ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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イラストにてお目汚し失礼します。


50話:ダウナー系と兄※

闇の中を3つの光が奔り、衝突する。

10年ぶりに会った兄はとても強かった。個性を完全に使っていないにもかかわらず、フェイクと2人がかりでも勝てない。

兄とフェイクが戦っている間に、フェイクの体を死角にして魔手で切り裂く。フェイクは拒絶で魔手の攻撃を受けないので良い目眩しになってはいるのだが、兄の反応の方が早い。

全員が【思考加速】をしているのだから当たり前なのだが、兄の方が速く感じる。おそらく市とフェイクの加速速度は100倍。今までので攻防から、兄は100倍以上加速していると言っていいだろう。

 

だが、全力ではないので舐められていると思う。

 

 

「虚しい戦いだね、そちらに益は無いよ」

「そういう問題じゃねえんだよ!お前をずっと探してたんだ、レプリカ様と!」

「レプリカ、ね。市に個性を譲渡した良い人だけど、それだけだ。会ったこともないし。市、君の生きる意味はなんだい?」

「……生きる、意味?私は、神様に…」

「違うよ、その後は?どうして神様かは知らないけど、なった後はどうするんだい?人に施しを与えるの?市の意志は?なりたいもの、やりたいことはないの?」

「…………」

「俺忘れんなよシスコン!」

 

 

自分が本当は何がしたいか、そういえば考えた事がなかった。

神様のように兄を救けて、穏やかに眠る。

その後は?

 

いや、どうせ長くは生きられないのだ。

死にたいと思ったことは無い。でも生きたいと思ったことも無い。辛いことが無いと言えば嘘になる。けれどあると言っても嘘になる。

市は矛盾だらけだ。

 

 

「教えて…兄様はどうして戦うの?」

「市と一つになる為。僕の個性と市の個性、二つを合わせればきっと世界は変えられる」

「終わりの方でだろ」

「…まあ、君には分からないだろうね」

「ああ、分かりたくもない。完成品として恐れられ、生まれた時から全てを持っているお前を、理解したくもない。俺の手を掴んでくれたのはレプリカ様だけだ」

「どうでもいいよ…僕はあの日死んだ。あの世界から逃げ続ける君に、分かる筈がない」

「逃げているんじゃない、越えようとしている。確かに、俺はあの場所が怖かった。誰の目にも留まらずに死と痛みを待つだけの実験室が。だから、そこから救い出してくれたあの方に、ずっと付いていくと誓ったんだ!」

 

 

レプリカはフェイクをも救い、数多くの人を救けた。ヒーローではないレプリカをヒーロー視する者がいれば、犯罪者だと罵る者もいる。そんな彼らを貴賎(きせん)なく救けてしまえるレプリカに憧れた。

 

 

「難しいね、生きるって……もう生きてるのに」

「そうだね、生きることは問うことだから」

「兄様…泣いてるのね…。私は何がしたかったんだろう…この胸に、何が眠っているの?兄様の胸には…何が眠るの?どうして兄様が泣いているのか、私も知りたいの…」

「…戻りたいよ、あの時に。毎日のように市に会いにいって、笑って、ずっとこのままでいるんだと永遠に感じた時に。市を愛しているからね」

「どんなお話をしたのか、もうほとんど覚えていないの…ごめんなさい」

「一度あった事は忘れないよ。思い出せないだけで」

 

 

一度距離をとってフェイクと背中を合わせて兄に向き合う。あたりが闇のために距離感が狂い、今どのくらい離れているのか分からない。

 

 

「っち、ラチがあかない。何か手はあるか?」

「…たぶん」

「じゃあ俺が時間稼ぎで」

「どのくらい?」

「レプリカ様って言う時間くらい余裕」

「分かった…お願い、レプリカ様」

「ごめんやっぱ言い過ぎた」

 

何がしたかったのだろうこの人。

兄の個性である黒い火の玉がフェイクを襲い、軽口を叩いて回避する彼を見て集中した。

 

 

夜来(よるきたり)朝還(あしたにかえ)魔手(まのて)……無銘(むめい)

 

 

魔手を覆う仄暗い紫が赤くなり、その鋭さは洗練され攻撃力が上がる。特に合図もせず手を振り上げれば、危険を感じた2人が同時に飛び退いて何も無い闇に魔手が吸い込まれた。

 

 

「…驚いた、そこまで使えているんだね。でも、まだまだ」

「兄様の神様になる…そのためにここにいるの」

「だから、その後はどうするのって聞いたよ?」

「どうもしないわ…今までと同じく1人」

「そうやってまた逃げるの?神様になりたいっていうのは、独りぼっちで当たり前だった、なんて他人と上手に付き合えない市が見た、独りでも生きていけるという夢じゃないのかい?夢ばかり見てると目が悪くなるよ、現実がどんどん見えなくなる」

「天魔!」

 

 

魔手の能力を1段階上げたのに、それを越えて兄の蹴りが鳩尾(みぞおち)に入った。吹き飛ばされたのをフェイクに受け止められ、身体の力が抜ける。

 

 

「そう睨まないで、1072(ヒトマルナナニ)。君はいらないし見逃してあげるからさ」

「っは、ざけんな!たとえ俺たちがやられてもレプリカ様がいる」

「市に個性を譲渡して無個性も同然な偽善者を頼るの?せめて()()僕を倒してから言ってよ」

 

 

やはり個性の中では力が発揮出来ない。普段からそう感じていたが、ここに来て魔手にリミッターがかかっているのをなんとなく理解した。市の本来の個性ではないからだろうか。

神様は、市よりも上手く魔手を扱えていた?

 

 

分からない。

 

 

「フェイク…出る」

「……無理すんな。限界だろ」

「…解、放」

 

 

一度出よう。オールマイトには悪いけれど、この空間だとそのうち不利になってしまう。血もたくさん流した。失血で気を失ってしまえば、ここからフェイクを出すことが出来ないし、それはマズい。

 

 

 

 

命と引き換えにしても、兄を止めなければ。

市と一つになれば、誰も手がつけられなくなる。全てをもって、決着をつけなければ。

 

市はずっと、誰かの神様になりたかったのだから

 




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