「…なーんてね。大丈夫、痛みはないよ。俺が「触れたい」と思うもの以外、俺は全てを拒絶する」
市の胸に刺さった手を動かして青年は笑う。本当に痛みはなく、胸を手が貫いている光景を見て不思議な気持ちにすらなってしまう。
「俺の名前は
「……神さまの」
「神?」
「早く行って!」
赤色さんが市と青年との会話に乱入し、その爪を振り下ろす。フェイクは特に避ける素振りなく攻撃を身体に通過させた。距離を取ろうにも背中が押されているように動かない。どうやら市の背中に「触りたい」と思っているらしく、胸に刺さる腕の貫通した掌を実体化しているらしい。
市からフェイクを引き離そうと赤色さんが奮闘するも、トカゲによって離されてしまった。
「……私が、相手します」
「駄目、戦闘は許してないわ!今救けるから!」
「無理だってマンダレイ。俺はこの子と遊びたいし、スピナーと遊んでてよ。ってことでよろしくスピナー!」
「言われなくとも。お前と俺は似てるからな!」
「それはお前が勝手に思ってるだけだっての」
後ろに下がれないので、ならばと一歩近付いて振りかぶった拳も受け止められてしまう。魔手で追随した攻撃は通過した。
市の手を離そうとしないので、フェイクは「市」以外の全てを個性で通過させていると結論付けた。これでは魔手は目眩しにしか使えない。
消去法で考えて、市が相手した方が効率がいい。相澤先生風に言えば合理的だ。
「飯田、行って」
「っしかし天魔くん!!君一人では」
「行って」
「なら俺も残るよ!」
「やめたまえ尾白くん!!皆で一緒に…!」
「……邪魔なの」
貫通した腕から離れられたので、いち早くフェイクを沈めるべく形だけの戦闘態勢に入った。
カチリ。
引き伸ばされた世界でフェイクの背後をとって首を狙った手刀は、本来は反応出来ない筈の彼に受け止められた。
「……!?」
そんな馬鹿な。常人の100倍のスピードについてくるなんて、どんな反射神経してるんだ。
________いや、そうじゃない。
「悪いな、俺も使えるんだ。【思考加速】」
「……私以外にも、生きていたのね」
「もちろん。死にたくは無かったからな」
今の攻防で、市の優位性は無くなったと見ていい。【思考加速】の世界に付いて来れなかった飯田と尾白は呆然としている。
「行って。巻き込んでも、知らない」
「だって。素直に逃げたら?」
「…………っ、天魔くん!相澤先生を呼んでくるから、それまで頼む!!」
飯田が尾白と口田、峰田を連れて施設に行ったのを見送ってフェイクに向き合う。戦闘許可は降りていない。だから、交戦と言うよりは攻撃を避け続ける事に徹しようと思う。
そして、どちらも【思考加速】を用いた超速戦闘が始まった。
突進してきたフェイクの攻撃を避けて、空に逃げる。そう簡単にはいかないと思うが、「掴め
「………そう、賢いのね」
「まあね。触れたいものを自由に選ぶ。言い換えれば空気だって踏みつけられる。この世の万物すべてに対して「選べる」権利を持ってるからな。もちろん
「個性は……拒絶ね」
「…へえ。「透過」や「通過」じゃなくて「拒絶」ね。その根拠は?」
「貴方が言ったわ。「全てを拒絶する」って」
「なるほど、大正解。賢いのはお互い様だ。ったく、ついクセで言っちまった」
森の中ならばともかく空中ならば死角のせいで不意を突かれる事もない、正面からの真っ向勝負。互いの演算能力がモノを言う戦いだ。
『A組B組総員____プロヒーロー、イレイザーヘッドの名に
戦い始めて数分、頭の中で赤色さんの声が響いた。
ならば、攻勢に出よう。避けるだけだった今までとは一変、魔手を使った撹乱と死角を用いて変則的な動きにチェンジする。
「お、本腰入れてきたね。なら俺も頑張っちゃおうかな!レプリカ様に命じられた以上、無様なとこ晒せないし!」
「…神さまの命令で、ここに?」
「おっとそれは秘密だ。
**************
「君、すぐ戻りな!その怪我、尋常じゃない!」
「いやっ…すいません!もう一つ伝えて下さい!
「かっちゃ…誰!?待ちなさいちょっと!天魔って子、さっきここにいたのに!」
「やだ…この子、本ト殺しといた方がイイ!」
「ぬっ!?」
「手を出すなマグ姉!!」
「ぁ!?ちょっと何やってんの!?優先殺害リストにあった子よ!?」
「そりゃ死柄木本人の意思」
「スピナー!何しに来たのよあんた!」
「あのガキはステインがお救いした人間!つまり英雄を背負うに足る人物なのだ!!俺はその意思にシタガ!!」
「やっっとイイの入った!(…仕方ない…とりあえず伝えなくちゃ)」
『
「爆豪……!?」
「爆豪くんだと……それに天魔くんも!?」
「っくそ!なんでさっき俺達は…!!」
『「かっちゃん」と「天魔」はなるべく戦闘を避けて!!単独では動かないこと!!わかった!?「かっちゃん」!!「天魔」はさっきの場所か施設に戻りなさい!交戦中でもなるべく施設の方向へ!!』
**************
…施設に戻れと言われても、ねえ。
いまそれどころじゃない。善処はするけど、希望は持たないでほしい。
「ああ、強いな。それに同じ土俵だ!」
「……」
【思考加速】保持者同士で戦ったことがないから新鮮な気持ちだ。腹を殴られて吹き飛ぶも空中に出した魔手で減速し、その反動でフェイクに向かって投げる。右ストレートは受け止められたが、予想していたので頭を下げ遠心力で上がった左足の踵が顔面に綺麗に入った。
ちょっとスッキリ。
何処かで銃声が鳴った。具体的な場所までは分からないけど、誰かが撃ったか撃たれたか。B組全員分の個性まで把握していないのでなんとも言えないが、もしかしたら八百万の創造で作った銃かもしれない。
仕方ない、この空中戦を凌ぎながら施設の方角へ近づくか。