ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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このお話は元々、YouTubeで見た「君の神様になりたい。」のヒロアカMAD(轟ver)を見てストーリーを構成したものになります。
本家へのリスペクトをもって書き進めていこうと思います。

戦国BASARA要素ありです。知らなくても問題ありません。


51話:君の神様になりたい。※

あの空間の出口を開いて、中に入れていた2人を強制解放させる。

空中に投げ出された市は腰に手を回され、フェイクが空気を踏みつけブレーキをかけた事で無事に着地した。周りを見るとさっきよりも周りがえぐれて更地になり、上には報道用のヘリコプターが飛んでいる。オールマイトはいつしかUSJで見た姿になっているし、オール・フォー・ワンは倒れている。

決着はついたようだが、あれではもうほとんど動けないだろう。

 

 

「……夜。僕たちの個性が一番輝く時だ」

「ええ」

 

 

兄は、自分がどうなろうとどうでもいいのだ。市と同じように。

どれほどの言葉で生きる事を説いても、市は共感が欲しいだけ。

それらしい「良いこと」を言って、共感を得たい。「命を大切にして生きよう」も本音であり嘘ではない。ただ、兄が言ったようにひとりぼっちの市は沢山の人に共感を持ってほしい醜い人間なのだ。

 

苦しくて、悲しくて、生きたくなくて、死にたくなかった。

ただの自己満足でしかないけれど。市が誰かを救えるだなんて烏滸(おこ)がましい事を本気で考えていたわけではないけれど。

 

 

「市、世界は絶望ばかりだ。楽になりたいんだろう?」

「うん、だけど…兄様の神様になりたかった」

 

 

赤くなった魔手を率いて兄に向かい、超速の乱撃を繋ぎつつ演算で導いた所に魔手を出して捕捉しようとする。が、それは兄が火の玉を足場にして避け、更にそれを蹴って市に向かわせる。

 

「…眠リ狂イテ、眠リテ悔イヨ」

 

闇に身を委ねて寝転がり、多くの魔手に抱えられて戦車のように進む。火の玉は魔手に呑み込まれ、その巨体のまま突進していった。腕を赤く光らせた兄が迎え撃ち、辺りに衝撃が走る。

個性の系統は「闇」。どちらも互角で、同じ力を持っている。

 

「あは、ははははは…」

「うふ、ふふふふふ…」

「「(ひら)()(こく)()(やしろ)ッッ!!」」

 

鍔迫り合いのように動かない市と兄の周りを闇が回り、空へ昇っていく。まるで螺旋(らせん)のように質の違う黒が混ざり合い、一つになりながら細くなって消える。兄と市、どちらも大きな傷を負った。

 

 

どんな事を(のたま)っても、他人が持つ傷跡が埋まる筈がない。それはヒーローや神様の役割ではなく、カウンセラーと本人の仕事なのだから。

世界にとって矮小(わいしょう)な市がどれだけ誰かを抱きしめても叫んでも、現実は変わらない。叫んだとして、自分がスッキリして終わりだ。誰かに「辛かったね」と言ってほしくて、「頑張ったね」と言ってほしくて。

でもあの実験所の小さな世界に囚われた兄を神様のように救いたかった。

 

 

 

「っはぁ……はぁっ…は、……」

「俺が行く、下がってろ」

「いや。……兄様、舞台裏の私たちは、もう退場しよう?」

「無理だ。舞台裏こそが現実。表舞台とは、良いところだけを汲み上げた即席の虚構。ヒーローだってそうだろう?話題に上がるのはオールマイト、その他はそういえば居たなという認識。カーストの低いありきたりなヒーローは地味な慈善活動、税金の無駄遣いだと批難の的。だから、何も取り繕う必要の無いありのままの世界がいい。(ヴィラン)連合は、それを望んでる」

「はっ、そんなのお断りでーす!恥も外聞(がいぶん)も無い世界なんて、ぶっちゃけ動物と同じだし。理性の無い獣がどれほど醜いか分からないわけじゃないだろう?理解こそが人間の長所!俺は賢いからな、そのうち完成品のお前の度肝を抜く事するかもよ!」

「全ての人は勝つことが出来ない。でも…全ての人を賞賛する事は出来るもの…」

「はぁ……それこそ僕以上の綺麗事だろう?」

 

 

ダメだ、やはり届かない。

けれどきっと届いて「市に救われた」と言われても、変われたのは自分の力で市は関係ないと思ってしまう。「良かったね」と突き放してしまうのだろう。

幼い頃は、白色さんと一緒に絵本を読んでいた時が幸せだった。素敵な大人になって、ヒーローのように誰かを救いたいと思っていた。神様のように誰かを救うことに憧れても、現実はこれだ。

結局はボロボロの自分がここにいるだけ。

 

 

 

背後をとって魔手を叩きつけようとするが、カウンターを受けて地面を滑る。もう受け身もままならなくなってきた。

 

「…私だって…神様のような人に…」

 

泥だらけの身体を無理矢理動かして走る。「掴め()の月」で跳び、「裁け背の罪」で攻撃を繋ごうにもとんでもない方向に身体を曲げて避けられてしまった。どんな体幹と柔軟性を持っているのか。

 

さっきとは逆に市が魔手で兄の視界を塞ぎながらフェイクが不意打ちをしても、未来でも見えているかのように振り返って受け止められる。絶対に当たったと思ったが、【思考加速】で負けているのは痛い。

 

 

「少しは考えなよ。何度も背後から不意打ちした所で、同じ手が何度も通用すると思ってる?」

「は、3度目の正直って知ってるか?」

「君は3度以上やって失敗してるでしょ」

「じゃあ問題だ。今アンタの後ろにいるのは誰だ?」

「________!?」

(まわ)()(おり)

 

 

フェイクのパンチを手首を握って受け止めたが、握った手が開かれて黒い球体が現れる。それと同時に、体育祭で飯田に発動したのとは比べ物にならない密度と厳重さで魔手を出した。

 

「1度目は天魔、2度目は俺!3度目も天魔!前方の俺も脅威だ…生きてんなら呼吸くらいはしてんだろ!?」

「くっ…!」

 

兄を魔手で捕らえながら、フェイクの掌に収まるサイズの球体が成長し、兄を包む。口ぶりからして大気を拒絶して真空を造っている。しかも兄のすぐ近くにいる市を巻き込まない絶妙な調整で。そのまま球体と共に魔手は浮き上がり、ある程度の高さで止まる。市の個性に大気は関係ないし、フェイクは個性であの檻から脱出してきた。中の様子は分からないれど、不安は拭えない。

 

「即席にしちゃまあまあだったな」

「………だといいけれど…」

 

檻の中で身動きは取れないだろう。それにプラスして真空だ。呼吸は出来ずに意識は掠れ、真空が身体を締め付ける。人間でなくても倒せるはずだ。どれほどの時間が経ったか。数秒、数分だった気がするし、数時間のような気もする。

球体が割れて、(まわ)()(おり)も解除された。中央にいた兄は動くことなく落下して、地面に叩きつけられる。

目の瞳孔が開き、呼吸の為に大きく口を開けて倒れたままだ。

 

「…………………」

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして起き上がった。

倒れた姿勢のまま、まるで地面から背中を押されたように立ち上がり、目に光が戻ってくる。兄の全身が赤く光って、その背後に人の形をした何かが浮かび上がった。あれが兄の個性の本当の使い方。

 

睡覚(すいかく)しろ……六魔(りくま)…」

「……はは、嘘だろ…!?」

(おど)()の腕…っ!」

慟哭(どうこく)スル魂ィイ!!」

 

隣にいたフェイクの腕を掴んで引き寄せ、足元から円状に魔手を出して市たちを包む。それと同時に放たれた赤黒い波動弾が当たる。凄まじい威力だ。相殺もしきれずに弾かれた。

 

 

「どうして…確かに死んだ筈じゃ!」

「あはは、そりゃあ僕は完成品だしね」

 

 

市の完全上位互換。市が手だけ出せるとしたら、あちらは上半身を纏って攻撃してくる。威力も範囲も桁違いの超近接タイプだ。市が勝てる所は魔手の数だけ。近距離、中距離、遠距離と一定のレベルまでは対応出来るが、近距離に特化した兄にとっては器用貧乏でしかない。

 

 

「それに僕は1人じゃない。僕の個性は「六魔(りくま)ノ王」。ワン・フォー・オールのように受け継がれてきた訳じゃないけど、もし名乗るなら(ヴィラン)名は「第六天魔王」とでも名付けようかな。実際、市の苗字(天魔)はそこから取ったんでしょ?」

「……1人じゃ、ない?」

「どういうことだ……さっき「せめて一度僕を倒して」って言ったが…比喩ではなく本当に数人いるってのか!?」

「正解。僕の個性は人の魂を吸収するんだ。僕は今まで一度も人を殺した事がない……けれど、この強化具合は何万人もの魂で出来ている。安直だけど…君たちは平行世界って信じる?そこからたくさん人を殺した僕と魂を共有出来れば…素晴らしい奇跡だと思わない?」

「……最悪の…奇跡ね」

「…っ馬鹿な…世界に同一人物が何人もいていい筈がない!」

「そこは企業秘密。()()()()()()()()()存在重複を認められているからね…僕の中にいる僕は後4人。あと4回僕を倒さないと負けちゃうよ?」

 

 

絶望はしない。それは弱い人が行き着く場所であって、至った者から神に願う。だから市は絶望しない。

生身のこの身体で、神様になりたかったから。

 

 

「生きるって何…?兄様は知ってるの…?」

「生と死に価値はあるのかい?考える時間はあげないよ、なぜなら命に価値はないから。もし価値があるのなら、あの施設にいた僕らは何だったんだ?世界を恨まないとやっていけなくなる」

「…私は兄様のスペア。生まれただけでも嬉しい…本当よ?」

「そっか」

 

 

 

絵本を一緒に読んでいた時、

市は無力だった。

個性を身体に入れられた時、

市は無力だった。

施設の研究員が逃げ惑っている時、

市は無力だった。

白色さんが死んだ時、

市は無力だった。

レプリカの中に神を見出した時、

市は無力だった。

 

 

 

絶望してはいないが、市にもう戦う力は残っていない。

 

 

「厄災ノ棘」

「っくぅ…」

「!?しっかりしろ!オイ!」

「あ、あぁ……あぁ”あ”ああっ!!」

 

 

前方の地面から出現した無数の刃が市を貫く。両腕は肩から切断されて、遠い場所にボトリと落ちた。倒れそうな身体のバランスを取る腕も無く後ろに傾き、フェイクに受け止められる。

 

「出血が……クソッ」

 

市の身体から血が出る事を拒絶したのか、思ったよりも出血はしなかった。

 

 

「待ってろ、今どこかに…」

「………兄、様」

「……?おい……?」

「兄様…可哀想…」

 

 

 

腕があれば兄に伸ばしていたのに、痛みが走るだけ。ああ、どうしてフェイクが泣いているのだろう?

市は、市を救ったレプリカのような神様になりたいと何度も思っている。今でもそれは変わらない。

 

だって、市の腕を斬った兄の顔は、悲しそうに歪んでいるから。

あの時のように、無邪気に笑っていてほしい。

 

 

「っやめろ、もういい……なにもするな」

「泣いてるの…兄様…?」

「いいから。レプリカ様が来るまで俺が庇うから…」

「…何かを成し遂げる為には…全てを失う覚悟が、必要…?白色さん……私、どうしたら……」

 

 

痛い、そんなに力を込めたら痛い、フェイク。ずっと待ってるけど、神さまはいつ来るか分からない。だから、市が決着をつけないといけないのだ。

 

 

「ああ…そういう事か。レプリカ様、そういう事だったんですね」

「………?」

「俺がやるべきこと。美しいもの。あなたは天魔を生かしたいんですね」

「なに…を…?」

 

 

市を抱きしめて涙を流しながら、フェイクは兄の方を向いて大きく息を吸った。

 

 

「俺は今!この時この瞬間!この世界に!お前がいることを…拒絶する!!」

 

 

耳元で叫ばれて、耳がキンとする。なるほど、その手があったのか。兄の存在ごと拒絶してしまえば、その場しのぎだが危機は乗り越えられると。

そう考えていたが、フェイクの思考はその斜め上を行ったらしい。

 

「跳べェッッッ!!!!!」

 

 

光に包まれたのは、市の身体だった。

目の前が眩しくて目を閉じると、空に昇る感覚がする。

 

……さて、市はどうなるのだろう。想像もつかない事をしてくれたなあの男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

光の粒子となって天に消える天魔を眺めて、フェイクは笑みを浮かべた。

 

「…市に何をした」

「はは、教えてやんね。初めてやったから俺もどうなるか知らないし」

「…………そう、邪魔をするんだね」

「ザマァミロ、シスコン」

 

 

フェイクは夜空を見上げながら後ろに倒れていく。

それを優しく受け止めたのは、全身が黒い誰かだった。

 

 

「その白い狐面……君がレプリカって奴か」

「お疲れさま」

 

 

背中に感じた温度に、フェイクは後ろを振り返る。見えたのは、いつでも見ていた白い仮面。死ぬフェイクを救い、近くにいることを許してくれた存在。

跳ばした天魔よりも優先度が高い、絶対の存在

 

 

「交代だ、フェイク」

 

 

この時フェイクは初めて、仮面から覗く赤い目を見た。

 





【挿絵表示】


レプリカの正体、分かる人はもう分かると思います。書くまでコメントでは言わないでね!

市ちゃんの苗字は第六“天魔”王からもらいました。
以上、制作秘話です。
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