とある隠れ家バー
謝罪会見の一部を放送するテレビが消されて、そちらを向いていた死柄木が振り返る。視線の先には椅子に座って拘束された爆豪がガンを飛ばし、その隣で市は壁に寄りかかって眠っている。
優しいのか分からないが、拘束もされていない。林間合宿から二日経っても寝たままなので
時々暇を持て余したトゥワイスやフェイクがちょっかいを出してはスピナーやMr.コンプレスに
「不思議なもんだよなあ、何故
「守るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローではなくなった。これがステインのご教示!!」
「人の命を金や自己顕示に変換する異様、それをルールでギチギチと守る社会、敗北者を励ますどころか責めたてる国民。俺たちの戦いは「問い」。ヒーローとは、正義とは何か。この社会が本当に正しいのか一人一人に考えてもらう!俺たちは勝つつもりだ。
君も、勝つのは好きだろ」
死柄木が爆豪の拘束を解くように指示する。トゥワイスが椅子に近寄って拘束具を外すのを、爆豪は普段では考えられないほど大人しく見ていた。
「ここにいる者、事情は違えど。人に、ルールに、ヒーローに縛られ…苦しんだ。君ならそれを…」
自由になった手首を擦り合わせていた爆豪だが、足の拘束を外された瞬間、
そんな爆音が近くで鳴ったのに、市の目はピクリとも動かない。
爆風で死柄木の顔に付いていた手が外れ、床に落ちる。
「黙って聞いてりゃダラッダラよォ…!馬鹿は要約出来ねーから話が長ぇ!要は「嫌がらせしてぇから仲間になって下さい」だろ!?無駄だよ。
俺は
爆豪の話を聞いているのか耳に入っていないのか、攻撃された姿勢のまま床に落ちた手を見て死柄木は呆然と呟いた。
「…………お父さん…」
爆破の衝撃でカウンターに置いてあったリモコンが落下し、その際に押されたのか再びテレビが点けられた。記者の質問にイレイザーヘッドが頭を下げて答えている。
『________我々も手を振って
「ハッ、言ってくれるな雄英も先生も…そういうこったクソカス連合!(あんだけ大掛かりな襲撃カチ込んで成果は俺ら二人。
言っとくが俺ァまだ戦闘許可解けてねえぞ!」
考えている事は正確だし、市を救けようというヒーローらしい姿勢も見られる。だがいかんせん顔が悪い。これには
「自分の立場よくわかってるわね…!小賢しい子!」
「いや…馬鹿だろ」
「刺しましょう」
「うわぁ、俺らより
「その気がねえなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを…やっちまったな」
「したくねーモンは嘘でもしねんだよ俺ァ。こんな辛気くせーとこ長居する気もねえ」
「………お父さん…」
死柄木は顔に着けていた手が地雷らしく、爆豪を崩壊させようとしているのか手を上げる。それを宥めようと黒霧が彼に寄ろうとするが、上げた手で黒霧を止めた。
「手を出すなよ……おまえら。こいつは…大切なコマだ」
USJ襲撃時や、荼毘とトガを
「出来れば少し耳を傾けて欲しかったな…君とはわかり合えるとおもってた…」
「わかり合うだ?ねぇわ」
「仕方がない。ヒーロー達も調査を進めていると言っていた…悠長に説得してられない。先生、力を貸せ」
雄英の謝罪会見が流れていたテレビ画面にはいつのまにかノイズが走り、そこから全身が底冷えするような独特な低い声が画面から流れた。
「先生ぇ…?てめェがボスじゃねえのかよ…!白けんな」
「黒霧、コンプレス。あいつみたいにまた眠らせてしまっておけ」
「はぁ…ここまで人の話聞かねーとは…逆に感心するぜ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」
(最大火力でブッ飛ばしてえが…根暗女とワープ野郎が邪魔すぎる…。つーかいつまで寝てんだクソ女!考えろ…!どうにか隙作って後ろのドアから…)
先ほど死柄木に向けた爆破は、市を起こすためにもワザと大袈裟にしたのだが、起きる気配がない。それもそうだ、爆豪は知らないが、市は個性らしきもので眠らされているのだから。
爆豪が脳をフル回転させている時、その後ろのドアがノックされた。
「どーもォ、ピザーラ神野店ですーーー」
場が静まり、誰も頼んだ覚えもない配達に緊張が走る。
そして、起死回生の一手。
「
「何だぁ!!?」
「黒霧!ゲート…!」
「先制
ヒーロー「シンリンカムイ」の個性で木に縛られた
「さすが若手実力派だシンリンカムイ!!そして目にも留まらぬ古豪グラントリノ!!もう逃げられんぞ
我々が来た!」
ノックした扉の隙間からは違うヒーローが入り込んで鍵を開ける。開いた扉から警察が入り、外ではNo.2のエンデヴァーが待機して万全の包囲網だ。
「怖かったろうに…少女を庇いながらよく耐えた!ごめんな…もう大丈夫だ少年!」
「こっ…怖くねえよヨユーだクソッ!!」
憧れのオールマイトが救けに来てくれたシチュエーションに歓喜し、怖がっていたと思われた事に怒り、結果ワケの分からないテンションで返した。体育祭の表彰で慣れたのか察しているのか、オールマイトは親指を立てている。
「せっかく色々こねくり回してたのに……何そっちから来てくれてんだよラスボス…(全員押さえられた…簡単には逃げられない…)
チッ、仕方がない…。俺たちだけじゃない?……そりゃあこっちもだ。黒霧ぃ!持って来れるだけ持って来い!!!」
叫んだ死柄木に、黒霧が応えようと自身の霧を広げる。だが、来ると思われていた脳無がやってくる気配はない。
「………どうした黒霧!」
「すみません死柄木弔…所定の位置にあるハズの脳無が…ない…!!」
「はぁ!?」
「やはり君はまだまだ青二才だ、死柄木!」
「あ?」
「
天魔を片手で抱き上げ、爆豪の肩に手を置く。たったそれだけで、爆豪の胸は安心で満たされる。
教え子を攫われ今まで好き勝手された
「オールマイト…これがステインの求めた…ヒーロー…」
「終わりだと…?ふざけるな…始まったばかりだ。正義だの…平和だの…あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す…この為に
「うっ…!?」
とんできた赤い紐が刺さり、声をあげて黒霧は脱力した。扉の鍵を開けたヒーローによって最も厄介だった黒霧が気絶させられたのだ。
「さっき言ったろ。大人しくしといた方が身の為だって。
死柄木は答えない。
なぜなら認めていないからだ。孤独だった自分を見つけてくれた「先生」を、信じているから。
「こんなァ…こんな…あっけなく…ふざけるな…ふざけるな」
「
「失せろ………消えろ…」
「死柄木!!」
「おまえが!!嫌いだ!!!!」
感情の爆発。溜まりに溜まったガスが引火したように、死柄木の心が弾けていく。その叫びを聞き届けたのか黒い液体が二つ、死柄木の後ろに現れて脳無が出てきた。
「脳無!?何もないとこから…!何だあれは!」
「エッジショット!黒霧は____」
「気絶している!こいつの仕業ではないぞ!」
「どんどん出てくるぞ!!」
「シンリンカムイ!天魔少女を!
「ハッ!」
「ぅぼお“!!?っだこれ…!?」
「爆豪少年!!」
無理やり口から出てきた黒い液体に包まれ、爆豪が消える。オールマイトはそれを抱きしめて止めようとしたが、間に合わない。
「っ天魔少女!」
「」ゴポッ
「駄目だ、シンリンカムイ!」
シンリンカムイの木に抱きとめられていた市は、眠っていても眉を顰めて爆豪と同じように口から液体を吐く。シンリンカムイが阻止するように市を木で巻くが、何もない空間にとぐろを巻いただけだった。
「Nooooooo!!!!」
応援を呼ぼうとエンデヴァーを見ると、こちら以上の脳無が警官を襲っている。脳無の襲撃に気をとられている間に、まずトガが液体を吐き出した。
「ぼえ!!!」
「!?」
「マズイ!全員持っていかれるぞ!!」
「おんのれ!私も連れて行け!!死柄木ぃいい!!」
警察とヒーローを置いて、
**************
脳無のいるアジトを制圧したヒーロー複数名を一瞬で戦闘不能にした男。
名前はオール・フォー・ワン。オールマイトと対を成す、巨悪だ。
満身創痍でありながらNo.4のベストジーニストですらも圧倒した実力。偶然攻撃に巻き込まれなかった緑谷、轟、飯田、切島、八百万の五人は気付かれないように呼吸を止めて気配を消し続ける。
恐怖で身体が動かない。
それもそうだ。まだ未成年である十代の子供。ずっと前から世界を裏で動かす悪意に慣れている方がどうかしている。
隠れた塀の向こうでバシャリと水音と共に咳き込む声がした。10年以上近くで聞いた声だ。緑谷は咳だけで誰か分かった。
「ゲッホ!!くっせぇぇ…んっじゃこりゃあ!!」
(かっちゃん!!!!)
(爆豪!!)
(なら天魔さんは…!?)
「悪いね、爆豪くん」
「あ!!?」
爆豪の後ろでも同じ音がいくつも鳴り、爆豪の隣に市が出される。
「また失敗したね弔…でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り返した。この子達もね…。君が「大切なコマ」だと考え判断したからだ。いくらでもやり直せ。その為に
全ては、君の為にある」
爆豪でも恐怖で息を呑み、動けずにいる。
緑谷は恐怖で動かない身体を、思考を回すことで搔き消して一歩動こうとする。一歩でも動いてしまえば、あとは動けるようになると考えたからだ。
そんな緑谷を、震えた手で力強くも服を掴んで止めたのは飯田だ。飯田が緑谷と轟を、八百万が切島の服を握りしめて離さない。恐怖に震えながらも、二人は「彼らを守る」という使命感だけで動いているのだ。
動いてはいけないと。
見つかれば、確実に死んでしまうからと。
「起きなさい」
開いてしまった。
「ああ…おはよう、天魔 市。そして夢の感想を、聞かせておくれ」
________そして、神野は悪夢に