ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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23話:ダウナー系と表彰式

 

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

 

 

決勝を終えての表彰式に、花火が上がる。煙幕と共に地面から表彰台がせり上がり、それぞれの順位の場所へ生徒が立っている。

 

 

「何アレ…」

「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまー、締まんねー1位だな」

 

 

 

決勝にて本気を出さないまま負けた2位の轟に向かって、全身と口を拘束された爆豪がモガモガと怒鳴っている。厳重すぎてむしろ敵を拘束しているように見えてしまう。

 

 

「3位には常闇くんともう一人天魔さんがいるんだけど、ちょっとした事情で早退になっちゃったのでご了承下さいな」

「メディア意識…!」

 

 

カメラマンに向かって猫なで声でウインクをするミッドナイトに常闇が驚いている。

 

 

「飯田くんだけじゃなくて天魔さんも早退…?」

「飯田ちゃんは知ってるけど、天魔ちゃんどうしたのかしら」

「天魔さんが早退したなんて今知ったんだけど」

 

 

相澤先生だけに報告したのか、三回戦が終わって中々帰ってこなかったのは早退したからなのだとA組は心配している。中には突然いなくなった事に不信感を募らす者もいた。

 

 

 

「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

「私が!」

「メダルを持って「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」来た!」

 

 

体育祭一番の見せ場に張り切って高所から登場したにも関わらず、登場シーンまで打ち合わせをしていなかったのか台詞が被ってしまった。少し可愛いメンタル弱めなオールマイトは涙目でミッドナイトに訴えている。気を取り直してメダルを授与してもらおうと、ご機嫌取りにミッドナイトはメダル入れをオールマイトに差し出した。

 

 

 

「常闇少年おめでとう!強いな君は!」

「もったいないお言葉」

「ただ!相性差を覆すには“個性”に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」

「……御意」

 

 

入賞者一人一人に声をかけ、力強い抱擁と共にアドバイスを与えるオールマイトはやはりプロヒーローなのだと実感する。言われた言葉を噛み締めて、常闇は銅メダルを持った。

 

 

「轟少年、おめでとう。決勝で左側を収めてしまったのにはワケがあるのかな」

「…緑谷戦でキッカケをもらって、天魔に思考停止(現実逃避)するなと言われて……わからなくなってしまいました。あなたが緑谷を気にかけるのも少しわかった気がします。俺もあなたやレプリカのようなヒーローになりたかった。ただ…俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ駄目だと思った。清算しなきゃならないモノがまだある」

「……顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる。レプリカは余り褒められたものではないが…君には本質が見えているんだろうね」

 

 

 

緑谷との戦いで発破をかけられたのは知っているが、天魔との戦いでも背中を押されていたと聞いてオールマイトは驚いた。天魔はただ闇を抱えた強いだけの少女ではなく、人に寄り添わない厳しい言葉で轟の迷いを和らげている。人と距離を置きながらも、放って置けずに助言をしていたようだ。トゥルーフォームを知られた際、彼女を信じて良かったとオールマイトは安堵する。

 

そして内心触れたくなかった1位の爆豪へメダルを進呈。くぐもる声にビビりながらも猿轡を外し、目が吊り上がりすぎて顔が怖い爆豪にめげず会話をした。

 

 

「オールマイトォ、こんな1番…何の価値もねぇんだよ…世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!」

「(顔すげえ…)うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。

(顔すげえ)受けとっとけよ!“傷”として!忘れぬよう!」

「要らねっつってんだろが!!」

 

 

 

メダルをかけられまいと抵抗していた爆豪だったが、「セイッ」と軽い掛け声と同時に開いた口に引っ掛けられた。酷い顔をしているが、咥えたメダルを落とさないのは偉いのかもしれない。

 

 

 

「さァ!!今回は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にも()()に立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!

てな感じで最後に一言!!皆さんご唱和下さい!!せーの!!!」

「プルス「おつかれさまでした!!!」ト…えっ!?」

 

 

 

観客全員が「プルス ウルトラ」と叫んでいるにも関わらず、誰よりも大きな声で「お疲れ様でした」と宣ったオールマイトへ愛あるブーイングの嵐が襲う。

 

 

 

 

最後まで締まらない体育祭だったと記載しておこう。

 

 

 

 

**************

 

 

静かな病院内で控えめに走る音がした。本人的には遠慮しているのだろうが、彼の個性では仕方ないとはいえ「子供の全力疾走と同じくらいうるさかった」と後々クレームが入る事だろう。

 

 

「兄さん!!!!」

「こら天哉、静かに…マスクしなさい」

 

 

うるさく扉を開けたのは、雄英体育祭にて全国テレビで放送された飯田天哉。アルコール消毒を基本とした院内でマスクをせずに走るのは、学校生活を共に送る友人が見たら驚くだろう。いつもの真面目さは鳴りを潜めて声を荒げた。

 

 

「先程、麻酔が切れて目覚めました。まだ朦朧としてますね。あと2分手術が遅かったら手遅れでした」

「……天哉…、母……さん…」

 

 

腹部を怪我したのか、腹に手術痕がある。大きな包帯とガーゼで覆われているが凄惨な光景に、たまらず飯田の母は脱力し気絶寸前まで追いやられた。

 

 

「おまえ…みてぇな優秀な弟が…せっかく憧れて…くれてんの…に」

「君はナースコールを押して、来た看護師とともに患者のお母様を運んでくれ。落ち着いたら説明するから」

「は、はい」

「ごめんな…天哉。兄ちゃん…負け…ちまった」

 

 

物心ついた時から背中を追いかけていた兄の悲惨な姿。それを見た飯田の顔は、この言葉ほど適した表現は無いだろう。

“望みを絶たれる”……「絶望」とは、言い得て妙な言葉だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着かれましたか?」

「はい…私より、天晴は……息子はどうですか?」

「弟さんの方は看護師にお任せ下さい。お兄さんの方ですが、命に別状はありません」

「っ後遺症は!?息子はヒーロー活動をしているんです…!」

「奇跡的に後遺症はありません。長期間の入院が必要なので、筋肉の低下や直感の鈍りなどはありますが、時間をかければ今後もヒーロー活動は出来るようになりますよ」

「……はぁ、よかっ、たです…!!連絡をもらった時、覚悟していたので…」

「そうですか」

 

 

安堵のため息を吐いた飯田の母を見て、医師は数秒の思考を完結させて口を開いた。

 

 

「…お母様、一つお伝えしたい事があるんです。彼が病院に運ばれた際、目視での診察では後遺症が残るだろう判断しました。申し訳ありません」

「……いえ、いいんです。生きていてくれるだけでも幸せですから」

「そう言って頂けると嬉しいです。手術を始める時も、そう思っていました。あの規模の傷から、脊髄損傷による下半身麻痺だと」

「………」

「しかし、切断されていた筈の神経が繋がっていたのです。確実に切れていたのに、切断面が何かに引っ張られているかのように接着していました。個性によるものかは定かではありませんが、そのおかげで後遺症が無かったと言っても過言ではありません」

「そんなことを、一体誰が…?」

「不可解なのは、彼の搬送方法もです。彼は怪我を負った状態のまま、引きずられて病院まで来ました。受付のナースが気付いたので病院内は清潔ですが、病院(ここ)に来るまでの道路は血だらけでした。通行人が通報したのもあって捜査が行われ、ヒーロー殺しと接触したと見て間違いないでしょう」

 

 

医師はヒーロー殺しはもう現場にいなかったこと。彼が搬送された個性が分からない事を母に告げた。

 

 

「これは、落ち着いたら天哉に話しても良いですか?」

「是非そうしてあげてください。超能力の個性か、目的地まで移動させる個性か、まだ特定は出来ません」

「でも天晴が完治する事に因果関係が無くても、その個性の持ち主には感謝しないとですね…直接お礼がしたいです」

「……案外、レプリカかもしれませんよ」

「レプリカ…?」

「ああいえ、予想ですので。ヒーローでも無く、個性が不明の2点を考えた時に浮かんだだけです。その方が名乗り出てくれるといいですね」

「はい、本当に……そろそろ様子を見てきます。面会は大丈夫…でしたよね?」

「大丈夫ですよ。手術も終わりましたし…ですが、病院内ではお静かに」

「ふふ、すみません。叱っておきます」

 

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