__________その時。
どこか遠くで、晒され慣れた大きな悪意を感知した。人間への不信、社会の不満、世界への抵抗。誰もが目を逸らしているからこそ、自分が立ち上がらねばと心で叫ぶ声が聴こえた。
ヒーローがもたらした数万の
……その上で「ふざけるな」と言った彼らの言葉を、「どうでもいい」と踏みにじる
「(魔が降る…あの虚無が、吹雪の中の絶望が…)」
「隙あり、だ」
「____________」
空を見上げる為に意識を外した数秒の隙を見て、轟が最速で氷を生成する。ガードも出来ずに足元から凍らされ、はくりと白い息を吐いた。トドメ用なのかワザと凍らせなかった剥き出しの腹に、こちらに走る勢いもプラスされた左ストレートが決まったのを他人事のように感じていた。一瞬止まる呼吸と、腹部に来る衝撃。宙を舞う感覚と背中を強く打ち付けた音。
場外へと吹き飛んで壁にもたれかかり、動こうにも綺麗に
「天魔さん場外!轟くんの勝利!!」
『天魔場外!轟、炎を見せず決勝進出だ!』
歓声が煩わしい。
動こうともがいても力が抜けてまた地面へと倒れ込んでしまう。
「動かない方がいい。悪いな、加減出来なかった」
「………」
「運ぶぞ」
轟に横に抱き上げられて、担架を持った救急ロボットの元へ連れて行かれた。労わるように丁寧に担架に乗せられて、リカバリーガールの所へ運ばれる。
「全然、母さんと同じ思考なんかじゃないな」
「…貴方の母親じゃないわ」
「ああ、もう分かる」
「?」
轟は最後の最後までよく分からない人だった。
**************
リカバリーガールに怪我を治してもらった市は、早退する旨を彼女に伝えた。
「早退?急にどうしたんだい?」
「…………」
「…言えないのかい。それは、さっきの試合の最後で手を抜いた事と関係あるんかね」
鋭いな。
別に手を抜いた訳じゃない。あの場から速く抜ける方法がワザと隙を見せて負けるのが最善だった、それだけだ。感じた情動の元へ一刻も早く駆け付ける。その目的の為に行動しただけ。
「…はあ。担任には…言ってないようだね。しょうがない、アタシから言っておくよ」
感謝を込めてリカバリーガールに頭を下げてから治療室を退出して人気の無い所へ歩く。
人がいない事を確認して足元から魔手を出した。ウゾウゾと全身に絡みつき、市の身体が足元の闇へと埋まっていく。まるでUSJを襲撃した敵の個性のように、黒い霧の中へ足から順に埋まっていき最後に頭がトプリと呑み込まれた。
幸か不幸か、周りには誰もいなかった。