ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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イラストにてお目汚し失礼します。


38話:ダウナー系とプッシーキャッツ※

ショッピングモールで敵連合と遭遇した事を受けて、どうやら林間合宿に支障が出ているらしい。

 

 

(ヴィラン)の動きを警戒し、例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」

「えーーー!!」

「もう親に言っちゃってるよ」

「故にですわね…話が誰にどう伝わっているのか学校が把握出来ませんもの」

「合宿自体をキャンセルしねえの英断すぎんだろ!」

 

 

でも、仕方ないことだと思う。

期末テストが終わったので、待ちに待った夏休みに入った。

敵連合と2度も接触したことにより、長期の外出は控えろと学校から連絡が来た。

家族と旅行などの計画をしてもおじゃんになるクラスメイトが多く、海や山にも行けないと残念そうだった。

 

女性陣から学校のプールで遊ばないかと誘われたが、外に出るのは好きじゃないので断った。市以外で楽しんでほしい。

 

 

 

 

 

 

 

そして林間合宿当日

学校に来てから大きな荷物をバスに積んで集合する。

夏休みに入ったというのに、相澤先生の隈は絶好調だ。

 

「雄英高は一学期を終え、現在夏休み期間中に入っている。だが…ヒーローを目指す諸君らに、安息の日々は訪れない。この林間合宿で更なる高みへ。“Plus Ultra”を目指してもらう」

「「「はい!」」」

 

上鳴に芦戸、そしてよほど楽しみなのか麗日まで合宿のリズムに合わせて音頭を取っている。上鳴と芦戸はあちらでも補習があることを忘れているのだろうか。

 

「え?なになにA組補習いるの?つまり期末で赤点取った人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれえ!?」

 

 

B組(あちら)にもハイテンションの輩はいるようだ。

周りの反応を見ると日常茶飯事らしい。あ、沈められた。

B組の女性陣は沈められた奴とは反対にA組に好意的だ。ぜひとも市を巻き込まないで仲良くしてほしい。

 

それにしても、席順で乗ったはいいがバス内が騒がしい。仲のいい友人と共に数日を過ごすから仕方ないとはいえ、バスが発車してすぐに席の移動が始まり席順が関係なくなった。とりあえず最後列の窓側を確保したが、隣に誰も来ないので正解だったと安心する。

背もたれに寄りかかって窓の外を見るが、見えるのは整備された道やコンクリートのみ。都会を抜けたあたりでようやく緑が見えるレベルになった。

 

 

一時間ほど走行し、休憩となった。バスから降りても、パーキングエリアではなく広く開けた場所だ。しかもB組のバスは無い。

 

察した。

……はぁ、そんなことだろうと思った。

 

何においてもマンモスレベルを要求する雄英高校ヒーロー科だ。このままバスに揺られてハイ終わり、では済まないか。

近くの黒い車から出てきたのは、コスチュームを着たヒーローだ。だが名前は分からない。

 

 

「煌めく(まなこ)でロックオン!」

「キュートでキャットにスティンガー!」

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

 

自己紹介は本人が口上とともにしてくれた。が、市が知っている訳がない。今回の合宿でお世話になるプロヒーローらしい。

近くにいる少年は誰かの子供だろうか?

 

 

赤色さんが示した宿泊施設は、広場から見える山のふもと。少しばかり遠いが、なるほど、だからここで降ろされたのか。

ようやくこれから起こる事を察したのか、全員がバスに向かって走り出した。もう手遅れなのだし、無駄な足掻きはやめた方が身のためだ。

市は走らずに宿泊施設の場所を確認する。どうせ生易しくこの広場に置いていくなんてことはあるまい。

ボゴリと足元の地面が盛り上がり、振り返るとバスに戻ろうと走ったクラスメイトは土流に飲み込まれていた。

 

 

あれに巻き込まれると制服が汚れる。

それに匂いもついてパフォーマンスが下がるだろう。

夏になりクールビズでシャツだけになっているが洗濯が面倒くさい。

 

そんな考えなくても分かることを一瞬で叩き出す。

市は巻き込まれるより先に木製ガードレールを踏み込んで蹴り、土が及ばない範囲に出ようと「掴め()の月」で森に向かって空中を突き進む。

 

 

「ピクシーボブ、一人避けたわ!」

「っえ、無理!あの距離は今じゃ捕まえられない!」

「……ったく、天魔の奴こういう時は速いのか」

「もう、有望すぎるのも困るね!……おーい!私有地につき“個性”の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この…“魔獣の森”を抜けて!!」

 

 

後ろの遠くで赤色さんの声がする。皆は崖下に降ろされたらしく、木陰に着地した市との距離は遠い。

 

 

「マジュウだーーー!!?」

 

 

この声は上鳴と瀬呂かな?

驚きと勢いを含めた悲鳴と同時に、市の目の前に4本足の何かが現れる。

これが魔獣?ずいぶんチープ(安物)というか、想像の範疇を出ないというか…端的に言えばありがちで恐怖すら湧かない。

声の向き的に、市の前にいる個体とは別にもう一体あちらにもいるようだ。

 

 

 

デカくて遅い敵との戦いでの最適解は先手必勝。

「刻め苦の(きず)……来れ根の闇」

動きを止めてから特大威力を叩き込む、以上。

 

 

大魔の手が魔獣の左右から発生し、その身体を掴む。その間に市の前方に(おうぎ)のように隙間なく手を広げた魔手が猛スピードで魔獣に向かって直進し、ヒットと同時に打ち上がった。

衝撃で魔獣は中央から縦に引き裂かれてその姿を消す。

 

 

「天魔ちゃん無事ーー!?」

「そっちも凄い音したぞ!出たのか!」

 

返事してもどうせ市の声量では聞こえないし、声を出すのも面倒くさいので無視した。あちらではクラス委員組を筆頭に一致団結しているようで何よりだ。

 

 

「前方から三匹、左右に二匹ずつ!」

「総数7…来るよ!」

「…先に行ってる」

「っ天魔は無事だ!先に行くらしい!」

「単独で!?ウチらと一緒に…ってもう音が遠い!」

 

 

索敵に長けた二人が指示を出しているのが聞こえたので、二人に安否を伝えて森を進む。先ほどとは違い、翼の生えた犬のような魔獣や亀型、イングランド南西部に伝わる妖精スプリガンを模したもの、人狼や牛鬼(ギュウキ)馬鬼(バキ)、プテラノドンに大蛇などバリエーション豊かだ。ここはテーマパークのアトラクションだっただろうか?

 

一体一体相手するのは愚直だし時間もかかる。

降りる前に確認した方角へ魔手に運ばれてながら土塊(つちくれ)にしていった。

空を飛ぶものは土の身体に生やした魔手で翼を切り落とし、動きの速いものは足を崩す。定石(じょうせき)通りに行動すれば片手間にも出来ることだ。

 

魔獣を倒していくらか時間が経った。魔手に運ばれている以上、市のスタミナに消費は無くトップスピードを維持している。ある時を境に、向かってくる魔獣の種類と数が増えた。スピード重視の脆い小人に、ブラキオサウルスのように幅だけとって道を塞ぐもの。

 

 

なんとしても市を止めたいらしい。ということは逆説的にこの先にゴールがある証拠。

時間経過が分からないので、腕時計してくれば良かったと後悔した。

 

 

 

 

 

 

**************

 

pm12:15

 

 

 

「……ここ?」

 

 

「プッシーキャッツのマタタビ荘」と彫られた看板と建物を見つけた。建物の名前的にここが合宿所で間違いないだろうけど、ネーミングセンスを少し疑う。無理に捻れとは言わないけれど、ストレート過ぎないだろうか。

 

 

 

「あぁ〜悔しい!私の土魔獣がぁ〜!!」

「え、もう着いたの!?早くない……って君か」

「なんで皆と一緒来ないのよ〜!」

「……?」

 

 

青色さんに肩を掴まれて揺すられる。どうして一緒に来なかったのと言われても、A組の皆は市が集団行動出来ないと認識していると思うので置いてきただけだ。他意はない。

 

 

「やっぱり一番乗りは天魔か。優秀なのは良いが、足並み揃える事も学べ」

「…はい」

「お昼はどうする?空いてるでしょ?」

「…お腹減ってない。から、皆を待ってる」

「あの子達の進軍速度や位置から考えるとまだかかるよ?」

「何か、お手伝いする」

「う〜ん、どうするイレイザー」

「本人が良いなら好きに使ってください」

 

 

相澤先生の許可も得たので、手伝おう。

指示さえくれれば、魔手もいるので手間は省けるはずだ。

 

 

とりあえずバスに積まれた皆の荷物を割り当てられた部屋に運び、食器や洗い物、シーツの取り出し、夕飯の準備をした。

 

先ほどの子供も似たような手伝いをしていたが、その最中ちらちらと市を見てくるので、構ってほしいのかと思い少年の隣に小さな魔手を出す。

 

「うわっなんだ!?」

「……遊ぶ?」

「遊ぶか!手伝ってんならサボんなよ」

「そう…。運べないものなら、魔手(それ)に言って」

「はぁ!?どういう意味…無視すんなオイ!」

 

 

少年の背丈と同じ長さの魔手を二本つけた。最初は気味悪がって「近づくなよ!」と逃げていたが、どこまでも付いていくので諦めたのだろう。初めは無視していたが、重いものを指示されたのかダンボールを見下ろしている。

市が少年から見えない所に行った時に魔手が使われた感覚があったので、活用してくれたようだ。姿を見せると途端に魔手からダンボールをひったくってよろけているものだから、赤色さんと青色さんは微笑ましいものを見る目で眺めている。

 

 

助けてあげないのだろうか。

倒れそうになって叫んでいたので、魔手に背中を支えさせる。

 

 

あ、舌打ちされた。

 

 




逃げ足が速いシーン※トレスです

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