していた。
「…ギルド長?」
心配になったウルベルトが声をかけると、アインズさんは突然、絶望のオーラを放ちながら叫んだ。
「クゥ、クズがぁあああああああ!!」
生えたばかりの周囲の草木が枯れ、地面すら潤いを失い、砂地と化していく。狭い範囲ではあるが、円形にそれが起きた。
レベル差も無いので効果は無い筈だが、それでも死の支配者のそれは、世界災厄が一歩後退る程の圧を持っていた。
「仲間と子供達と俺の為にぃいいいい! 寄り添い助けてくれた我が友をぉぉおお! 傷つけやがってぇえええええ! クソがぁあ! クソがぁあああ!」
頭を掻きむしり、幾度も地団駄を踏む。地面にいくつもの凹みができた。
「あまつさえぇええ! ナザリック侵攻の首謀者などぉおおお! 許せるものかぁああ!! 許すものかぁああ! あの腐れ野郎ぉおお! 絶対に滅ぼしてやるわぁああああ!」
そしてはたっとその激高が嘘だったかのように止まる。
「やはり、激しい感情は抑制されるのだな…」
くるりと振り返るアインズさん。白磁のようなその顔には何も感情は見えない。
「すいません、見苦しい所をお見せしました。戻ったらあのプレイヤーと常闇の竜王について、対策会議を開きましょう」
「お、おう…」
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一方その頃、まんまと逃げ遂せたヨイヤミ。
「ふざけやがって、ふざけやがって! キモい異形種の底辺プレイヤー共が、上層民の俺様をコケにしやがってぇええええ!」
かつてのリアルでは、親の地位から辛うじてアーコロジーの上層に住み、仕事も能力を必要としないが確保されていたポストに居た。やまいこの言う「上層民(失笑)」という奴である。
「ああくそ、こうなったら現地の雑魚どもを焚き付けて、魔導皇国(笑)を名乗ってやがる、あの忌々しい地下墳墓周辺を固めて、維持費超過で封殺してやる」
残念ながら、ユグドラシル金貨による維持費問題は遥か以前に解決済みだったりする。おまけに余剰があるため、ぷにっと萌えプレゼンツの最大防御態勢すら展開可能な事を知らないというか想像できない。
「見ていろ、戦いは数だって事をなぁ!」
これまた残念ながら、戦いは数という戦いの真理については、かのナザリックとトールが組んだ時点で、ほぼ無限の補給、増え続ける不死者と機械の戦力という、踏み潰される側にとっての悪夢が待っている。
これから彼は、以前から水面下で手を組んでいた聖王国の反聖王女派を巻き込んでの暗躍を開始する。
既に前提が間違っている時点で負け確定なのだが、どのような結末に至るかについては後に語る。
(至高なる御方々、転移先レポートという名の異世界録画映像鑑賞)
「まな板ツンデレ御主人、ぐい押し強かメイド、ロイヤルビッチ、素直クール、爆乳エルフに…」
「爆発しろ」「爆発しない?」「爆破した方がいいな」「爆破したい」
「爆破すな! …まあ、こんな感じだったんですが、似てると思いませんか、平賀君の声って?」
「似てる!」「大分若いけど!」「若いね!」
「どーせ俺は三十路超えですよーだ…てか、俺って素の時あんな声してるんです?」
「「「してる!」」」
「そ、そうなんだ…」
「しょ、ショタ声のモモちゃん、ウェヒヒヒ…!」
「おい、茶釜さんが尊死しておられるぞ!」
「しかし…原因が解らんのだよな、あんな異世界に行くとか」
「少しでも数値が違うと、他の地球型世界なんですよねぇ」
「もしかして、モモンガさんに似てる声が原因とか!」
「平賀君の声が原因? ははっ、まさか! 仮説としては面白いですけど」
※トールに某ゼロ使の知識はありませんが、生前世界には存在していました。AOG勢のリアル世界には作品として存在していません。尚、ルイズコピペだけは知っていましたが魔法的翻訳は無く現地語を解析して会話していたため、気づいていません。