体操着に着替えてA組の控え室へ入る。
12万人も収容できる体育祭専用スタジアムまで所有しているなんて、その金はどこから来るのだろうか。しかも3学年分だから三つ。幾らだ。
何局ものカメラマンが入り口で検査を受け、スタジアムまでの道には屋台が並び、花火まで上がっている。
一般人や企業のスカウト、カメラマンやヒーローなど集客が完了したのかもうすぐ開会式だ。その盛り上がりの声が控え室まで聞こえる。轟と緑谷が何か言い合っている気がするけど、どうでもいいと自分の世界に入り五感をシャットダウンする。しばらくして口田から何か言いたげに肩をポンと叩かれたので入場なのだと察した。
「雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろこいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!
ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!?」
万を超える観客に囲まれて、スポンサーやヒーローの広告が至る所にある。色が多彩で目に眩しいくらいだ。しかしさすがと言うべきか、広告で一番多かったのはオールマイトだ。No.1ヒーローは広告起用率も伊達ではない。
先端が複数に分かれたバラ鞭で音を鳴らして「選手宣誓」と言ったのは、今年の体育祭1年の主審を務めるヒーロー「ミッドナイト」。18禁ヒーローと言われたその過激なコスチュームは子供の教育に悪い事この上ない。
「選手代表!!1-A爆豪勝己、1-A天魔市!!」
「え〜〜かっちゃんなの!?」
「天魔さんも…以外だな」
「あいつら一応入試一位通過だったからな」
「チッ…
先に爆豪が壇上に上がる。
「せんせー。俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」
「調子のんなよA組オラァ!」
「何故品位を貶めるようなことをするんだ!!」
「ヘドロヤロー!」
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」
本当にデリカシーが無いな彼は。ヘイトを集めるのは良いけどA組を巻き込まないでほしい。A組全員が口の悪さ、実力共に爆豪と同じレベルだと思われては困るのだ。悪い奴1人が目立てば周りはそいつと同じだと思われるアレ。こんな事なら市が先に宣誓を言えばよかった。そんな気力もなかったし、当たり前のように壇上に登るから順番を譲ってしまったのが間違いだった。この後に宣誓は正直やりたくない。しかし主審のミッドナイトがこちらを見ているのでやらなくてはいけないのだろう。渋々と階段を登り、マイクの前に立った。
「…………、」
はくり、と息を吸い込む。
大丈夫だ。ここは辛い場所ではない。痛くなる場所でもない。
「…私たちは、日頃の成果を発揮し、支えてくれた人達の為に戦う事を誓います…」
「おお…キチンとしたやつだ」
「爆豪の後だと安心するな…」
「実際求められてんのはあーいうのだから勘違いすんなよ」
「なんて素晴らしい宣誓なんだ!!」
「…ちゃんとまともなのもいるんだなA組」
A組へのヘイトが少しだけ無くなったのに安心したのか笑顔が見える。
「模範的宣誓をありがとう!さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!」
ミッドナイトの後ろにあるモニターがスロットルのように回る。2週間も空けて考えた競技は何なのだろうか。
「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が
ポーズと共にモニターに映し出された文字は「障害物競走」だった。A〜Kの計11クラスで総当たりレース。コースはこのスタジアムの外周約4km。外へ出る扉がパズルを解くかの如く開き、1人では大きく、けれども大人数では狭い門へと人が集中した。コースを守れば何をしても良し。スタートを知らせるランプの1つ目が点灯。3つ目の点灯と同時に「スタート」の掛け声が響き、出入り口に人が殺到した。
あの人混みの中に行く勇気は無いので、1番後ろ最後尾に立ち様子を窺う。
『さーて実況してくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!』
『無理矢理呼んだんだろが…』
解説席に相澤先生も連れ込まれたのか、疲れも混じった恨めしそうな声色だ。
『さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門ロボ・インフェルノ!!』
『1-A 轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!すげえな!!一抜けだ!!アレだなもうなんか…ズリィな!!』
『ここで改めて説明だ!第一種目は障害物競走!!この特設スタジアムの外周を一周してゴールだぜ!!』
『おい』
『ルールはコースアウトさえしなけりゃ何でもアリの残虐チキンレースだ!!各所に設置されたカメラロボが興奮をお届けするぜ!』
『俺いらないだろ』
『あん?…おいおい全員スタートしたと思いきや、まだスタジアム内に1人残ってんぞお!入試一位の天魔どうしたあ!!』
『様子見だな。天魔はクラスの奴より一歩後ろにいるような生徒だ。目立ちたくない訳じゃないだろうが思考も性格も個性の詳細もまだ分からん奴、かと思えば戦闘力は高い』
『入試一位は何考えてっか分からんってか!!だが実力は折り紙つき!オーディエンス!!天魔がいつスタートして何位になるのかも見ものだぜえ!!』
掌を空に向けた大魔の手に腰掛けて実況と共にカメラモニターを見上げる。なるほど、まさに障害物。爆豪はロボットを跳び越え、それに瀬呂と常闇が便乗したようだ。
第二関門はザ・フォール。ポッカリと空いた底の見えない深いクレーターにポツポツと存在している足場の島。島間を繋ぐロープを辿って向こう側へ行く綱渡りのようなもの。
先頭を走る轟はロープを凍らせ、その上を滑って攻略している。
『おーっとここで入試一位の天魔が動いたぁ!!黒い手に掴まれたまま手が移動してんぞ!本人は手の中で寝るっつーか脱力!!されるがままかよズリィーー!!』
『あいつ走るの遅いからな。あの個性に運んでもらった方が合理的だ』
「(運んでくれる?)」
2本の手に問いかければ、言葉の無い頷きが返ってくる。そこに可愛さを見出してしまうから、