やる事は全て終わったので、後は森を抜けてくる皆を待つだけだ。
合宿施設の入り口にある段差に腰を下ろして体育座りで森を眺める。暇つぶしのものは何一つ持ってきていないが、いつも家で過ごしている時と変わらない。
ボーっと眺めていると、赤色さんに促されたのか少年が隣に座った。不本意ですと顔に書いてある機嫌の悪さだ。触らぬ神に祟りなし、放っておこう。
互いに会話がないまま時間だけが過ぎ、西日がさしてきた。夏だし、17時頃といったところか。少し遠いだけなのに、こんなに時間がかかるだろうか。皆には代わりに運んでくれる魔手が無いから、スタミナ切れとかが原因かもしれない。
「やーーーっと来たにゃん」
「何が「三時間」ですか…」
「ソレ、私たちならって意味。悪いね。まぁ、その時間で到着しちゃった子もいるけど」
「天魔…聞こえないと思ったら着いてたのか…」
「いくら、なんでも…はぁ、早く、ない……!?」
そうだろうか?
隣にいる少年は赤色さんの従兄弟の子供で、コウタと言うらしい。そんな名前だったのか、少年。握手を求めて無防備に近づいた緑谷に右ストレートを入れ、身長の差ゆえに急所を殴られたことで緑谷が変な声を出して沈んだ。
「マセガキ」
「お前に似てねえか?」
「あ?似てねえよ!つーかてめェ喋ってんじゃねぇぞ舐めプ野郎!」
「悪い」
「茶番はいいから食堂に行け。バスの荷物は天魔が部屋に運んだ、礼くらいはしておけ。その後、入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ、さァ早くしろ」
移動するかと立ち上がった時に、一部を除いたクラスメイトからお礼を言われた。暇だったから気にするなと伝え、夕飯はいいのかと問えば思い出した様に「腹減ったー!!」と走っていく欠食児を見送る。仕込みを手伝ったからメニューは知っているが、楽しみにしているので言わないでおこう。
夕飯はポテトサラダ、揚げ物全般、刺身、ビーフシチュー、酢豚に餃子、ローストビーフに肉団子など、大人数の高校生の胃袋を満足させるようにとにかく量を作った。
市が出来ることは魔手も出来るので、野菜の切り方や調理方法などを教わればその経験値は魔手にも反映される。逆に市が出来ない事は魔手も出来ないので、最初は包丁の持ち方から教わった。なにせ料理はしたことがない。
初めは「大丈夫かな」と不安がっていたプッシーキャッツも、魔手が戦力になると気付いてからドンドン市が調理方法を仕込まれた。
あとは赤色さんと青色さんの指示通り、人手の足りない所を魔手で補いつつ仕込みをしていった。誰もいない場所で野菜を切っていたり火を起こしたり、油で揚げたり配膳したりと(魔手が)大忙しだった。
市がちゃんと手伝えているか確認に来た相澤先生も、あれは絶対「こいつ便利だな」とでも思っている顔だった。
凄まじい勢いで消費される夕飯を、味噌汁を口に含みながら見る。そういえば、皆の食事風景を見るのは初めてかもしれない。というか障子、複製腕の口から食べていたのか。驚いた。
赤色さんと青色さんが配膳に忙しそうだったので人差し指をクイと動かして魔手を出せば、一瞬驚いた後に「ありがとう!助かるよ!」と頭に赤色さんの声が響き、青色さんからはウインクをもらった。
ついでにコウタが運ぶダンボール付近に2本出せば「俺が運ぶんだよ。倒れそうになった時でいい」とぶっきらぼうに魔手へ話しかけていた。
彼も魔手に慣れたようだ。
**************
あれだけの量が全て食い尽くされた。どうしてそんなに胃袋に入るのか疑問でならない。男子高校生の万年欠食を舐めるなというメッセージだろうか。
男女に分かれて風呂へと入り、広い露天風呂に女性陣のテンションも上がっている。
「うわぁ露天だ!!」
「気持ちいいねえ」
「温泉あるなんてサイコーだわ」
走り回ると危ない…と言っても無駄だろう。湯船にタオルを入れるのはいけないらしく、脱衣所に置いて温泉に足を踏み入れる。少し熱いので、足だけ入れて石に座った。
どうやら男風呂は隣らしく、入浴時間が同じなのか彼らの声が反響して聞こえる。
「峰田くんやめたまえ!君のしている事は己も女性陣も
ただでさえ響く空間に、いつも通りの大きな声で峰田を注意する飯田の声だ。もう何が起ころうとしているのか、女子は見当が付いている。
「とりあえず石でも投げる?」
「ウチがやるよ」
「私もやるわ、耳郎ちゃん」
八百万に至っては何かを創ろうとしている。いざとなったら魔手で皆の身体を隠してあげようと考えた時、男風呂に動きがあった。
「壁とは越える為にある!!“
「速っ!!」
「校訓を穢すんじゃないよ!!」
仕切りの向こうでポポポと音がする。いよいよ行動に移ったようだ。
女風呂に緊張が走り、全員が仕切りを見上げる。
すると、仕切りの間から赤い帽子の後ろ姿が現れた。
「ヒーロー以前に、ヒトのあれこれから学び直せ」
恐らく、上部にいた峰田を叩いたのだろう。「くそガキ」と叫ぶ峰田が落ちたのか派手な水飛沫の音がした。
「フンッ」
「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
「ありがと洸汰くーん!」
芦田のお礼に、つい振り向いたコウタが女子の裸体に驚いて男風呂へ背中から落ちていく。少年には刺激が強すぎたらしい。
「わっ…あ…う、うわぁあああ!?」
「危ない!!」
男風呂に消えていく伸ばされた手を、あれは頭から着地するやつだと咄嗟にバチャリと跳んで仕切りに乗り上げつつもガシッと掴んだ。
「…ふぅ」
危機一髪、間に合ったようだ。
身体に張り付いたお湯が汗のように男風呂へ落ちていく。
コウタの手を掴んだ先に視線をやると、受け止めようとしたのか光を
数秒静まり、緑谷が顔を赤くしたと思ったら後ろを向いて頭を抱えた。
「〜〜〜!?」
「ててて、天魔ぁあぁあぁ!?」
「天魔ちゃんなにしとんの!?」
「いっ、今タオルを創りますわ!」
「見えない!オイラ見てない!!この手を離せぇぇぇえ!!」
「?」
「うわわわ、天魔さん起きないで!!」
「尾白てめっ余計なことを!」
「ありがとうございますっ!!」
「お礼言っちゃったよ!」
「あんたらサイテー!!」
「天魔くん!早く戻りたまえ!」
別に露天は濁り湯だし、温泉に浸かっていない男子は腰にタオルを巻いているので見えていない。峰田に関しては魔手で厳重に全身拘束の後、顔を覆ったので呼吸以外は何も出来ない筈だ。
市だって仕切りがギリギリ隠しているので胸は見えていない筈だし、紳士は目を閉じたり手で隠しているし、峰田にとっては残念だが魔手が身体を掴んでいるから起き上がっても見えないようになっている。
何をそんなに慌てふためいているのだろう?
「っ
「アイヨ!」
「常闇ぃ!お前の個性で覗く気だろう!」
「っるせぇな早く戻れや根暗女!殺すぞ!」
「タオル出来ましたわ!」
「貸して!私が浮かす!」
「アレは任せろ。後ろ向きで凍らせとく」
…とりあえず少年どうすればいい?
女性陣の方には魔手で身体を隠しているのを見ているのにパニックから帰ってこない。結局、魔手の上から保険で常闇の
ちなみに少年は固く目を閉じた切島が受け取ろうとしていたので、合図して腕に落としておいた。
風呂上がりに脱衣所で女性陣に色々言われたが、割愛しておこう。