荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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死の支配者と外交使節団

 

「先日のクローン兵による強襲は上手く行ったが、どこの派閥か判別できたか?」

「接収できた装備は現地勢力の所有品と同程度です。ただ、捕縛あるいは処理には失敗しています」

「今回も痕跡無しか。厄介な奴らだ。

 所でそれなりに消耗したが、物資の不足はどうにかならないのか?」

「例の作戦における補充は問題ありませんでした。

 ただ、これ以上の作戦規模となりますと、現地勢力との直接接触を避けている以上、未開地での掘削や採取にも限度があります。転移ゲートの安定化は本部側でも継続して研究は進めていますが、正直申し上げて芳しくないかと」

「ちっ、共生派め。あのアバター体もどこをほっつき歩いているやら」

「不明です。監視範囲を脱しています。電波通信が困難というのは厄介なので、例のオカルトな道具を追加で調達した方が良いかと。焦らず慎重に参りましょう、司令」

「そうだな、現地勢力の制圧にも、原生生物を駆逐するにもまだ不足が多い。準備が整うまでは、存分に自然食品を堪能しつつ待つ事としよう」

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 聖王国使節団側は事前の通り、パンドラズ・アクターが対応し、事前の取り決めラインまで交渉が進んだ段階で、交渉締結をアインズさんに報告と謁見という形だ。初日は旅の疲れを癒やして貰い、次の日に外交交渉と取り決めの確認。その後に謁見である。

 ただ、帝国の後という事に少し騒いだ者が居たが、ジルクニフ帝が自ら友誼を結んでいるという話を聞いて渋々黙った。

 

 そして謁見。首都ナザリックのランドマークタワー(仮)にある、地下大墳墓の王の間を模した謁見の間(仮)だ。トールもアインズさん達も首都ナザリック側の各所の正式呼称決定を失念していたのは後の笑い話である。

 

 聖王国側は、王兄カスポンドと護衛のパベルとその直接の部下に加え、反カルカ派の者が数名。

 都市の高度さに圧倒され尽くしであった彼らは、通された謁見の間(仮)の偉容に完全に呑まれていた。反カルカ派の面々は首都ナザリックに入る時点で意気消沈していたのが、完璧に心が折れた。今は促されるまま蒼白な顔で着いてくるのみ。

 

 権威的な入室と自己紹介の後、パンドラズ・アクターが変身している魔導皇帝(パ)が外交交渉の締結を承諾。王兄カスポンドは、覚悟していたラインよりも穏やかな交渉締結に胸を撫で下ろしていた。

 

「魔導皇帝陛下の表敬訪問については、万難を排してお迎えしたいのだが、お恥ずかしい話、我が国は困難を抱えている」

「貴国の事情も把握している。困難な道程だろうが、兄妹揃って手を携え、民達が穏やかな暮らしを送れるよう願っている」

 

 魔導皇帝(化)はセバスに目配せをして、ナザリックメイド達にあるものを運ばせた。豪華ではないが確かな職人の手による武具だ。目録を渡されると、カスポンドは目を見開く。

 ナザリック出現後、ギルメン達はナザリックスイートの各自室からゴミアイテムを一斉に整理した。通常ならトラッシュボックス行きだったが、ほぼ初日で資金問題は解決し、どうせなら商会経由で売ってしまえと整理したはいいが、転移後の世界では上級でも強力な部類に入るため、人気はあれど高価で売れ行きはさほどでもない。何の位残っているかといえば、MMOあるあるネタとしてギルメン達全体から集めた数は四桁後半である。

 閑話休題。

 

 カスポンド達の前に出したのは、最上級のアイテムだ。射手であるパベルは、シンプルな複合弓をガン見。目付きが怖い。

 

「これは…」

「亜人達の脅威に晒されている貴殿達に贈ろう。これらは手に入れたはいいが、担い手の居ない武具や道具だ。我々はこれ以上の物を容易に作り出せるのでな」

 

 そう言って、アインズさんから許可を得ている、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(試作品)を出現させた。

 凄まじさに言葉も出ない。まさに神器としか言い様の無い宝物を前に、カスポンド達は固まっている。ただ実際は外装とエフェクトテスト用の試作品なので、外見以外は別段凄くはない。

 

「我々にとって、人間も亜人も等しく生命だ。今は不可能でも、距離を置いてお互いをよく知り、いつか、手を携えられる点を見つけられる事を願っている」

 

 そして、憎しみ合わず穏やかな暮らしを送ろうと願うのなら、協力をする。そう伝えて魔導皇帝(変)は其の場を締めくくった。

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 聖王国とは異なり、帝国側使節団との交渉はお互い事前に決めていた条約の締結で完了し、後はほぼお茶やら食事会である。初日は休んで貰い、次の日から戻ってきたアインズさん一行が応対している。

 

 荒れ地での事件の後、どうにか表面上は落ち着いたアインズさんであったが、件の事を人化状態で考え始めると精神が落ち着かない為、偽装人化の状態でジルクニフ達との茶席に着いている。

 帝国での試験的技術導入の成果やそれへの賛辞、フールーダ翁の研究経過、荒れ地の回復による今後の展望などを相槌を交えつつ聞くアインズさんであったが、顔には出さないものの少し上の空気味なのを見破るジルクニフ。

 

「…アインズ、何か悩みか?」

「はは、ジルには隠せないか」

 

 ジルクニフとしては「わざと素振りを見せて帝国側が恩を売る形を取り、国力差のある両国の差を少し埋める為の配慮」と解釈しているが、アインズさんとしてはそんな積りは無い。

 

「あの荒れ地の件も報告を受けている。恩に報いる為にも、帝国として聞ける事なら言ってくれないか」

 

 同席しているパンドラズ・アクター…アクトを見ると、ゆっくり首肯する。

 

「あの荒れ地の改良は滞りなく済んだのだが、かつての世界で敵対していた存在が現れ、奇襲をかけてきた。我々も危惧する厄介な攻撃を防ぐために、我が友の一人が傷を負ったのだ」

「なん…だと!?」

 

 アインズさんはトールの事を言ったが、ジルクニフは同列四一皇の一人が傷を負ったと勘違いした。

 神の力と同義と考えているアインズ達が傷を追う…敵対存在の驚異。以前であれば、敵対存在の側にコンタクトを取る事も考えただろうが、目の前の魔導皇帝はジルクニフの一代では返し切れない恩恵を帝国に与えているだけに、それは優先順位がとても低い。

 

 門扉以降、首都ナザリックの大通りを通ってきた訳だが、先進的で清潔、そして何処か歴史すら感じさせる意匠の町並みに、従者共々、首が痛くなる程見上げてしまった。そして、既に実験的に着手を始めていた先進的手法による都市計画、その集大成にして行き着く所がこれなのだと理解した。

 若干なり政治的な考慮も無かった訳でも無いだろうが、ジルクニフとしては首都ナザリックの域にいつか辿り着ける可能性が見えているだけに、末永い友好関係の構築は必須と考えている。

 閑話休題。

 

「油断をしていた我々の失態だ。何者も見下す態度といい、傷を負わせた攻撃といい、無差別にアンデッドを生み出す力といい、我々が穏やかに過ごす為には、絶対に排除せねばならん」

 

 握った拳がギリギリと音を立てている。その怒りの程がよく解ったジルクニフは、真剣な顔で近付いてそっとアインズさんの手を取る。

 

「力では全く役には立たないだろうが、情報であれば何か役立てるかもしれん。アインズ、協力させてくれないか」

「…ありがとう、ジル。君の心意気に我々は必ず報いる」

 

 絵物語に相応しい光景。神々しいものを見るかのように、帝国側の従者やナザリックメイド達は感嘆のため息を吐いた。

 アインズさんはアクト、パンドラズ・アクターに視線を送る。

 

「聞いていたなアクト、要請できる範囲を策定しておけ」

「畏まりました、父上」

 

 優雅な仕草で首肯する。流石に大仰なポーズとドイツ語は自重した。ただドイツ語はとても言いたかったと後で述懐するパンドラズ・アクターである。

 

「所でジル、事前に聞いていた件は大丈夫なのか?」

「アインズに贈って貰った魔道具で、つい朝方、決着はついたと爺から情報が来た。後は力も無い奴らだ、自由に泳がせて適切に使うさ」

「私は少し優柔不断だからな、ジルの果断さが羨ましい」

「アインズに褒められたなら、私もロクシーも捨てたものではないな。末代まで誉れとしよう」

 

 そう言ってお互い笑いあった。

 トールはまだ目を覚まさないが経過は順調と報告を受けている。ヨイヤミの件で荒み気味だったアインズさんだったが、このやり取りで落ち着きを取り戻した。

 

「モモ×ジル、ありです!」

「台無しだよねぇちゃん…」

「り、リバはありですか?」「アリ!」

(トールさん、早く復帰してくれ…っ!)

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 さて、二国との外交交渉はナザリック的にはすんなり終わり、こちらは戦略参謀本部(仮)となったとある部屋である。

 

 円卓会議の後、情報収集と分析を任されたのはウルベルト、ぷにっと萌えのギルメン二人に加え、魔導皇国三宰相のアルベド、デミウルゴス、パンドラズ・アクターというまさに悪魔的な頭脳を誇る面々が集っている。

 

 相手の擁する力、あるいはリソースと言った物について、何らかの組織の支援を受けていると推定した上で、まずはプレイヤー「ヨイヤミ」の人物像を推定する。

 

「最低でもクズ、最悪でもクズ、と言った所か」

 

 酷い評価だが間違ってない。謎の組織側は、なんであんなのを協力者にしているのかと現場は方針転換を何度も上申していたりする。

 

「そうですね。強い自己顕示欲の割に、次善策も用意しない浅はかさ」

「自己の態度が相手にどういう印象を与えるか想像つかない短慮さ」

「それでいて想定外の事態に対処がすぐできない想像力の不足」

 

 そこから色々と推察される情報。ウルベルトは表情には出さないがちょっと退いている。

 

「…まあ、そんな所ですね。サルベージ済のユグドラシルでのプロフ情報とも合致します」

「あったのか? 全く覚え無かったんだが」

「ビルドとしては特徴が薄いので苦労しましたが、かの大侵攻参加者のデータは全てありますよ? 報復での選定順位もそれからですし」

「流石です、ぷにっと萌え様」

「ふむふむ…と、ひでぇなこりゃ」

 

 ウルベルトとしてはユグドラシルでのビルドについて聞ければいいかな程度だったが、思った以上に例のプレイヤーについては「他人からの評価」が積み上がっていたらしい。

 資料をチラ見したが、掲示板ログからして晒しスレ常連と素行もあまり宜しくない手合であった。

 

「さて次だ。デミウルゴス?」

「トール殿のアイボット調査網と共に、恐怖公とシャドウデーモンによる諜報網の連携を密にし、聖王国方面の厚みを増しておく必要があるかと。エインズワースには要請済みです」

 

 アイボットによる調査網はかなりの広範囲に渡っているのだが、トール側が独自に調査した情報についてはトール本人の許諾が無い限りは開示されない。ナザリック側から現段階からの追加調査を依頼した場合は別だが、トールの意識がまだ戻らないのが少し痛手であった。

 其のため、現段階からの調査開始をエインズワースに依頼。派遣済みのアイボット調査網からの追加情報を待っている。

 

「商会のグレータードッペルゲンガー達も増やしますか?」

「それは少しあからさまだ。商会は通常通り営業で構わない。ぷにさん、ブルー・プラネットさんからは?」

「亜人達の方はまあいつも通りだそうです。問題は、かの丘陵地帯ですと恐怖公の眷属と同じ昆虫が食料として食べられているそうで、派遣時は注意する必要があります」

 

 亜人達にとってかの眷属の同種を含む昆虫は貴重な食料であるが、その光景を想像してアルベドは少し顔を引き攣らせた。

 

 聖王国内での現政権側との対立の裏、何かしらの組織が居る事は推定できる。ただ基本的な行動指針なども看破はしているものの、現地的組織なのか、外国的組織なのか、外部的組織なのかは現時点では不明である。

 現在の標準的諜報強度では、表には出ていない一定以上の力を持った何らかの組織が、二グループ程居ると判別できた程度だ。程度といっても、ほぼ正解な上、現在も暗躍する側は気付かれた事に気付いていない。戦犯はヨイヤミ。

 

「間ぁ違いなく、我々と敵対する何かが居るかとっ」

(頼むから笑わせないでくれ!)

 

 シュパッとポージングするパンドラズ・アクターだが、ここにいる面々はウルベルトを除いてスルーである。パンドラ自身も単なる癖というか生態のようなものなのでスルーを気にしていない。

 

「竜王国の件が済むまでに、特定できますか?」

「現時点では不明です、申し訳ございません」

「あれが馬脚を現すのを待ったほうが早いかもな、どうだ?」

「同意見にございます、ウルベルト様」

「確かに端が出た所で摘むよりは、痺れを切らす頃合いを待った方が面倒が無い感じですね」

 

 聖王国側もそうだが、バックに居るであろう組織については、警戒されずに情報を詳らかにできるよう、恐怖公の眷属とシャドウデーモンによる諜報網において、シャドウデーモンはハブ化、主に恐怖公の眷属を使っての情報収集を強化する事にした。

 持久戦であるが、ナザリックは防衛戦において伝説的な強さを誇る。ましてや首都ナザリックを含め現在は補給も何ら問題ない訳で、この時点でヨイヤミの戦術の一つは破綻している。

 

「遠征準備期間の活動自粛はしない方針で」

 

 ぷにっと萌えは続けて理由を説明。あの奇襲は、移動先決め打ちの課金アイテム使用が確定しているので、同等か同種のアイテムは設置や埋設などの事前準備が無ければ使えない。発動前なら<次元封鎖>が有効だ。代わりに発動してしまうと効果がない。

 

 王国側は公共工事への協力の傍ら、諜報専用に作成したゴーレム、シャドウデーモン、恐怖公の眷属、そしてアイボットが各地で隙のない監視網を張り、首都ナザリック周辺については地表面も土壌調査含めて調査済みだった。転移系の魔法も、提供の魔道具で制限しており、設定済みの所に強制的に転移箇所が指定されるようになっている。これはトールの拠点やトブの大森林とその近郊でも同様の措置を取っている。

 

「至高なる御方々自ら、囮になられるのはお止めしたいのですが…」

「勿論、挑発さ。あの程度は何の問題も無いとな。モモンガさんが大事を取ってペアでの活動を決めた。向こうはいつも通りの俺らを見て何か動きを見せた時点で、詰む」

 

 バックの組織が止めようとしても、あのプレイヤーは挑発に気付いた時点で派手に動く可能性が高い。

 プレイヤー「ヨイヤミ」とそのバックについては併せて継続調査。穏便な動きに見えるが、ぷにっと萌えの性格上、徹底的な調査からの「えげつない」報復は確定である。

 何より、ぷにっと萌え自身もトールの件については怒っているのだった。

 

「…ふふ、楽しみですね」

 

 そんな呟きを聞いた守護者達は頼もしさに感嘆のため息を漏らし、現役時代を直接知るウルベルトはぶるりと体を震わせた。




ぷにっと萌えとナザリック三宰相の怖い点
・敵対した時点で積む
・痕跡を残した時点でほぼ全部読まれる
・攻撃した時点で、えげつない反撃が確定している
・反撃は、気付いた時点で全て終わっている


現段階で確定開示できる情報
・ヨイヤミは元人間種プレイヤー
・謎の組織は2つ、一方は聖王国を離脱
・残る勢力は、何らかの手段で聖王国の裏とヨイヤミに協力中
・モモンガさん達はトールの復帰を待って、竜王国の遠征に出る予定


「再生構築のロードマップが完成しました。明日には以前の外見に戻られるかと」
「あとどの位で起きる?」
「数日でしょう。思ったより早く、原因力場(呪い)の隔離と処理が進んでいますから、内部の再生と消滅も数週間で収まるかと」
「よかった……」

「所で舞子様」
「ん? なんだい?」
「以前の外見に戻るとお伝えしましたが、ご希望であれば常識の範囲でサイズをアップ調整いたします」
「何のサイズを調…整…」
「ナニですが。因みに私はMsナニーです」
「少しはぼかしなよ!? それに全く上手くないからね?」
「ふむ、ジョークとは難しいですね、失敗失敗」
「単なる下ネタだから!?」

「御主人様は日本人ながら平均を上回るサイズです。元サイズより大きいとなりますとアングロサクソン系になってしまいますし、あちらは少々柔らかい故のサイズですので非推奨です」
「も、元々十分だからいいってば!?」

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