ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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徒花(あだばな):咲いても実を結ばない花、またの名を無駄花

さぁて今までの伏線回収していくぞ〜(白目)


RE:最初期データをロードしますか?→はい
52話:徒花の真実


「……ぅ…!?」

 

空に昇っていると思ったら、いつの間にか地面に叩きつけられていた。それも結構な高さから。そして、気のせいかとも思える小さな違和感があった。

フェイクめ、次に会った時は覚えていろ。成り行きで共闘していたけど、お前は林間合宿で敵対していたんだからな。

 

なんて頭で考えていても、両腕が無いのは変わらないし不自由この上ない。今まで馬鹿にしていた「失ってから気付く大切な物」の意味がようやく分かった気分だ。両腕は無いと不便。

 

 

雨が降っていて、どこかの公園に落下したようだ。先ほどまでいた神野の光景とは大違いで傘を差して歩いている人がいる。目立つ所に落ちたので、このままでは警察を呼ばれかねない。

魔手の中から出た時、空を飛んでいたのはカメラを携えた報道陣のヘリコプターだ。きっとバッチリ市の事が映されて、あの戦いはお茶の間に届けられているだろう。

それに警察を呼ばれたら、雄英に連絡がいって相澤先生に怒られるのは必至。勘弁してもらいたい。

とりあえず魔手に運んでもらい、ドーム状の遊具の中に身を隠す。雨が降っているから子供は遊びに来ないだろうし、さっきまで緊迫していたからか急に眠気が来た。

 

それにしても、道行く人が気持ち悪いくらい落ち着いている。オールマイトのあの痩せた姿がテレビ中継されたなら、もっと焦っていてもおかしくない筈だ。変なことなど何もなかったように行き交う人々の顔は日系。もしかして中国とかのアジア圏にでも飛ばされてしまったのか。

魔手にゴミ箱を漁らせて新聞を見つけた。

 

「……日付が、20年も前…?」

 

意味が分からない。どれだけ家に新聞紙を溜め込んでいたんだゴミ袋の主は。頭がショートしたのか意識が眠気に負けたのか分からないが、日付を確認した途端に記憶が無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次に起きると、変わらずに遊具の中だった。ただ一つ寝る前と違うのは、少年と少女にガン見されている事だ。随分と小さく、二人とも二歳児くらいか。この年の子供は運動能力が発達して、歩くのが楽しくて仕方ない。母親と繋いだ手を離して走る時期だ。

公園に遊びに来て、遊具の中に入って市を見つけたらしい。何を言うでも無く、ただひたすら顔を見られている。

 

燈矢(とうや)、冬美?遊ばないの?」

 

母親が来た。不味い、子供ならまだしも大人はある程度の常識がある。通報待った無しだ。咄嗟に魔手でかろうじてだが上半身を隠す。これで見られても大丈夫だ。

 

「…え!?ど、どう、しました?」

「……いえ、お気になさらず」

「ままー!手、ないない!」

「ないない!」

 

……もうどうにでもなればいいと思う。まさか二歳児にチクられるとは思ってもなかった。

 

「少し、複雑なので…放っておいて」

「……でも、」

「…なら、口の堅い医者を」

 

こんな一介の母親には、どうせ無理だろうけど。見たところ子供は二人、それにお腹にもいるであろう膨らみがある。三人目か。

 

「分かりました、口が堅いお医者さんですね。案内しますけど…」

「………」

「……!?」

 

魔手を消して、先の無い両肩を晒した。子供に見せるものではないが、このレベルの傷に対応出来る医者でないと無理だと無言で訴える。リカバリーガールなんて以ての外。

 

「…無理しなくていい」

「………いいえ、知ってます」

「子供に見せるものじゃない…それにお腹にもいる。面倒事をなぜ避けないの」

「子供が見ているからこそ、大人が正しい事をしなくてはいけないのです」

 

市を病院に案内した女性は、轟 冷と名乗った。とても聞き覚えのある苗字だが、轟の親戚だろうか。話すのが得意ではない市と話したがったので、子供の事を聞いた。どうやら個性婚らしく、夫に丸め込まれて家族は結婚を了承。夫が満足する個性が出るまで子供を産むそうだ。まるで養鶏。産まれてくる子供の性別は知っていて、名前も「夏雄」に決まっているらしい。病院の入り口で礼を言って別れた。もう会うことは無いだろう。

連れてこられたのは闇医者のようだったが対応もしっかりしていて、余計な事は何一つ聞いてこなかった。義手の取り付けは役所に申請しなくていいが、故に隠密や隠蔽、用意に時間がかかるうえ高額だったので断った。義手がなくても魔手がいるからどうにかやっていける筈だ。

 

「一応、ここに名前書いて。黙ってる代わりにこれ位は協力してね」

「…………」

 

渡された紙に名前を書こうとして、見てしまった。

 

 

「…怪我のせいか、曜日感覚が曖昧なの。今日の日付、教えてください」

「え?紙に書いてあるでしょ。今日が何年の何日なのか」

「……………」

 

 

新聞紙に表記されていた年代は、溜め込んでいたのではなかった。

どうやら、市はフェイクの個性で20年前の過去に飛ばされたらしい。

 

 

 

 

**************

 

紙に名前を書いて病院を後にしてから数年、色々と考えた。

なぜ20年前にいるのか?

フェイクの個性であの時間にあの地球にいる事を拒絶されたから。

 

逆に考えれば、兄と戦うまでに20年もの月日がある。雄英のクラスメイトは産まれてもいない。教師陣は同学年くらいだろうか。

市が一方的に知っているだけで、この世界に知り合いと呼べる人はいなくなってしまった。

しかし、それは悲観するべきことではない。今までと同じだけだ。市が何も言わなければ20年後にまた会える。それでいい。

ほんの少し、寂しいだけだ。

 

そして気付いた事もある。どうやら、市は歳をとらないようだ。三年が過ぎても顔や身長は変わらずに髪が伸びるだけ。ただ若いからかもしれないが、これは後から分かることなのでしばらく放っておこう。

 

 

 

少し前から、落ちている白い狐の仮面を着けるようになった。顔を隠すためである。この世界の人間にとって市は未来人だ。将来の市を見てドッペルゲンガーなどと疑われてはたまらない。そうならない様に、魔手も極力使用を控えなければ。

そういえば神様が着けていたのもこんな仮面だった気がするが、細部まではよく覚えていない。「白」「狐」を直感的に神様と結び付けていたのでそんなにハッキリと見ていないのだ。

今日もまた人に顔を見られぬように光の当たらない路地裏を歩きながら、死にそうな人がいたら救ける日々。正直やることがないので人救けはついでだ。兄と直に会って憧憬(しょうけい)が薄れたのか、兄と戦った時よりも落ち着いて行動が出来るようになった。一応雄英のヒーロー科に所属していたのだ、と思うくらいには余裕がある。

 

 

「君かね、最近私の邪魔をするのは」

 

 

振り返ると、三十代程の男性が立っている。スーツを着こなして紳士のような出で立ちだが、瞳の奥にある陰険さが顔を覗かせている。まだ若い。

 

「あなたが、私の邪魔をしているの…」

「フゥン、言ってくれるね」

 

男の気に障ったのか、プレッシャーを放ってくる。まだ洗練されていない、荒々しい悪意だ。だが、それは()()()()()()()

 

 

「…行っていい?」

「顔色一つ変えないか。好奇心を刺激されるが…君は私と同じ、詮索されるのを嫌がるだろうからやめておくよ」

「貴方のそれは、2回目だから」

「ほぅ、興味深い。何処かでお会いしたことが?君のような子なら忘れないと思うが」

「貴方の頭脳なら、すぐに思い当たるわ」

「両腕が無い人間など、数えるくらいしか遭遇していないからねェ…」

「…………」

「腕を動かす時に、少しタイムラグが生じている。一般人相手ならともかく、戦いの最中に自分が思うように動かせていないように見えたからね」

 

 

まぁ、そのくらいの頭脳はあるか。無い両腕を魔手を生やしてそれっぽく動かしているが、適当にやっていると人体関節を無視した動きになるから慎重にコントロールしているのだ。

その日から、男と定期的に遭遇するようになった。悪巧みをしているようなので注意に留めているが、いつかやらかしそうで目が離せない。なんなら市を巻き込んだ計画を立案する猛者だ。襲ってくる(ヴィラン)を迎撃して、【並列演算】で戦いながら敵のパターンや傾向を分析して組織から潰す。それを視野に入れて敵対者を脅したりと掌の上で転がされている。それを市も理解して乗っているのだから、男の事を嫌いになれないようだ。

 

ある日、信頼できる部下に任せた爆弾の火薬が想定外の量で、男がいる建物が崩れていった。建物の崩壊は市にとって軽度のトラウマだ。すぐに魔手を使役して瓦礫を退かして男を見つける。気を失っていた為、魔手を見られずに済んだ。

 

「……どうしてトドメを刺さないんだい?」

「…いきなり何?」

「いや、気になっただけサ。君は私を注意はするが、止めようとした事はなかった。私は目を付けられている(ヴィラン)なのにどうして、とね」

「…正義の反対は、また別の正義。そんなの分かりきっているでしょう。自分を、悪役だと思ってない。ヒーローのように使命を果たそうとしている。歪んだ社会を正そうとしている。…でも問題は、人々の安全を脅かしていること」

「まぁね。追い詰められたら人質を取るのもやぶさかではないし?」

「結果が正しくても…その過程で泣く人がいるから、注意していたのに」

 

 

後何十年か待てばヒーロー殺しが現れて男の望みに近い世間になるというのに。いや、男が果たせなかったからこそ未来でヒーロー殺しが生まれていたのかもしれないが。鶏が先か卵が先か、その違いでしかない。

 

 

「そう言ってくれたのは、君くらいのものサ。誰かは思っていたのだろうけど、面と向かって言ってはくれなかった。言ってくれないと、私は分からないフリをするからね!」

「…私が今まで犯した過ちは、全て悪いとは思ってないもの。全ての優しさがいつだって、正しくなかったみたいに」

「まるで自分は優しさに殺されたとでも言いたげだね。復讐とか考えなかったの?」

「……怒りと正義感で動いても、身体は満足に戦えないのを覚えてる」

「覚えてるって…君、まだ若いデショ。何年も戯れていてなんだけど、名前教えてくれない?」

「名前…無いわ」

「エッ嘘でしょ。数年遊んでて衝撃の真実」

「……………」

「なんて呼べばいいの?ねぇ〜、君のこと呼ばせてよ〜!」

 

 

子供か。

 

 

「なんか由来は?なんでもいいから思いついたの言ってヨ!私の頭脳フル回転で名前付けてあげる!」

「………代理。私は兄様の代わりだった」

「…フム。代理という言葉は良くない。なぜなら君は君自身にしかなれず、何者も君にはなれないのだから。せめて複製と言いなさい、又は写しと。君は誰かの代わりになる為に生まれたのではなく、オリジナルの可愛げがなさすぎて親が君を生んだのサ!思いっきり甘やかす為にね!」

「……甘やかす?」

「そうとも!だから君は代理では無い!ならば思いっきり格好良く、レプリカ(複製品)と呼んであげよう!」

「!!」

 

 

白い狐の仮面。

フェイクによって飛ばされた過去20年。

男に付けられた名前。

 

 

 

違和感の点がたった今、一つの線で繋がれた。

 

 

 

「私が……レプリカ?」

「うむ、我ながら良いセンスだ!…所で相談なんだけど、自首ってした方がいいと思う?それともまだ裏社会に君臨しとく?ねね、ついでに私の名前も考えてよ。(ヴィラン)名が「蜘蛛」なんて、警察とヒーローもネーミングセンスないよネ!」

 

 

ならばこの男は。

市がこれからするべき事は。

……しなければいけない事は。

 

 




混乱する方がいると思うので、数話後に時系列もどきを載せておきます。
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