ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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24話:ダウナー系と舞台裏

呼ばれている。

魔手が出てくる場所に身体をねじ込み、時間空間、物質の概念がない闇の中を飛ぶように移動する。魔手の出る場所ならば、市は闇と闇を繋げて行き来することが出来るのだ。そこに壁や障害は意味をなさず、その光景を見逃した者には瞬間移動と捉えられてしまうだろう。

 

 

轟と戦っている時に感じた情動。それを発している者に無意識に呼ばれ、自ら向かってもいる。そうせざるをえない、そうでなくてはならない。解明の出来ない不可思議な個性によって、市は空間を超える。

「ここ」ではない「どこか」へ。

 

 

いつの間にか、着ていた体操服は闇に紛れる黒い服へと変わっていた。ちゃんと後で戻ってきてくれると嬉しい。あれ高いのだから。

 

 

目的地へ到着したのか、薄く光る出口が見えた。水の中から顔を出すような感覚と共に身体が現実世界へと固定される。

目を開くと、路地裏だった。

 

 

 

「……子供か。消えろ、今なら何もしない」

『こちら保須警察署、至急応援頼む!』

「貴方の身体…血に染まって真っ赤ね…」

 

 

 

黒いマスクを指に引っ掛けて下げながら倒れているヒーローを見下ろす。どこか飯田に似たコスチュームの人だ。微動だにせず出血量が多い。落ちている携帯の画面には不在着信で「天哉」の名が表示されていて、血に濡れた男は勢いよくそれを踏み潰した。

 

 

「名声……金…どいつもこいつもヒーロー名乗りやがって…てめェらはヒーローなんかじゃねえ…」

「……呼んだのは、貴方…?」

「彼らだけだ…俺を殺っていいのは…オールマイトとレプリカだけだ」

『「ヒーロー殺し」が現れた!!!』

「あなたは強いのに…嘆いているのね」

 

 

 

放置すると死んでしまうので、魔手に身体を掴ませて路地裏から大通りへ出す。魔手が見られるとここに市がいる事がバレてしまうので、そうならない為に魔手を他人に見られないよう病院へと向かわせる。男の武器が刃物なので、もしかしたらどこかしらの神経がやられているかもしれない。極小細胞レベルの魔手を操作して切れた断面を繋げる。

市が救助擬きをしている間に、男はビルの間を蹴って上へと上がっていった。良かった、小さい魔手の操作は集中力に意識を割かれるので攻撃されたら迎撃が大変だったかもしれない。

それを追いかけて彼の背後に着地する。意外にも攻撃されず、煙突の上から赤黒い路地裏を見下ろしている。

ヒーローを否定する発言をしておきながら、オールマイトやレプリカを認めている。どうやら現代社会において仕事として成り立ってしまうヒーローを嫌悪し、純然たる善意にて人救けをし見返りを求めない2人を崇拝すらしている。

 

 

 

「探しましたよ「ヒーロー殺し」…“ステイン”」

 

 

聞き覚えのある声が背後から聞こえ、凄まじい速さで刀を抜いた彼が器用に市を避けて斬りつけた。

 

「落ち着いて下さい…我々は()()……」

「!」

「悪名高い貴方に是非とも会いたかった。お時間少々よろしいでしょうか?そこの少女も共に」

「……ええ」

 

 

この霧を自分の意思で潜るとは思わなかった。ワープの個性は便利で、先程の市の移動とは違い出口に直結している。

 

 

「…あ?体育祭テレビでやってんだけど…なんでここにいる訳?」

「先生の指示でしたので」

「俺らが襲撃した雄英ヒーロー科のエリートがいていいのかよ」

「…私はヒーローになる為にあそこにいるんじゃないもの…」

「可哀想だなあ。こんな奴のせいで試験に落ちた負け組が。そんなお前に良い話だ…敵連合(コッチ)に来いよ。その死んだ目…お前はそちら側じゃないだろ」

 

 

 

皮肉も言葉遊びも無くストレートに勧誘されてしまった。

 

 

 

「…………ふ、ふふふ」

「お前の目的も、敵連合コッチなら達成出来ると思うぞ。知らねえけど」

「…私の目的は、神さまになること」

「は?」

 

 

 

市の目的が予想外だったのか、死柄木はあっけに取られた。それもそうだろう。神なんて、今どき幼稚園生も見ない夢だ。光る赤ん坊が産まれる前の時代ならともかく、個性によって夢が現実となった今の社会で神になるなど笑い草。

 

 

「く、くく……ははははは!!!バカじゃねえの!神とか…腹痛ぇ…ははは!!」

「…神か。目指すものは一般論ではないのだろう。慈愛で人に手を差し伸べ、生贄を求めない者…良いな、お前」

「ははは…は?マジで言ってんのヒーロー殺し」

「1人殺せば人殺し…100万人殺せば英雄。100人の死は悲劇だけど、100万人の死は統計よ」

「はー…つくづく疑問だよ。なんでお前みたいなのが雄英にいるってのが」

「愚問ね…。貴方、近道に路地裏は使わない人…?」

「つまりヒーローになりたいから雄英にいるのではなく、必要だから通過しているだけという事ですか」

「回りくどいな…敵連合(コッチ)に入るか聞いてんだけど」

 

 

 

 

答えを急かす死柄木を見ても、市は不気味に口角を上げて首を傾げるだけだ。

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