「…なぁ、本当にこれでいいのか?」
「こんな服着せたなんて雄英にバレたらどうするのパワークさん」
「んん〜可愛い!さすがパパの娘!」
「聞けよ」
「私たち捕まらない?未成年淫行みたいな罪で」
「ちゃんと聞いてるとも。問題ないさ、これはメタくんの個性で作った皮……「着ている」以上、着ぐるみと同じ扱いサ!!」
「…なんつー暴論」
「依頼の船、ディーラーにこんなエッチな服着せてるのね。軽蔑しちゃう」
「頭の弱い金持ちの集まりだから仕方ない、こういう分かりやすい物が好きなのさ。金品みたいにね」
個性「
眉毛をすっぴんより下に描き、目を細くしカラーコンタクトで黒目にする。変装だけではない「化けの皮」の真骨頂である“望む姿にする”力で漆黒の髪が腰まで伸ばされて分け目を変え、個性を誤解されるように動物の耳と尻尾を生やされた。これで変装が解けない限り動物系の個性だと勘違いされるだろう。
ちゃんと自分の意思で動かせるのでとても芸が細かい。
パワークに頼まれた事は「依頼されたカジノへの潜入を手伝ってほしい」というものだ。パワークのプレッシャーに耐えられるのならば行けるだろうと。パワークとロベレットは客として、メタモルは別口で潜入した後で合流予定だ。
5日間の豪華客船クルーズにて、そこで行われるカジノのディーラーとして潜入させられた。取引が行われる最前線に職場体験の学生を送るなと思う。
取引が行われるのは最終日。
市の役割はルーレットのディーラーとして仕事をして、ひたすら客の顔を覚える事。最終日までにはパワーク達が要人を炙り出すと言われたのでそれを待っていればいい。
豪華客船と言っても、レベルや規模の違う有権者の希望でカジノスペースはコロッセオのようになっている。細々と堅実に遊ぶならカードゲーム専用の部屋があり、市が担当するルーレットの回転盤はコロッセオ1つ使った大掛かりなものだ。観戦席や大画面で他人の賭けを見ることも出来るし、ゲームに参加するならステージにて専用のチップを賭けるだけ。
ステージを大きく使った回転盤に、外を回るボール。大きすぎるので全自動だが、個性によるイカサマを防ぐ為に専用のSPが何人もいる。
ディーラーはイカサマを演出すると思われがちだか、実際は金を扱う信用職業なのでイカサマを防止する役割があるのだ。
幸い職場体験の一週間は事務所への泊まり込みが許可されているので、豪華客船と呼ばれるに相応しい高価な部屋がディーラーにも当てられ寝泊まりしている。
無事初日と2日目の仕事が終わり、部屋の布団へ横になる。滅多に見ない携帯画面に、緑谷から一斉送信で送られて来ていた位置情報が表示されていた。送られた時間はまだしも、表示されている住所が随分と遠かったので見なかった事にしよう。
3日目。
今日は趣旨を変えて遊んでみようと思う。いつものようにディーラーとしての仕事をしながら、「並列演算」で切り離した思考を使って客の顔を覚えていく。TPOに合わせた服を着ているので声をかけられる事もあったが、目を見つめれば怯むのかそそくさと退散していくのが大半だった。作り笑いに気付いたか、カジノやってるだけあって観察眼がある。
セクハラされなくて良かった。
されようものなら市はきっと迎撃してしまうだろう。
目の前の席に人が座る。
顔を隠すように黒い狐面をしたオールバックの男だった。仕立ての良いスーツを着て口の前で手を組む仕草は様になっている。後ろには美女を待機させていて、黒い仮面の奥でウインクをされたような気がした。
「ゲームをしますか?」
「こんにちはお嬢さん。可愛い個性のお耳が素敵だね」
「こんにちは。耳に興味を持って下さったお客様がベットして頂けるので、ディーラーとしては嬉しいかぎりですが…少し恥ずかしいです」
「いやいや謙遜しなくていいヨ。耳だけでは無く君自身の魅力もきっとあるから」
「あら、ありがとうございます」
この低音ボイスにお茶目な会話、パワークだ。ならば後ろにいる美女はロベレットか。見た目は変わっていないのに、お淑やかな雰囲気のせいで別人に見える。3日目にして接触してくるとは、予定よりも随分と早かったな。
「このゲームで勝てたら、こんな枯れた私のお誘いに乗ってくれるかい?」
「困ります…お客様」
「頼むよ。初日から君を見ていたんだ」
「後ろに美しいお方がいるではありませんか」
「彼女は女性が好きでね。君を指名したのは彼女なのさ」
「…ストレートアップなら考えましょう」
「ああ、それでいいとも」
ストレートアップとは、ルーレットにある赤と黒合わせて36個の数字と0の中から1点に賭ける事だ。当たる確率が極めて低い為、高いリターンが期待できる一発逆転の賭け。
素顔を隠したパワークとの会話を面白がってベットする人数が増え、ギャラリーも集まってきた。
チャイムを鳴らしてルーレットに球を投げ込む。参加者が次々とチップを
「No more bet.」
「まっ…マジかよあのオッサン」
「正気か!?」
betと言う直前に、パワークが全てのチップを黒の10に置いた。タワーがいくつも出来るほどの枚数を、だ。外れれば大損の賭けで、もうチップの移動は出来ない。
これはパワークが当てに行くのでは無く、市に当てろと言っているようだ。これ位の事なら当ててみろと。
…上等。
「並列演算」のスイッチを切り替えて、助走無しで「思考加速」を発動させる。黒の10と球、そしてスピードを見て、胸元に付いてる赤いブローチに仕込んだ機械でホイールの突起を調節した。タチの悪い客に捕まった時用にディーラーの先輩に教えてもらったものだ。
速度が緩んだ球はその突起に当たり簡単に数字へと落ちる。黒の10を挟んでいる赤の5と23に球が弾かれて目的の場所へと入った。
ストレートアップの配当は36倍。そこに全てのチップを置いた意味を考えたギャラリーが一瞬静まった。
「全チップの配当、36倍。おめでとうございます」
「君のようなレディを誘うなら当然さ。この位の運は持っていないとね」
「では後ほど」
「お…おおぉーーーーー!!!!!」
「は!?今っ…はぁ!?」
「カジノ荒らしだ!!!」
「換金した金は部屋にお願いするネ」と言い残してパワークはカジノを去る。去り際にロベレットが投げキスをしてきたので、ニコリと作り笑いで返した。
やれやれ、パワークの部屋で集合してから情報交換か。演技とはいえ作り笑いをやりすぎた、職場体験後に表情筋が筋肉痛になりそうだ。
**************
「いやぁ凄いねお市ちゃん。煽りはしたけど、まさか本当に落とすなんて思わなかったよ。当てた時に笑わなかったのを褒めてほしいくらいだ」
「いやぁんもうお市ちゃん最高〜♡」
「おい」
「…そう、ですか」
「私達も大金持ちだ。全部ベットしといて良かったよ」
「お市ちゃんのおかげよ〜!これで好きな物たくさん買えるわ!」
「…おい」
「それにしても猫耳可愛いネ。いっそ化けの皮被ったままでウチで働かない?」
「職人気質のメタモルの事だから感覚も通ってるんでしょう?触らせて〜」
「………ん、」
「お芝居も上手いとは。人を近付けないあの作り笑い、あれは素晴らしい!客が萎縮して不正も減るし、口説きにくいキャラに確立している。お市ちゃん可愛いからセクハラされないか超心配だったけど…君は潜入していても将来有望なヒーローの卵だから、ここで目を付けられてストーカーされる、なんて事にならなさそうで安心したよ」
「おい!!!」
ディーラーを交代し後続に憐憫の目を向けられながらチップを換金してパワークの部屋に入れば、あっと言う間にもみくちゃにされた。それを止めたのは無視され続けていたメタモルだ。豪華客船の清掃員としておじさんに変装した彼は独自の情報網にてターゲットを探っていたらしい。
今回のターゲットは豪華客船のカジノで麻薬取引をするマフィアのボスだ。麻薬といっても、個性を強化する物や快楽依存の高い脱法ドラッグ。
最終日にパワークがロベレットを連れてボスへ交渉を持ちかける。話し合いはもちろんギャンブルだ。それと同時にメタモルは側近の無力化、市は内通者の監視。
この作戦を決めるにあたり、パワークが持つ頭脳に脱帽した。
凄まじく綿密かつ緻密に計算された作戦だ。まるで蜘蛛の糸のように外堀から埋めて、気が付けば捕まっている。予想外の事も彼の頭の中では予測出来ているのだろう配置だった。
これが、プロか。
「この作戦で1番大切なのはお市ちゃん、君だ」
「…それは分かるが、職場体験だぞ?」
「失礼よメタモル、お市ちゃんはもう私達の仲間なんだから。全てにおいて高水準のお市ちゃんがパワークさんの作戦立案を学べば怖いもの無しよ!」
「そうだそうだ!お市ちゃんは私の
「可愛い子ぶんな!」
……どうでもいいから早く寝たい。
カジノのイメージはペルソナ5のニイジマパレスのボスステージをご想像ください。「オルサガ」がカジノイベント中なので、ジゼルに影響されてしまいました。服可愛い…。
「化けの皮」変装ver
【挿絵表示】
9話にて、「思考加速」には準備が必要だと記しました。
「思考加速」をするには、助走としてある程度脳が回っていなくてはいけないので何も考えていない状態からは出来ません。
「並列演算」も同じです。
しかし、「並列演算」から「思考加速」へは瞬時に変える事が出来ます。なぜなら2つの事を同時に考えているので助走の必要が無いからです。