今まで見なかった心操の笑った顔を見て準備を整える。正気に戻ったのか狼狽えている尾白を無視し、B組の少年と尾白の
『そろそろ時間だカウントいくぜエヴィバディセイヘイ!10!』
魔手から跳躍し、轟が個性にて作った氷の仕切りを越えて静かに状況を見下ろした。跳びあがる際に洗脳してB組から取った全てのハチマキを口に咥えて宙に躍り出る。轟と緑谷が今にもぶつかろうと対面し、爆豪も氷を破壊して参戦している所だった。
カチリ。
【思考加速】のスイッチを入れる。今は三つ巴の誰も気づいていない。上鳴が電気を纏うのが見えて、空中に出した魔手で全身を包んで凌いだ。
『…………3…………』
3のカウントダウンと同時に轟へ肩車のように着地して顔を覗き込む。
残り時間3秒から2秒になるまで、市の体感で100秒。むしろ時間がありすぎて困ってしまうレベルだ。
100分の1秒の速さで肩の重さを知覚した轟がゆっくりと市を見上げ、その目が至近距離で合い見開かれた。八百万が創造した棒に氷を張り巡らせて緑谷と爆豪を警戒していたので、意識外からの乱入に驚いたようだ。口で持っていた2つのハチマキを轟の首に掛けて、交換だと1000万Pを咥えて跳躍し離脱する。緑谷の絶望した目と、爆豪の人を殺せそうな目とが市を追ってきていた。【思考加速】を解除して、轟の作った氷のバリケートを越えて騎馬へと戻る。
「っしまった!!!」
「取られっ…」
『2、1、TIME UP!』
「天魔さんコッチ!」
市が跳んで戻り尾白の尾の上に立て膝で着地した。状況が分からないまま、市がこちらに跳んできたので咄嗟に尻尾を伸ばしたのだろう、素晴らしいヒーロー精神だ。
『お前ら見たかよ!!最後の最後、残り5秒の瞬間をよお!!!三つ巴と思われた戦いで華麗に1000万を掻っ攫ったのは、予測不能な天魔市だ〜!!スロースターターすぎて目が離せねえな!!!早速上位4チーム見てみよか!!
1位心操チーム!!
2位轟チーム!!
3位爆豪チーム!!
4位緑谷チーム!!
以上4組が最終種目へ…進出だあぁーーー!!』
「ご苦労様」
「…互いに頑張りましょう」
「そうだな。世話になった、ありがとう天魔」
キョロキョロする尾白を尻目に、心操とハイタッチを交わした。騎馬戦始めより良い顔をしている。
市が提案した作戦は下記の通りである。
まずは心操の作戦通りに持ちPポイントを手放して他騎馬の観察をする。B組の茨の髪の少女が個性を使っていた事や、障子の騎馬に2人乗っていた事からハチマキを狙う騎手は1人とは限らないという事だ。さらに、爆豪が空中へのテクニカルで騎馬から離れても足を地面に付かなければセーフ。
よって、市は騎馬と見せかけた騎手だったのだ。魔手の上に乗って移動していたので地面に足は付いておらず、ラスト数秒に【思考加速】を用いてハチマキを奪い盗る。
もし爆豪の空中テクニカルが無ければ、酷い博打になるので心操の洗脳だけで済ませていただろう。それでも3位にはなれた。市は作戦を提案しただけでGOサインを出したのは心操であり、この注目度は心操自身が選択した結果である。
彼に向上心が無ければ市は作戦を提案せず彼に甘んじていただろう。市はヒーローになりたいと燻っている背中を押しただけ、全ては彼が掴み取ったものだ。
『一時間程昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!!オイ、イレイザーヘッド飯行こうぜ…!』
『寝る』
『ヒュー!』
「っはぁ、はぁ……っ、なんだあいつ…A組はバケモノしかいないの?しかもあの天魔って奴、僕がB組に提案したのと同じ事を……。障害物競争もアレだけじゃ詳しい個性や性格の観察は不可能だったし、選手宣誓の態度は完全にブラフだったワケだ…ムッカつくなあ」
「A組も賢い奴はいんだなー。メシ行こーぜ物間」
「天魔ちゃんすごいよお!!あんな事出来るんだね!カッコいい!!」
「……ありがとう」
昼食は食べなくてもいいか。褒められて少しソワソワする気持ちを落ち着かせようと市は観覧席に座って寄りかかる。スタジアムの大多数が昼食を食べに席を立っていた。
一時間もあるし、する事も何も無いので寝ることにしよう。
暖かい太陽光に、人々のザワザワと騒がしいガヤがBGM。
寝るにはうってつけの条件の中で市は眠りにつくのだった。