ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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37話:ダウナー系とエンカウント

 

 

上鳴、砂糖、芦戸、切島が死んでいる。

 

……いや、誤解だ。正確には死んだような顔をしている。

期末テストの演習試験にて条件クリア出来ず林間合宿には行かないで学校にてお留守番だからだ。

 

 

「皆…土産話っひぐ、楽しみに…うう、してるっ…がら!」

「まっまだわかんないよ。どんでん返しがあるかもしれないよ…!」

「緑谷、それ口にしたらなくなるパターンだ…」

「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄!そして俺らは実技クリアならず!これでまだわからんのなら貴様の偏差値は猿以下だ!!」

「落ち着けよ長え」

 

 

あまりのショックにテンションがおかしな事になっている。あれが開き直りというやつか。

 

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 

相澤先生もいつもより力強く扉を開け放った。調教されたA組はすぐさま席に座り先生の言葉を待つ。

 

「おはよう。今回の期末テストだが…残念ながら赤点が出た。したがって…林間合宿は全員行きます」

「どんでんがえしだあ!」

 

 

そんな顔面崩壊するほど嬉しいのか?

 

筆記テストでの赤点は0人で、実技での補習で4人+瀬呂が実技の赤点。演習試験をクリアしても、演習時の活躍も吟味しているらしく瀬呂はそれに引っかかったようだ。

追い込む為に本気で叩き潰すと脅して各生徒が持つ課題への向き合い方を見るのが演習試験の本当の目的らしく、赤点の人こそ林間合宿(強化合宿)で力をつけないといけない。

 

 

「合理的虚偽ってやつさ」

「ゴーリテキキョギィイー!!」

 

 

なんかもう持ちネタみたいな扱いだけどそれでいいのか?

ただ全部が嘘なんて甘いものではなく、赤点組は林間合宿とは別途に留守番よりキツイ補習時間が設けられているらしい。

 

また赤点組の表情が死んだ。

……というか合宿のしおり分厚いな。

 

 

 

 

 

「ねね、天魔ちゃん明日ヒマ?A組みんなで買い物行こうよ!」

「……いい、けど」

「本当!?天魔ちゃん追加でー!!」

「用事があるから、途中で帰るけど…」

「だいじょぶ!むしろ用事あるのに来ていいの?」

「…そのくらいなら」

 

 

……合宿のしおりに書いてあるような荷物は持ってないので、買わなければ。そんな長期間の着替えは持っていないし、合宿所では洗濯は出来ないだろう。

あと「人によって必要なもの」「あると便利なのもの」の欄には酔い止めやエチケット袋、水着、使い慣れたシャンプー類など。

 

部屋着とは何だろうか?

必需品に書いてある着替えと何が違うのだろう。市が部屋で着ているものは世間一般では「病衣」と呼ばれているらしく、パジャマや私服にもカウントされないと聞いた。

ならば部屋着も買わないといけない。下着だけで過ごすのは駄目なのか。

 

 

 

**************

 

 

「ってな感じでやってきました!県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端!木椰(きやし)区ショッピングモール!」

 

 

…みんな私服で着ている。

場違いにも市は制服で来て、私服集団に紛れているので目立つ。服選びに失敗した気がしないでもない。

 

 

「お!アレ雄英生じゃん!?1年!?体育祭ウェーーーイ!!」

 

 

あ、そうか。

大荷物になるなら、それを入れるカバンも大きくしないといけないのか。

魔手の空間の中に入れるのもアリだが、やった事がないので下手したら一生取り出せなくなる可能性があるからやめておこう。

 

 

ひとまず集合時間を決めて自由行動の流れになった。ショッピングモールに来る前にアパートの部屋にある服を広げてみたが、ほとんどが黒一色だった。

そもそもクローゼットが無いのだ。唯一の収納場所は洗面所と学習机の引き出し。嵩張(かさば)るタオルが場所を占拠して服の入る場所は少ない。それも雄英の制服で埋まる為、服の少なさを察してしまうというもの。

 

 

どこか適当な服屋に入って物色を始める。こういう所はブティックと言うんだっけ?服を数着買い、店員の挨拶を背に受けて店を出る。

 

 

 

「…………!」

 

 

 

携帯を小物バッグから出して、クラスラインに「時間なので帰る」と送る。すぐに「え〜」の返信やそれに準ずるスタンプが送られてくるが、引き止めようとするメッセージは来なかった。

 

感じたことのある狂気だ。

それを辿りエスカレーターを降りて出口に向かう。あれだけの狂気を放っておきながら、周囲の人間は誰一人として反応しない。

ショッピングモールから出て少し歩いた時に見つけた。不気味な笑みを貼り付けている彼だ。

 

 

「ご機嫌よう…」

「…ああ、お前か」

「あの時の「また会おう」は、今?」

「そういうことにしておいてやるよ。今は気分がいい」

 

 

隣を歩いても何もしてこない。

USJ襲撃時よりも精神的に大人になった。雄英で体育祭や職場体験をしている間に、水面下に潜み着々と浸食を進めているようだ。

雄英体育祭でヒーロー殺しと共に招待された時に聞いた声の主が想像通りならば、そのうち市にもお呼びがかかるだろう。

 

 

再会の時は近い、強くならなければ。

牙を研ぎ、命を削り、その代価にて死ぬことになろうとも。

市が市で在るために研鑚を積まなければ。どれほどの人が死のうとも、「あの人」を殺した先に神様への道がある。

そして眠りにつく頃に、穏やかでいたい。

 

 

神様に「ごめんなさい」と「ありがとう」を(たてまつ)らなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死柄木と別れてアパートに帰る途中に、怒涛の様にクラスメイトから心配の連絡が来た。どうやらショッピングモールで緑谷と敵連合が遭遇したようで、市への確認をしたようだ。

 

「会ってない」と送った。

「天魔ちゃんが無事で良かった」と返信がきた。

 

 

…どうか、彼らが純粋でいられますように。

 

 

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