ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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25話:ダウナー系とヒーロー名


 

 

 

「お前、なんで早退した」

 

 

体育祭の振替休日が終わって登校すると、下駄箱で待ち構えていた相澤先生に捕まり職員室へと連行された。相澤先生が市を呼ぶ事を分かっていたのか、職員のヒーローもチラリと視線を寄越すだけで机に噛り付いている。

 

 

「婆さんから聞いたが、なぜ俺の所に来ない。実況席にいたから声がかけられなかった…じゃないだろ」

「…………」

「過ぎた事だから俺はもう言わん。だが、こういった非合理的な行為を繰り返すなら覚悟しろよ」

「はい…」

「真面目にやれよ。なんの為に雄英(ココ)来てんだ」

 

 

 

「戻っていい」と言い、相澤先生は机と向き合ってしまった。言い訳を聞き入れる気がないのだろう。

 

 

 

「…相澤先生」

「話は終わってんぞ」

「どうしたら、神様になれますか?」

「………あ?」

 

 

 

職員室が静寂に包まれる。朝食を食べていたらしいヒーローが箸で摘んでいる惣菜がポロリと落ちた。そんなに驚くことだろうか。

 

 

 

「……なんでも…ありません」

「ヒーローと神は違う、馬鹿な夢は見るな。それがお前の為だ」

「………失礼します」

 

 

自分の為だから、神になりたいと思っているのに。理解出来ないなら無理に擁護しなくていい。自分以外の人間は結局他人でしか無く、人間の思考など自分自身でも分からないのだから。

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

教室へ向かうと早退した事を心配され、全国的にテレビで放映された体育祭の影響で登校時に声をかけられたことが話題になっていた。そう言われてみれば、登校中に声をかけられたような気がする。変に絡んでくる輩と勘違いして会釈だけで済ませていた。

ワイワイと一通り盛り上がった教室にチャイムと同時に相澤先生が入ってきた。先程の喧騒はどこへやら、背筋の伸びた綺麗な姿勢で座り相澤先生の言葉を待っている。

 

 

 

「相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」

「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより今日の“ヒーロー情報学”、ちょっと特別だぞ。「コードネーム」、ヒーロー名の考案だ」

「「「胸ふくらむヤツきたああああ!!」」」

 

 

せっかく綺麗に座ったのに、テンションが急上昇したせいでコロンビアポーズや立ち上がる人、元気が有り余ってる芦戸などは飛び跳ねている。ザワリと相澤先生の髪が浮かんで目が赤くなり、個性を発動しようとしているのが分かった。黙らせるにしても実力行使すぎる。すぐに静まったので効果覿面ではあるが。

 

 

「というのも先日話した「プロからのドラフト指名」に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2,3年から…つまり今回来た“指名”は将来性に対する“興味”に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」

「大人は勝手だ!」

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 

 

 

早退したからドラフト指名の話は聞いてないな。市はあまり活躍していないし、来ないだろうと高を括る。

相澤先生がリモコンを操作して黒板に集計を映し出す。2本の長い線に続く形で追随する1本があった。

 

轟:4,123

爆豪:3,556

天魔:1,743

 

 

「例年はもっとバラけるんだが、二、三人に注目が偏った」

「だーーー白黒ついた!」

「見る目ないよねプロ」

「1位2位逆転してんじゃん」

「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな…」

「ビビってんじゃねーよプロが!!」

「さすがですわ轟さん」

「ほとんど親の話題ありきだろ…」

「わあああ!」

「うむ」

「無いな!怖かったんだやっぱ」

「んん……」

「…来てる」

「おお、天魔すげえな!」

 

 

 

予想を遥かに超えた指名数に驚いた。同じく三位の常闇と同じくらいだろうと思っていたが、あの体育祭のどこを見ていたのだろう。

 

 

 

「これを踏まえ…指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

「「「!!」」」

「おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった」

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきたァ!」

「まァ仮ではあるが適当なもんは…」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 

 

コードネームか…。ヒーローになる気はサラサラないが、確かに本名とヒーロー名は違うしそこまで頭が回っていなかった。クラスメイトには待ちに待った時間なのだろうけど、悪いが市は全く思いつかない。教室の外で待っていたのか、相澤先生の言葉を遮る形で教室に入ってきたのは体育祭で主審を務めたミッドナイトだった。

 

 

「この時の名が!世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!!」

「ミッドナイト!!」

「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺にはそういうのできん。将来自分がどうなるのか名を付けることでイメージが固まりそこに近づいてく。それが「名は体を表す」ってことだ。“オールマイト”とかな」

 

 

 

本当にミッドナイトに丸投げするらしく、相澤先生は寝袋に入り壁に寄りかかる。彼は暇があればいつも寝ている気がするが寝不足なのだろうか。

ヒーロー名を書くためのパネルが前から回されてペンを持つ。15分ほど経過した所で、出来た人から前に出て発表するらしい。

一番手青山から二番手の芦戸。2人ともクセの強い名前を却下されてクラス全体が異様な緊張感に包まれる。その雰囲気を壊した蛙吹に尊敬のフロッピー(ヒーロー名)コールが贈られた。

 

コントのような教室を遠くの出来事みたいに感じながら、市はペンを持つ。ヒーロー名、肩書き、自分がなりたいもの。神は駄目だ、市は万能になりたい訳ではない。なりたいものは神だが、信者が求める救世主にはならない。

周りが次々にヒーロー名を決めていく中、市がパネルに書いた言葉は「幻妖言惑(げんようげんわく)」だった。無理やり考えた造語でヒーロー名としては成立していないので発表する気はない。

 

ヒーロー名が決まっていないのは市を含めて4人。発表の様子を眺め、飯田が決めたヒーロー名の「天哉」にどこか見覚えがあった。

……たしか、路地裏で飯田のコスチュームに似てるヒーローの携帯画面に表示されていた名だ。

 

そういえば彼はどうなったのだろう。

治療の一環として臨時的に切断された神経を極細の魔手で繋いでみたが、なにせ初めてやったのでコントロールが分からなかったのだ。良くて下半身不随、最悪は魔手が周りの細胞を傷つけて重症化。最良なのは魔手が神経の役割を果たして全回復だろうが。天のみぞ知る、というヤツだ。

 

 

 

「天魔さんは決まったのかしら?書いてはいるし、少しだけ見せて。

…………発想はいいけど、これは“平和の象徴”のような二つ名向きね。人を救うヒーローって考えると、マイナスイメージの漢字が多いからもう少し考えてみましょう」

「天魔、駄目だったのか。ふむ…俺はいいと思うぞ」

 

 

 

常闇に言われても余り嬉しくない。

 

 

 

 

 

どれだけ時間を貰っても決定することは無く、ミッドナイトも決まったら報告に来てねと言われてしまった。ミッドナイトが相澤先生を起こして発言を促す。職場体験の連絡事項はまだあったようで、リストを配られて説明を受けた。

 

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる、よく考えて選べよ」

 

 

渡されたリストには先程の指名1,743件分の事務所名が表記されていた。これは目を通すのも大変そうだ。二日後の週末に提出らしいので、家で目を通す事にしよう。

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