ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

5 / 68
まだハーメルンに慣れません。
読みにくさは後々解消していけたらなと思います。


5話:ダウナー系と個性把握テスト

大企業本部のような構造をしている雄英高校。

先日の受験にて、ヒーロー科に合格した天魔 市はその廊下を歩いていた。彼女の歩くスピードは、一般的に表現される徒歩よりも倍は遅い。上半身をゆっくりと揺らしながら歩くので、足元が覚束なく遅くなるのだ。

今は頭を揺らしていないものの、動きはとてもゆっくりであった。

それを自覚している市は、様子見とばかりに朝早い時間から登校をする。

あの時間に家を出てこの時間に着くならば、これからは何時に家を出れば間に合うといった極普通の判断である。

ただ、市は限度を知らなかった。

いや、自分の歩幅を理解していると思った方がいいのか。春で朝日が速まった4時というとんでもない時間に家を出た。

少しは自分を信じてあげても良いと思う。歩くのはそこまで遅くはない。

 

早すぎて校門は閉まっていた。幸運だったのは、登校した教師のプロヒーローと会えたことで便乗して校内に入る事が出来たことだろうか。

ヒーローもさぞ驚いた事だろう。朝早くに雄英の校門をユラリと見上げる少女がいたのだから。雄英の制服じゃなかったら保護しているレベルである。

 

 

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 

バリアフリーの為か、巨体の生徒もしくは教師に合わせて大きく造られた扉を開ける。やはりというか、誰もいなかった。何も疑問に思わないのか、市はコテリと首を傾げて席に着く。早く来すぎて黒板に席が張り出される前だったので、本能のままに選んだ席だ。

世間一般でいう暇つぶし道具の本やスマホも持っていない。

市の暇つぶしは、個性の手(以下「魔手(まて)」)を小さく出して戯れる事だけである。子守唄のような童謡のような、ゆったりとしたリズムを口ずさみながらならば特に良し。

 

 

 

「尋ね尋ねて 幾千里………あなた離れて、閻魔、様……」

 

 

アカペラになるのは仕方がないが、柔らかく滑らかな声だ。本来は囁き声(ウィスパーボイス)、もしくは息漏れ声と呼ばれる声なのだが、声に混濁した部分が無いのため何処か浮世離れしている様に聴こえる。

 

 

 

 

歌ってから数十分が過ぎた。

大きすぎる扉を開けて入って来たのは、18禁ヒーローのミッドナイトだ。既に生徒がいる事に驚きながらも、自分の世界に入っている市を見てから気付かれないように教卓に席順が記された紙を置いて出ていった。日頃のルーティーンか、市なりに馴染もうとしているのだろうと思った彼女なりの優しさだ。ミッドナイトには悪いが、そんな訳ないだろう。

女教師が出ていったのを確認してから、市は個性を使い魔手で紙を引き寄せた。

黒板を正面に見て左側。後ろから二番目であり、4×5の机に1つ席が余っている。雄英のホームページの概要では、定員18名に推薦2名の1クラス20名ではなかったのか。なぜ1-Aは21名なのだろう。

そこまで考えるが、別にどうでもいいと指定の席へと座った。市は考える事が好きではないし、外も明るくなってきた。

歌うのはやめよう。でもミニ魔手と戯れるのはそのままで、市は時間が過ぎるのを待った。

久しぶりに感じる、穏やかな空間だ。

 

 

 

 

 

**************

 

 

気にしていなかった周囲が騒がしい事に気付いたのは、そろそろHRの時間だと魔手が教壇を指差して教えてくれたからだ。

そういえばと顔を上げると、ちょうど教室の廊下で寝袋に入った人間が出てきた所であった。

 

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。

担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 

「よろしくね」なんて言葉と表情が全くリンクしていない。確実に面倒臭いと考えている顔にシンプルな服装。白と黒の2色で形成されている担任:相澤消太は先ほどまで自分が入っていた寝袋を漁り、中から雄英高校の体育着らしきものを取り出した。

 

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 

袖、襟に緑の広狭ライン2本、肩に緑のエポレットと2つの金釦グレーのジャケット。白無地ワイシャツに緑無地のミドルスカート。

女子更衣室にてお洒落な雄英制服のブレザーを魔手に手伝ってもらいながら脱ぐ。

 

五分袖の青無地、正面に雄英を表す「U A」が縦に印刷されている体操服は、市の168cmの身長に合わせた丈で用意されていた。Sサイズでも服との隙間が大きいので、冬はインナーをちゃんと着ないと寒いだろう。そそくさと着替えた市は、振り返らずにグラウンドへと出た。

 

 

 

「個性把握…テストォ!?」

 

 

 

全員が集まったと同時に一方的に告げられたのは、その言葉だった。

合格通知の後に送られてきた冊子では、登校初日は入学式とガイダンスであった。それを無視して堂々と言い放つので、むしろこちらが間違えたのかとすら思う。

 

 

「雄英は“自由”な校風が売り文句。そしてそれは“先生側”もまた然り」

 

 

ソフトボール投げ、立ち幅とび、50m走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈と、新年度の授業始めに行う体力測定と何ら変わらない種目を相澤は挙げていく。個性把握とは言いつつも、やる事は普段と変わらないようだ。

 

 

「中学の頃からやってるだろ?“個性”禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ」

 

 

突然引き合いに出された文部科学省を市は少し哀れに思った。

爆豪と呼ばれた薄い金髪に赤目の三白眼の少年が、ソフトボール投げの手本に名指しされた。思いっ切りとの言葉を言われ、ヒーロー科らしからぬ言動とともにボールを投げる。

 

 

 

「んじゃまぁ 死ねえ!!!!」

 

 

 

無駄にドスの効いた声で叫ぶと同時に、彼の個性が発動する。

手に持った物を爆発させる能力なのか、ボールが手から離れる直前に爆発させた。投げた後に爆風が吹き荒れ、砂埃が舞う。あまりの口の悪さに数人の生徒は(………死ね?)と思っていそうである。

機械仕掛けのボールだった為、目視不能の距離に落ちていても相澤が持つ端末が音を鳴らし、距離が画面に表示された。記録は705.2m。普通に投げたらまずあり得ない結果だ。

 

 

「なんだこれ!!すげー()()()()!」

「705mってマジかよ!」

「“個性”思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」

「………面白そう…か」

 

 

その言葉が教師である相澤の地雷だったのか、纏う空気が変わった。

意図的に変えたのかは分からないが、「面白そう」と短絡的かつ楽観的な感想を抱いた生徒達を威圧しにきたのは確実だ。顔に影が差し、強調された隈に光の無い空虚な瞳。

 

 

「ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?よし トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう。生徒の如何は先生おれたちの“自由”。ようこそこれが 雄英高校ヒーロー科だ」

「最下位除籍って…!入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…理不尽すぎる!!」

 

 

希望に満ち溢れた入学初日。夢見がちとは言わなくとも、バラ色のキャンパスくらいは思い描いていたのだろう。しかし、見飽きているニュース速報では、大抵の敵は突然発生するものだ。ショッピングやデート、就寝中などヒーローの都合を無視したタイミングで出動要請がくるのが普通。

それを思えば、このくらいの事などまだ優しい方ではないかと思える。行動を起こす敵をいつだって未然に防げるわけではない。そういった意味では、ヒーローはいつだって不利なのだ。

 

 

「そういう理不尽ピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。

“Plus Ultra”さ 全力で乗り越えて来い」

 

 

 

そして、個性把握テストが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1種目:50m走

出席番号で天魔と常闇が同時に走る。市は入試の実技試験と同じように、魔手に支えられて滑るように走った。

中学の体力測定では真面目にやらなかった為に体育教師も呆れて見放していた。そもそも市は普通に走っても遅い。魔手に身体を支えてもらい、自分で走らない方が個性把握テストの目的としては合っているのだ。個性のジャンルが似ている常闇が驚いた声を出した。

 

結果 中学19:64→5:18

 

 

 

 

 

第2種目:握力

魔手により測定器が破壊。

 

結果 中学21kgw→測定不能

 

 

 

 

 

その他の種目も、市というよりはほぼ魔手がやったようなものだ。市に対して献身的すぎる。甘い。過保護な恋人並にゲロ甘である。

次は第5種目のボール投げだ。早々に魔手によって放たれたボールは100mを優に超えた。基本的に他人には無関心な市は、ボール投げの記録が出ると見学列から離れて魔手と戯れる。

この瞬間が市にとって一番心が安らぐ時だ。

 

 

 

 

騒がしかったボール投げが終わり、最後の種目である持久走も終わった。

市が魔手に運ばれて持久走をする中で、緑の頭をした少年が片手の痛みを堪えるように走っていたのが目についた。よく見ると、手ではなく指先だ。青紫に腫れていて痛々しい。突き指でもしたのだろうか。それにしては大袈裟な色だ。もしかしたら折れているのかもしれない。指先を?ボール投げをしている短時間で?

疑問には思ったが持久走の最中に助けることも出来ないし、助けようとも思わない。初日早々クラスメイトが減るなんて新鮮だ。ヒーローになりたくて狭き門を通ったのに、個性把握テストで個性を発動しないなど言語道断。もしリスクと引き換えに大きな力を発揮するとしても、今求められているのはどの場面で個性が有用に使えるかの事前調査だ。その程度のことが理解出来ないのならば、自らの個性を疎んでいると見なされてもおかしくない。やめたほうが懸命だ。

 

 

 

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する。

ちなみに除籍はウソな」

「…………」

「!?」

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「「「はーーーーーー!!!!??」」」

 

 

 

 

一括開示された結果にて最下位であろう緑の少年の顔が、人間としての枠から解放された。ふくらはぎが太くガタイの良い少年も、本体であろう眼鏡にヒビが入るほどの衝撃を受けている。

 

それにしても、わざわざ生徒を威圧までして言い放った「最下位除籍」は本当に虚偽だったのだろうか。テスト開始時に面倒くさそうに開かれていた相澤の瞳が、今は真っ直ぐ正面を向いている。視線の先にいるのは、あの緑の少年だ。彼の中で「最下位=見込み無し」という方程式が崩れたのだろう。彼の才能は最低限0ではなかったのだ。

雄英の校風は自由。除籍と決めていても、またそれを無かった事にするのも1つの“自由”である。

入学初日はこれにて終了。教室にカリキュラム等の書類があるそうなので、持ち帰ってから吟味するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

ところで、校舎の影に隠れているNo.1ヒーローのオールマイトは一体何をしていたのだろうか?

まあそんなことはどうでもいい。市は人に関わるのが得意ではないのだから。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。