「そんじゃ、お前以外の10組は終わったことだし俺らも始めるか」
「………」
「お前の相談を聞いた結果、お前には重りのハンデはいらないと判断した。求めているのは高速連撃、だろ?」
「…はい」
「重りを外す以外は他の連中と変わらない。制限時間は30分、達成条件も同じ。だが、お前がモニターで見てた動きとは倍の速度だ。クリア出来なくても言い訳すんなよ」
「はい」
『こっちでも確認はしてるから無茶しても大丈夫さね。あと希望した生徒にも見せてるから頑張んなさいよ。それじゃあ雄英高1年天魔市、期末テストを始めるよ!レディイイ____…ゴォ!!!』
先程とは違い、相澤先生と向かい合ってテストが始まった。
合図と同時にさっきのテストとは段違いのスピードで捕縛布を市に投げる。
「!」
驚いたのは一瞬だ。それほど恐るものではない。
………が、少し威力が高い気がする。
音を立てて壁にぶつかった布を避け、塀に着地する。握っている捕縛布をしならせ、伸びている部分が向かってきた。
個性は______当たり前だか使えない。
この身ひとつで何とかするしかないか。
まぁ、相澤先生と戦う時点で予測していた事だ。その対策をしていない訳はない。
逃げるのは悪手なので、先生に向かって走る。手首を返して捕縛布を戻そうとしていたから着ていたローブを投げて目眩しに使う。
その隙にスライディングで股下を潜り抜け、先生の視線が外れたのもプラスして魔手に身体を掴ませてゲート側のなるべく遠くへ投げた。
先生ならばきっとどこか折を見て捕縛布で減速するだろう。魔手が先生を投げたのを背に、滑り終わりの速度のまま魔手の力を借りて走る。いくつもの曲がり角を手を付きながら移動し、仕掛けを施していく。
「す、すごい…!僕らは視界から外れる時に距離を取るのに、逆転の発想で近づくなんて…」
「あのローブ…いやマントでも代用出来そうですわ。ああして相澤先生の「抹消」から逃れるなんて」
「しかも冷静さね。個性が使えないなんて知っていても初見なら誰でも一瞬は焦るからね。個性を使っても冷静な相手が突撃してくるのは初めてだったのか、その隙を突かれたね」
「あの子の戦いは私たちも学ぶことが多そうね」
おそらく相澤先生は自分の方がゲートに近いからその場から動かないだろう。ならば、こちらは出来るだけ準備をしておけばいい。
移動は魔手がやってくれるから市の体力に限界は来ない。移動時に
「(………このくらいでいいかな)」
後は我慢比べだ。
市はその場にしゃがんで魔手と戯れ始めた。
**************
残り時間5分。
戯れていた魔手が消え、先生が近くにいる事を察する。
しゃがんでいたので後ろに着地した先生への反応が遅れ、顔を蹴り上げられる。フェイスマスクが取れて、脳が揺れている間に轟のように吊り上げられた。
「…動きが無いから警戒していたが、いつ動くんだ?」
「………」
先生、
「っ!?」
市を見上げていた先生の背後に魔手が迫る。重りを付けていないので軽やかに避けるが、避けた先にも新たな魔手が現れて先生を襲った。
まるで避ける位置まで計算されているかのように発動する魔手に、先生も手一杯だ。
タネは単純。
曲がり角で手を付いた時に予め魔手を時間差で作動させていたのだ。それも個性なので先生の「抹消」を使えば消えるが、予め切り離しているので市を見ても消えないから魔手そのものを見なければならない。その間に市は視界から外れるので自由意思で魔手を発動することも出来るし、捕縛布を解く事も難しくはない。
遠くでガラスが割れる様な音が響き、鋭い氷が飛んでくる。
「これは……轟の大氷壁!」
「痛い所は…突いていくのよね」
魔手の遠隔操作にて風向きや飛行速度を計算した氷が、市を吊り上げていた捕縛布にいくつも衝突し切れる。流石にこの猛攻にも耐えられなかったようだ。
「体育祭での解説……私と個性は独立しているって、忘れてしまったの?」
氷の雨を捌きながら市を見るのは大変だろう。そして、それに意味は無い。この試験で貴方を越えるのに、市の個性は必要ないのだから。
「我慢比べは私の勝ち」
魔手と戯れている所に来なければ、タイムアップで市の負けだったのに。
だから先生、
「____________どいて?」
カチリ。
スイッチが入った。
着地と同時に踏み込み、地面スレスレを滑って先生に迫る。
「抹消」を発動させているので近接戦闘を警戒している先生には悪いが、横をスルリと通過した。
「……どこで見つけてきたんだか」
すれ違い様に、【思考加速】にて俊敏になった動きで先生を後ろ手に縛る。これも、さっきの演習試験で先生が轟を吊るした後そのままにされていた捕縛布だ。
先生を敵として見ろと言うのならば、使えるものは使わなければ。
「…俺が捕まってた相澤先生の武器だ」
「個性が使えなくても、相手と同じ物を使うことで同じ土俵にいる事をアピールか…凄まじいね」
「けどハンドカフスを掛けてないってことはまだやる気なのかねあの子」
「いや、短時間での拘束にしては随分と厳重だから解くのは難しいかもね。しかも後ろ手だから余計にね!」
ローブとフェイスマスクは何処かに行ったので、試験が終わったら回収しておかなければ。
いや、これを機にコスチュームを新調するのも良いかもしれない。緑谷や轟は初期と違うし、市も申請しておこうか。
「掴め虚の月」
残り時間1分。
市の走る速度ではどう考えても間に合わない事が判明したので、魔手に空へ投げてもらい、背中に出した魔手を翼のようにしてゲートへ急ぐ。
モニターでも分かっていたが、なぜあんなにポップなデザインにしたのだろうか。しかも校長先生が「頑張れ」と応援してくれている。
ゲート前に降りて振り返っても、相澤先生が追ってくる気配は無い。
無事に試験合格出来そうだ。
内心ホッとしてゲートをくぐった。
『天魔、条件達成!治療してあげるから二人でこっちにおいで』
…相澤先生も連れて行かないといけないのか。
仕方ないので、遠いが魔手に連れてきてもらおう。ゲートを振り返ると、校長先生の「頑張れ」の吹き出しが「よくぞ」に変わっていた。
芸が細かい。