ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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2話:ダウナー系と雄英入試

スキニーデニムに白いTシャツと動きやすさを重視した天魔 市は会場へと移動する。168cmと女子にしては高い身長に反して、体重が驚くほど軽い。四肢は細く、内臓が入っているのかと思うくらいには腹が薄い。まともに食べているのかと心配になる。体を保護する脂肪が少なくすぐに折れてしまいそうで、まさに紙装甲と呼ぶに相応しい身体だ。

市は軽く演習会場を見回した。

高校の敷地内にも関わらず、7つある会場の一つ一つが街のように広い。もはや街と言っても過言ではない。

 

 

『ハイ スタートー!』

 

 

やる気のないプレゼント・マイクの声が会場の拡声機から流れ、会場にいる大多数の少年少女達は受験という真面目な場に対しての軽すぎる掛け声に面食らって動けずにいる。

そんな中、市は当たり前のように足を踏み出した。

徒歩からだんだんとスピードを上げて倒れる直前まで身体を前に傾けると、地面から禍々しい黒を纏った手が現れた。左右から出た細い手は市の肩と太ももを抱き締めるように支えたまま、代わりに地面を滑るように動く。

そのスピードは走るよりもやや速かった。

 

 

『どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?』

「くそっ出遅れた!!」

「なんなんだよあの個性!」

 

 

先頭を走り続ける市の前に、仮想敵が現れた。早くて脆い1P、蠍のように尻尾を駆使する2P、戦車の様に大きくて硬い亀型の3P。細い道で一斉に出てきた為、ドミノのように直線で並んでしまった。

 

 

「……()たれ根の闇」

 

 

前傾姿勢で俯き、仮想敵を見ないままに市が呟く。

進むスピードに合わせて大きな手が1つ地面から出現し、その左右の隙間を埋めるように小さな手が2つ生え、団扇のように隙間なく広げられた手が超スピードで突進した。堅さを無視して壊れる仮想敵に、オーバーキルで下から手が打ち上がれば見るも無惨な鉄屑へと変わっていった。

走りながら腕を少し動かすだけで、その動きを拡大補足するように影の手が敵を攻撃する。薙ぎ払い、叩きつけ、掴み、吹き飛ばし、挟み、時には斬り裂く。

手を生やすだけの個性だが、見方を変えて攻撃へと転身させれば凡用性が跳ね上がる。手の届かない所まで生やす事が出来るので、周りの地形を把握していれば無限大の可能性を秘めていた。

 

 

制限時間が半分経過し、数十を超える仮想敵を倒した所で地震が起こった。否、地震ではなく地響きだ。とてつもない質量を持った大きな何かが受験生達に向かってきている。

今まで1P、2P、3Pと遭遇しているが、1つだけ破壊していないものがある。所狭しと大暴れするギミックだと説明された、0P敵。高層ビルを破壊して現れたソレはまさに圧倒的脅威。周りの物を手当たり次第に破壊し、動くだけでもその質量は恐ろしい。市の個性は万能だが、あそこまで大きな物に対する術はまだ持っていない。

 

逃げようかな、と市がのろりと0P敵を見上げた時にそれが聞こえた。

巨体との接触で崩れたビルのコンクリートが受験生へと降り注ぐ。受験生の前に一般市民だ。ヒーローを目指す者達が集う高校の入試で死者は出ないと思うが、雹のように地面へと落ちてくる欠片に死を覚悟する者は少なからずいる。死を目の前にしてしまえば最後、平和に生きてきた一般市民は金縛りにあったようにたちまち身体が動かなくなる。

名前も知らない他人が、市の方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、早く行って」

「…やだ、嫌だ」

「やだじゃない。これからは、ちゃんと生きるんだ。生きられるんだ」

生きたくない(行きたくない)。一緒がいい」

「…市はいつから悪い子になったんだい?いい子にするって約束しただろ?」

「やだ、一緒。悪い子だもん」

「私は生き埋めになるだけ。大丈夫さ」

「……白色さん」

「…じゃあ悪い子の市ちゃん。いつかの未来で、あの子を止めてあげてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチリと、あと数瞬で圧死する人間と目があった。

瞬間、重力に沿って落下するコンクリートが止まる。過去を思い出したせいで思考が加速する。周囲の音が消えて、全てがいつも以上にハッキリ分かるようになった。

自分を取り巻く世界に対して情報の処理スピードが速くなり、自分の体感として世界が遅くなる。

隔離された空間で、市を見た顔が口を動かした。

 

 

 

「た す け て」

 

 

多分、そう言ったんだと思う。

それを目視して、時間が元の速さに戻る。

大きな音と共にコンクリートが地面に叩きつけられて、それによって巻き上げられたチリが煙となって辺りを覆う。

 

 

 

 

「おいおい入試だろ!?」

「誰か下敷きになった!!誰か!」

『終 了〜〜!!!!』

 

 

 

誰も0Pを行動不能にすることが出来ずに試験終了の合図がスピーカーから流れ、同時に全ての仮想敵が活動を停止して動かなくなった。

雄英の試験官であるヒーローが会場を走り、怪我人の発見に急ぐ。正気に戻った数人の受験生が先ほどコンクリートが落ちた地点を知らせようとヒーローに駆け寄った。

 

 

 

「あの、数人コンクリの下敷きに!!」

 

 

目を見開いて驚いたヒーローがコンクリートを退かそうと個性を発現する間際で、積まれた瓦礫がカタカタと動くのを見た。

一本の黒い影がコンクリートを突き破って止まり、祈るように指を組んだ左右の影の手は地面から伸びたまま停止する。呆然とする聴衆を尻目に、花が咲くかの如く開いた手の中に、下敷きになった3人がポカンとしていた。

 

 

 

 

 

【思考加速】

市が100倍に引き延ばされる思考で、人体ではあり得ない速さで3人を覆ったのだ。加速した思考では1秒が体感100秒になり、音を、もしくは光を置いて行動することが出来る。これは個性でも何でもなく、無意識に制御される脳のリミッターを解除する事で得られた市の才能の1つだ。

結果だけを見て羨む輩は、その過程に生じる苛酷さを理解していない。

 

 

 

 

「そう、違ったのね………いいえ、気にしないで…」

 

 

 

影を纏う黒い手を発生させる、見た目は完全に敵向きの個性「魔の手」

 

 

試験が終わり帰る市の背中を、紫髪の少年が見つめていた。




pixivにて連載中の作品を推敲して投稿しています。
この小説の主人公の容姿はエヴァのレイちゃん。目は死んでいる。
ご存知の方はいると思いますが個性「魔の手」は、戦国BASARAでお市が使う武器です。技名も動きもそこから取っています。超献身的。
気になる方は「お市 モーション」で調べてみてください。ぜひ!!
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