ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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10話:ダウナー系とプロの世界

捕まっている事を演出する為に苦しげな表情をしているのに、口元が釣り上がってしまいそうになる。

 

No.1ヒーローの登場にビビる敵を瞬殺し相澤先生を救けたオールマイトは、死柄木達に向き合って緑谷達3人を救ける。何を話しているか分からないが、オールマイトがもう一体の脳無の相手をするようだ。市を掴んだ脳無は死柄木の元へ移動して戦いを静観している。脳無が移動する時、その動きを察知して手足を固定していた大魔の手は消している。死柄木が振り返った時に脳無を拘束している所を見られたら面倒くさいし。

バックドロップが決まったと思えば、脳無が突き刺さる予定の地面に敵が霧を発生させて凌ぎ、さらにバックドロップの姿勢で動かないオールマイトの背中の地面へと繋がり脳無が脇腹に指を食い込ませていた。白いシャツには血が滲んでいる。

 

 

「動くなよ。動けばこっちの脳無がガキを握り殺すからな…」

「Shit!!!天魔少女!」

「私の中に血や臓物が溢れるので嫌なのですが…あなた程の者ならば喜んで受け入れる。目にも止まらぬ速度のあなたを拘束するのが脳無の役目。そしてあなたの身体が半端に留まった状態でゲートを閉じ、引きちぎるのが私の役目」

 

 

 

人質に取られているらしい市を見て、ヒーローのオールマイトは一瞬判断に迷った。それにつけこんで脳無がオールマイトを霧の中へと引きずり込んでいる。タイミングを窺っているだけだから心配は無用だと彼を見るが伝わっていないのであろう、安心しろと言わんばかりの笑顔を向けられた。違うそうじゃない。

市が呆れている間に緑谷が飛び込んできたのを爆豪が遮り霧を抑え、轟がオールマイトを捕らえている脳無を凍らせていた。同時に掛け声と共に切島が死柄木へ攻撃を仕掛けたが容易く避けられている。

 

 

「くっそ!!!いいとこねー!」

「スカしてんじゃねえぞモヤモブが!!」

「平和の象徴はてめェら如きに殺れねえよ」

「かっちゃん…!皆…!!」

「おいあれ…人質に取られてんの、天魔だろ!?」

「あのモブ女…根暗のクセに足引っ張りやがって…!!」

「そう。天魔少女が捕らわれている今、迂闊に動いてはいけない!」

 

 

 

 

切島は連中で最上位と思わしき実力者の死柄木に突っ込んだのだ、避けられるのは当たり前な気がしてならない。あの程度の攻撃が当たるならば襲撃なんてしない方が身の為なのだから。轟の氷結によってオールマイトは脳無から抜け出し、凍らされて砕けた腕をものともせずに動く脳無に緑谷が戦慄している。

 

 

「皆 下がれ!!なんだ!?ショック吸収の個性じゃないのか!?」

「別にそれだけとは言ってないだろう。これは超再生だな」

「!?」

「脳無はおまえの100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバッグ人間さ。まずは出入り口の奪還だ、行け脳無」

 

 

 

 

 

 

 

動くタイミングは、どう考えても今だろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪に迫る常人には不可視のパンチを、オールマイトが生徒を庇おうと場所を入れ替えたのが見え、オールマイトに迫る脳無の拳に対して備える。

パンチとの接触で辺りに衝撃波が襲い、緑谷は爆豪がアレを受けたと彼の名前を呼ぶ。だが、爆豪と引き換えにパンチを受ける筈のオールマイトは、その姿勢のまま何が起こったのか理解に数秒を要した。

 

脳無のパンチは、大きな黒い手によって受け止められてたからだ。

 

 

 

「…は?つまんねえ事すんなし」

「あの個性は…天魔さん!?」

 

「……欠片は十分。超再生に…ショック吸収…。ダメージの与え方は貴方が教えてくれたわ…」

 

 

 

市を掴んでいるもう一体の脳無の背後に出現した2本の大魔の手が揺れている。見せつけるように揺れた大魔の手は脳無の頭と身体を掴み、掌の内部で保たせていた均衡を崩し破裂した手から落ちた市は脳無の足元に着地する。無気力にゆるりと振り返れば、オマケとばかりにもう1つの大魔の手が出て脳無の両足を鷲掴みにした。

 

 

 

「ふふ、…ゆっくり、ね…」

 

 

 

 

楽しそうに呟く市の声に合わせて、大魔の手達が脳無の身体を捻る。

それぞれが逆方向に力を加えている為、首と腹が部分的に回り今にも千切れそうだ。そのまま追加で2本の魔手が出現し、脳無の両腕を掴んで雑巾のように捻る。千切ると再生してしまうから、そうならないギリギリのラインを見極めて力を込める。

瞬間的なダメージではないのでショック吸収は働かない。動こうにも脳無の身体は5本の魔手に拘束されているし、無理やり千切るには勢いを付けなければならず、そうするとショック判定を受けて耐性が働くのでショック吸収が裏目に出て千切れない。完全に無効化に成功していた。

 

 

 

 

 

 

「す、すごい……」

「なんだよ、あの力任せな個性…」

「それだけじゃねえ…あの繊細なコントロール、使いこなしてる証拠だ」

「…倒し方、ヒーローじゃないだろ。脳無、黒霧やれ、俺は子どもをあしらう。クリアして帰ろう」

「天魔少女、その一体は任せたぞ!」

 

 

 

いや、任せたと言われても。市は脳無を行動不能にしているだけで、魔手を離せば動かれてしまうのだか。

オールマイトと脳無の殴り合いで勢いよく風が吹く。献身的な魔手は勝手に市の身体を飛ばされないよう固定し、行く末を見守っている。「Plus Ultra」のパンチと共に脳無は空へと飛ばされ、あちらの脳無は決着がついたようだ。敵、早く帰らないかなと思考を巡らせた市は、緑谷がオールマイトへ迫る死柄木と霧に向かうのが見えた。

【思考加速】のスイッチをようやく入れて彼らを見据える。市の体感が1秒から100秒になる世界で、ゆっくりと動く死柄木、緑谷を見ながらまた脳を動かす。

無造作に並走する霧へと腕を突っ込んだ死柄木の手が緑谷の前へと出た。

オールマイトの目の前で生徒を殺せる事が嬉しいのか、死柄木がキヒヒと笑う。

 

 

 

「…残念ね」

 

 

 

今度は手加減なんて考えずに小さい魔手を出して、死柄木の薬指を思いっきり反対に折った。ボキリと骨が折れる音と同時にその手に銃弾がめり込んだ。

 

 

 

「1-Aクラス委員長 飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」

 

 

 

 

複数のヒーローを連れて、飯田が帰ってきた。死柄木の手に当たった銃弾はそのヒーローの内の1人であろう。続けざまに両手両足を撃ち抜かれたにも関わらず、死柄木は霧に入り込み逃走した。

 

ヒーロー達は生徒の無事を確かめるべくそれぞれの災害ゾーンに散って行く。オールマイトの前に倒れ伏す緑谷を心配して切島が駆け寄るも、ヒーロー「セメントス」の個性により目の前のコンクリートがせり上がって停止させられた。

 

 

 

「ありがとう助かったよ…セメントス」

「俺もあなたのファンなので…このまま姿を隠しつつ保健室へ向かいましょう。しかしまァ毎度無茶しますね…」

「無茶をしなければやられていた。それ程に強敵だった。………………あ!?」

「……………」

 

 

 

やっと気付いた。

切島は良いとして、なぜオールマイトの視線の先にいた市に気付かないのか。そしてその姿はどうしたのだろうかオールマイト。

 

 

「いやこれはそのだね天魔少女…いや、私はオールマイトではないぞ!」

「それは無理があると思いますよ!?」

「……私、何も見てないわ」

 

 

 

まあ、別に興味もない。

フイと顔を逸らして、地面から出る魔手へ寄りかかる。脳無に掴まれた時に飛んだローブが近くにあるのを見つけたので、それでも使えと魔手に渡させた。握られていたせいで、腕に巻かれている鎖が肌に跡を付けている。鎧も少しだけ湾曲しているのでサポート会社に修復をしてもらおう。

ヒーローが駆けつけてきたので、脳無を無力化している魔手をどうするか聞いた。警察も到着しているし、プロヒーローも多数いるので拘束を解いても良いとの事。

 

ただオールマイトのあの姿を決して口外しないようにと強く口止めされた。くどい。

 

 

 

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