翌日、合宿二日目
AM5:30
早朝の集合に皆眠そうだ。そう言っている市も眠い。
「お早う諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。
相澤先生は朝から元気そうだ。先生が爆豪に投げ渡したのは、四月の個性把握テストで使ったハンドボール投げの機械球だ。投げてみろと促された爆豪は勢いを付けてボールを投げる。
なぜ気合いの声が「よっこらくたばれ」なんだ?普通に「よっこらしょ」じゃ満足出来ないのか?悪口を言っていないと死んでしまう病気でも患っているのだろうか。えらいもの
そんな掛け声の割には、四月よりも記録が伸びていない。あれだけ言っておいて、すごく恥ずかしい。
「入学からおよそ3ヶ月、様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで“個性”そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だから____今日から君らの“個性”を伸ばす。死ぬ程キツイがくれぐれも…死なないように_____…」
ああ、だから相澤先生のテンションが高いのか。
A組を追い込むことが出来るから、いい笑顔で言い放っている。入学数日でなんとなく気付いていたけど、相澤先生はドSだと思う。
そして眼前に広がったのは、見るに堪えない死屍累々の地獄絵図だった。
いたるところで叫び声が聞こえ、聞こえてくる心音や呼吸音の上昇、オマケに爆豪の悪口レベルが低下していくのが分かる。もうほぼ唸り声と「クソが!」しか言ってない。語彙力が無い。
市の個性の弱点は、一度出した魔手を永遠に出し続けられない事。
よって市に出された個性伸ばし訓練は、ひたすら魔手を出すこと。地面、空中、ありとあらゆる所に魔手を出現させて発現時間を伸ばす試みだ。
飯田の走るすぐ後ろに生やすことで、発現までのタイムロス減少、発現場所の把握など一石五鳥くらいの訓練だ。嘘、盛った。一石三鳥くらいの訓練だ。
出してもすぐに消えないので、訓練所に魔手が延々と不気味に立ち並ぶ異様な光景となっている。あと飯田の走ったコースが丸わかりだ。
市の個性を「サーチ」した黄色さんは、少し驚いていた。「……繰り返してる?」と意味深に呟いたきり、避けられているようで詳しい話は聞けていない。
あ、B組だ。おそよう、数分とはいえ長く寝られているのが羨ましいよ。
ぶっ通しで個性を使い続けて11時間。雄英でなかったらパワハラに匹敵する訓練量だ。
「さァ昨日言ったね!「世話焼くのは今日だけ」って!!」
「己で食う飯くらい己でつくれ!!カレー!!」
A,B組の返事する声は覇気がなく、みんなこってり絞られたようだ。市は精神的疲労があるものの、体力は減っていない。強いて言うならば太陽の下にずっといたせいで眠いくらいか。
ポジティブ解釈で飯田が発破をかける。2組合わせれば人手が足りないなんてことはないだろう。そこそこ手伝いつつ、カレーを完成させた。
皆がガッツいている中で、赤色さんが少年を探している。どこかに行ってしまったのか。緑谷もカレーを持ったままどこかへ行ってしまったし、迷子なんてことは無いだろう。
皿に控えめに盛り付けられたカレーをゆっくり完食して、今日の訓練で鍛えた魔手を遠隔に発現して少年がいるらしき場所に出した。
緑谷も暗い顔して帰ってきた。一体何しに行ってたのか…カレーも持ってないし。
「……んだよ、またこの黒い手か。うぜえよ…触んな!…重いもの持ってねえし寄るな!…カレー持ってくんなよ…いらねえって…!しつけーな!食えばいいんだろ食えば!!!……本当、個性なんて嫌いだ」
魔手は無事に少年と接触したようだ。何してるかは分からないが、迷子にはなってないようで何より。
こうして、林間合宿二日目は終わった。
夜、女子部屋ではトランプやウノに誘われたが眠気が強いので断ってから寝た。熟睡だ。
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「んん〜、ていうかこれ嫌。可愛くないです」
「裏のデザイナー・開発者が設計したんでしょ。見た目はともかく理には適ってるハズだよ」
「そんなこと聞いてないです。可愛くないって話です」
「俺このマスクお気に入り決定だわ。良いセンスしてる」
「気色悪い
「レプリカ
「はぁ〜い、おまたーー」
「仕事…仕事……」
「これで8人」
「どうでもいいから早くやらせろ。ワクワクが止まんねえよ」
「黙ってろイカレ野郎共。まだだ…決行は…11人全員揃ってからだ。
威勢だけのチンピラをいくら集めたところでリスクが増えるだけだ。やるなら
レプリカを「様」と呼ぶ