荒野からやってきました ~死の支配者と荒野の旅人~   作:マガミ

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息抜きの話なので読み飛ばしていただいておk

時系列はインドラ戦後という要素以外は適当(ぉぃ



閑話・荒野の災厄による研究・転移実験 その3

 自身の記憶を座標データに、今度こそと跳んだ世界は、女尊男卑が蔓延るおかしな世界だった。

 トールは原典世界の記憶が無いまま、まずは生計を立てるべく転移した国の近く、その紛争地帯で傭兵を始めたのだが、男で傭兵という時点で、国連軍から派遣されたIS…インフィニット・ストラトスが出るまでの囮や添え物としての役割しか期待されていない。

 

 すぐの撤退は困るが、足止めだけ成功すればいいと言われて腕は立つがやる気の無い他の傭兵。戦車は兎も角、数機だが反政府組織にはISすらあると言う。ISが出てきてしまえば、対応できるのはISだけなのだから。

 だがトールは一人、やる気に満ちていた。何より単機撃破のボーナスが魅力的だ。落とせる訳が無いとバカ高い額が提示されている。

 

「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 ブリーフィングルームが沈黙の後、爆笑の渦に包まれたのは仕方のない事だろう。

 荒野の災厄と評された歩く人災は「解せぬ」と言いながらその場を辞し、作戦開始まで準備を続けた。

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 空を飛ぶ快感、いかな攻撃も防ぐ無敵感、どんな兵器も容赦なくボロくずにできる万能感。そして、情けなく逃げ惑う男共を吹き飛ばす優越感。ISを駆る反政府組織のその女は、愉悦に唇を歪ませながら、武装を次々と切り替えて作戦目標を目指している。

 

「予定より早いか。全く、通常兵器は遅い。急げよ」

 

 ため息を吐いて、森林地帯に隠れていた対空機銃を攻撃する。RPGが飛んでくるが、ひらりと躱して反撃。いつも通り。あとは逃げ惑う兵士達か、錯乱して小銃を向けてくる男共だ。無論、全て防いでいる。

 

 空中に留まっている最中、一際大きな衝撃。ミサイルアラートは無かった。近くに戦車砲なども無い筈。一体何が?

 射線を計算して攻撃方向を確認。そこに、一人、埃よけに口元を隠した人影がある。近くには何か、筒のようなものがあり、そこから排煙が昇っていた。

 

「貴様ァ!」

 

 逆上して一気に接近…できなかった。防壁が細長い何かが引っかかるのを検知したのだ。すぐに上昇…できない。いきなり上に巨大質量の物体が現れた。急いで横に飛ぶと、残骸になっていた装甲車両が落ちてきた。

 視線を人影に向ける。アメリカ人がよくやるやれやれポーズ。女の頭に一気に血が上った。先程とは異なり、上空に上がって木々から離れて、急加速。火器は使わない。この手で捻り潰してやらねば気がすまない。

 

 だが、一気に接近した所で気付いた。あとコンマ数秒で手が届くと言った所で、目の前の男が笑っていることに気付いた。

 

「残念」

 

 男の姿が一瞬で消えた。いや、何かに引っ張られて移動した。レーダーを見れば、数十メートル先に居る。目を向けると…木組みの何かが沢山置かれていた事に気付いた。そして衝撃。一度ではない、幾度もだ。飛ぼうとする。できない。戦車すら簡単に引き裂ける筈の腕が、落ちてきた金属の塊を引き裂けずにそれを防ぐのに精一杯だ。そしてスペースデブリを防げる筈の防壁が常に発動している。見れば、まばらに無数に、地面から筒のようなものが伸びてISに向けられ、中から極小の何かを超高速で撃ち放っている。どんどんとエネルギーが減る。

 

「おー、意外と安っぽい攻撃でも効くんだな、勉強になる」

「こんな、卑怯な手で…!?」

 

 身動きが取れない状態で、最初に食らったらしい攻撃をもう一度食らった。大幅にエネルギーが減った。質量弾でありえない程の減り。焦るが離脱しようにもそこかしこから攻撃を受けている。爆風が混ざるのがとても嫌らしい。防ぐまでもない攻撃もあるが、油断すると大きな一撃が飛んでくる。

 

「なんちゃってレールガンやムカデ砲、意外と役立ったな。さてレディ、ダンスの時間は終わりだ」

「ありえない、何だこれは? ISという無敵の兵器が、こんな訳のわからない攻撃で敗れるなんて、あってはならない!」

「油断しなけりゃかからなかっただろうさ。一つレクチャーするなら、これはセオリー通りなんだよ。そっちは罠に飛び込んできた」

 

 飛んで火に入る夏の虫なのだと。索敵能力を殺し、機動性を潰し、攻撃力を封じ、防御力を削る。トールが行ったのはそれだ。アナログで安価で、理不尽な数のトラップを目眩ましに、本命の一撃(予備も沢山ある)にISが撃たれ、搦め捕られた。まあそれだけと言うには、ISの防壁がエネルギーを消費し始めるギリギリのダメージを計算し、その勢いの質量弾や質量そのものをぶつけるトラップを理不尽な数用意し、ぶつけたという非常識さはある。

 

「ありえ…ない」

 

 エネルギーさえ尽きれば、あとはオペレータに睡眠薬の投与と拘束衣を着せての封じ込めをすれば終わりである。

 捕まえた女を政府軍に引き渡し、トールは鼻歌を歌いながら宿舎に戻った。

 その後、反政府組織の大攻勢は失敗し、政府軍は首謀者グループを強襲。半年ほど続いた内乱は終結した。

 国連軍はISを投入していたが、その国への影響力をと考えていた一部組織は目論見が外れて地団駄を踏む。

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 後日、トールに渡された小切手の書かれた額は提示されていた通り。政府としては国連軍とその裏に居る団体へISの活躍次第で図らねばならなかった各種の便宜に比べれば、雀の涙程度と言っていいだろう。

 

「もう少し上乗せを要求されると思ったが?」

「政治的に面倒があるでしょうから、弾はあった方がよろしいかと」

 

 これ以上はライバルに目をつけられるからと、トールは笑って応接室を後にした。

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 その後、トールは別の国で活動していた日本のNGOに現地協力者として参加。彼らの帰国に合わせて偽造の身分証で日本に入国した。極端な女尊男卑に辟易していたので、この世界のオタク文化や兵器類の情報を集め終えたら戻る予定だったのだが…。

 

「いったぁ!? 何すんだよ師匠…」

「師匠ではない、今は用務員補助のミナセさんだ。一夏、思った事を言ってしまうのは若さ故仕方無いが、言われた側の事をよく考えてみなさい」

「えっと…あ」

「気付いたか。俺はフォローはしない。自分の言葉で伝えてこい」

「わ、わかったよ師匠!」

 

 何故か、IS学園で用務員補助トオル・ミナセとして勤務している。女の花園と聞こえはいいが、外見は40超えのオッサンにはとても居辛い環境である。

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 日本への入国後、外から見学だけと思って行ったのだが、門前だけ撮影した所で飽きて商業区に向かおうとした所、通りかかった壮年男性に声をかけられた。「仕事は?」「む…無職、です…」という訳で、IS学園の用務員補助として雇われた。ワケガワカラナイヨ。

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 そして、唯一の男性IS操縦者、織斑一夏に何故師匠と呼ばれているかというと、廊下の掃除をしていた最中、織斑一夏を追いかける篠ノ之箒の木刀の一撃を微動だにせず受けた。蒼白になる箒に、何処からか取り出したハリセンで一撃を加えて、職員室に連絡。謝罪もせず一夏を叩こうと暴れる箒を木の葉のように床に優しく右に左に叩き付け続けて、駆けつけた山田教諭に引き渡した。

 

 結局、一夏の付添で剣道場に行き、なんだか理不尽な扱いになる彼を見ていられず、素手で箒と相対して、今度は容赦なく瞬殺した。弐式炎雷やフラットフットが得意とする暗殺術による奇襲だが、正面から歩いてくるのに次の瞬間には床に叩きつけられて眼前に迫ってくる竹刀という恐怖。幾度も繰り返して箒の心は折れた。

 

 それ以来、剣術を含めた武道武術全般を、短い時間ながら一夏に指導している事から師匠と呼ばれている。後に、指導を受ける生徒が一夏経由で増加。ハーレム状態の一夏へにっこり笑って「爆発しろ?」と言いつつも、指導には手を抜かない時点でお人好しである。

 

「あえて精神論で言うが、ISを含めて武器も武術も道具も身体の延長線だと思いなさい」

「はい師匠!」

「ISも功夫を重ねろって言いたいのね?」

「そういう事。生身の常識に縛られないのがISです、それを踏まえて身体とISと対話してみなさい。専用機だろうが汎用機だろうが、性能をまずは使い切ってからです。

 …いいですか、オルコット、篠ノ之?」

「「…うう、はい」」

 

 ただ、道場だけでなくIS訓練場に生身で出てきてIS相手に組手をする羽目になった件については、流石にキレた。キレたので喧嘩を売ってきたセシリア・オルコットを、衝撃吸収ブーツ、宇宙用ムーブワイヤー、訓練用ナイフとパワーフィストだけで完封して空中コンボを決めて地面に叩き落とした。

 

「ISも完全無欠ではない、か…」

「織斑先生も生身でIS使用者をあしらえるじゃないですか」

「あんな風に、射出ワイヤーで空中を飛び回ってISを翻弄する人間と一緒にしないでくれ」

 

 人外認定されて織斑一夏の実姉、織斑千冬にドン引きされるトールだったが、千冬が苦手意識を持つのはそれだけが理由ではない。

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 数日前のある日、走り去る一夏とそれをただ見送るだけの千冬を偶然見たトールは、深い溜め息をついて千冬に小言を言う。

 

「あのな千冬ちゃん、不器用にも程があるぞ君は?」

「ち、千冬ちゃ「30以下の未婚者は皆小娘に過ぎん!」 …いやそのな、一夏も男だっ…うきゅっ!? あ、あの程度は超えられぇ…むきゅん!?」

 

 あわあわする山田先生を尻目に、あのブリュンヒルデが反応できない速度と角度から容赦なくハリセンが叩きつけられる。というか女尊男卑の風潮が強い世の中で暴論にほどがある。

 

「ハリセン、もう一発いっとくか? 君ら姉弟の環境も重圧も解るし君は不器用だし家事壊滅で一夏君任せな「バラさないでもらえないか!?」知るか! …いいかね? 伝えたいことはきちんと言葉で伝えなさい。10を話して伝わるのは2、残りの8は相手に察してもらうとしても、行動で示すとか姉弟なんだからとか相手に甘えたふざけた事を言ってる限り、1も伝わらんぞこのコミュ障ポンコツ戦乙女がっ!」

「コミュ障ぽんこ…!?」

 

 ガーンとショックを受けている千冬。だが実際、彼女は色々とポンコツである。外面だけは取り繕っているが、基本的に不器用の塊な訳で、完璧超人とは程遠い。

 

「それと生徒会長さん?」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

 隠れて見ていたというか、通りかかってどうにも通り過ぎれる空気でない事に焦りつつ、経過を見ていた更識楯無生徒会長はいきなりの矛先に飛び上がる。完璧に気配を消していた筈なのに気付かれた。

 

「言葉が足らないのは貴女もです。二人共そこに座りなさい」

「「…」」「座れ?」「「は、はい!」」

 

 一夏は更識生徒会長の妹、自分のISのせいで孤独に次世代機研究を進める羽目になった更識簪の力になるべく奔走していたが、それを咎めるかのような姉の言葉に反発した。挙げ句が言葉足らずの説教もどきとなれば、もうお姉ちゃんなんて嫌い!いう訳である。

 簪の件はトールも一夏から相談を受けていて、ISを弄る資格はトールには無いながら、機材や資材調達に協力していた。

 そんな最中のこれという訳で、トールはちょっとおこであった。

 

「大体だね…!」

 

 二十分経過。

 

「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」」

「あの、ミナセさん、そのくらいで…」

 

 その後は原作に比べれば穏便な落とし所に落ち着いたり、誤解が明後日の方向にぶっ飛ばない程度で済んだりと、学園内では比較的スマートな流れで日々は過ぎていた。

 ただ、テロリストの強襲やVTシステムなど、厄介な事件は多かった。トールは裏方で奔走した訳だが、どうにもそれが気に食わないウサギさんが居た。

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 トールは接続端末のダミーをクラッキングされた時点でその相手に気付いた。ダミーは擬似的に焼かれた動作をしたが、お返しにタッチパネルやキーボードの感度センサーを最低に固定するウィルスを流し込んだ。突き指しかねない圧で押さないと反応しなくなる嫌がらせである。強弱機能については押した途端に最強になるおまけ付き。お陰でトイレのボタンを壊してしまい、怒り狂うウサギさんだった。彼女は人参型ポッドでIS学園にこっそり強襲。トールと邂逅する。

 

 トールは少しだけ言葉を交したが、面倒なので相手にしたくないと結論した。

 

「君は独創的な観点を持っているな。ただ、行動するならよく考えなさい。豚の耳を作るべきではない」

「てめぇ、この束さん相手にライミー気取るのかよ。決めた、興味無かったけど徹底的に潰してやる」

「大胆な提案だ。だが忠告しておこう、強い言葉は子兎の鳴き真似に等しい。それとも何かね、カルバノグのウサギを気取っているのかな? それは失礼した。名乗りたいだけなら許容しよう」

 

 怒ると怖いが、いつもは丁寧で配慮に溢れる言葉遣いのトールが、迂遠でとても辛辣な言葉を浴びせかけている。無論、色々な言語や言い回しに堪能なウサギさん…篠ノ之 束博士は激おこぷんぷん丸である。

 

「…あの束が顔を真赤にして怒り狂ってるとは、いやはや、とても稀有な光景だ」

「姉さんが…私は少し、驚いてます」

「頑張れ師匠!」

「一夏はブレないね…、ある意味すごいや」

 

 そして、篠ノ之束との知己や関係者が駆けつける中、粗大ごみの撤去中だったトールは作業用オートローダーのまま手招きして、戦闘が始まった。束は生身だが、細胞レベルで超人に相応しい身体能力を誇る。その能力は並のIS操縦者を簡単にあしらえるし、開発した装備は理不尽を体現していた…筈だった。

 

「作業用オートローダーで攻撃をいなすとか、どうやってるんだ…?」

「あれで師匠のハンデだもんなぁ。あ、流石に壊れた」

「ハンデだったのか…」

 

 完全に壊れる前に緊急脱出。腕にパワーフィストを出現させた。量子変換ではない出現に目を剥く束。

 

「どうやって出現させた!? それになんで重力が作用してないんだ!?」

「成程、重力発生装置か。まあ、友人の魔法に比べれば負荷ですらない。重力魔法か縮退砲でも用意したらどうだ? 何、できない? それは重畳、後始末が面倒だからな」

「ふ、ふざけやがって!」

 

 なんだかベジー○っぽいなぁなどと思いつつ、借り物のオートローダーの破損だけは気にするトール。

 

「あの機械のガントレット、別にISじゃないわよね?」

「ええ、機械式の打撃武器ですわ。…最も、発勁と連動して打つ事で、数トン単位の攻撃力だそうですけど」

 

 そんな物を焦りつつも冷静にシールドで防ぐ天災ウサギ。ただまあ、某銀髪眼帯魔王様の所のバグウサギに比べれば可愛いものである。どっちも存在が理不尽だが。

 そして、理不尽には理不尽を。荒野の災厄こと次元すら彷徨う歩く理不尽は伊達ではない。当たらなければどうという事は無いのだ。

 

「成程、食らった者の直の意見は参考になる。やはり、先生は凄いな」

「てか、お互い生身であれって何なの!?」

「師匠はすごいんだ!」

「説明になってないよ!?」

 

 自分の事のようにふんすと鼻息荒い一夏に、訳知り顔で頷く黒兎、そしてツッコむシャルロットと鈴。

 途中から積極的にトールが反撃していないので膠着状態かと思いきや、手を替え品を替え武器を取り出しては使う束の動きが鈍ってきた。所々でカウンターのクリーンヒットが増える。

 

「こんのぉおおおお! へぶっ!?」

「…あのな、身体性能で押しきれない事にはよ気付け」

「てぇい! …なんで投げられてるのぉおお!?」

「聞いてないな? てか硬いな、何かの凄く不思議(SF)系アイテムでも使ってるのか?」

「た、束ちゃんのすっごいバリアー2号が…!」

 

 なんだか駄々っ子を相手にする大人のようになってきた。

 

「武術については、師匠に分がある。まるで大人と幼児だぜ。位置を動いていないのに全て迎撃してる」

「打つたびに凄い音ですわね…あれが発勁?」

「地面が放射状に割れる勁とか、どんな功夫よ…」

 

 トールは人の身では余る過酷な世界を幾つも旅してきたし、神の領域にあるユグドラシル組と模擬戦を繰り返し、まさに神たるシヴァの下で理不尽な試練を乗り越えている。神々の王に鼻フックを決めたのはまぐれでもなんでも無い。

 

 天災ウサギは超人の領域であれど所詮は人の領域でしかない。たかが人を超えた程度の相手なら、格上に挑んだ事も無い孤独な強者なら、人間という構造体の全てを使い切り武術の理を文字通り身体に刻みつけたトールのその身一つで十分だった。人間の定義って何だっけ?

 

 時間停止や超加速、VATSとオーラ全開でも近接戦闘では勝敗五分の武人や、僅差でも負け越す羽目になる白銀の聖騎士など、ユグドラシル組の強さがそもそもおかしい。

 

「勝負あり…だよな? 加減はしたぞ」

(((あれで加減したんだ…)))

「かげっ!? 加減!? こ、これで勝ったと思うなよ!?」

「あーはいはい、頑張れ頑張れまたどうぞ。IS持ち出してきてもいいけど、修理代は持たないからな」

 

 トールの関心は既に、戦いの余波で壊れた作業用オートローダーと無人の周辺施設にある。それが余計に束の癇に障る。

 

「むっきー!? 次は絶対ぶっ殺してやるからなー!?」

「こっちも仕事で忙しいんだ、アポイントを取ってからな」

「ちーちゃんに頼むからいいもん!」

「おい待て束!?」

 

 その後、都合二度ほど襲撃があったが、トールは初戦と同じようにあしらって撃退した。

 

「何そのブッサイクな旧式っぽいメカ?」

「おう、このT-45を貶すなら宣戦布告と見るぞ。当方に迎撃の用意アリだ。ISから引きずり下ろして、その乳と尻が倍に腫れるほど引っ叩くから覚悟しろ」

 

 二度目はISを持ち出したにも拘らず、単一仕様能力の様々なコピーや各種武装をこれでもかと持ち出したものの、尽くが装甲に阻まれた。適切で的確で最適な防御をする事で、全ての攻撃を受け止め切ったのである。

 そして宣言通り、身動きが取れなくなった天災ウサギの乳と尻は赤く腫れ上がるまで何度も引っ叩かれた。

 

 三度目も同様。今度はトールが生身で絶対防御を貫通してくる有様である。そして攻撃が実にえげつない。顔面にビンタは可愛いもので、乳首を指で抓ったり乳房を握り潰しかけたり股間を蹴り上げたり腹パンしたりと、やりたい放題である。敵対者に対し、トールは男女平等主義だった。観戦者の内、一夏を除く女性陣は想像する痛さに涙目になった。掴むほど胸が無い子が居るだろとかは言わないように。

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 その後、一夏の周囲で起きる事件はトールが直接関与、あるいは巻き込まれた事はあまり無く、情報や技術の取得が粗方終わった所で退職し、再び海外経由で紛争地帯に足を延ばし、そこで転移して戻ってきた。

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 映像などを一通り見終わった所で、じとっとした視線がトールに向かう。トールはトールで、戻ってきた途端、ぐでっとリクライニングチェアに転がっている。あの世界の苛烈な女尊男卑の害やその歪みと、天災ウサギの相手という精神的な疲れによるものである。

 戻ってきて原典世界の知識も復旧したが、あんなに酷い世界だとは思ってもみなかったと愚痴った。それにいくら元王国民とはいえ、声が同じなだけのあの天災ウサギの相手は勘弁だと。

 

「一夏君のモテモテっぷりはさておき…いや、爆発してほしいが、さておき!」

「何故二度言った」「爆破したいのはよくわかった」「てか王国民て何?」

「世界を揺るがす爆乳天才コスプレ兎…」

 

 いつもブレないエロゲバードマンである。ただし、胸部装甲の意味で興味は薄い。斥候役も同意である。お前らそれでいいのか。

 

「「「フラグ建ててるとか、どういう事なの?」」」

「フラグ…なのか? 結構酷いことした積りだが。まああれはラナーと同じようなものさ。彼女は興味と好意と敵意の境界が極めて曖昧…子供と言うか幼児なんだよ」

 

 まるで興味ないと言いたげなトールに、わざわざ人化した状態でにっこり笑うやまいこが近づく。無論、目は笑っていない。

 

「トールさん? ちょっと後でお話があります」

「…ちょっとだけ弁解していい?」

「だめです♪」

「望みが絶たれた…っ」

 

 折檻は多分ないが、説教は確定した事に嘆くトール。

 

「ISコアだっけ? トールっちが解析して再現できないと結論した時点で、やべー奴ってのはわかるけどさ」

 

 極めて特殊な高次元への接触機能があり、感性型の技術者である天災ウサギでしか作れない代物だった。積み重ね型のトールとは正反対である。

 推定として、魂の領域に技術でアプローチしている可能性があった。ISコアについては天災ウサギでさえ未知の部分があるが、それが偶然か必然かはわからない。

 

「魔法やオーラの類は無かったんだっけ」

「でもさぁ、再戦放ったらかして帰って来たんでしょ?」

 

 そもそも、最初は兎も角、他2回についてもアポイント無しで突貫してきていたので、トールとしては手続きを守っていない以上、相手を尊重する積りは一切無い。

 

「約束しとらんし、毎回殺しに来てたし、別段ひどくはなかろ」

「悪巧みや事件を実際潰してたのは一夏君達だし、都合3回位しか直接戦ってはいないみたいだけど…」

「一段落した後、さっくり退職して紛争地帯を少し点々としてから帰ってきたから後のことは知らんですよ」

 

 日本での転移には不安を覚えた為、消息を断つ為に海外を移動してから軍事施設の廃墟地下経由で戻ってきた。苦労した割には収穫が少なかったので、トールはもう当面の間、ISの世界には飛ばない事を決めた。




「なんだ突然現れて。今から私は晩酌なのだが」
「ねぇちーちゃん、あの男は何処行ったの?」
「準備ができたと言って、挨拶を終えたらさっさと退職した。今はどこをほっつき歩いているやら」
「嘘、私の調査網に引っかかってない…どこ行ったんだ畜生!探し出して絶対に倒してやる!」
「あーうん、程々にな。最後の連絡は中東だ」
「中東だね、ありがと! またねちーちゃん! 箒ちゃんによろしく!」

「嘘か真か、次元を渡ったなどと伝える訳にはいかんだろうし…異性として気にしているのかと指摘すれば、怒り狂うな確実に」

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