ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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26話:ダウナー系と職場体験〔受け入れ先〕

「No more bet.」

 

 

 

取ってつけたような笑顔を浮かべて常套句を言う。もう何百回言っただろうか。少し着崩したカジュアルな格好に視界に入る黒い髪。眼前で動く度の入っていないモノクルが鬱陶しい。

回る赤と黒のルーレットを見ながら、選ぶ職場間違えたかもしれないと心の中で溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

 

 

職場体験当日

 

 

一旦駅に集合してからそれぞれの移動手段に乗って指名を貰った職場へと赴く。選んだ職場体験先は「パワーク事務所」だ。

元々はチンピラや(ヴィラン)として目を付けられていたが、とある人物によって改心し素質もあってヒーローへと転身。しかし厄介な敵でもあった為に監視も兼ねて警察からの依頼がほとんどの事務所だ。

 

 

 

 

 

 

「…雄英高校、天魔市です」

「む?お客さんだね、どのような依頼ですかな」

 

 

 

ビル2階に入っているヒーロー事務所の扉を開けると、迎えてくれたのは飄々とした50がらみの壮年だった。如何にも紳士な凛々しいロマンスグレーのおじさまだが、親しみやすい顔に浮かべている笑みが胡散臭くて仕方がない。

市を客と認識したということは、職場体験の話が伝わっていないのだろうか?

 

 

 

 

「ただいま戻りましたよーっと。ん、客がいるの……あ!!パワークさん、その子だよ!雄英体育祭で凄かった子!」

「メタくんお帰り〜!」

「うわ軽っ。アンタ第一印象だけならカッコいいんだからそのままキープ!」

「酷い!!もう!ローちゃんは一緒じゃなかったのかな?」

「アイツならもうすぐ来るだろ」

 

 

 

なんだコレ。

外から買い物袋を持った端正な顔の男が入ってくる。美丈夫が言っていた言葉からして、このロマンスグレーが事務所を立ち上げたヒーローのパワークという人物らしい。

 

 

 

「体育祭って事はローちゃんが大絶賛してた子?どうしてこんな遠い事務所に来たんだい?」

「ちゃんと国からお知らせ来てただろ。プロのドラフト指名で雄英体育祭参考にし、ろよっ、て……もしかして」

「ハァ〜イただいま〜!!あら、天魔ちゃん来てくれたの?お姉さん嬉しいわあ!」

「………ぅぐ」

 

 

バァンと力強く開け放たれた扉からミッドナイトもビックリな美女が、市を視認した途端にブロンズの髪を揺らしながら豊満な身体で抱きついてくる。

一方的に懐かれているが何故だ。

何がとは言わないが顔に押し付けられているので、このままだと窒息してしまいそうだから助けてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美丈夫が美女を引き剥がして職場体験の事をロマンスグレーに説明する。

どうやらロマンスグレー本人は体育祭に興味を持っていなかったが、美女が観戦していたところ市を発見。興奮した勢いで雄英に指名をしたらしい。要は美女の暴走である。ほんかわしたロマンスグレーと天真爛漫な美女に囲まれて、美丈夫は貧乏くじを引く苦労人のようだ。

 

 

 

「うちのローちゃんがゴメンね。そういう事なら喜んで歓迎するよ。私はヒーローのパワーク、一応この事務所を立ち上げていてね。人を救けるというよりは警察の申請で調査を担当する事務所なんだ」

「私はロベレット。よろしくね天魔ちゃん♡」

「で、俺はメタモル。俺ら2人でパワークさんの相棒(サイドキック)をしてる。悪いな、ロベレットの暴走に巻き込んで」

「暴走なんて失礼ね。天魔ちゃんには光るものを感じたのよ。こう、ビビっと!まだ無自覚だけど、部下を裏で操る魔性の女の素質があるんだから!」

「悪女はもういらねーって。あ、違う違う。天魔さんが悪女って訳じゃないから」

「可愛いなぁ〜天魔ちゃん。私にも孫がいれば……ね、パパって呼んでくれないカナ?」

「やめろ!!」

「…………ぱぱ?」

「ごばあっ!!!」

「きゃー、吐血したわ!」

「致命傷!?父性枯渇してんじゃなかったのかよ!」

 

 

 

 

……なんだコレ。いやノッた市も悪かったのだが。

アットホームな3人組だが、この事務所にはこれで全員なのだろうか。コミカルだが、時折見せる目が強者のソレだった。少なくとも、高い実力があるからこうして余裕を持っていると考える。

 

 

 

パワークはロシア語で「蜘蛛」を。

メタモルは「変態」や「変身」を意味するメタモルフォーゼ。

ロベレットは、花言葉からロベリア(悪意)マーガレット(美しい容姿)を足したもの。

互いに自己紹介をして、パワークにヒーロー名を聞かれた。

 

 

 

 

「…まだ、決まってないです…」

「おや、意外だね。テレビで見た君の個性から幾らでも思い付く気もするが」

「ヒーロー名は無いのね…。じゃあ私は“お市ちゃん”って呼ぶわ」

「ナイスセンスだローちゃん。私もお市ちゃんと呼ぶからよろしくね」

「俺は…あー、呼ぶ時に考えるわ」

「メタくんてば照れ屋さんなんだから〜」

「パパで吐血したアンタに言われたくないんだが」

 

 

一通りコントを楽しんだ三人は、キリがいいとアイコンタクトを取り合う。真面目な顔をしたパワークにつられて背筋を正せば、先程とは一変しプレッシャーを放ってきた。ヒーローにしては随分と重く、悪意の篭ったオーラだ。恐れ入る。

 

 

 

「……フム、私の本気の威圧に顔色一つ変えないとは見所があるね。この程度で萎縮するなら適当にパトロールを任せる所だったけど……ロベレット、君の本質を見抜く眼にはいつも驚かされる」

「ビビっときたって言ったじゃないですか〜。手が足りないって愚痴ってたの、この子で解決しません?」

「及第点どころかスタンディングオベーションでキスを贈るくらい素晴らしい!」

「嫌♡どうせキスするならお市ちゃんみたいな可愛い女の子がいいわ」

「手が足りないって、今受けてるヤマは……まさか、」

「お市ちゃん、一つ聞きたいんだがね」

「ヤメろ学生だぞ!」

 

 

 

 

「君……お芝居は好きカナ?」

 

 

 

 

良からぬことを考えてる悪い笑みだ。

職場体験に来ている以上、頷かないという選択肢が無いのが辛いけども。

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